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山内マリコさんに聞く!「パリに行けば、自分が見つかるの?」

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山内マリコさんに聞く!「パリに行けば、自分が見つかるの?」

「パリに行けば、自分が見つかるの?」そんなコピーが目を引く、山内マリコさんの著書『パリ、行ったことないの』。雑誌『フィガロジャポン』での連載に書き下ろし1篇をまとめた短篇集です。パリに憧れる女性たちが「パリへ行こう」と思い、行く決心をするところまでを描いた10人の物語。

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この物語を読んで感じたのは、「私と一緒だ」という共感と、「どうして私たちはパリに憧れるのだろう?」という疑問でした。

『パリ、行ったことないの』を執筆していた当時は、まだパリに行ったことがなかったという山内さん。行く前に描いていたパリへの憧れと、実際に行ってみて感じたパリについてお話を伺ってきました。

 

  • 山内マリコ(やまうち まりこ)
  • 1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像科卒業後、京都でのライター生活を経て上京。2008年、「女に女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。著書に『ここは退屈迎えに来て』、『アズミ・ハルコは行方不明』、『さみしくなったら名前を呼んで』(いずれも幻冬舎)がある。最新刊は『東京23話』(ポプラ社)。

 

「パリって素敵だな〜」と『フィガロジャポン』を読みながら憧れていた

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—まず、こちらは雑誌『フィガロジャポン』での連載ということですが、『パリ行ったことないの』を執筆されたきっかけは何だったのでしょうか?

山内マリコさん(以下、山):この本の最初のお話「猫いるし」に登場するあゆこは10年間『フィガロ』を購読しているという設定ですが、実は私もずっとフィガロを読んでいたんです。大学生くらいから買っていた憧れの雑誌から執筆の依頼があったので、フィガロ好きだし、パリ好きだし書くしかない!と思ってお受けしました。

私もあゆこと同じでフィガロの読者だったけど、一度もパリに行ったことがなかったんです。パリ旅行の計画もしたことがありませんでした。「パリって素敵だな〜」と憧れているだけ。でも、同じような人は結構多いんじゃないかなと思うんです。

気軽に海外旅行できる時代だけども、行かない人は本当に行かないじゃないですか。決して行けない場所ではないけど、まだまだ心理的に遠い場所であることに変わりはないんですよね。

『フィガロジャポン』で連載することになった時に、まず思ったことが「あまり手の届かないことを書いて、読者の人に疎外感を感じさせるようなものにしたくない」ということでした。もちろん、気軽に海外旅行している人も読んでいるとは思いますけど、私のようにパリに行く予定はないけれど、フィガロを読んでいる人もいると思ったので、どちらかと言うとそういう人たちが読んで「いいな」と思えるようなものにしたいと考えていました。

あと、フィガロは読者層の幅広い雑誌なので、登場人物は20歳前後から70歳くらいまで幅広い年齢の女性を主人公にして、「パリが好き」という気持ちでつながっているお話にしたいと考えていましたね。

 

遠いからこそ想像も膨らむパリ

—旅行番組や雑誌、ネットなどでパリについての情報は多く、みんなよく知っているけど、どこか遠い世界というイメージはありますよね。

山:たぶん遠いからいいんですよね!遠いからこそ想像できる余地というか、憧れさせてくれる部分もある。韓国とか台湾に何度も行ってる人って、結構いますよね。比べるとパリは、そうしょっちゅう行ける場所ではない。この物理的な距離は、永遠に埋まらない。

この本の中でも、パリを「どこか架空の都市なのだ」と表現していますが、連載している時は、本当にパリに行ったことがなかったんです。最終回を書く直前にはじめてパリに行きました。なので、前半部分を書いている時は想像のパリしかなかったんです。

本の中にも書いたんですけど、実際に行った途端にそれまで思い描いていたパリが消えてしまうというのはありますよね。なので、今、想像して思い浮かぶパリは、実際に見てきたパリに上書きされてしまいました。

—想像のパリと実際のパリが違っても「完全にパリに恋しちゃったの」と言うあゆこの言葉が印象的でした。パリの何がそんなに私たちを夢中にさせるのでしょう?

