フランスと聞けば美食を思い浮かべます。フォアグラのテリーヌ、エスカルゴ、鴨のコンフィ、オニオングラタンスープ…といろいろなフランス料理が想像できますが、フランスの人たちは毎日どんな料理を食べているのでしょう?
私たちが日本で、毎日レストランのようなごはんを食べないように、フランスにも日常のごはんがあるはず。
自炊料理家として、自炊をする人を増やす活動をしている山口祐加さんがちょうど先日フランスを旅していたということでお話を聞きました。フランスの家庭で、ごく日常の料理を見てきた山口さんに、フランスの普段のごはんとは?
山口祐加
1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。好物はみそ汁。
写真:中川正子
ホームページ:https://yukayamaguchi-cook.com/
Instagram:https://www.instagram.com/yucca88/
プロヴァンスで出合った家庭の味
―山口さんは今年、いろいろな国を巡って、各国の自炊を調査しているんですよね?
山口:2024年の春に出発して、台湾、韓国、ポルトガル、スペイン、そしてフランスに行ってきました。それぞれの国で一般家庭に伺い、実際に作っているところを見せてもらったり、一緒に作ったりして現地の自炊を体験させてもらっています。
―フランスではどちらを訪問したのですか?
山口:プロヴァンスの田舎の農家に1週間ファームステイして、その後アヌシーという街に4日ほど、その後にアルザスにも滞在していました。ファームステイ先が自然派ワインの農家で、ワイン以外にもオリーブオイル、ひよこ豆、プロヴァンスの名産である石鹸を作っているところでした。ブドウはまだ実が小さい状態だったので、雑草を抜くお手伝いをさせてもらったり、ワインのラベル貼りをお手伝いしていましたね。
お昼は37℃くらいまで気温が上がるんですが、夜は20℃を下回るようなカラッとした気候なので、すごく過ごしやすかったです。その気候がワインのブドウに適しているようですね。プロヴァンスで食べた野菜がすごくおいしかったのですが、それもこの気候が影響しているのかなと感じました。
―プロヴァンスというと魚介が多いイメージでしたが、野菜もおいしいんですね。
山口:ラタトゥユが生まれたのもプロヴァンスなんですよね。ラタトゥユ以外にも野菜料理はどれもすごくおいしかったですね。お母さんの横で料理を見させてもらったのですが、料理は1日に1回程度で、主に夜に1〜2品しっかりと作るそうです。しっかりと言っても、サラダとかラタトゥユくらい。それにパンとチーズというのがよくある夕食でした。
―すごくシンプルですね。
山口:彼らの場合は、昼は農作業もあるし、それを自分たちで売りにも行くから忙しくて毎食料理をする時間なんてないんですよね。だからお昼は前の晩の残りを食べるという感じでした。
調理自体はオーブン料理が多くて、時間はかかるけど作業時間は短い。すごく合理的でした。
一度、家族が集まる日の食事に参加させてもらったのですが、その日は子ヤギのバーベキューでした。
ホストファーザーのお父さんの農園ではヤギを育ててチーズなどを作っていて、雄ヤギはどうしても数があまってしまうので、人が来たときの特別なディナーの時はバーベキューが定番みたいです。
庭で採れたタイムやローズマリー、ジュニパーベリーと赤ワインでマリネしておいた子ヤギの肉を炭火で焼くんですけど、マリネ液をローズマリーで塗るなど大胆な調理法で(笑)。プロヴァンスならではのバーベキューでした。
―肉はスペシャルなときで、普段は野菜が多いんですね。
山口:今回の旅で、さまざまな方に出会って思いましたが、野菜中心の人たちが多いですね。ロシアによるウクライナへの侵攻以降、飼料が上がっていることもあり肉の値段が上がっているみたいで。「日常的に肉は買えない」と言っている人もいました。
5年前から肉を食べていない26歳の女の子に出会ったのですが、「肉を2人分買うと10ユーロしちゃう。10ユーロあったら野菜はたくさん買えるから」と言っていましたね。
もちろん値段の理由だけでなく、アニマルウェルフェアや地球温暖化の問題を考えて肉を食べないという選択肢をしている人もいます。
ファームステイした農家のお父さんが「生まれて5ヶ月のヤギを殺すときの気持ちを考えてみてよ。気持ちのいいものじゃないでしょ。考えてみれば狩猟採集生活をしていた時代に毎日肉が食べられたと思わない。だから毎日肉を食べるのは変なんじゃないかな」と話していたのが印象的でしたね。
サラダが日常食!ヨーロッパのサラダ事情
―いろんな視点でヴィーガン、ベジタリアンへの関心が高まっているんですね。
山口:今、日本に一時帰国しているのですが、帰国してからお肉は食べていないんです。機内食のヴィーガンミールもすごくおいしかったし、ヨーロッパで人気の豆腐も可能性があるなと思いました。日本の豆腐と違って水分がほとんどなくて結構ボリュームが出るんですよ。
ヨーロッパを巡って、サラダは大発明なんだなと思いました。
サラダだけで夜ご飯のメインにもなるし、もちろん付け合わせにもなるし、ものによっては次の日にも食べられる。日本のサラダの食べ方と全然違ったのでおもしろかったですね。
―ヨーロッパではどんなサラダが多いんですか?
