Netflixの人気ドラマ『エミリー、パリへ行く』をご存知ですか?リリー・コリンズ演じるエミリーという女の子が、憧れだったパリの景色にワクワクしつつ、理想のようには上手くいかない異国での生活に奮闘する、コミカルなヒューマンドラマです。
このドラマの魅力といえば、これでもかというほど映し出される美しいパリの風景たち。エミリーのように「いつかパリで暮らしてみたい!」と夢見る方も多い一方で、エミリーのアパルトマンの設備が古くシャワーが使えなくなったり、フランス人に意地悪されるシーンを観たりすると、「実際パリで暮らすってどんな感じだろう?」と思う方も多いはず。
今回は、PARISmagで連載を担当してくださっているパリ在住のイラストレーター 十河藍子さんに、本作に登場するロケ地めぐりとともに、“パリの素顔”を教えていただきました!
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こんにちは。パリ在住のイラストレーター 十河藍子です!
突然ですが、「私はパリが好きだけど、パリは私を好きじゃない」という主人公エミリーのこの言葉を皆さんはどのように解釈しますか?
エミリー自身はパリが大好きなのに、どうにもこの街に上手く馴染めない。そんな気持ちは、慣れない土地で生活を始めた経験のある誰もが、一度は感じるのではないでしょうか。私自身、東京へ引っ越しした初めての年、大都市に上手く馴染めず悶々とした日々を過ごしたことを覚えています。
今回ご紹介する『エミリー、パリへ行く』では、常に前を向くエミリーのポジティブさ、ピンチをチャンスへと変える彼女の度胸と頭の良さは必見。パリに興味がある人もない人も彼女のパワフルな魅力に元気をもらえる、そんな作品です。
実はこの作品、フランスでは「リアルなパリを表していない」「パリの人たちを意地悪に描いている」など賛否両論あったことをご存知でしょうか。そこで今回は、現パリ在住の筆者が作中のロケ地を巡り、リアルなパリをバーチャルツアーしながらお届けしたいと思います!
パリといえばココ!まずは華やかな街、1区
パリの1区は誰もがイメージするパリを象徴するスポットです。エミリーのオフィスがあるのもこちら。ファッションやアート、デザイン、広告関連のオフィスも多い印象です。
いつものカラフルなファッションから一転、エミリーがシックなブラックドレスで登場するのはオペラ座ガルニエ宮。金色の装飾の中での漆黒のドレスはまるで真っ青な湖に優雅にたたずむ白鳥のよう。その色彩のコントラストが彼女の美しさを引き立てます。
実際のところ、エミリーのように頭にティアラまでつけているパリジェンヌはいませんでしたが、オペラ座へ行く際はぜひ黒のワンピースで主人公気分を味わってもらいたいです!
ドレスとハイヒールで颯爽と歩く、『オペラ座ガルニエ宮』
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
「あなたの言うとおり私は平凡な女です」。到底、平凡な女には見えない美しいドレスを纏ったエミリーが失礼な大御所デザイナーに放ったひと言は痛快。
「平凡、平均的、普通といわれる人々がいる一方で、デザイナーやアーティストなど新しい概念や流行を発信する、奇抜で斬新で『おしゃれ』と言われる人々がいる。一見、後者の方が優れているように見えても、この世界は両者が存在することでお互いの夢を叶えているのでは」と語るエミリー。世の中を冷静な目で見極めているこの言葉にハッとさせられた私のお気に入りシーンです。普段かわいらしいエミリーが媚びない女性の強さを魅せつけます。
パリで働く人たちの憩いの場『パレ・ロワイヤル』
エミリーとミンディが初めて出会う場所、『パレ・ロワイヤル』の噴水前ベンチ/Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
『Palais Royal(パレ・ロワイヤル)』はさまざまなお店やオフィスがひしめき合う、パリ中心地に突如現れる庭園です。
私も何度もこの界隈へ訪れておきながら、『パレ・ロワイヤル』が近くにあることを知りませんでした。なぜかというと、この庭園はその周りが商店街のようにブティックに囲まれているため、外から見るとそこに緑豊かな空間が広がっているとは思えないからです!庭園からは車や都会の喧騒が見えないため、ゆっくりと心を休めることができる空間になっています。1区界隈でのショッピングの際はぜひ癒されてみてください!
私の一番好きなキャラクター・ミンディがエミリーと初めて出会うのがここ『パレ・ロワイアル』。ミンディもエミリーに負けないくらい、ポジティブで快活な姉御的キャラクター。さて、この2人がいつも座っているこのベンチにフランス語で何か書かれているのがずっと気になっていて、その文章が作品ともリンクしているのでは…という期待を胸にそのベンチを探してまいりました!
