空前のパンブームの昨今。さまざまな珍しいパンが登場していますね。そんな中、「パンで作ったお寿司がある」という情報を耳にし、さっそく行ってきました!
今回、パン寿司を求めてやってきたのは奥渋谷『15℃(ジュウゴド)』。自家焙煎のコーヒーに焼き菓子やケーキ、ハンバーガーなどを提供しているカフェです。その『15℃』が、夕方18時以降、表情を変え、新しい食の楽しみを教えてくれお店に変身!今回は、そんな18時以降限定のお店『ヨル15℃』を訪れました。
18時にはじまる『ヨル15℃』
『15℃』は、同じ奥渋谷にある人気ベーカリー『365日』、学芸大学の『サンチノ』など、食にまつわるさまざまなお店を展開してきた杉窪章匡さんのお店です。
「僕たちにとって、『15℃』はアトリエのような存在で、可能性を広げる遊び場のような場所なんです。パンがあって、お菓子があって、コーヒーがあって。料理にもさらに力を入れて遊びたいと思い『ヨル15℃』を始めました」と杉窪さん。
『ヨル15℃』のオーナー杉窪さんと加藤シェフにお話を伺いました。
『ヨル15℃』のコンセプトは、「農園ベーカリーレストラン」。オーガニックの概念を大切にしたサンフランシスコの新アメリカ料理をイメージして作られたさまざまなメニューをいただけます。
メニューは、「大分県秘湯のメキシカンオムレツ」に、島根の霊山で育った大山鶏の「ケイジャンチキン」や「ライ麦畑の香り豚カツレツ」といったお肉料理の他、駿河湾釜揚げしらすを使った「アーリオオーリオ」のパスタなどさまざま。名前や添えられた文章からも素材をメインとして大切に捉えていることが伝わってきます。
「農家の隣にある、ファーマーズテーブルのような場所にしたいんです。メニューや食材を通じて、僕らの考えを知ってもらえればと思っています。素材や新鮮さを楽しんでもらえるようなお料理というのをコンセプトに作っています」と加藤シェフ。
おいしい裏切りがある「15℃ SUSHI」
たくさんのメニューの中から、今回のお目当てである「15℃ SUSHI」をオーダーすることに。『ヨル15℃』の顔とも言えるメニューです。
見た目はまさにお寿司ですが、よく見ると…ネタがのっているのはシャリではなくパン!斬新すぎる組み合わせのこの料理は、杉窪さんが昨年、ハワイの人気レストラン『senia(セニア)』などでトーストしたパンの上に生魚をのせた料理と出会ったのがきっかけなのだとか。
「杉窪さんがハワイで食べた料理を写真で見せてもらったのですが、見た目はまったく違うものでした。うちの『15℃ SUSHI』の見た目は、日本のお寿司に忠実であることを大切に作っています。見た目は日本のお寿司そのものなんですけど、シャリをパンにすることで、お寿司の先にある自由な世界の可能性を感じることができました」と加藤シェフ。
パンは『365日』の角食。さっくりとした食感も楽しめるように、トーストするひと手間を加えています。「素材、食材の味を生かす」という大前提のもと、繊細かつ遊び心を持った組み合わせで楽しませてくれる1品です。
まずは、こちらのイワシのお寿司を。パンの上には、ワカモレというアボカドのピューレ、柑橘系のピールも入りとても爽やかな味わいです。パンを覆うようにのせられた肉厚なイワシの上にはバジルのソースが。恐る恐る口に運ぶと、魚のおいしさに思わず感動!ソースやピューレともすごく合います。
続いて、マグロをいただくことに。マグロは長崎・壱岐のメジマグロを使用。こちらはパンの上にワカモレのピューレにトリュフのクリーム、きのこのペーストが入っていています。味の想像がつかないものの、食べてみると、サクサクのパンが心地よく、具材とパン、その間にサンドされた食材が絶妙にマッチします。パンとお刺身がこんなに合うんだ!と感動しました。
今まで見たことのない斬新なメニューということで、加藤シェフにお客さんの反応を伺ってみると…。
「見た目はまさにお寿司ですから、みなさんとてもびっくりされます。お客様の中の半数以上が『きっと合わないはずだ』と思いながら、食べている印象です(笑)。その想像をいかに裏切るかというところを考えて作っているので、ぜひ裏切られてみてほしいですね」と話す加藤シェフ。
こちらの「15℃SUSHI」は、アミューズ的な存在としてオーダーされることが多いメニュー。パンだからこそパクっと食べられ、さらなる食欲を刺激してくれます。
日本各地のお酒も楽しめる
『ヨル15℃』では、自然派ワインやクラフトビール、日本酒など、日本全国から選りすぐりのお酒がそろっています。なかでも加藤シェフのおすすめは、秋田『新政(あらまさ)酒造』の日本酒。
「新政酒造のお酒は、飲めば飲むほどすごさを感じるお酒です。フォアグラは日本酒で飲むイメージはあまりないと思うのですが、新政酒造のお酒と合わせるとすごくきれいな味の組み合わせになるんです。これからの季節、春野菜のほろ苦い味わいとも合うと思いますね。料理の種類を問わず、マリアージュを楽しめるお酒だと思います」。
店内では、『新政 酒造』の日本酒が3種類から選ぶことができます。すべて試していただきたいと話す加藤シェフが「お酒としての生命力が一番感じ取れる」とすすめてくれたのが「亜麻猫(あまねこ)」。
すごく爽やかな飲み口で、アルコール特有のクセがなく飲みやすい!ひと口飲んでもうひと口、お料理を口に運び、そこにもうひと口…と進んでしまいます。
キャッチャーのような「ヨル15℃特製パン」
『ヨル15℃』をはじめるにあたり、『365日』のパンとは別に、新たに開発されたディナーパンがあります。その名も「ヨル15℃特製パン」。一体どんなパンなのでしょう?
