周りには高い建物がなく、近くには善福寺川緑地公園があり、23区とは思えないくらいに牧歌的な雰囲気が漂う東京メトロ丸の内線・新高円寺。駅の近くから延びる五日市街道沿いにある夫婦で営む小さなパン屋さん『SONKA(ソンカ)』に行ってきました。
“街のパン屋さん”を目指して…
うすいサーモンピンクの壁は異国の建物のようなのに、周りの住宅街と調和していました。お店の入り口にはお店の目印になる木彫りのフランスパンが。
大きなスピーカーから心地よいジャズが流れます
お店に入ると店内にはジャズが流れ、イートインスペースも。
パンをテーマにした懐かしい絵本が並ぶ小上がり席
小上がり席もあり赤ちゃん連れのママたちが楽しくおしゃべりしていました。
南仏風の店先に、店主の村山さん
この『SONKA』は“フランスパン専門店”というかなり珍しいお店。なぜフランスパン専門店にしたのでしょうか?店主の村山大輔さんにお話を伺いました。
「このお店をオープンしたのが2014年9月。その前に2年ほどレストランで働きました。なので、僕のパン職人歴は4年くらいなんです。ちなみにその前はサラリーマンだったのですが、その頃から、『いつか自分の城を持ちたい』と思っていました。そこで、レストランに転職し、配属になったのがフランスパンを作る部署だったんです。それまで、パンというと菓子パンをおやつ代わりに食べる程度だったのですが、そのレストランで働いていくうちにフランスパンの魅力に引き込まれました。フランスパンしか作らない部署に配属されたばかりの頃は『フランスパンしか作れないなんて見識が狭くなりそうで不安だな』と思いましたが、今となっては逆に良かったと思っています」。
そこで1日300本ものフランスパンを作り、どんどん腕を磨いていったという村山さん。脱サラで、しかもハード系のパンについても詳しくなかったなんて意外です!
お店の窓にもかわいいフランスパン
『SONKA』はどの駅からも10分以上かかる住宅街にあります。なぜこの地にお店をオープンしたのでしょうか?
「僕は杉並区で育ったのですが、実はあまりこの辺には来たことがありませんでした。でも、最初から駅前立地は候補に入れていなかったし、駅から離れていれば離れているほど良いと思っているんです。というのも、駅から離れていてもそこには暮している人が必ずいて、その狭い商圏でご近所の人に深く愛してもらえるお店がやりたかったし、今でもその思いは変わりません。あと、この辺りは緑が多くて、それもいいですよね」。
実際、近くの善福寺川緑地で『SONKA』のパンやサンドイッチを楽しむ方も多いのだそう。
「僕のイメージするパン屋は、日常的に200円とか300円とかで毎日食べるパンを買う程度の場所。その程度という表現は変かもしれないですけど(笑)。でも、わざわざ遠く離れたお店まで行って、パンを買うのはちょっと違うんじゃないかなぁ、と…。自宅の近所には必ずいいパン屋さんはあるはず。そういう近所のパン屋さんを大切にして欲しいと思っています」という村山さんの哲学どおり、取材中も近所のおばあさんが孫のためにフランスパンをまとめ買いしたり、パパと小さな男の子が明日の朝食用のフランスパンを買っていました。
イートインでいただく人気メニューとは?