じゃん!こちらがそのベンチ!そして書かれていた文は…
「今日という日は、明日と昨日の結婚である。byジャン・コクトー」
なんだか泣きそうになるくらい素敵な言葉ではないでしょうか。過去の経験と未来への希望が現在という時間を生み出している。「今日は仕事でこんなミスをした」「これからのパリの生活に不安がいっぱい」と語るエミリーの背中で、この言葉が見え隠れしているなんて!とっても素敵な演出です。
シックで大人な街、6区
6区は知識人が集う、古き良き大人な街というイメージ。1区の華やかなイメージとは一変、小説や哲学書を小脇に抱えたムッシューがエスプレッソをすする、まさに大人で少しスノッブな街。なかでも『Saint-Germain-des-Prés(サン=ジェルマン=デ=プレ)』という地区はシックで洗練されたお店が多く、歩いているだけでいろんな発見のあるスポットです。また、小さなギャラリーもたくさんあり、ウィンドウ越しにアート作品を楽しめるので、街中で美術館を楽しんだような気分を味わえます!
同僚のパリジェンヌに「パリで一番好きな場所はどこ?」と聞かれ「サン=ジェルマン=デ=プレ!」と答えたところ、「あそこってお年寄りが住む地区だよ?つまらないよ」と言われた私はエミリー同様、パリでは平凡な女なのでしょうか(笑)。
画家や文学者が愛した老舗カフェ 『カフェ・ド・フロール』
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
「2つのものが並んでいると人間はどうしても比べてしまう」。
トマとエミリーが出会う場所がここ、哲学者サルトルにも愛された老舗店『Café de Flore(カフェ・ド・フロール)』。そしてその隣にはピカソやヘミングウェイが通ったといわれる老舗店『 Les Deux Magots(レ・ドゥ・マゴ)』。この2つのカフェは隣り合わせだからこそ、接客やコーヒーの良し悪しなど、何をとっても比較されてしまう。クライアントのデザイナーに「平凡な女」と一喝されたエミリーが「もっと洗練された女性になりたい」とトマに相談します。
「物事はなんでも2つ並んでいると比較したくなるもの。このカフェみたいに」と、哲学的な切り口でトマが彼女に語りかけるシーンが印象的です。6区はまさに、トマのようなインテリジェンスな人々が集う、大人な街なのです。
『カフェ・ド・フロール』から徒歩で15分、エミリーのアパルトマンがあるお隣の5区へ。
(左)リュクサンブール公園、(右)パンテオン前
四季折々の自然が楽しめる『Jardin du Luxembourg( リュクサンブール公園)』。いつ行ってもパリ市民を癒してくれる、そんな空間です。エミリーの家はここから徒歩圏内の5区に住んでいる設定。朝からここをランニングなんて羨ましい!!
右の写真は『Place du Panthéon(パンテオン)』前。アメリカにいる彼氏と電話で喧嘩になるシーンが撮影されています。ここから見えるエッフェル塔もなかなかいい感じ。
ヒップなパリを楽しみたいなら、日々更新する街11区へ
11区はパリのなかで最も若者人気の場所の1つ。おしゃれでヒップなお店がたくさんあり、夜遅くまで街を歩く若者をよく見かけます。私はこの11区のバスティーユ近辺に住んでいるのですが、コロナ渦のいまでさえ道に人がいないのを見たことがないというくらい、朝から晩まで賑わっているエリアです。
絵画を体感する美術館『アトリエ・デ・リュミエール』
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
エミリーが友人のガブリエルとカミーユの3人で訪れる現代美術館『Atelier des Lumières(アトリエ・リュミエール)』。この美術館では、巨大な空間の壁や床にデジタル投影で絵画を投影し、鑑賞するパリでは珍しい体験型の現代美術館です。
「まるで絵の中にいるみたい」。
エミリーの言う通り、まるで絵の中の世界へ迷い込んでしまったような感覚になるこの美術館。この世界では何をしても許されるような、そんな夢心地でまどろむことができる空間です。エミリーとガブリエルもうっかり、触れてはいけない2人の秘密について振り返ってしまうのもうなずけます。『アトリエ・リュミエール』では、いつもとは違う自分を演出できる場所かもしれません。
フランス革命の原点『バスティーユ広場』
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
写真の中央に光るモニュメントは7月革命記念柱。1830年の7月革命で犠牲になった市民を追悼するために建てられました。『Place de la Bastille(バスティーユ広場)』にはその昔、巨大な監獄があり王や体制に反対する国事犯が収容されていました。有名な「バスティーユ襲撃」とは、国の体勢に耐えられなくなった市民がこの監獄を襲撃し、国事犯を逃した事件のことです。これ以降、『バスティーユ広場』はフランス革命の原点として有名な場所です。
(左)バステューユ駅構内のフランス革命をモチーフにした壁画、(右)電飾がモダンな日本食レストランは11区らしい雰囲気が満載
先日もここ近辺で大規模なデモが行われ、その日近くの地下鉄にいた私は多くの若者がプラカードを持って楽しげに『バスティーユ』で下車する姿を見かけました。彼らにとっての革命とは大きなムーブメントを起こすというよりは、もっと日常的な行為なのかも?と思うほど、フランス人の血には権威には従わない精神が流れている気がします。
