梅雨が明け、いよいよ本格的な夏が始まりました。ようやく始まったかと思えばあっという間にもうすぐ8月も半ば。まだまだ暑いのに、街の様子やショーウィンドウが秋色に変わっていく夏の終わりは、なんだか名残惜しいですよね。
今回はそんな夏の終わりに見たい映画を4本ご紹介します。定番から新作まで、観終わった後にじんわりと余韻が残る映画を集めました。
舞台は世界遺産の町シントラ。人生の儚さと美しさをテーマにした今夏公開作品『ポルトガル、夏の終わり』
最初にご紹介するのは、今夏公開の、世界遺産の町を舞台にした注目作『ポルトガル、夏の終わり』をご紹介します。
ヨーロッパを代表する女優フランキーは、自らの死期を悟り、夏の終わりのバケーションと称して家族や友人をある地へと招きます。そこは“この世のエデン”と呼ばれるポルトガルの世界遺産の町、シントラでした。自ら亡きあとに、残された愛すべき人々が問題なく暮らしていけるようにと願うフランキー。しかしフランキーの願いとは裏腹に、それぞれが抱えた家族や友人たちの問題点が浮き彫りになっていきます。果たして物語は彼女が望む終焉へと向かっていくのか、そしてエンディングで見せるラストシーンに、あなたは何を感じますか。
監督・脚本は2014年の『人生は小説よりも奇なり』を手がけたアメリカ・テネシー州出身のアイラ・サックス監督。遜色ない美しさの中に絶妙な儚さを持った女優フランキーを演じたのはフランス・パリ出身のイザベル・ユペール。彼女のラブコールから始動した本作は、監督がユペールのために書き下ろしたものです。
その脚本ともう1つ、本作の大きな見どころとなっているのが舞台となったポルトガル・シントラ。世界遺産であるこの町には、神秘的な深い森やユーラシア大陸の西の果てと言われるロカ岬、「リンゴの浜」の別名を持つマサンス海岸に、本編のラストシーンを飾った海まで見晴らせる山頂・ペニーニャの聖域など。登場人物の心情に寄り添うために必要不可欠なロケーションが、映像に花を添えています。「休暇を過ごす家族と山」のアイデアを念頭に訪れたシントラで、既に映画の中にいるような感覚を覚えた監督は、この地での撮影を決意したのだそうです。
迎えた最後の夏。フランキーが遺していく家族、友人たちに仕組んだこととは一体何だったのか。思わず息を飲むほど美しいシンドラの町と、夏の終わりに向かい歩み続ける人々の織りなすエモーショナルな雰囲気。家族や友人が一堂に会する山頂でのラストシーンと共に、あなたが思う夏の終わりを探してみてはいかがでしょうか。
2020年8月14日、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他、全国順次ロードショー。
- ■映画情報
- 『ポルトガル、夏の終わり』
- 監督: アイラ・サックス
- 製作国:フランス・ポルトガル
- © 2018 SBS
登場人物の愛と成長を、3度の夏、3つの都市を舞台に描く『サマーフィーリング』
次にご紹介するのはフランスの新進気鋭の監督、ミカエル・アースの2作目となる長編映画『サマーフィーリング』。
ある夏の日、30歳のサシャは突然この世を去ってしまいます。彼女の死をきっかけに出逢った、サシャの恋人ロレンスとサシャの妹ゾエ。深い喪失感の中に突如落とされた2人と、サシャの家族や友人たち。ベルリン、パリ、ニューヨークの3つの都市と、彼女がいなくなってから過ごす3度の夏を、時の流れと遺された人々の心の変化として丁寧に描いた作品です。
愛おしい人との突然の別れに面したとき、人はどのように悲しみ、どのように泣いてどのように笑えるようになっていくのか。そして、現実を受け止め乗り越えていくとは一体どういうことなのか…。それぞれの立場で交錯する、これからを生きていく人たちの繊細な日々がつまった物語です。
監督は、東京国際映画祭東京グランプリと最優秀脚本賞をW受賞した『アマンダと僕』のミカエル・アース。監督の繊細な感性と切り口が話題となっています。恋人を失い、焦燥感の中にいるロレンス役を絶妙な表情で演じたのは、アンデルシュ・ダニエルセン・リー。姉の面影を残した儚い妹ゾエには、ジュディット・シュムラ。ゾエの母親役にはマリー・リヴィエールと、脇を固める豪華キャスト陣にも注目です。
大切な人がいなくなった世界で過ごす3度の夏。彼らの成長と変化に合わせ、移り変わる表情の異なる3つの都市。ノスタルジーで切ない風景の中で、ロレンスとゾエが見せる、時に哀しく時にうれしい絶妙な表情が、見ている者の心に儚さを残します。フランスの避暑地アヌシー湖のシーンや、そこで寝転ぶ観光客。どこを切り取っても美しい映像は必見です。
- ■映画情報
- 『サマーフィーリング』
- 監督:ミカエル・アース
- 製作国:フランス
- 発売元・販売元:株式会社ブロードウェイ
- (c) Nord-Ouest Films – Arte France Cinema – Katuh Studio – Rhone-Alpes Cinema
いつまでも色褪せることなく愛され続けるシリーズ最終章『ビフォア・ミッドナイト』
