フランス·リヨンに移住し、等身大のフランス流シンプルライフをインスタグラムで発信しているロッコさん。元浪費家ながら、たくさんのものを買うことをやめたこと、完璧主義ながら、無理をせずさまざまなことを手放すようになったこと。そんな率直でリアルな言葉の数々が、日々を忙しく生きる多くの人たちから支持されています。rokkoさんは、どのようにして心が満たされるシンプルライフを手に入れることができたのか、お話を聞きました。
rokko(ロッコ)
東京出身、2児の母。ロンドンで写真の勉強をした後、フォトグラファーとして勤務。日本に帰国後、栄養指導士の資格を取り、フランス·マルセイユへ渡る。フランス人の夫と結婚し、現在はリヨン在住。やめたこと、手放したことといった等身大のフランス生活をInstagramに投稿し、多くの支持を得ている。着物講師としても活動中。
Instagram:@rokko_france
幼いころから海外志向。紆余曲折の末、フランス・リヨンへ
―海外在住歴16年でいらっしゃるそうですが、なぜ日本を飛び出すことになったのですか?
ロッコさん(以下、敬称略):小さい頃からみんなと同じことをするのが苦手で、自分が日本社会で生きていくのが難しいタイプなのではないかと感じていたんです。それで、どうしたら海外で生きていけるのかということを考えながら学生時代を過ごし、高校生の時には短期留学をしたりして、英語を学ぶことに力を注ぎました。
卒業後は、ずっとやりたかった写真を勉強しにロンドンの大学に入りました。そのままロンドンで、大好きだったフォトグラファーのスタジオに入って働き始めたんです。
―フランスで暮らし始めたのは、どんな経緯だったのですか?
ロッコ:長くロンドンで暮らしていましたし、そのままずっといる予定だったのですが、母の病気が発覚したことで、一度日本に帰国することにしたんです。母の看病をしながら、日本でスタジオ勤務することは難しいと感じ、そこで写真の仕事の道も途絶えてしまったんですね。病気の治療に役立つのではないかと栄養士の資格を取り、それから数年間、栄養士の仕事をしながら日本で暮らしました。母が元気になったころ、ちょうどフランスに駐在する仕事の話が舞い込んできたんです。マルセイユで、栄養指導の仕事をしないかというもので、「英語が通じるから大丈夫」という一言に背中を押されて渡仏を決めました。
―マルセイユでの暮らしはどうでしたか?
ロッコ:仕事は楽しく充実していたのですが、来てみたら全然英語が通じなくて(笑)。仕事が終わったあとにフランス語の語学学校に行って、ABC(アーベーセー)から勉強しました。実は、そのタイミングでフランス人の夫と出会ったんです。結婚後に夫が選んだ職場が、なんと日本だったんですね。私は海外で暮らしていたいのに、そこから日本に戻って5年間暮らすことになったという(笑)。でも子どもを出産するタイミングで、やはりフランスで子育てがしたいと、フランス・リヨンに戻ってきました。フランスの教育は世界的に注目されているし、どういうものかを実際に経験してみたかったんです。リヨンは夫の出身地なのですが、住みやすい場所だなと感じています。いま、戻ってきて6年経ったところですね。
「必要以上」を求めなくなったフランス生活
ーInstagramでは浪費家だったとおっしゃっていますね。どんな暮らしぶりだったのですか?
ロッコ:私の浪費癖が重症だったのは、特に学生の頃ですね。自己表現の手段として服を楽しむことを覚えてしまったんです。特にハイブランドの服が好きで、とにかくお金をかけていました。日本でもイギリスでも、そんな風に好きなものには好きなだけお金を掛ける生活をしていました。
歴史的趣が残るリヨンの街並み
ーフランスで暮らすようになって、なぜ浪費傾向を改めることができるようになったのでしょうか?
ロッコ:フランスって、全然お金を使わない文化なんですよね。びっくりするほど(笑)。たとえば、引越しのサービスというものもなくて、みんな自力で引っ越しをしていたりするんです。週末だって食料品は買いには行くけれど、日曜日だからお金を使うぞっていうわけではなくて、外食も滅多にすることがない。フランスに戻ってきてすぐのころ、「今日はごはんを作ってないから、外に食べに行こうよ」と夫に言ったら、「え、今日は何の日でもないじゃん」と言われて(笑)。こんな風に6年間を過ごすうちに、必要以上に便利さを求めなくなり、お金を遣うことに対してきちんと考えるようになりました。
ーロッコさんの暮らしぶりが変わったのは、パートナーの影響が強かったのでしょうか?
ロッコ:夫の家族は倹約家なんです。必要以上のお金を遣わないということ以外でも、気をつけなければゴミと思ってしまいそうなものをリサイクルしたり、環境について常日頃から家族で話したりして、無駄をなくそうと行動しています。フランスでは幼稚園や小学校でも環境について学ぶ機会が多いようで、プラスチックのストローを使っていたら、子どもたちから「これは環境に悪影響だ!」と指摘されたりします。いわゆる「フランスの質素な生活」ということをよく耳にしますが、それはお金についてだけではなく、環境にも基づいたものなのだと感じています。
ー物欲を満たすことはストレス解消にもなると思うのですが、ストレスが溜まることはないのでしょうか?
ロッコ:フランスでは、ストレスとの向き合い方も日本と全然違うんです。日本だと、ジムに通ったり、マッサージを受けたり、ストレスを発散するにも何かとお金がかかりがちですよね。でもフランスの場合は、自然に触れるとか、家でのんびりする時間を設けるとか、ストレス発散方法も全然お金を使わないんです。一方で、そのために田舎に別荘を買うなどの大きな投資をしていることも。そんなフランス人たちを見て、有意義なお金の使い方を勉強してこなかったと気付かされましたね。
着物生活を始めたロッコさん
ー今、モノを買うときにはどんなことを判断基準にしているのですか?
