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    日本人初!フランス国家最優秀職人章 料理部門を受章したジョエル・ロブション関谷シェフにインタビュー

    フランス料理の巨匠ジョエル・ロブション氏に師事し、『ジョエル・ロブション』エグゼクティブシェフである関谷健一朗さんが、料理部門としては日本人として初めて「フランス国家最優秀職人章 ( Meilleur Ouvrier de France)」を料理部門で受章しました。

    そもそも「フランス国家最優秀職人章 ( Meilleur Ouvrier de France) 」とはどんな章なのか、関谷シェフがM.O.F.にたどり着くまでの挑戦についてインタビューとともにご紹介します。

     

    シェフのトリコロールの襟の秘密

    フランスでフレンチレストランに出向くと、時としてトリコロールの襟付きシェフコートに身を包んだシェフが出迎えてくれることがあります。

    このトリコロールの襟は「すてきだから」という理由だけではつけることができません。

    通称M.O.F.と呼ばれる「フランス国家最優秀職人章 ( Meilleur Ouvrier de France) 」の称号を与えられた者のみが身につけることができる、称号の証なのです。

    このM.O.F.がなぜ、それほど重要な意味を持つのでしょうか。

    99年もの歴史あるタイトル『M.O.F.』の審査は3〜4年に1度しか開催されず、各部門の最高の技術力、知識などが試されます。

    特に、フランス料理部門は倍率が高いことで知られています。

    これまでもジョエル・ロブションを始め、エリック・ブシュノワール、ミシュランの3つ星も維持し続けるパリのレストランとして名高いホテル・ブリストルのエリック・フレッション、プレ・カトランのフレデリック・アントンなど、錚々たるシェフたちが受章しています。

     

    およそ1年に及ぶM.O.F.の審査

    今年、料理部門のM.O.F.を受章した8名の勇者たち

    今回、第1次審査は2022年4月に行われ、約500名ほどが筆記試験と実技試験に臨みました。

    1次の実技試験は、5分前に知らされる指定されたレシピをその場で正確に調理するというもの。技術力はもちろんのこと、調理用語の理解や歴史、文化、経営に至るまで幅広い知識が試されます。

    この試験をくぐり抜け、2次審査へ通過したのは160名ほど。

    5ヶ月後の9月に2次審査では、約2週間前にテーマが発表されるため、練習して無駄のない時間配分や道具などを準備します。この2次審査で30名まで絞られます。

    最終審査は11月にフランス南東部のグルノーブルで行われました。

    自らで食材を探し、機材を準備します。関谷シェフの場合はパリから遠く離れた開催地に食材を運ぶ必要があり、いかに新鮮で良質な食材を手に入れ、確実に品質を維持しながら準備していくかも採点基準に大きく関わってくるところが、これまでの審査とは大きく異なるところだそう。

    これらの難関の審査を経て、選ばれし者のみ授けられるのが、このM.O.F.なのです。

     

    日本人としてM.O.F.料理部門初受章となった関谷健一朗シェフ

    この度、フランス人以外での初受章という快挙を成し遂げた、関谷シェフに喜びの思いや苦労話、これまでの経緯など伺いました。

     

    ―この度はおめでとうございます!早速ですが、M.O.F.への挑戦のきっかけについて教えてください。

    関谷シェフ:ありがとうございます!

    2018年に「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」への挑戦を決めた際に、師匠であるロブション氏からご自身が出場したコンクールの1つ1つを列挙され、最後に「勝てないならやるな!」と言われました。

    その言葉は重くのしかかりましたが、それでも挑戦したかった。

    また同じ年にロブション氏が亡くなり、ロブショングループは師匠不在の中、不安を覚えることもありました。

    だからこそ僕ががんばってシェフと同じタイトルを獲って「ロブショングループここにあり」と証明したいという想いがあり、「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」優勝後、ロブション氏も受章したM.O.F.への挑戦を決めました。

    コンクール出場には時間も資金もかかるので、日本を離れ留守にしていた期間、レストランを守ってくれた東京のレストランスタッフやサポートしてくれたロブショングループと仲間や先輩方には感謝でいっぱいです。

     

    ―決意が込められた挑戦だったのですね。ル・テタンジェ国際料理賞コンクールの優勝後ということもありプレッシャーがある中だったと思いますが、どのように準備されたのでしょうか?