次にご紹介するのは、1995年の『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』に始まり、2004年には2作目となる『ビフォア・サンセット』。そこから更に9年後の、シリーズ最終章にあたる作品です。
1作目、2作目では共に、恋人である関係性が視聴者に儚さと淡い期待を残してきました。最終章となる本作は、双子の女児をもうけ、家族になった2人から物語が始まります。前妻との息子ハンクと夏休みを共に過ごしたジェシー。空港で別れたあともハンクが気がかりなジェシーはアメリカへの引っ越しをセリーヌに提案するのです。今後の仕事などの不安、家族となった現実で知った悩みや鬱憤を抱えているセリーヌ。そこから徐々に2人の言い合いが始まり…。前2部作とは違う、夫婦であるが故の生々しい会話。また、2人を取り巻くさまざまな世代の男女の価値観や恋人の在り方など、彼らが発するセリフのひと言ひと言にも注目です。
18年間の月日を経て描かれるこの作品。監督は前2作から変わらずリチャード・リンクレイターが務め、ジェシーにはイーサン・ホーク、セリーヌにはジュリー・デルビーと、変わらず映画に彩を与えるキャスト陣。撮影地となったギリシャの美しい風景と街並みもまた、18年という月日に相応しい落ち着いた雰囲気を印象づけています。
シリーズものとして見るのはもちろんのこと、前2作を知らない方も十分に楽しむことができます。出会いと別れ、恋人と夫婦、その中にある理想と現実を、2人のリズミカルで粋な会話を通して考えさせられる作品です。
変わらない良さと変わっていく良さの両方を感じながら、ぜひ、夏の涼しい夜に見てみては?
- ■映画情報
- 『ビフォア・ミッドナイト』
- 監督:リチャード・リンクレイター
- 製作国:アメリカ
- 発売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 販売元:ワーナー エンターテイメント ジャパン
- © 2013 Talagane LLC. All rights reserved.
初めて知る喜びと痛み、そのすべてを忘れないと誓うひと夏の記憶『君の名前で僕を呼んで』
最後にご紹介するのが、2017年の全米公開から大ヒットを記録、各界から絶賛の評価を得た話題作です。
1983年、北イタリアの避暑地。17歳の主人公エリオはアメリカからやってきた父の助手であるオリヴァーと出会います。初めはオリヴァーの自信過剰な態度に好意を持っていなかったエリオでしたが、いつの間にか女友達と仲良くするオリヴァーを見て嫉妬し、彼に向ける自分の感情が、友情とは少し違うと気づき始めます。出会い、恋、痛み、別れ、エリオにとってはどの瞬間も初めての夏。そんな夏の終わりが少しずつ近づいてきて、エリオは何を思うのか…。
本作は2018年アカデミー賞でジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞。その他、作品賞、主演男優賞、歌曲賞の計4部門にノミネートされた大ヒット作です。主人公エリオには本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメ。相手役のオリヴァーには、『コードネームU.N.C.L.E.』のアーミー・ハマー。監督はイタリア出身のルカ・グァダニーノ。
イタリアの地方都市が舞台となっている本作。中でもロンバルディア州にある小さな街、クレマの大聖堂広場やベンツォーニ通りなど、こじんまりとした中のカラフルな街並みは、まるでエリオの心の繊細ながらも美しく、自由に羽ばたこうとする姿を表現しているかのようです。他にも、丘の上の旧市街地とその麓の市街地からなるベルガモ、イタリア最大の湖・ガルダ湖のあるシルミオーネなど、情緒的な建造物や街並みが、夏の終わりに向かう切なさをより一層際立たせています。
17歳、彼が手にしたものと失ったもの、すべてをもの語っているようなラストシーンの彼の表情は、見た人の心にそっと憂いを残していくことでしょう。ぜひ、いつかの自分を思い出しながら、夏の終わりの哀愁を感じてみてください。
- ■映画情報
- 『君の名前で僕を呼んで』
- 監督: ルカ・グァダニーノ
- 製作国:イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ
- 発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
- 販売元:ハピネット
- © Frenesy , La Cinefacture
- PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA © 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions
以上、ラブストーリーから人生について問いかける力強いテーマの映画まで、夏の終わりに見たくなる4作品をご紹介しました。きっとあなたの心にも静かな余韻が生まれることでしょう。ぜひ、今年の夏じまいに相応しい映画を見つけてみてください。
■一緒に読みたい記事
同じ趣味の仲間と出会い、語り、つながる。映画好きのための憩いの場、高円寺『Cafe & Bar BIG FISH』