「料理の味わいをキャッチしてもらう、キャッチャーのようなイメージのパンです。
『365日』のパンは、1個1個がすごく個性派ぞろいなんですよね。単体で食べておいしいパンばかり。でも『ヨル15℃』では、“料理と食べ合わせることでおいしくなるパン”の方が合うんじゃないかと思い、新しく作ることにしました。どんな方向からどんな料理が来ても受け止めてくれる、すごく器の大きいパンです」と加藤シェフ。
小麦は、熊本でオーガニックの穀物を栽培している農家さんのミナミノカオリとライ麦のブレンド。九州の小麦はクセのあるものもあるそうですが、この農家さん作るミナミノカオリは、クセがなく自然な甘さがあるそう。
まずはそのまま、そしてバターとオリーブオイルをつけていただきます。水分をたっぷり含んだパンは、もちもちしっとりとした食感。
こちらは、「仔羊とひよこ豆のチリコンカーン」。加藤シェフが“アメリカの料理”をイメージしたときに浮かんだ2つの食材・トマトと豆を使ったスープです。
トマトのおいしさが詰まったスープはやさしい味でありながら、シナモンやクミンのスパイスも効いています。そしてうれしいトッピング、チーズも!
「パンとしての主張が強すぎると、会話を止めてしまうこともあります。食事の主役である料理や会話を止めることなくつなげながらも、心に暖かいぬくもりを残せるパンが作れたらという想いから生まれたパンが、この『ヨル15℃』のディナーパンです」と加藤シェフが教えてくれました。
夜スイーツのお店としても
『15℃』でいただける焼き菓子やケーキなども注文できるので、ごはんを食べたあと、無性に甘いものが食べたくなるそんな欲望にも答えてくれます。
実際、ディナータイムを楽しむのはもちろん、2軒目、3軒目のお店として訪れるお客さんも多いのだそう。テイクアウトもできますが、今回は店内でしか食べられない『ヨル15℃』限定のデザートをオーダーすることにしました。
『365日』のクロワッサンを使用した「クロワッサンのベリーミルフィーユ」です。スライスしたクロワッサンの上に、キャラメリゼした木の実をのせて焼き上げることで、よりサクサク×ザクザクとした食感が楽しめます。
クロワッサンの間には、生クリームと甘夏のピールを甘く煮詰めたものをまぜて凍らせたアイスのようなクリームを挟んでいます。温度の違いも楽しめるこのメニューはお店でしか味わえません。
ひんやりとしたクリームは、甘夏のピールのほろ苦さもあり絶品…!ふわっと軽くて食後のデザートにもぴったり。幸せが口いっぱいに広がります。
何を食べたか忘れるくらい楽しんでもらえたら
気になるメニューがまだまだたくさんある『ヨル15℃』。ひとりでお料理1品とお酒を楽しんだり、大人数でいろいろ頼んでシェアしたり。コースではないので1品ずつ注文できるのもうれしいですね。
「私たちは、お客さまが会話を楽しんで盛り上がって、『今日何食べたのか、忘れちゃったね!でも楽しかった!』と帰っていただいて、また新しい気持ちで来ていただくというサイクルを目指しています」と話す加藤シェフ。
お話を伺っている合間にも、杉窪さんとなにやら新しいメニューの話し合いをしていらっしゃいました。今後どんな料理が登場するのか、今から楽しみで仕方ありません!
何を食べたか忘れてしまう、そのくらい楽しい時間を過ごせたら最高に幸せですよね。そんな楽しい時間を求めに、また訪れたくなる、遊び心のあふれる『ヨル15℃』。昼とはまた違う夜の表情を楽しみに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
- ■お店情報
- ヨル15℃
- 住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8 1F
- TEL:080-4094-4615
- 営業時間: 18:00〜23:00 (22:00 FOODラストオーダー、22:30 DRINKラストオーダー)
- 定休日:年末年始
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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