山:なんだろう?おしゃれだから?微妙に汚いんですけどね(笑)。でもやっぱり、目に見えるものすべてがおしゃれで、かっこよくて、様になってるんですよね。おばちゃんも子どももみんなおしゃれに見えちゃう。それこそ街角のカフェでお茶している女の子だけでも、絵になるんですよね。

 

ここではないどこかに憧れていた自分

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—『パリ行ったことないの』に出てくる女性はみな、現状にちょっとモヤモヤしていて、そこから一歩出るためのきっかけとして「パリ」があるのかなと感じました。

山:私、デビュー作『ここは退屈迎えに来て』のイメージもあるのか、「ここではないどこかへ憧れている人」代表と、思われがちだったりしますしね(笑)。

私自身は普段そんなに「旅行したい!」という気持ちがあまりなくて…。そんな私でさえも、やっぱりパリには憧れていたわけですよね。私たちにとって「ここではないどこか」がパリだとは言わないけれど、多くの人の心の中にはそういうものとしてパリは存在しているのかもしれませんね。

—『ここは退屈迎えに来て』で描かれている田舎と東京の対比と、日本とパリの対比はちょっと近いような印象もありますね。

山:そうなんですよ。私も書いていて、辿り着いたのはそこでした。「パリのことを書くのだから、今までと違った小説を書くわ!」って思っていたんですけど、結局辿り着いたところは同じだったんです。みんな自分の居場所を探しているけれど、結局場所じゃなくて人なんだなと。田舎だからダメ、日本だからダメということではなくて、そこでダメだった自分がダメなんだと。そういうことで言うと、田舎と東京、日本とパリというのは同じ構図になっているのかもしれませんね。

「ここで、これだけのことができた」というところまで自分を持っていけたら、場所はどこだろうと関係ないと思うんです。

 

海外旅行をしたことがないというコンプレックス

—パリだからということではなく、「憧れのパリに行った」という一歩踏み出した自分が重要だと。

山:海外旅行って頻繁に行っている人にとっては何てことないことなんでしょうけど、行ったことのない人や1回か2回誰かに連れられて行っただけの人には、ハードルが高いんですよね。

逆に海外旅行が一般的になってしまったことで、プレッシャーを感じてしまう人も少なくないと思うんです。海外旅行をしたことのない人にとってみたら、それがコンプレックスに感じてしまうような。

私が青春期を送った90年代から2000年代前半の頃は、ものすごいバックパッカーブームでした。海外で貧乏旅行をして、大変な経験をしてこそ1人前というか。ちょうどそんな時代に青春期を送ったことで、海外旅行に対して少し強迫観念めいたものを感じていました。自分探しの必須科目というか。私はそういう経験をしてこなかったので、「自分はバックパッカーやらなかったな…」という、苦い感じになってます。

—山内さんは初めての海外旅行がそのパリ旅行だったんですよね。

山:そうなんです。それまで海外に行ったことがありませんでした。私もあゆこと一緒で猫を飼っているんですよ。20歳の頃からを飼っているので、一泊二日が限界で。それもあって、旅行とは縁遠くなってしまって。パリ行きを決められたのは、一緒に住んでいる人が、猫の世話をしてくれたから。やっとタイミングが来たなという感じでした。

—連載が始まった当時から、パリへ行くことは決めていたんですか?

山:それは決めていました。でも行ったのはパリ市内だけだったので、実は最後のお話で書いているプロヴァンスは行ってないんです。プロヴァンスの食事のシーンは、家にあったハーブの本に描かれていた、現地の友達にもてなされた時の描写を参考にしています。

 

いいところばかりではない。それでもパリはパリ

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—それまで『フィガロジャポン』などを読んで、山内さんのパリ像があったとは思いますが、実際にパリに行ってどうでしたか?

