ファッションやライフスタイルを参考にしたり、自由で自分らしく生きるマインドに憧れてみたり。どうにもこうにも私たちの心を掴んで離さないパリ。
なんでパリが好きなんだろう?そんなことを考えていたら1冊の本に出合いました。
『PARIS MANIAQUE 寝ても覚めてもパリが好き』。
21人のパリ愛が綴られているこの本の著者はスタイリストの福田麻琴さんと、同じくパリ好きのエディター幸山梨奈さんが一緒にパリマニアの方を訪ね作り上げた1冊です。
今回は、パリをこよなく愛する福田さんをお招きして、パリについてのおしゃべりを楽しんでみました。パリ好きによる、パリにまつわる止まらないおしゃべりをお届けします。
福田麻琴
女性誌を中心に広告、CM、カタログ、タレントのスタイリストとして活動中の2009年にフランスへ留学。帰国後、エッセイスト、ブランドのディレクション、コラボ商品開発など幅広いジャンルでマルチに活動中。プライベートでは1児の母。著書に『私たちに「今」似合う服~新しいベーシックスタイルの見つけ方』(大和書房)、『MY BASIC,MY ICONS 10年後も着たい服』(イースト・プレス)など。
instagram:@makoto087
YouTube:FUKUDAKE?
パリに住んでちょっと嫌いになったし、より好きになった
―福田さんがはじめてパリに行ったのはいつ頃なのでしょうか?
福田:20代前半に旅行で行ったのが最初のパリでした。フランスに住んでいるファッション業界の人も多かったので、彼らを訪ねて行きました。
そのときはまさか住むことは考えていませんでしたね。「好きだな」とは思ったけど、それはまだ表面的なもので、パリの魅力の神髄までは知れていなかったと思います。
―その後、30代になり、失恋がきっかけでパリ留学を決断したと聞きました。
福田:そうなんです。30歳の頃、失恋をきっかけに人生を振り返ってみて、やり残したことはないかと考えた結果、「人生1回だし!」と日本を離れようと思ったんです。ワーキングホリデーのビザで行ける3カ国のなかからフランスを選びました。
―旅行で行くのと暮らすのでは、全然印象が違うのではないでしょうか?
福田:違いますね。住んでみてちょっとだけ嫌いになったし、だけどより好きになった。
例えば約束の時間に遅れてくることがそんなに悪じゃなかったり、お店も週末は閉まっちゃったり、日本で暮らしている時は当たり前だったことがことごとく叶わない。それが嫌というより、最初は親しめない感じがありました。
でも、人って不思議と慣れていくんですよね。慣れたらこっちの方がいいかもしれないとなってきて(笑)。
好きなときに好きなことを言って、これが食べたい、これが好きという意思表示をする。そういう勝手気ままさが多分自分の性にもあったんでしょうね。
あなたは勝手だよね、だから私も勝手にするね。お互い好きなことをしよう。行きたいところが一緒だったら一緒に行こうという雰囲気が気軽でちょうどよかった。
そこから徐々にパリの適当さに慣れていき、図々しさと勝手さを身につけて帰国することになりました。
きっと暮らすってそういう感じなのかなという気がしていて。周りの世界や人は変えられないから自分が馴染んでいくほかにないんですよね。
みんなスタイルがあるけど、誰とも違うのがパリジェンヌのスタイル
―パリでもファッションの仕事をしていたんですか?
福田:ファッションの仕事と言えるかわかりませんが、街角でパリジェンヌのスナップ撮影をしたり、コレクション会場でファッショニスタを撮影させてもらったり、パリでコーディネーターをしている知り合いのお手伝いをしていました。
1年間パリに留学し、帰ってきたあともスタイリストの仕事をしながらときどき渡仏する生活をしていました。
コロナ前は年に1、2回渡仏して、旅行したり、買付したりしていましたね。
―ファッションの面でも影響を受けましたか?