    関谷シェフ:ル・テタンジェ国際料理賞コンクールの反省点を熟考しました。異なるコンクールですが、技術面で注意すべきことは似ている部分も多いのです。

    コンクールを受けるにあたり、基礎を学び直したり、過去にM.O.F.を経験したシェフ達に注意すべきことを伺ったりしました。

    みなさんとても親身に教えてくださり、その時間も貴重でした。

    また、コミ(アシスタント)とのコミュニケーションについても見直しました。

    M.O.F.の審査では見習いの学生がくじ引きで割り当てられるため、初めて会うコミに的確に仕事を割り振る必要がありますが、そういうことも1人で料理をしていると気づかないこともありますから。日頃からチームで料理をすることを意識していました。

     

    ―M.O.F.の審査中、特によくできた一皿についてお聞かせください。

    関谷シェフ:特によくできたのは「ウフ・ポシェ」(ポーチドエッグ)でした。

    実はウフ・ポシェは多くの条件を味方に付けなければならない料理なんです。

    この料理はお湯の中に対流を起こし、卵を割り入れるという一見簡単なものなのですが、やり方によっては表面がザラザラになってしまいことも。

    しかも技術だけではうまくいかないこともあって、卵の質によってできあがりが左右されるんです。

    成功の確率を上げていくために練習もしましたが、その上で最高に新鮮な卵を入手することにも尽力しました。

    鮮度が良い卵は白身の部分がプリッとしていますよね?その部分が多ければ多いほど艶のある火入れに成功する確率が高まるので、採りたての卵を使うといいんです。

    しかし4皿作らなければならないのに、搬入できる卵は6個のみという厳しい条件でした。

    1個は他の調理に使わなければならず、事実上5個の卵で4個を成功させなければならなかったので、仕入れや扱いには本当に気を遣いました。

     

    審査の当日は、調理場審査員だったエリック・フレッション氏が周りの審査員を呼んでくるほどの最高の火入れをすることができました。

    審査員たちが周りを囲んで手元を見る中、卵の盛り付けやソースがけなどしなくてはならずとても緊張しましたが、特別な一皿になったと思います。

     

    ―では、関谷シェフが思うご自身の料理の特徴はなんでしょう?

    関谷シェフ:「考え抜いて創り上げる」ことでしょうか。

    料理を考えるとき、素材や調理法を選んでいくわけですが、そこには即興やインスピレーションだけではなく、必ず理由を持つようにしています。

    ロブションで作る料理は完成度の高い完璧を目指し、素材の種類は3種類くらいで多種の食材による複雑なハーモニーではないというのが特徴です。

    この「足すものも引くものもない完璧度」というのは、自分も培ってきたように思います。

     

    ―ロブション氏が志した「愛を持って料理を作る」ということを関谷シェフも心掛けているかと存じますが、関谷シェフが目指す料理はどんなものか、教えてください。

    関谷シェフ:「愛を持って料理を作る」というのを具体的に体現していくと、「誰のために作っているのか」を明確にしていくことなのかと思うようになりました。

    スーシェフを務めた『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』は当時フレンチレストランでは珍しくカウンター形式で、厨房からお客さまが見える作りになっています。ここで誠意を持って、お客様のために料理を作ることの意味がわかってきたのだと思います。

     

    大切な家族や友人が来た時、1番おいしい部分の肉を使って料理したいって思ったことありませんか?それを常にやっていく、つまり愛を持って料理を作るということなんです。

    そしていつかシグネチャーになるような料理というか…今まで誰も作ってこなかった料理を作りたいです。

     

    ―今後、日本にフランス文化を伝えるためにしていきたいことなどはありますか?

    関谷シェフ:日本の厨房では秘伝のタレなど、その人にしか作れない料理というものがあります。それを悪いこととは言いませんが、僕はもっとたくさんの人に伝えて、素晴らしさを分かち合い、次世代につながるような料理を作っていきたいと思っています。

    今でもすでに、専門学校からの特別講義を頼まれており、後輩の育成にも力を注いでいきたいです。

    もし、M.O.F.のコンクールを目指す若者が出てきたら、ぜひ応援したいし、M.O.F.仲間が増えてくれればうれしいです。

     

    ―最後に料理人としての大きな夢を実現させた関谷シェフから、未来の料理人達に一言メッセージをお願いします!

     関谷シェフ:「好きなことを続けること」を途中であきらめないでほしいです。

    料理の多くの過程の中で辛いこともあると思いますが、続けていれば見えてくるものがある、僕はそう信じています。

     

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