今年の5月、おしゃれなカフェやレストランが多い代々木上原に、フィンガーフードのレストラン『&piece(アンドピース)』がオープンしました。
フィンガーフードと言っても立食パーティーでよく見かける、こぎれいに盛り付けられた小さなおつまみではありません!『&piece』のフィンガーフードは、グランメゾン出身のシェフが作る、まさに小さな芸術作品。
そんなわけで今回は、目下、東京のレストランシーンで大注目の新感覚フレンチ『&piece』を紹介したいと思います。
手で食べるフレンチ料理『&piece』
代々木上原から歩くこと6分。住宅街にさしかかる手前の静かな通りに『&piece』はあります。エメラルドグリーンのファサード、店先のオープンエリアに並んだ焼き菓子。パリのショップを想わせるかわいい外観に、道行く人は必ずといっていいほど目を向けます。
お店に入るとすぐに大きなオープンキッチンがあり、小さなポーションに切り揃えられた下ごしらえ中の食材が並んでいます。
さらに、芸術家のアトリエにありそうな大小の刷毛やスポイトのような小道具、盛り付け用の小物もたくさん。キッチンを見ているだけでワクワクします。
レストランをもっと自由に楽しんでほしい
『&piece』のシェフ山岸正祈さんは恵比寿の『ジョエル・ロブション』や銀座の『ロオジェ』などのグランメゾンで経験を積んだ実力派。
テーブルにはナイフもフォークもありません。あるのはおしぼりとナプキンのみ。こんな素敵なお店で、ほとんどの料理を手で食べるなんて何とも斬新だし、ちょっぴり緊張もします。でも、シェフの山岸さんはこう言います。
「料理は味や香りだけでなく、触感も大切と考えています。手に触れたときの感触や温度をもっと感じてほしい。だから手で食べることを提案しています。おいしい料理をきれいに食べてもらうことがレストランの固定観念としてあると思うのですが、僕はレストランをもっと自由に楽しめる場所にしたい、と思っています。ポテトチップスでも手についた塩をなめるのがおいしいじゃないですか!」と笑顔で話してくれました。
15種のフィンガーフード楽しむフルコース
ジグゾーパズルのピースを模った「&piece」という名前の看板フィンガーフード。9月は関西風のちょっと甘い卵焼きをパンではさんだタマゴサンドでした。酸味のある自家製マヨネーズとマスタードがアクセントになった、ほっとする味。
『&piece』のメニューはランチもディナーも15種のフードを楽しむ1コースのみ。前菜、魚、肉、炭水化物、そしてデザート3品という構成で、1ヶ月毎に15種の内容はかわりますが、看板メニューならぬ看板フィンガーフードは、形はそのままに内容がアレンジされます。
「料理はジャンルにこだわらず、フレンチをベースに、中華や和食、エスニックなど各国のエッセンスを取り入れています。終始飽きがこないよう、五味(甘い・辛い・酸っぱい・苦い・塩辛い)を意識しつつ、15品をきれいにまとめるようにしています。特に香りとプレゼンテーションには気を使っていますね」と、山岸シェフ。
見た目の物珍しさだけでなく、グランメゾンでの経験に裏付けされた、高い技術あってこその言葉です。
宝箱にはいった前菜の1品。シャキシャキとした歯ごたえのあるアンディーブに、水切りヨーグルトと甘エビのディップ、白ブドウ、最後にスライスしたカラフルトマトをトッピング。レモンのオイルで仕上げてあります。宝箱に敷き詰められたトマトはキラキラした宝石をイメージ。食感と甘みの違いを楽しむ1皿です。
「小さいポーションにまとめるのはすごく難しいし、季節の食材を使って毎月コースの内容を変えるのは、正直、やらなければよかったと思うくらい大変です」と苦笑いしながら話す山岸シェフ。
「でも、他のレストランではやっていない、何か新しいことに挑戦してみたかったし、自分への挑戦は必ず自分の財産になるはず」というバイテリティあふれる山岸シェフの言葉がとても印象に残りました。
大人の遊び心をくすぐるレストラン
取材に伺った9月はメニューも秋仕様に変わる時季でした。料理ひとつひとつはもちろん、盛り付けのプレゼンテーションに遊び心が溢れているのも『&piece』ならでは。
イメージは森の中のキノコ狩り。豚足とマッシュルームをソテーして細かくしたものをクラッカーにのせて。仕上げにパルメザンチーズとパセリを散らした、秋らしい1品。
自家製羊肉のベーコンの燻製と焼きなすのペーストをパイ生地にのせて。ちょっとクセのある羊肉とミントの相性は抜群。赤ワインに合うこと間違いなし。骨をお皿代わりに使うアイデアには思わずびっくり!
角煮風豚バラ肉のコンフィ。クミン、コリアンダー、黒胡椒などスパイスの辛味とじっくりと炒めた玉ねぎの甘味が絶妙のバランス。もちもちのマントウにはさんで大きな口を開けて食べる1品です。
「お客様にはこの店でワクワクした時間を過ごしてもらいたいと思っています。だから、僕は来ていただいたお客様に、お味はどうでしたか?ではなく、楽しんでいただけましたか?と聞きます」。
レストランはエンターテインメントでもあり、おいしさはもちろん、大人がもっと楽しめる場所であって欲しいと言う山岸シェフ。それは、山岸シェフが実際に経験したレストランでの感動に基づいているそう。
タイのバンコクにある「アジアのベストレストラン50」の1位にも選ばれたモダン・インド料理レストラン『ガガン』を訪れたときのこと。コの字型にならんだテーブルをそのとき居合わせた皆で囲んで、目の前でシェフが料理するのを見る。そしてみんなで料理を手で食べる。「その世界はもう料理の枠を超えていた」と山岸シェフが話してくれました。
店名の「piece」は手で食べられるひと口サイズのもの、という意味のほかに、平和・ピースサインなど、来ていただいたお客様が楽しく笑顔で過ごしてもらえるお店になれば、という思いでつけたそう。そんな山岸シェフの思い通り、『&piece』は「食べることってこんなに楽しいんだ!」と再発見できるお店でした。
- ■お店情報
- & piece (アンドピース)
- 住所:東京都渋谷区西原3-25-4 1F(地図)
- 定休日:火曜日、水曜日
- 営業時間:[ランチ]12:00-15:00 (L.O.12:30)/[ディナー]18:00-23:00 (L.O.20:00)
- [焼菓子の販売]12:00-18:00
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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