
パン好きモデル・パン野ゆりさんの連載「パン野ゆりのパンライフ」が、ついに最終回を迎えました。
最後の訪問先は、西馬込の隠れ家的カフェ『yohak(ヨハク)』。
記事後半では、PARISmagで約8年間、数々のパンの魅力を伝え続けてきたパン野さんと共に、これまでの連載を振り返ります。
連載の締めくくりは西馬込『yohak』へ
西馬込駅から徒歩5分ほど、閑静な住宅街に佇む『yohak』。
店主の稲葉さんが15年ほど前にパリを訪れた際、『A.P.C Surplus』で見かけたスタイリッシュなお婆さんの姿からインスピレーションを受けたというこのカフェは、「彼女が日本の喫茶店から影響を受けてイギリスでお店をする」というストーリーをコンセプトにしています。
西馬込で生まれ育った稲葉さんが、元文房具店だったこの場所にお店をオープンしたのは2016年12月。
「都心で数ある中の1つになるより、街を作っていける可能性を秘めた場所で、世界中からお客様が訪れるような場所にしたかった」という思いが込められています。
店名の『yohak』は「余白の美」という意味。稲葉さんいわく、「単に余白の美しさという訳でなく、おもしろみや抜け感のある、ちょっとダサいくらいのお店がちょうど良いという解釈」なんだそう。
白を基調とした店内には、さまざまな形の照明が吊られていたり、アンティークのカップとソーサーが飾られていたりするなど、キャッチーなアイテムと計算された余白で楽しさが溢れています。
思い出に残る一皿、地元の鮪を使った極上ツナメルト
今回パン野さんが注文したのは、お店のおすすめメニュー「ツナメルト」と「スコーン」。
きれいな断面のツナメルトと新鮮な野菜がマッチした、なんとも美しい一皿。食欲が掻き立てられます。
「このツナメルト、クリスピー感がすごい!パンのリベイク加減がちょうど良いですね。
ツナがゴロゴロ入っていて、お魚感をしっかり感じられます。豆腐クリームのコクもあって、とても上品な味わいです」とパン野さん。
実はこのツナ、同じ西馬込にある『大津商店』という週に2日だけ鮪を店頭販売している商店から仕入れているそう。
セロリや玉ねぎを豆腐クリームと混ぜ合わせ、コクのあるチェダーチーズをのせて『チクテベーカリー』のカンパーニュでサンド。
しっかりと焼き上げることで、外はカリッと中はもっちりとした食感に仕上げています。
デザートに選んだスコーンも絶品!「ホロホロした生地が繊細でとってもおいしかったです!最高なおやつですね。くるみやあずきなどフレーバーが数種類あるのですべて食べてみたいです」とパン野さんも大満足です。
「季節の食材を使うことを大切にし、食材の組み合わせや盛り付けにも興味を持っていただけるような工夫を」と語る稲葉さん。
お店のイチオシは「塩鯖と季節野菜のサラダ」「季節のサンデー」だそう!旬の味覚を味わいに、季節ごとに訪れるのも良いかもしれません。
「ご近所に住んでいる方が羨ましい!大好きなお店になりました」というパン野さんの言葉通り、足を運ぶ価値のある隠れ家です。
- ◼︎お店情報
yohak (ヨハク)
住所:東京都大田区西馬込2丁目7-2
営業時間:月・火・木・金・土. 11:00 – 16:00
定休日:水・日曜
Instagram:https://www.instagram.com/yohak_tokyo/ - ※記事公開時点の情報です。最新の営業情報は、お店のSNSなどでご確認ください。
最終回を記念して、パン野さんへインタビュー!
今回で最終回となる連載「パン野ゆりのパンライフ」。PARISmag初出演の2017年からこれまでの約8年間、「パン野ゆりのパン好きお悩み相談室」や「パリと、パンと。」などの連載を通して、日本とパリのパン事情を明るく楽しく伝えていただきました。
そんなパン野さんに、これまでの思い出や今後の展望について語っていただきました。
編集部:これまでの連載を振り返ってみて率直な感想を聞かせてください!
パン野さん:振り返ると本当に長く続けていたことに驚きました!体感では2、3年の感覚です。(笑)8年と聞いて驚きましたが、毎回の撮影が楽しかったので、あっという間に時間が過ぎていったのだと思います。
コロナ禍や時代の流れが変わる中でもPARISmagの記事を通して「パンを愛でる」ことを続けられたのは、本当に幸せなことでした。
編集部:本当にたくさんのパン屋さんを取り上げてきましたよね。選びきれないとは思いますが、PARISmagで紹介したお店の中で今でも思い出す、もう1度食べたいパンはありますか?
パン野さん:特に印象に残っているのは、パリの『LE BRICHETON』 です。オーガニックの古代小麦を使い、塩素を残さないために2万5000年前に形成された水槽の地下水まで使用するという、とことんこだわり抜いたパン屋さん。
そこの化石のようなハードパンの味は今でも忘れられません!
