2014年にフランス・パリに移住し、夫と2匹の猫とともに暮らす井筒麻三子さん。登録者36万人超えの人気You Tubeチャンネル『GOROGORO KITCHEN』では、日々の生活や蚤の市散策、季節を感じるレシピなどが和やかに美しく綴られ、世界中のファンが更新を楽しみにしています。
まもなく移住10年目となる井筒さんに、パリ暮らしの様子や、日本にいても「フランス流」が感じられる食卓のヒントを教えていただきました。
井筒麻三子
ライター・エッセイスト。2020年より、パリでの日々の暮らしやレシピ、及びおすすめショップなどを紹介するYouTubeチャンネル『GOROGORO KITCHEN』を、フォトグラファーである夫Yasと共にスタート。2023年9月現在で、36万人の登録者を誇る人気チャンネルとなっている。初の書籍『GOROGORO KITCHEN 心満たされるパリの暮らし』(講談社)を今年4月に上梓。
「料理が好き」から始まったYouTube動画。蚤の市巡りやルームツアーにも好評の声
―『GOROGORO KITCHEN』では、旬を意識した家庭料理のコーナーも人気ですね。動画でレシピを紹介し始めた経緯について教えてください。
井筒さん:きっかけは、WEBメディア『mi-mollet(ミモレ)』で連載しているブログに寄せられたコメントでした。パリでの生活についてだけでなく、普段の料理も載せていたのですが、「レシピを教えてください」というコメントを多くいただいて。「料理教室のようにお金を頂くのは難しくても、YouTubeで紹介するならできるかも」と思い至ったんです。
でも当時、料理コンテンツだけでもたくさんの人気チャンネルがあって、いかに個性を出すかに悩みました。そこで、雑貨店でキッチンツールを買ったり、蚤の市でお皿を買ったりするなど、「キッチン関係」で動画を作っていくことにしたんです。
―人気が高いのはどのジャンルですか?
井筒さん:蚤の市巡りやフランス人のルームツアーも人気です。特にルームツアーでは、著名人のお宅訪問ではなく、インテリア好きな一般の方のお部屋を紹介しています。蚤の市のアイテムを上手に取り入れている方も多いので、蚤の市巡りに興味を持っている方にも多く視聴してもらえています。
目の前に広がる「ヴァンセンヌの森」でリフレッシュ。のんびりゆったりのパリ暮らし
―「家でゴロゴロしながら、おいしいものを食べたい」という思いで、YouTubeのタイトルをつけたそうですが、普段はどのように1日を過ごされていますか?
井筒さん:朝起きて掃除をして、お昼ご飯を作り、買い物に出かけて夕飯を作るのが日々のルーティーン。その合間に動画の制作やライターの仕事をしています。「家でゴロゴロしながら漫画を読む」という生活に憧れる引きこもり体質なので、家から一歩もでない日も。最近は動画制作に追われて、あまりゴロゴロ過ごせていませんが……(笑)。
―パリ暮らしの中でよく訪れる、お気に入りの場所はどこですか?
井筒さん:自宅から徒歩1分の場所にある「ヴァンセンヌの森」です。パリの都心部とは思えないほど豊かな自然が広がっていて、本当に気持ちの良い場所。気分転換したいときは、よくここで、お散歩したりランニングしたりしています。ピクニックしている人も多く、人目を気にせず思い思いに過ごしています。
―フランスに移住されてまもなく10年になりますが、日本で暮らしていた頃と比べて、大きな変化はありますか?
井筒さん:フランス人はせかせかしていないので、私自身もゆったりとした暮らしができるようになりました。フランスは季節ごとに長期間のバカンスを取りますし、その期間は連絡すら取れなくなってしまいます。
宅急便も丸1日来なかったりするのも珍しくありません。不便を感じることもありますが、「しょうがない」という気持ちでドーンと構えていられるようになりました。
動画で最も反響のあったレシピ「カマンベールチーズとトマトの炊き込みご飯」
今回井筒さんに紹介してもらったのは、『GOROGORO KITCHEN』初の動画であり、人気レシピでもある「カマンベールチーズとトマトの炊き込みご飯」のレシピ。材料を炊飯器に入れて炊くだけで、スペシャルなおもてなし料理に仕上がります!