フランスパン専門店である『SONKA』のメニューはフランスパン・雑穀フランスパン・チョコフランス・あんフランスなど実にシンプルなものばかり。決して多種多様なわけではありませんが、多くのファンを惹きつけています。
村山さんのこだわりが凝縮したフランスパン
「一番人気なのは、やはりお店の看板でもあるフランスパンです。」と村山さん。
チョコフランスと塩ナッツフランスも提供されていました
「あと日によって変わるのですが、サンドイッチは6~8種類提供しています。その中でも人気なのがホットドッグと生ハム&クリームチーズ。そしてデザート系ではあんバターが人気です」。
ホットドッグ(手前)、あんバター(奥)
さっそく、ホットドッグとあんバターをいただきました。『SONKA』のサンドイッチは「作りたて」にこだわり、作り置きをしていません。村山さんは「作りたてを食べて欲しい」と、イートインスペースを用意したんだそうです。
ホットドッグを一口ほおばると、まずはカリっと心地よいフランスパンの食感が楽しめます。その後にモチモチの食感を噛みしめると、フランスパンの香りが鼻を抜けていきます。もちろん、ソーセージの風味もマスタードの香りも良いのですが、それはあくまでフランスパンのおいしさを引き立てる脇役という感じ。また、あんバターは独特の香りと、プチプチとした食感があり、甘さ控えめのあんがバターと相まって「和スイーツ」という趣です。
「パンにこだわっている分、具材に関してはフレキシブルに、そして手に入りやすいものを使っています。ハムやソーセージ、チョコやあんも高額なものは使わないようにしていますし、近所の八百屋さんからいただいた野菜を使うこともあるんですよ」。
地元のお客さんだけでなく、近所のお店とも「商店仲間」として地域と密着しているんですね!
限られた材料からつむぎ出す珠玉のフランスパン
ところで、村山さんのフランスパン作りのこだわりとは何なのでしょうか?
「僕が作るフランスパンの材料は小麦粉、水、塩、酵母だけ。その中でも小麦粉には一番こだわっていて、自分で選び抜いたものを使っています」。
村山さんが使っているのが北海道・江別製粉の『10P09』という小麦粉。全てのパンにこの小麦粉を使用しています。
パン作りの要となる小麦粉。オープンからずっと使い続けている品種です
「普通のパン屋さんでは、パンによって小麦粉を使い分けたりブレンドしたりするんですけど、うちではこの小麦粉だけで勝負しています。それだけ僕がこの小麦粉に惚れ込んでしまったのと、あとこの小麦粉だけでどれだけ可能性が広がるのか挑戦したい!という思いがあるからなんです」
日によっては売切れてしまう“フランス食パン”は予約するのがおすすめ♪
その挑戦からこの秋登場した新作が、「フランス食パン」。聞き慣れない名前のパンですが、どういった食パンなのでしょうか?
「名前の由来は“フランスパンと同じ材料で作っている食パン”だから。食パンなどふんわりしたパンは、膨らみやすくたんぱく質の多い強力粉または超強力粉を使うのですが、僕が使っている『10P09』はハード系パンに適した準強力粉。強力粉に比べ膨らみにくい準強力粉のみで食パンを作ることはあまりないんです。それでも夏前から試作を重ね、かなり失敗もしたんですけど、9月にやっと商品化できました」。
この「フランス食パン」を作るきっかけは常連さんの「食パンが食べたい」という一言。「うちがこの土地における『街のパン屋さん』になった以上、街の人が食べたいと思うパンを作ってみよう!」と思ったのだそうです。
パンを購入するともらえる保存方法が書かれたカード。「パンをおいしく食べてもらいたい」という気持ちが込められています
トーストせずにそのまま食べてみると、豊かな香りとほのかな甘みを感じます。小麦粉、水、塩、酵母だけで作っているとは思えないほどに味わい深い食パンなのです。
「違和感のある味や香りは排除したいので、とにかく“引き算”のパン作りを徹底しました。だからうちの食パンは砂糖もバターも使いません。そうすると最後に残るのは小麦の醸し出す 味。決して派手な味ではなく、素朴でシンプルなパンを作っていくことは僕のテーマでもあるんです」。
ちょっぴり照れ屋の村山さんの言葉から、真摯で実直なパン作りに対する思いが伝わってきました。たかがフランスパン、されどフランスパン…。『SONKA』のフランスパンから、その奥深さを感じてみてはいかがでしょうか?
- ■ お店情報
- SONKA(ソンカ)
- 住所:東京都杉並区成田東2-33-9(地図)
- TEL:03-5913-8511
- 営業時間:10:00〜18:00
- 定休日:火・木曜日
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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