シンプルシックなファッションに身を包み、スッと胸を張って歩くパリジェンヌはいつの時代も私たちにとっての憧れです。ごく普通のカットソーやデニムも彼女たちが着るとかっこよく見え、ナチュラルで飾らないメイクにも女性らしさを感じるのは私だけではないはず。
そんな憧れのパリジェンヌのおしゃれやライフスタイルを素敵なイラストとともにわかりやすく教えてくれる米澤よう子さんにお話を伺うことができました。
イラストでパリジェンヌの着こなしのちょっとしたコツをわかりやすく紹介してくれる『パリ流おしゃれアレンジ!』や、レシピをはじめパリジェンヌの日々の食事を垣間見ることができる『パリジェンヌ流シンプル食ライフ』など、実際にパリで生活する中で見つけたパリジェンヌのリアルな姿を紹介している米澤さんにパリでの生活や現地での見てきたパリジェンヌのおしゃれについてお話をしていただきました。
- 米澤よう子(よねざわ ようこ)
- 女子美術短期大学卒業。大手企業広告のグラフィックデザイナーとして勤務。その後、イラストレーターとして独立。化粧品パッケージや広告キャンペーン、女性ファッション誌、CMなどで多数の女性イラストレーションを手がけたのち、渡仏。パリの高級百貨店、LE BON MARCHÉでの個展を開催するなど、多彩な活躍を経て、帰国。現在はパリ在住4年の経験を生かした著書、商品企画を手がけるなど活動範囲を広げている。著書に『パリ流おしゃれアレンジ!3靴からはじまる着こなしの魔法』(KADOKAWA)、『パリジェンヌ流シンプル食ライフ』(文藝春秋)など多数。
- ブログ:パリ流ダイアリー
観光で見たパリと住んでから知るパリ
ー米澤さんがフランスに滞在していたのはいつ頃ですか?
米澤さん(以下、米澤):2004年〜2008年です。この期間は3ヶ月パリにいて、数週間日本に帰国するという生活サイクルを繰り返していました。当初は1ヶ月ぐらい旅行で行くつもりだったんですが、「せっかく行くんだったら3ヶ月はいた方がいい!」という周りからの勧めもあり、3ヶ月の予定でフランスに行くことにしたんです。そしたら、帰りたくなくなっちゃって…。そこからの4年間はフランスと日本を行ったり来たりするような生活をしていました。
ー最初にフランスに行こうと思ったきっかけはなんですか?
米澤:それまでも、毎年2回夏と冬のお休みにパリを旅行することを恒例にしていたんです。そのために「がんばって働こう!」と仕事のモチベーションにしていました。
今思えば、その2004年頃は年齢的に「これからどうしよう?」という、人生の過渡期だったこともあり、少し長めに滞在しようという気持ちになったのかもしれません。仕事の状況からしても、1ヶ月くらいなら滞在できるだろうという計算はしていました。けど、まさか住むとは思っていませんでしたね。
「せっかくだからパリの人たちに絵を見てもらえたらいいなあ」と思っていたら、パリにいる1ヶ月間にあれよあれよと個展が2つ決まったんです。なので、ほとんど何も考えずに目先の仕事をこなしているうちに、いつの間にかフランスに住んでいたという感じですね。
ー旅行で行くパリと、住んでみたパリは違いますか?
「パリ流おしゃれアレンジ!」P108-109
米澤:全然違いますね。パリの街自体が旅行者には猫をかぶっているような感じです(笑)。パリって表向きは生活リズムや生活スタイルがきらびやかに見えますが、実際生活してみると築100年のようなアパートに住むことも当たり前です。クラシックなアパートもおしゃれで憧れますが、実際は騒音があったり、エレベーターが止まったり、水漏れなんかもしょっちゅうでした。お風呂が詰まって入れなかったこともありましたね。
旅行で滞在するホテルのおもてなし体勢とは全然違います。「今って何時代?」と思うような、快適な生活とは程遠い生活です。旅行で行くとスムーズにいくことが、いざ住んでみるとどうしよもない壁にぶち当たりますね。
ー不便な生活でもパリに住み続けた理由は何ですか?
