海外生活で出会ったあるカゴバッグが原点となり、雑貨ブランド『MEKEARISA』を立ち上げた松尾愛理紗さん。ブランドのアイコン的存在となった「メケアリバッグ」は、使い勝手の良さと異国感漂うカラフルな色合いで話題となり、SNSでも注目を集めています。
パリジェンヌのように自分の「好き」を大切にし、ビジネスチャンスを掴んだ松尾さんのこれまでの歩みと、魅力あふれるライフスタイルについて伺いました。
3年間のシンガポール生活で感じた日本とのギャップ
―移住以前は、ファッション雑誌などの編集をされていたそうですね。
松尾愛理紗さん(以下、敬称略):フリーランス期間も含めて、約10年間編集者として働きました。20代後半に差しかかったとき、「日本から出て、人生の幅を広げたい」と考えるようになりました。旅行で行ったことのあるシンガポールなら、仕事も生活もなんとかなりそうな気がして、現地の日系企業に応募。日本人向けのフリーマガジンを作っている広告会社から内定をもらい、「やっと日本を出られる…!」という開放感とともに30歳で移住しました。
―実際にシンガポールで働かれていかがでしたか?
松尾:働き方の面で、日本との文化の違いを強く感じました。日本では時間厳守はあたりまえで、残業も多い。自分の仕事が終わっても、周りが帰っていなければ帰りづらい環境です。
でもシンガポールでは「自分は自分、他人は他人。自分の人生が一番で、会社は二の次」という感じ。電車の遅延で出社時間が遅れても、「すみません」と申し訳なさそうに入ってくる人はいません。仕事さえきちんとしていれば、日本のように周囲を意識して、必要以上に腰を低くすることはなく、その価値観が組織内だけでなく、社会全体から感じることができました。
―その文化の違いは松尾さんにとってフィットするものでしたか?
松尾:フィットするところと、違和感を感じるところがありました。自分自身を貫ける姿勢は「こうありたい」と思いましたが、ホスピタリティや相手を思いやるの気持ちなどは、シンガポールでは割り切りすぎているなと感じることも多かったです。
例えば、きちんと順番通りに列に並ぶことや、レジで待たせているお客さんに対して「お待たせしました」と一言添えるなど、日本ではあたりまえのことが現地ではあたりまえじゃない。日本で育ってきた中で体になじんだ「あたりまえ」は譲れないことも多かったですね。
旅先で出合ったカゴバッグが与えてくれたチャンス
ブランドを象徴する「Gummy bag」と「Mekeari bag」
―ブランドの看板商品となっているバッグとは、旅先で出合ったんですよね。
松尾:そうです。シンガポールに住んでいる間、休日を利用して近隣諸国をよく旅行していました。メケアリバッグの原点となるカゴバッグと出会ったのは、インドネシアの市場。軽くて丈夫で、買い物バッグとして使っている人も多い印象でした。当時、私は現地の生活や旅先の思い出、出合った雑貨や小物などをInstagramに載せていたのですが、日本のフォロワーさんからの反応がとても良くて。日本に一時帰国するタイミングで「ポップアップショップを開催したら、会いたい人にも一度に会えるし時間短縮にもなって一石二鳥だな」と思い、企画の準備を始めました。
―シンガポールで編集の仕事をしながら、ポップアップストアの準備をされたのですね…!
松尾:商人気質なんです、私(笑)。駐在だったら会社から一時帰国の旅費が出ると思いますが、現地採用なので旅費も滞在費も自分持ち。「ちょっとでも旅費の足しにしたい、日本に一時帰国する時間を有意義に使いたい」という気持ちで企画しました。忙しさは苦にならなかったですね。
―そして2018年2月に、大阪で初めてのポップアップショップを開催。お客さんの反応はいかがでしたか?
松尾:日頃からSNSの投稿を見てくださるフォロワーさんを中心に、たくさんの方が遊びに来てくれました。カゴバッグの他にも、お皿やカトラリーなどの東南アジアのカラフルなアイテムを並べたところ、カゴバッグを手に取る方が圧倒的に多く、手応えを感じました。
―その後も、定期的にポップアップショップを開催されたそうですね。いつブランド立ち上げを決意したのでしょうか?
松尾:日本とシンガポールで合計5回開催しました。ブランド化しようと考えたのは本帰国直前だったと思います。もともとシンガポールでの生活は「3年間」と期限を決めていたこともあり、今後どこに拠点を置いて、どんな働き方をしようかと考えたとき、「芽が出始めている自分のブランドを育ててみよう」と。
―「MEKEARISA」立ち上げ以降の運営は、ポップアップショップとどのような点が異なりましたか?
