パリを舞台にした映画はたくさんありますが、この夏、とびきりキュートな映画が公開されます。
ジャック・タチのエスプリを受け継ぐと称されることの多いドミニク・アベルさんとフィオナ・ゴードンさんによる監督&主演作『ロスト・イン・パリ』。魅力的なキャラクターたちがパリの街を駆け巡り、まるで飛び出す絵本のように色鮮やかで奇想天外にくるくると展開していき、笑って、笑って、最後にはほっこり感動する、そんな作品です。
今回はアベルさん、ゴードンさんにお話を伺いながら、映画の魅力を紹介したいと思います。
【あらすじ】
雪深いカナダの小さな村、さえない日々を送る図書館司書フィオナ。ある日、パリに住むおばマーサから助けを求める手紙が届き、臆病者のフィオナ(フィオナ・ゴードン)は勇気をふり絞って旅に出る。ところがアパートにマーサの姿は見当たらず、セーヌ川に落ち所持品全てを失くす大ピンチ!おまけに風変わりなホームレスのドム(ドミニク・アベル)につきまとわれて…。いったいマーサはどこに?!夏のパリを舞台に、愉快なオトナたちの小さな冒険がとびきり楽しい、遊び心たっぷりのコメディが誕生した。
パリで途方に暮れた思い出
製作・監督・脚本・主演をこなしたアベルさんとゴードンさんは、実は現役の道化師カップル。2人はパリの演劇学校で演劇を学び、そしてそこで出会ったのだとか。実際に映画の登場人物のように、パリで途方に暮れた経験もあるそうです。
「私たちが本格的に演劇の勉強をはじめたのがパリでした。私はもともとフランス語も話せなかったのですが、小さなワンルームの部屋を探していたとき、とても心細かった記憶があります。
部屋を見に行ったとき、不動産屋さんに『どこの学校?』と聞かれて答えても、知らないと言われ、さらにそんな聞いたことのない学校じゃ貸せないよと言われたことがありました。
結局どこに行っていいのかわからず、そのときは本当にフィオナのように大きな荷物を持ったまま途方にくれてしまいましたね」とゴードンさん。
映画の中ではマーサおばさんもフィオナもパリへの憧れを持っているように、描かれていますが、お2人はパリに対してどんな思いを持っているのかも気になるところ。
「私たちは今ブリュッセルに住んでいるのですが、パリは常に何かがあるような、何かが起こっているような街だと思います。文化的にも豊かですし。でも実際に住むとなるとストレスフルな街でもあります。しばらくいると疲れるんだけど、また離れると行きたくなる。そんな街なんじゃないかと思います」。
パリを舞台にした理由のひとつはエッフェル塔
そんなパリにゆかりのあるお2人が、今回パリを舞台にした理由にはエッフェル塔が関係しているのだそう。
「私たちがパリで演劇を学び、パリで出会ったというのももちろんパリを選んだ理由ですが、たくさんの理由があります。そのひとつに、今回の作品では、多くの人がいて迷ってしまうような大都市を舞台にしたいということがありました。実際3人の登場人物(フィオナ、マーサ、ドム)がパリの中で迷って途方に暮れていますよね。東京でもロンドンでもニューヨークでもよかったのですが、ただエッフェル塔のように高くて、登場人物がそこを目指して登っていくモニュメントが必要だったので、パリにしました」とゴードンさん。
パリの街で過ごすフィオナやドムの後ろにはいつもエッフェル塔があり、特に最後のシーンではそのエッフェル塔がとても印象的に描かれているので、ぜひ注目してみてくださいね。
同時に、たくさんの作品に登場しているパリを舞台に撮影するということで、紋切り型のイメージにならないように気をつけたのだそう。
「エッフェル塔のような観光地だけじゃなくて、橋の下など普通は見られないパリも見せたいという思いがありました。そうして探しているうちに見つけたのが自由の女神がいる『シーニュ島(île aux Cygnes)』です。両側を高速道路が通っていて、その間が中洲になっていて船のようなんですよ。ここはあまり映画でも取り上げられていない場所ですし、パリのもうひとつの表情を示している場所だと思います。パリの裏の部分ではあるけれど、別の意味で美しい場所でもあると思ったんです」。
普段、道化師として、普通とは違う美しさの捉え方をしているお2人だからこそのロケーションのチョイスです。
この場所はアベルさんのお気に入りの場所でもあるのだとか。お昼休みにみんなサンドイッチを食べていたり、ホームレスが住んでいたり、犬の散歩をしている人がいたりする場所でとてもおもしろみがあると教えてくれました。ちなみに、ドムが振り回された犬はたまたまこの場所を散歩していた犬なのだそう!
とはいえ、あくまでもパリの街を見せることが目的の映画ではなく、今回の作品のテーマを描くのにぴったりの街がパリだったのだと、アベルさんは強調します。ホームレスのドムがテントを張った島には、自由のメタファー自由の女神があるように、街がアベルさんとゴードンさんに代わって語ってくれる場所を見つけて映し出したのだとおっしゃっていました。
個性豊かな登場人物にも注目
マーサおばさんを演じたエマニュエル・リヴァなど、個性的な登場人物も注目のポイントです。
「登場人物はひとりひとりの個性を追求し、それぞれが持っている弱さや脆さを掘り下げていくという方法で描いています。人は失敗したときや弱さに晒されたときこそ本人の本質が現れると思うんです。
役者がプロであれ、アマチュアであれ、その人の持っているそういった部分を掘り下げていきたい、語りたいと思っています。それは従来的な意味での美しさではないかもしれませんが、私たちにとっては美しく豊かな部分であると思っています」。
そう、ゴードンさんが言うように完璧ではない人間たちが迷ったり、ぶつかったり、出会ったりするからこその人間ドラマが楽しめます。
意味をもった笑いを大切にしていきたい
「私たちは、笑いだけでなく、そこに心を打つような深い部分や一抹の苦しさのようなものが伴っているということを大切にしています。ギャグ映画の場合、ギャグのためのギャグとなってしまうと、たとえ笑えても何も残らないと思うんです。深い部分を追求した笑い、意味を持った笑いというのはそのあともずっと残ると思っています」というゴードンさんの言葉通り、コミカルな身体表現にユニークな登場人物、そして奇想天外な展開にクスクスと笑える映画ですが、最後には心温まり、幸せな感動に浸れること間違いなし。
さえない大人たちが、パリを舞台に迷って、失敗して、すれ違って…。楽しいことばかりじゃないけれど、でもうれしい瞬間もある。そんな人生のような1本。一緒に巻き込まれる気分で、フィオナとドムの夏のどたばたパリ巡りを楽しんでみてください。
- ■映画情報
- ロスト・イン・パリ
製作・監督・脚本:ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン - 出演:フィオナ・ゴードン、ドミニク・アベル、エマニュエル・リヴァ、ピエール・リシャール
- 2016年/カラー/1:1.85/5.1ch/83分/フランス語、英語/フランス、ベルギー/原題:Paris Pieds Nus/英題:Lost in Paris
- 配給・宣伝:サンリス
- 公式HP:http://www.senlis.co.jp/lost-in-paris/
- Facebook:lostinparis.movie
- Twitter:@lostinparis_jp
- Instagram:@lost_in_paris_movie
- 8月5日(土)より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開
- ©Courage mon amour-Moteur s’il vous plaît-CG Cinéma
–
■一緒に読みたい記事