米澤:住んでみるとパリには“味”があるんです。東京の生活は整っているし、きれいだし、電車も遅れないし。だけど、“無味無臭”というか…。全てがスムーズすぎて、時々スピードについていけないときがあるなと感じていたんです。東京では失敗が許されないような焦燥感もありました。
でも、パリはポンコツというか不完全さがあります。それをみんなが一生懸命に解決している様を見て救われたんですよね。
例えばパリのアパートで水漏れが起こると、上下階の人たちと話し合いや交渉をしなければならないし、すごく大変だし面倒です。だけど、そんなダメな部分の中に、「ダメでもなんとかなるんだな!」という妙な前向きな思考を知ることもできました。
あと、「嫌になっちゃう!」って言いながらもご近所の方と仲良くなっていくんですよね。そんな、東京の生活で欠けていた“人間的な触れ合い”に惹かれていった部分もあるのかもしれないです。
ーそんな生活の中でパリジェンヌたちを観察していたんですね。
パリジェンヌ流シンプル食ライフP28-29
米澤:仕事柄、自然と観察していたのだと思います。ファッションチェックをしていたわけではなくて、パリジェンヌの雰囲気や楽しそうな姿、彼女たちのライフスタイルを見ていた感じですね。
せっかくパリに来たんだから、パリの文化にどっぷり浸かってみようとも思っていました。パリジェンヌに混じってカフェに入ったり、公園に行ったり、社会科見学のつもりでとにかく外に出ていました。その中で素敵だなと思うパリジェンヌのスケッチを重ねていましたね。
観光で行ってうわべだけをウォッチングするだけではわからないところがたくさんあります。カフェでおしゃべりしたり、美術館へ行ったり、オペラやバレエを観に行ったりする。そんな彼女たちの生活を楽しんでいる場面を観察していくうちに、「こんな風にパリジェンヌたちのスタイルが作られているんだ!」とわかってきたんです。
彼女たちは生活を一生懸命楽しんで、自分たちのスタイルを築いています。それが結果的におしゃれになっているんだな〜と。おしゃれのためにがんばっているのではなくて、日々を一生懸命に過ごしている中でそれぞれのスタイルが自ずとできているというか。
私はそういうパリジェンヌの姿を、日本の方たちに紹介していきたいと思っています。おしゃれをしているうちに気持ちも変わっていくような感覚を私の本の読者の方たちも感じてくれればうれしいですね。彼女たちは自分を自分らしく楽しむためにおしゃれをしているんです。
パリジェンヌのファッションは着るために買う
ーパリジェンヌっていうと高い服を着ているイメージでしたが、意外にも安い服も着まわしているのですね。
米澤:パリジェンヌは服を「着る」ために「買う」んです。アイテムの優劣ではなくてあくまで自分が楽しむための1枚を見つけることが大事なんですよね。そのためには試着はとても大切です。アイテムの選び方さえわかれば、迷わなくなりますよね。そして、それが楽しくなって自信にもつながるんですよ。
それはパリジェンヌの姿から感じる自信にもつながっているんだろうなと思って、書籍ではそういった選び方のヒントを紹介しています。自分らしく胸を張って着ればきれいな服はたくさんありますから。
ー米澤さんの著書を拝読して試着の重要さを知ったことで、洋服の選び方が少し変わった気がします。
「パリ流おしゃれアレンジ!」P64-65
米澤:私たちって決定打のないまま、周りの目を気にしながら、服を買ったりしていますよね。買ったのに着ない服ってありませんか?それも悪いということではないですが、ちょっともったいないと思うんですよ。日本に比べてパリは住居費など生活のためにかかるお金が高いので、倹約せざるを得ないんです。なので、洋服も「着るために買う」というとてもシンプルな発想になるんですよ。
ーパリジェンヌはシンプルなアイテムを着回すのが上手と著書でも紹介されていますが、彼女たちは流行やトレンドはどのように取り入れているのでしょうか?