松尾:ポップアップショップでは現地で買い付けしたものを販売していましたが、お店を持ってからは他のブランドとの差別化や、ユーザーニーズを中心に考えて、ハンドルの長さを調整したり、日本人に受け入れやすい色味を指定したりしてオリジナル商品を制作販売しています。お客さんの反応を見てブラッシュアップし、クオリティーを上げ続けることに注力しています。
難しかったのは製造面でのディレクションです。バッグの制作はインドネシアの職人さんに直接依頼しているのですが、国民性からか「自分たちが暮らしていける分だけ売れればいい」というマインドの方が多くて。宗教上の理由から、お祈りの時間や休日なども多くあり、現地の職人さんにストレスを与えず、安定したクオリティのバッグを一定数作り続けてもらえるのかが今も課題です。
―ここでも文化による働き方の違いが影響していたのですね。
松尾:そうですね。文化の違いももちろん感じますが、世界的に見ても日本は基準が高く細かく、ベストを追求し続ける姿勢を貫く国民性。インドネシアに限らず、どこの国と比較しても苦労する点だと思います。
また、そもそもの話で言うとバッグの材料に再生プラスチックを使っているため、色味が安定しないのも難しさの一つですね。前回入荷分ではあった色味が、今回は仕入れられないとか、微妙に色のニュアンスが変わってしまうことも多いです。一期一会という気持ちで楽しんでもらえたらうれしいです。
大切なのは「自分らしく、心地良く生きていくこと」
―エネルギッシュに、でも自然体で進む道を決める松尾さんの生き方は、PARISmagが憧れている「颯爽と生きるパリジェンヌ」に通じる部分があると感じていました。
松尾:自分が心地良く生きていくために、できることをしようという気持ちでこれまで歩んできました。
とはいえ、大学時代は将来の夢も明確ではなく、就職すべきかどうかも悩みました。でもお金を稼がなければ生きていけない。なんとなく就職して働いて…という感じでした。
日本で企業に勤めていた頃は、自分の意見が通りにくく、力が存分に発揮できない環境にジレンマを感じることが多かったです。でも当時の我慢や不自由さがバネになったからこそ、「自由に、自分の思うままに」というパワーにつながったように感じています。
―長年抱えていたハングリー精神が、今の松尾さんのパワーの源になっているのですね。
松尾:会社を設立した今は、自分だけでなく会社としてどう社会貢献できるか、スタッフの成長と、彼らの生活をどう守るかを考えるようになりました。当然のことですが社会が変化する中で、私たちも進化し続けないといけないと感じています。他の誰かがしていないことを取り入れて、成長していけるかが鍵。そのためのアンテナを張ることを常に意識しています。
―インテリアやファッションのセンスもとても素敵です。
松尾:流行に左右されず、スタンダードにちょっとクセを入れるのが昔から好きなんです。「普通を壊す視点を持つ」ことを意識し続けていたら、今の私が出来上がったという感じですかね(笑)。「人と一緒のことは嫌」という気持ちが学生時代から強く、私服にも古着を取り入れることが多かったです。
今の部屋のインテリアで一番気に入っているのが、古道具屋さんで見つけたヴィンテージの食器棚。温かみのあるものや、ストーリーを感じるものが好きですね。『MEKEARISA』でも、アジアのものだけでなく、フランスなどヨーロッパのものも取り扱いたいと思っているんです。気兼ねなく渡航できるようになったら、自分のお気に入りを探しに世界を回りたいですね。
―最近のお気に入りや、ハマっているものはありますか?
松尾:ピンク色の『Vans』のヴィンテージスニーカーは私の大のお気に入り。それから『パドラーズコーヒー』の日めくりカレンダーも昨年に引き続き購入しました。ポートランド在住のアーティストが描くイラストがかわいくて、毎日めくるのが楽しみです。
海外ドラマもよく観ています。最近は10年くらい前の作品『アグリー・ベティ』にハマっています。主人公のベティのファッションや部屋のインテリアがとてもかわいくて。ドラマに限らず、街中で見かけたものの配色で、「いいな」と思ったら写真を撮って記録するようにしています。
―日常生活の中でも、感性を磨くためのアンテナを張っているのですね。最近では、サステナブルな暮らしも意識されているそうですね。
松尾さん:サスティナブルかどうかを物差しにして生活しているわけではないのですが、引越を機に、プラスチック製保存容器の使用をやめて、すべてホーローやガラス製に変えました。
水をたくさん使ったり割り箸文化がまだまだ多かったりと外食に疑問を持つことも増えたので、料理しきれるだけの食材を買い、食べきれるだけの食事を作って食べきるように意識しています。ゴミをなるべく増やさない、水を大切に扱う、食べ残る量を作らないなど、自分にできる範囲で自分にとっても地球にとってもやさしい暮らしを意識していきたいです。
ブランドとしては今年の秋くらいを目処に、ユーズドのメケアリバッグの回収サービスを企画中です。バッグを愛用してくれるユーザーさんの中には、何種類も持っている方もいて「違う色味もほしいけど、たくさんありすぎて…」という声も。譲ってもいいというバッグを回収し、バッグとの思い出など、エピソードと一緒に新しいオーナーさんへ低価格でお譲りしていけたらと思っています。
―バッグの思い出ごと、引き継がれていくんですね。フリマアプリなどで、見ず知らずの人から譲ってもらうよりも愛着が湧きそうですね。
松尾:4月には実店舗の再開と、新しくカフェも枚方市にオープン予定。カフェはお店から一駅の距離なので、お買い物の後に一休みしてもらえたらうれしいです。コーヒー以外にも、愛犬と一緒に食べられる焼き菓子や、私が世界各地旅してきて「おいしい!」と感じたドリンクメニューも登場予定なのでお楽しみに!
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30歳を機に海外に赴き、帰国後は生まれ育った大阪の枚方市で起業した松尾さん。「周囲の目や声に揺らぐことももちろんある。でも、いちいち気にしているのも疲れるし、何より時間がもったいない。これまでがんばってきた自分を労わり、尊重してあげたい」こう締めくくった言葉に、強くしなやかな軸を持つ松尾さんの魅力が詰まっていました。
【店舗情報】
MEKEARISA
住所:大阪府枚方市堤町5-25
※実店舗は休業中。2022年4月に再開予定
https://mekearisa.com/
INSTAGRAM:@mekearisa
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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