11区には『バスティーユ広場』の他に『リパブリック広場』という大きな集会場があり、ここもデモ行進の出発点として有名な場所です。1区や6区にはない、フランス・パリが辿ってきた歴史を味わいたい方は11区をめぐってみてほしいです。
パリっ子の一番の散歩スポット『サン・マルタン運河』
エミリーがダブルデートをする『Canal Saint-Martin(サンマルタン運河)』の川沿いの様子。6区はインテリのトマにぴったりでしたが、11区はおしゃれで社交的なカミーユにぴったりな場所ですね!お店やレストランはどれもおしゃれで個性派揃いです。カナル沿いではテイクアウトで楽しめるお店ばかりなので、天気のいい日はぜひピクニック気分を楽しんでみてください。
パリを一望!絵画のようなパノラマ風景を18区で楽しもう
18区はパリの中心地から少し離れた、いわゆる下町エリアになります。その昔ピカソもこの18区にあるモンマルトルという地域に住んでいました。モンマルトルは19世紀後半たくさんの画家に愛され、多くのアトリエがあったことで有名です!画家に愛された一番の理由、それはこのモンマルトルの丘から一望できるパリの街並みでしょう。
パリで一番美しい坂『ダリダ広場』と『サクレ・クール寺院』
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
カミーユが招待してくれた『アトリエ・リュミエール』でのゴッホの作品から、「星空の下で眠る」という広告キャンペーンを思いついたエミリーがうれしげにカミーユと語り合うシーン。
これはパリで一番美しい坂と言われている『Place Dalida(ダリダ広場)』で撮影。このロケ地で写真を撮っていると、「このドラマを見てここを知ったの?」とムッシューに話しかけられました(笑)。エミリー効果でここの知名度は飛躍的に上がったことでしょう!
さて、ここで1つ注意点ですが、モンマルトルへお出かけの際はエミリーのようにヒールの靴を履いていくことは絶対におすすめしません。この界隈は坂や階段が続くため、いつもより歩く量も増えますし、丘の上に広がる街なのでタクシーも簡単には見つからないのです。
ダリダ広場の坂をまっすぐ登って行くと、左手にエミリーとミンディが食事をしていたカフェが!そして、目の前には有名な『Basilique du Sacré-Cœur(サクレクール寺院)』が見えてきました。
こちら、『サクレクール寺院』から一望できるパリの街。上は夏、下は秋に撮影しました。季節や時間帯が違うだけでこんなにも表情の違う景色が楽しめるなんて。多くの画家を虜にした理由が分かります。
壁にも、カフェのメニュー板裏にもアートが。18区はやっぱりアーティストの街。
『アレクサンドル3世橋』を渡りながらパリに想いを馳せて
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
最後に、作品中で私が一番印象的だった『Pont Alexandre III(アレクサンドル3世橋)』でのシーンをご紹介します。
香水の広告キャンペーンの撮影に参加したエミリーは、広告のとある演出について疑問をもちます。ここで、注目したいのが表現の自由という大きなテーマです。フランスにいると、「自由」という言葉をよく見かけます。SNSやネットの登場により、我々は表現の自由を獲得したと同時に、膨大な量の情報を日々インプットしています。
人の価値観を裏付ける最も大きな要因は、その人が触れてきた国の文化ではありますがインターネットの登場以降、この価値観の多様性がグローバリズムという名のもと、フラットなものへ変化しているように思えます。これがいいか悪いかはさておき、異文化の価値観に触れるということは自国の文化を見直すきっかけになります。
私はこの回を見て、私の母国の日本とエミリーの出身国アメリカ、そしていま住んでいるフランス文化の違いについて考えさせられました。これ以上はネタバレになってしまうので、内容はぜひ作品をチェックしてくださいね!
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占
さて、今回は『エミリー、パリへ行く』のロケ地をめぐっていると、思いもよらない発見や出会いがありました。たまにはガイドブックやInstagramから離れて、自分だけのお気に入りスポットを映画やドラマから探し、そこから旅行プランを立てるのもいいですね!
エミリーと同様、異国からパリへ渡った私は感情移入できるシーンが盛りだくさんでした。もしも、エミリーがこのパンデミックのなかパリで過ごしたら…そんなストーリーも見てみたかったです。今年の冬休みはNetflixで『エミリー、パリへ行く』を観ながら、パリ旅行気分と、文化の違いに想いを馳せてみることをおすすめします。鑑賞のお供には、パン・オ・ショコラを忘れずに!
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話題作『エミリー、パリへ行く』のロケ地めぐり、いかがでしたでしょうか?パリの文化を紐解きながら改めて本作を見ると、また新しい発見が生まれてきそうです!シーズン2の制作も正式に決定したそうですので、ぜひチェックしてみてくださいね。
十河さん、素敵なバーチャルロケ地めぐり、ありがとうございました!
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