山口:日本だとサラダといえば、生野菜にドレッシングかけるイメージですが、穀物の存在感が強い。キヌア、クスクス、豆が入っていて、そこにいろんな野菜入れておいしいオリーブオイルとビネガーと塩で和える。それだけですごい満足感があるんですよね。サラダだけで、炭水化物のたんぱく質の野菜も摂れるし合理的だなと思いました。
サラダもいろんな種類があって、具材が混ぜ合わせてあってそのまま食べられるようなサラダもあるけど、切って洗っただけの葉っぱを各自の皿にそのままのせられて、そこにビネガーとオイルで味つけてナイフとフォークで食べるみたいなサラダもありました。ナイフフォーク文化ならではの発想ですよね。
ーフランスで食べた印象的な料理のレシピを教えていただけるとうれしいです!
山口:プロヴァンスの農家さんの家を訪れた初日に作ってもプロヴァンス風トマトのローストがすごくおいしくて印象に残っています。
材料
・トマト
・ペコリーノチーズ(パルミジャーノチーズなどでもOK)
・パセリ
・にんにく
・オリーブオイル
・パン粉(コーンフレークでもOK)
・塩、胡椒
作り方
1.トマトを半分に切る。
2.トマト以外の材料を細かくして混ぜ合わせ、ペースト状にする。
3.ペーストをトマトの上にのせてフライパンでゆっくり蒸し焼きにする。
できたてのあたたかい状態を食べてもおいしいし、残ったら潰してパンの上に乗せるのもおすすめですよ。
―彩りもきれいでおいしそうですね。
山口:ヨーロッパの料理はシンプルな素材の組み合わせなのに、チーズやオリーブオイルの油分のおかげで、色がすごくきれいに映える気がします。
フルーツをサラダに入れるとことも多く、色鮮やかでボリュームも出るのでいいアイデアですよね。
日本で肉を使わない料理というと、精進料理みたいなイメージがあり、「おいしいけど、毎日は無理だよね」という感じがあると思うのですが、ヨーロッパはヴィーガンだろうと色合いやボリュームのある料理が多い。
もともとシンプルな料理が好きでしたが、今回、フランスをはじめとするヨーロッパを巡り、家庭料理ならではのシンプルな料理とシンプルさゆえのおいしさというのを知った気がします。そして、シンプルな料理をおいしくするためには、良い食材と良い調味料が必要ということも。
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美食大国フランスというと毎日どんな料理を食べているのだろうと思ったら、シンプルな家庭料理があるということを聞いて驚きと同時に親近感も湧くような気がしました。
毎日野菜を食べなくちゃ、バランスよく食べなくちゃ、毎日自炊しなくちゃと考えるとどうしても億劫になってしまいますが、旬の野菜をどうやっておいしく食べようか?というシンプルな考えや、今日はボリュームたっぷりのサラダだけで済ましちゃおう!という発想は日々の食事や料理を少しポジティブに変えてくれそうです。