■材料(4人分)
・お米…2合
・水…340ml
・ミニトマト…10個
・カマンベールチーズ…半個(約100g)
・鶏がらスープ…大さじ1
・塩…ひとつまみ
・こしょう…適量
■作り方
1.お米を洗い、水を注いで30分浸水させる。
2.ミニトマトに十字の切り込みを入れる。
3.カマンベールチーズは1cm程度のスライスにカットする。
4.浸水させたお米に、鶏がらスープの素、塩を入れて混ぜる。
5.ミニトマト、カマンベールチーズをお米の上にちらして炊く。
6.炊き上がったら、こしょうを多めにふって出来上がり。
※炊飯器の場合は、お米とミニトマト、調味料を入れてから2合の目盛りまで水を加え、その上にカマンベールチーズを散らすと、ちょうどよく炊きあがります。
―今回は、動画でも反響の高かった「カマンベールチーズとトマトの炊き込みご飯」をご紹介いただきました。このレシピはどのようにしてできあがったのでしょうか。
井筒さん:このレシピができあがったのは、コロナが始まったばかりのころ。仕事のキャンセルが続いたため、空いてしまった時間を使って、いろんなご飯を作っていたときに生まれました。
なにかのレシピでトマトを丸ごと煮込む料理を見て「トマトと一緒に他のものを煮込んでもおいしいんじゃないか」と考え、ちょうど冷蔵庫にあったカマンベールチーズを手に取ったんだと思います。
ご飯と一緒に炊き込んだところ、トマトとカマンベールから水分が出て、リゾットのような味わいに。後日Instagramやブログで紹介したら、「レシピを教えてください」というコメントが多く寄せられました。
私のレシピの中で、もっともたくさんの人が作ってくれている印象で、男性やお子さんにも喜んでもらえています。夫からも「おいしい!」と好評で、わが家では来客時のおもてなし料理としてよく登場しています。
―カマンベール以外のチーズでも代用できるでしょうか? また、アレンジ方法があれば教えてください。
井筒さん:カマンベールチーズがない場合、溶けるチーズならなんでも合うと思います。ただ、ヤギのチーズやブルーチーズは癖が強すぎるので避けた方が良いかもしれません。
また、残った炊き込みご飯を、ドリアにアレンジするのもおすすめです。耐熱容器に入れて冷凍のシーフードミックスをそのまま乗せ、溶けるチーズを振りかけてオーブンで焼けばできあがり。きのことの相性も良いので、マッシュルームを一緒に入れてもおいしいと思います。
「おかずは1品でOK!」。フランスの働く母親に見る、気負わない家庭料理
―井筒さんが作る料理は、どれも彩りよく美味しそうです。ご自身でレシピを考えるようになったのはいつ頃からですか?
井筒さん:アレンジしたり、自分でレシピを考えたりするようになったのは、フランスに来てからだと思います。料理自体は子どもの頃から好きで、高校時代は、仕事で外に出ている母親に代わって、キッチンに立つことも。「料理が楽しい」と感じ始めたのは社会人になってからです。友人を自宅に招いてごはん会をしたり、気になるレシピを見つけたりするたびに、食材を揃えて作っていました。
フランスに移住してからは、日本のレシピ通りの食材が手に入らないことがほとんど。代用品を考えることが多く、「この材料がないから別のもので置き換えてみよう」とか「この工程を省いてみよう」など、アレンジしながら作るうちに、味の良し悪しが見えてくるようになりました。
「レシピ通りに作ること」から離れたことで、料理の経験値が上がったように感じています。
―日本でも実践できる「フランス流の食卓」について、アドバイスをお願いします。
井筒さん:「気負いなく、楽に作る」ことでしょうか。「フランス料理」といえば、洗練していてかしこまっているイメージを持つ方も多いと思いますが、「フランスの家庭料理」はとってもシンプル。
ボリュームのあるサラダとパンとか、煮込み料理一品とパンなど、「おかず1品」がスタンダードです。フランスでは、子育て中の女性のほとんどが仕事をしています。ホットクックなどの料理機器を活用している家庭も多く、普段の料理に時間をかけている人は少ない印象です。
日本の家庭料理は品数も多く、手がこんでいますが、フランスのように「1品あればOK!」という気持ちにシフトできれば、今よりもっと手軽に楽しく作れるかもしれませんね。
―日々の生活も料理も、気負わずのんびり構えられれば、より一層、日常が穏やかに楽しく過ごせそうですね。すてきなお話をありがとうございました!
■書籍情報
GOROGORO KITCHEN 心満たされるパリの暮らし(講談社)
井筒麻三子著