山:コンパクトな街だなと思いましたね。観光都市というくらいだから人も多いのだろうと思っていたら、東京の人の多さに比べると「少ない!」と思いました。駅のホームでメトロを待っている時も、「私とおじさんだけ!?」みたいなこともありますしね。
あと、イメージと違ったというところでいうと、クリニャンクールの蚤の市が怖かったです。クリニャンクールって北の方の地域で、思ったよりも治安が悪くて(笑)。それは怖かったですね。

 

調べていないものに出会える喜びを実感

—私もこの本を読んで、いいところばかりじゃないパリの姿が垣間見られるようなところが好きだなと思っていたんです。

山:わーうれしいです!でも、改めて考えるとみんな何をしにパリに行くんでしょうね。パリ旅行をきっかけに「旅行」の意味について考えちゃいました。帰ってきてから『旅する哲学』という本を買っちゃったりして、旅ってなんだろう?って。

その答えは全然分からないんですけど、でもやっぱり「行ってみる」ということが大事だなと思います。今はパリで売っている洋服もコスメもパンも、バターやチーズですら日本で買うことができちゃうじゃないですか。だからこそモノ以外に目を向ける時間を過ごせたかなと思います。

—どこが一番楽しかったですか?

山:メジャーな観光地を巡るというよりは、パリ市内をエリアごとに歩き回って、じっくりゆっくり楽しむような過ごし方でした。

旅行って事前にここ行こうとかいろいろ調べるけれど、なにげに一番感動するのは、調べていないものに出会えた時だったりしますよね。私はモンマルトルを歩いていたら、偶然『アメリ』に出てきた八百屋に出会ったんですよ。有名なのは「カフェ デ ドゥ ムーラン」って、アメリが働いてるカフェの方だけど、そっちじゃなくて、ガイドブックもノーマークの、八百屋を偶然見つけて(笑)。あれはテンションが上がりましたね。

今って、情報を入れないでいることのほうが難しい時代だと思うんです。遊びつくすために予習したり、情報をチェックしたり。調べてから行くと、行ったところのチェックリストを埋めていくような感じになってしまうところもある。だけど情報を入れておかないと、楽しみ尽くせないようで不安。だからこそ、予期せぬものに出会えると感動しますね。

あと、春に行ったので花がすごく綺麗でした。その時期を狙って行ったわけではないのですが、花が咲き乱れていて。人もおしゃれだけど、花までおしゃれなんですよね(笑)。寄せ植えとかもちゃんと花の色や背丈が計算されていて、異様におしゃれでした。日本の行政がやってる貧相なやつとは違って(笑)。陰鬱な冬がやっと終わって、ぽかぽかしはじめた街にみんなが繰り出して、春の喜びに満ちてました。

 

なんでもおしゃれに見えてしまうパリマジック

−でも、それを日本で再現するとなかなか難しかったりするんですよね。

山:これってパリだからいいのかなっていうのはありますよね。それこそ絵に描いたようなバスクシャツ着て、ベレー帽かぶったおじいちゃんがフランスパンを抱えてあるいていて「ギャグみたい」って思うけど、その人自身は迷いがないからかっこいい。みんな堂々としていて、本当にかっこよかったです。

—またパリに行きたいと思いますか?

山:行きたいですね。逆にそれ以外の場所にあんまり興味がないので(笑)。

 

私たちがパリに憧れる理由

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なんとなくモヤモヤしてしまう現状からつれだしてくれる「ここではないどこか」でありながらも、実際に行けば決していいところばかりではない「憧れのパリ」。それでもやっぱり憧れてしまうのは、パリやパリジェンヌの「これがパリですが、何か?」という姿勢に自分たちが探している自立心やプライド、気合を感じるからなのかもしれないですね。

『パリ、行ったことないの』は「憧れのパリ」を介して、10人の女性たちが一歩踏み出していく物語です。パリに行ったことがあっても、なくても、きっと共感できるお話が詰まっています。

 

 

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