米澤:パリもモードの都なので必ず流行というものがついてきます。高いお金で流行のものを常に更新し続けていくというのは難しいですよね。地位のある人たちは高価なトレンドアイテムを取り入れるかもしれないけど、それができないならファストファッションでおこずかいの範囲内で流行を楽しめばいい。トレンドに流されずにベーシックなアイテムを長く大切に着るという人もいていいと思うんです。
考え方や価値観は人それぞれ違うので、それでいいんじゃないでしょうか。パリでは誰も他人のファッションに対して何も言いませんよ。パリのそういうところはすごくリスペクトできるなあと感じています。安物だから、ファストファッションだから、流行のものだからダメという判断基準がないので、みんなそれぞれ楽しそうなんでしょうね。
あと、似合っている似合っていないということも、そんなに気にしなくていいんじゃないのかなって思います。その人の暮らしに合っていて、自分が快適で、周りの人たちを白けさせないようなものであれば何でもいいんじゃないかな。でも、似合ってないと自分が快適じゃなかったりするんですけどね(笑)。
パリジェンヌは着回し上手
ー『1/3の服で3倍着回す パリのおしゃれ術』では、「そんな着方があったの!?」というような着回しアイデアも掲載されていますよね。これもパリジェンヌの生活を観察することで気づいたことなのでしょうか?
米澤:これは私がパリに住んでいたときに、モノを増やすと持ち帰らなくてはいけないので、増やしたくないな…っていうところからで。私もモノを増やさないように意識していたんですが、それでもやっぱりパリジェンヌたちはもっとモノを持っていなくて驚きましたね。
パリジェンヌの着こなしを見て、「こう着るのね〜」と思うことはたくさんあるので、それを意識してまとめた本になります。本当に私たちが想像もできないような着方をしていることが多いんです。
ーこの本を拝見するとパリジェンヌがいかにシルエットを重要視しているかがわかりますよね。
1/3の服で3倍着回す パリのおしゃれ術P10-11
米澤:日本人の行き届いた細かな技術ってとってもすごいですよね。でも、どうしても細かい部分に目がいって、全体が見えなくなりがちなんだと思います。逆にパリジェンヌってすごくアバウトなんですよ。私はパリジェンヌのアバウトさにすごく救われました。全体を見ると「なんて素敵なセーターなんだろう!」と思って見ていてもよく見たら毛玉だらけだったとかしょっちゅうですよ(笑)。
試着したらまず全体を見て自分に合っているかどうかを確認して、そのあとボタンの位置を見て、最後の最後にステッチなんかを見て、「うーん。ちょっと粗いけど、シルエットはいいし、いいか」みたいな感じなんですよ。もちろん日本で毛玉だらけの服を着るわけにはいかないけど、アイテムの選び方として、そういう全体的なものの見方はパリジェンヌを参考にしてみて欲しいですね。
日本人のコミュニケーションの中で「ちょっとここ汚れちゃってて恥ずかしい…」といった会話があると思いますが、パリではそんな自虐的な会話は全く通用しませんでした。「汚れてるから何?」という感じで、そういう感覚的がわからないみたいです。そんなパリジェンヌの考え方に触れているとパリがますます楽しくなりました。
おしゃれなイメージが強いパリジェンヌですが、その根本は「自分が着たい服を着る」というとてもシンプルなもののよう。また、なんでもかんでも気軽に買えるわけではないからこそ、お気に入りの洋服を見つける目が養われ、それを着回すアイデアが培われるのかもしれませんね。
パリジェンヌのおしゃれの秘密を知ることができたような気がします。もっと知りたい方は、米澤さんの著書も合わせてチェックしてみてください。
次回は、パリジェンヌのきれいの秘密や米澤さんがパリでの生活を経て感じた気持ちの変化についてお話いただきます。お楽しみに!
- ■書籍情報
- 書籍名:1/3の服で3倍着回す パリのおしゃれ術
- 著者:米澤よう子
- 出版社:幻冬舎
- 書籍名:パリ流おしゃれアレンジ! 自分らしく着こなす41の魔法
- 著者:米澤よう子
- 出版社:KADOKAWA
- 書籍名:体も心も暮らしも心地よくする美習慣 パリジェンヌ流シンプル食ライフ
- 著者:米澤よう子
- 出版社:文藝春秋
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