福田:パリに行く前はトレンドをチェックして、とにかく新しいものを着るというのがスタイリストのあり方だと思っていたけど、それが180度変わりました。
パリジェンヌのファッションスナップをしていると、みんな黒タートルやスタンスミスなど定番アイテムを持っているんですよね。
巻き物が上手だったり、デニムやジャケットなどパリジェンヌらしいファッションみたいなものも勉強になりました。そんなにベレー帽をかぶっている人はいないんだな、とか(笑)。
ミニのサマードレスにブーツを履いている子を見て、「ブーツって冬のものじゃないんだ」と知ったし、デニムにもTシャツじゃなくて、ベルトを締めてジャケットを着ることだってできる。
そんな感じで、これまでの概念が崩れて自由になった感じがあります。
買い物の仕方も変わりました。パリの子たちを見ているとブランド品を自分で買うんじゃなくて、おばあちゃんやお母さんからもらったり借りたりしている子が多いんですよね。
受け継ぐ文化が根付いている。ずっと新しいファッションを追いかけてきたから、すごく衝撃的でした。古いものってかっこいいって気づいたんです。
それからはベーシックなアイテムが気になるようになったし、これはどれくらい長く着られるかなと考えるようになりました。
―パリジェンヌはそれぞれ着こなしにも工夫がありそうですよね。
福田:そう、みんなすごくこだわりがある。
スナップをしていると「私って青が似合うでしょう?」とか「ジャケットスタイルが私らしい」というようなそれぞれのスタイルがあって、それに合うメイクや小物の取り入れ方をしている。
みんなスタイルがあるけど、そのスタイルはみんな違う。それぞれ自分に合うものをよく知っていて、自己プロデュース能力が高い!
それって、肌の色も髪の色も目の色も違うからこそ、誰かの真似をするのではなく、自分に合うものを探して鍛錬してきて、身につけているんだろうなって思うんです。
そして、そのスタイルの取り入れ方がさりげないのもさすがだなって。「やってます!」感を出さずに、あくまでもさりげなくやっているのがにくいですよねえ。
―そういう一人一人のこだわりが私たちから見るとパリジェンヌのスタイルに見えるのかもしれないですね。
福田:「スタイル1つくださいー!」ってお店で手に入るものじゃないから、積み重ねてきたもの、思い入れてきたこだわり、生き方がスタイルになっていくんだと思うし、そういう人を見ているとかっこいいなと思いますよね。
好きなアイテムのことだけじゃなくて、そこにたどり着くまでに自分で考えて探してきた過程というか。
「こんな私だけどどう?」と気楽でいられるパリ
―『PARIS MANIAQUE 寝ても覚めてもパリが好き』の本では21人のパリに対する思いを聞いてきたと思うのですが、なんでみんなパリに惹かれると思いますか?
福田:なんでしょうね。でも、みんな日本にいるとちょっと生きにくさがあったり、一癖あって居心地悪く感じていたような人たちが気楽になれたという話は共通していましたよね。
日本だと「わがまま、自分勝手」と捉えられちゃうから我慢しないと生きられないこともあるけど、パリでは「こんな私だけどどう?」と気楽でいられる。
みんなが空気を読まないから、空気を読む必要もない。「それもいいよね」みたいに受け入れてくれる空気がパリにはありますよね。
今回、出てくれた21人はパリでなにかしらの開放感を覚えたり、自分にフィットしたところがあったりした方たちで、だからパリに惹かれているんだろうなと思います。
―最後に、福田さんが寝ても覚めてもパリが好きな理由、パリに魅了される理由はなんでしょうか?
福田:私、女性が失恋したら、フランスに留学することをおすすめしているんです。もちろん失恋しないで行くのが一番ハッピーですけど(笑)。
妙齢の女性が楽しめるものがたくさんあるし、パリは年を重ねた女性が自由に楽しんでいる街。
ハードワークで体を壊したり、失恋したりして「私は、本当はなにがしたかったんだっけ」となって、人生何度目かの自分探しにパリに来ている同性代の女性がすごく多かった。
パリには刺繍やソムリエ、パティシエ、お花などプロフェッショナルな学校もたくさんあるので、仕事も辞めたし自分のやりたいことをやってみようと挑戦している人も多くて。
好きなことをやっているうちにみんな生き生きしてきて、パリの空気で開放的になっていくというのを見てきました。
もちろん若いときに行っても楽しいだろうし、もっと年を取ってから行ってもパリは楽しいんだろうけど、悩める人がやりたいことをもう1度見つけるのにぴったりな街なのかもしれませんね。
歳をとってなにかに挑戦することを誰も笑ったりしないし、パリの街が人生は何度でもやり直せるって言ってくれるんだもの!(笑)
私もパリに行ってみて「やっぱり私はファッションの仕事をしたい」って思いましたしね。
不思議な街です、パリって。嫌なところもたくさんあるけど、パリでしか得られないものもたくさんあるから、やっぱり好きが上回ります。
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「いいところばかりじゃない、だけど好き」。
パリについて語るとき、そんなフレーズが幾度となく出てきます。
パリにいると感じる「いいところばかりじゃない、だけど好き」という人間らしい感情が、悩んだり迷ったりしたときに「それでもいいじゃん」という大らかさを思い出させてくれるのかも?
不思議なパリの魅力はいくら時間があっても語り足らなさそうです。
◾️書籍情報
PARIS MANIAQUE 寝ても覚めてもパリが好き
著者:Huîtres(福田麻琴、幸山梨奈)
発売元:イースト・プレス