取材当時はパンの資格を取って間もない時期で、パンについて新しいことを学んでいる最中だったので、海外で出会うパン達がとにかく新鮮で。
こだわり抜かれたフランスのパンカルチャーに衝撃を受けたのを覚えています。
もう1つは、M.O.Fシェフ(フランス国家最優秀職人章)のいる『ドゥ ラ シャペル』。
最年少でM.O.Fを取得した職人のバケットを求めて、パリまで足を運びました。フランス語がまったく話せない私ですが、「あなたに会うために日本から来ました。あなたのパンが大好きです」というフランス語だけを頭に入れて、思い切って店主に話しかけました。
すると「よく来てくれたね」と温かく迎えてくれて、とてもうれしかったのを鮮明に思い出します。
パンを介して知らない方とコミュニケーションを取ったり、新しい場所へ足を運んだり、知識を深めたりと、パンには人を動かす力があるんですよね。
編集部:パン屋の作り手の方に直接取材することもありましたが、印象的な言葉やエピソードはありますか?
パン野さん:特に印象に残っているのは『埜屋(noya) 』さんの木村シェフです。長野のパンを東京に持ってきたいという思いで、小麦を店内で石臼挽きするところからこだわり抜いていました。
まさに“パンの申し子!”といった感じで、すべてに神経が行き届いたパン作りをしている方でした。言葉にも強い気持ちが宿っていて、優しさの中にも揺るがない信念を感じましたね。
普段はパンを食べる側の私にとって、作り手の方とお話できる機会はとても貴重で、PARISmagを通してそういった体験ができたことに感謝しています。
編集部:私たちもシェフとパン野さんがお話しする様子を見ているとプロフェッショナルな空気感を感じて、とても楽しかったです。そんな取材や記事の執筆を通して、パンの好みや考え方に変化はありましたか?
パン野さん:文章の書き方やスタイルは少し変わったかもしれませんが、パンへの思いは子どもの頃からずっと変わらないし、これからも変わらないと思います。
とにかくパンが好きで、パンを食べている時間が幸せ。そんなおいしいパンの時間を多くの人と共有したいという気持ちが根底にあります。
編集部:日本とフランスの各地でさまざまなパンを味わっていらっしゃいますが、それぞれのパンの魅力はなんですか?
パン野さん:パリのパンは、環境が味方についています。小麦文化の長い歴史や気候、水質など、同じレシピでも日本とパリでは食感が変わってくるほど。
また酪農が盛んなのでエシレなど良質なバターが安価で手に入り、クロワッサンの質も自然と高くなります。バゲットやカンパーニュなどのシンプルなパンでも無駄がなく、洗練された味わいを感じますね。
一方、日本のパンは多様なところが魅力。
あんぱんやクリームパンのような日本独自の昭和パンに始まり、フランス、ドイツ、イタリアなど世界各国のパンも楽しめますよね。
超高加水パンなどの日本ならではのパンもあり、食感のバリエーションがさまざまで食べていて楽しいです。
パリのパン屋さんはメニューが比較的固定されていますが、日本のパン屋さんは種類が豊富。
これだけさまざまなパンがある中でも、日夜新しいパンも出てきていますし、おいしさも進化し続けています。
今後、日本のパンが世界に進出した時に、どのような反応が来るのか楽しみですね。その過程を追い続けて、応援したいと思います!
パンはエンターテインメントの1つ。パン野さんが提案するパンを楽しむ方法とは?
編集部:この連載期間中もさまざまなパンがブームになりましたよね。今後の“パン界”をもっと楽しむには、どんな方法があるでしょうか?
パン野さん:パン屋さんに足を運ぶこと自体がエンターテインメントになると思います。
たとえば、表参道の『アマムダコタン』や麻布台ヒルズの『Comme’N TOKYO(コム・ン トウキョウ)』のように、たくさんのパンが一斉に並んでいる光景を見ると、とても興奮します!
私はその現象を「ブレッドハイ」と呼んでいるのですが。(笑)パンの匂いとビジュアルにテンションがあがって「どれにしよう!」とワクワクしますよね。この感覚を味わうと、きっとパンにハマる人も多いはず。
また、最近はグルテンフリーやヴィーガンのパンも増えていて、好みや体質に合ったパンを食べられる選択肢が増えています。
私のInstagramではさまざまな条件に合うパン屋さんを紹介しているので、ぜひ参考にしていただいてパンを楽しむきっかけになれたらうれしいです!
編集部:今後、パンの魅力を広める活動を通じてチャレンジしたいことはありますか?
パン野さん:ポッドキャストを始めようかと考えています。
例えば、パン屋さんに向かう道中でそのパン屋さんについてあれこれ話したり。パンのことについてお話しするのが好きなので、お気に入りのパン屋さんやパンにまつわる気になることなど、パン好きの方にもそうでない方にもよりパンを楽しんでもらえる内容をお届けできればと思います。
タイトルは『パン野ゆりのパンのことについてああだこうだ喋りたい』とかどうでしょう!(笑)
編集部:いいですね!パン野さんがおすすめするパン屋さんへポッドキャストを聴きながら向かうとより充実したパン活を楽しめそうです。
編集部:最後に、この連載を楽しんでくれた読者の方へメッセージをお願いします!
パン野さん:8年間、本当にありがとうございました!この連載を通して、パンのすばらしさが少しでも伝わっていればうれしいです。
普段の朝食でも、少しこだわって選んだパンを味わう時間と、意識せずに買ったものを食べる時間とではその日の気分が全然違いますよね。
そんな小さな幸せの時間を、パンの魅力を伝えることで多くの人に届けられたらいいなという思いでこれからも発信していきたいです。
これからも皆さんがパンのある豊かな生活を楽しめますように!