ロッコ:実は最近、着ることなく仕舞い込んでいたハイブランドの服をようやく手放したんです。モノを整理するのって気持ちが良いですよ。自分の思考も整理されていくようで。そして同時期に着物を着始めたということもあり、今はほぼ洋服を持っていないんです。Tシャツだったら何枚、パンツだったら何枚とそれぞれ必要な枚数を決めて、汚れたり破れたりしたら、新しいものに入れ替える。そうやって必要に駆られたときだけ買うようにしています。
現代を生きる私たちって、すごく情報をたくさん浴びて生きますよね。特に私はSNSで発信しているということもあって、ちょっと興味があるものが広告で上がってくるとクリックしたくなることもありますが、本当に自分たちの暮らしに必要なのかを夫婦で議論するようにしています。うちでは、子どもの玩具だって、「友だちが持っているから欲しい」というのは通用しないですね。
ーほぼ洋服を持っていない状態とは驚きですが、着物を着始めた理由はなぜですか?
ロッコ:着物講師をしていた祖母と母が引退するタイミングで、すべての着物のコレクションを受け継ぎました。桐タンスに入った着物を40箱くらい、船便で日本からフランスに送りました。だから、洋服が入るスペースがないんですよ(笑)。その着物も人に譲ったりして、本当に必要なものしか持たないようにしています。着物ってミニマリズムとはかなり相性が良い衣類だと思います。3代で受け継いで着続けられる洋服って、なかなかないですよね。それにフランスは湿気がない乾燥している気候なので、着物のお手入れもしやすいんです。着物は日本人のアイデンティティでもあるので、着ているだけで個性も出ますし自信を持たせてくれる気がします。
ーリヨンで着物を着ていると、声をかけられることも多いのではないですか?
ロッコ:フランスにはさまざまな国の民族衣装を着ている方がいるので、着物を着ているからといって写真を求められるというようなことはないです。リヨンは織物の都市なので、「その生地とても素敵だね」といった声をかけていただくことは多いですね。実は9月から、着物を一人で着れるようになる教室をスタートしました。海外で暮らし始めたことをきっかけに、日本文化に興味を持ち始める日本人って多いんです。リヨンは地方都市なので、なんでもかんでもサービスが整っているわけではなくて、そういった日本のカルチャーを学べる場もあまりなくて。そこで日本人の方を中心に、15分で着物を着る練習をしています。また、日仏文化交流として、着物について話すアトリエを開催したり、着物を着てみたいという方に着付けをしてリヨン市内を歩くイベントを開催したりしています。
義母から教わった「無理をしないこと」
ーフランスで暮らす中で、モノの消費傾向だけでなく、精神的な変化はありましたか?
ロッコ:今でもそうなのですが、私はかなり完璧主義なタイプなんです。なんでも100%ではなく、200%の力で向かってしまうようなところがあって。フランスで育児を始めたときも、完璧を目指して力が入りすぎていました。でも、夫や両親と接するうちに、そんなに完璧である必要はないのではないかと思えるようになったんです。
特に義母はユニークな人で、彼女とのコミュニケーションで気付かされることは多かったですね。たとえば、両親の家にごはんを食べに訪れたら、食卓に皮を剥いて切っただけのニンジンだけが「どうぞ」って出てきたりするんですよ(笑)。そんな飾らない義母と触れ合ううちに、「あ、それでいいんだ」という風に感じることが増えて、心がすっと楽になっていくようでした。完璧主義で息苦しかった状態が解けていきましたね。
フランスの友人と
ー無理をしない生き方というのは素敵ですね。ほかにも、フランス人とのコミュニケーションで気付かされたことはありますか?
ロッコ:フランス人とのコミュニケーションでは、私が本当に望んでいることはなにかを求められるので、自分の意思決定を明確にしなければならないと気付かされました。たとえば、家族でのイベントごとには必ず出席しないといけないと思っていたので、行きたくなくても我慢するのが普通だと思っていたんです。でも、義母に「それで、あなたはどうしたいの?」と言われたときに、自分は本当に行きたいのか、どうしたいのか初めて考えることができました。後悔のない生き方をするためにも、自分の“好き”や“嫌い”を見つめ直して本当にやりたいことだけをやろうと思うようになったんです。
なんとなく受けていた仕事をやめたり、日々の家事でもできないことはやめたり。TO DOリストではなく、「NOT TO DO リスト」を作っています。「今日はお風呂掃除をやめます」と家族に宣言すると、自然と協力してくれて、自分だけで背負いこむ必要がなかったことに気づかされましたね。
ーInstagramで発信されている「やめたこと」シリーズは多くの人に支持されていると思います。どんなことを伝えていきたいと思っていますか?
ロッコ:日本人って本当に忙しくて、日々、仕事に家事に育児に…とめいっぱいがんばっていますよね。私自身もそうだったのですが、努力すれば、結果が出るものだと思って走り続けていました。でもフランスで暮らし始めて、無理をすることなく楽に生きていいことを教えられて、心が満たされるようになりました。いろんなことをやめたり、手放したりすることによって、自分を見つめ直す余裕ができれば、本当に自分のやりたいことや求めているものに素直に生きることができると思います。それに心の余裕ができれば、他者にも余裕を持って寛容に接することができますよね。そんな余白のある暮らしの大切さをフランスから伝えていきたいですね。
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たくさんの物事に囲まれて暮らしていると、私たちは、本当に自分が求めていることや自分の核となるものを見失ってしまうのかもしれません。rokkoさんのシンプルライフ術から、やめること、手放すことの大切さを教えてもらいました。
執筆:鈴木桃子
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