「パンづくりで毎日を豊かにしたい」という思いを込めて、パン作りのノウハウを発信する大野有里奈さん。
国内外で学んだ大野さんのパン作りの技術と知識は、「うまく膨らまない」「焼いたら硬くなってしまった」などの、「思い通りにならなかった」を解消してくれるものばかりです。
今回は、大野さんにパン作りのコツや美味しく焼き上げるためのポイントを、パン作りのベーシックな技術が詰め込まれたこっぺぱんレシピとともにご紹介します!
大野有里奈(おおの ゆりな)
幸せパン職人。調理師学校卒業後、国内大手パンメーカーに勤務。25歳でフランス・パリに渡り、バゲットコンクール入賞店で研鑽を積む。帰国後、「自宅でできるパン作り」をSNSで配信。商品開発、コンサルタント、アドバイザーとしても活動中。著書に『フランス仕込みのパン』(発行:KADOKAWA)などがある。
心を豊かにしてくれる「パン作り」の楽しさを伝えたい
―国内の大手パンメーカーでパン作りの基礎を学んだあと、25歳でフランス・パリに渡ったそうですね。フランスではどのような学びや気づきを得られましたか?
大野さん:フランスでは、天気や季節によって「どのようにレシピを調整するか」を学びました。日本人がお米を炊くときに、微妙な水加減を調整できるように、パン食文化が根付いているフランス人もその日の状況に応じて、レシピを加減することができるんです。
1年半のフランス生活では、パン作りにおいて「職人としての“感覚”が重要」だと、改めて知ることができました。
―「幸せパン職人」というキャッチコピーには、どのような思いが込められているのでしょうか?
大野さん:「パン作りで毎日を豊かにしたい」という思いを込めました。以前、フォロワーさんから「パン作りが、自信を取り戻してくれた」というコメントをもらったことがありました。他にも、「自家製パンを贈ることで、疎遠だった両親との関係が修復できた」「思春期の息子との共通の話題が持てた」と話してくださる方も。
パンを焼いて誰かに贈ると、驚きや感謝の言葉をもらうことも多く、コミュニケーションのきっかけにもなってくれます。パンは誰かの人生を明るく豊かにしてくれる存在だと感じています。
「なぜ」を知ることで、「思い通りにならない」を無くす
―大野さんの動画では、上手く仕上げるためのコツがわかりやすく解説されていますね。
大野さん:パン作りは、レシピ通りに作っても思い通りにならないことが多いです。
上手に焼き上げるために大切なのは、「なぜ」を知ること。「なぜこの温度で焼くのか」「なぜこの材料を入れるのか」などの理論を知ることで、応用できるようになっていくはずです。
パン職人になりたての頃は、私も思い通りにならないことが多かったです。もちろん今でも、「うまくいかなかった」ということもあるんです。
でも、「なぜ」の部分を知ることで、自己修正ができるようになりました。私の知識や経験を活かして、皆さんのパン作りをサポートできれば嬉しいです。
―おいしいパンを作るためのマインドについて教えてください。
大野さん:「焦らないこと」でしょうか。パンは「酵母」という生き物の力を借りて作ります。「生き物を扱っている」という気持ちで、ゆっくり時間をかけて作るとうまくいくと思います。
私も時間がなくて焦って作ると、よく失敗してしまいます(笑)。「ちょっとくらい、いいや」という気持ちが、思わぬ失敗を招くことも。余裕を持って、ていねいに焦らず作ることが大切です。
懐かしくてアレンジも豊富な「こっぺぱん」の魅力
―今回はこっぺぱんのレシピをご紹介いただきます。こっぺぱん作りにおいて、どのような質問が多く寄せられていますか?
大野さん:「焼き上がったときにかたくなってしまった」という声が多いです。私がこだわっているのは「焼く時間と温度帯」。
パンにおいては高めの温度でサクッと焼くと、生地中の水分が飛びすぎないので、しっとり柔らかく焼き上がります。特にこっぺぱんは、焼いてしばらく経つと、生地にシワが入ってくるのが「皮が薄くて柔らかく焼けた」のサイン。
温度も自宅の温度によっては、「10〜20度の誤差は大丈夫」と思って焼いてしまう方も多いのですが、できれば高めの温度で焼くと失敗しにくいですよ。
――こっぺぱんのアレンジ方法と、おすすめの具材を教えてください。
大野さん:こっぺぱんは、生地にココアパウダーや抹茶を混ぜたり、具材を包んだりとアレンジも豊富です。
例えば、小麦粉200gに20gのココアパウダーを入れて、水をレシピ分量よりも大さじ1くらい多めに足してあげるとココア風味のこっぺぱんになります。他にも抹茶を混ぜたり、バターロールを作ったりすることも可能です。
具材をサンドするなら、「カレーキャベツ」が私のお気に入り。刻んだキャベツをカレー粉とウスターソースで炒めて、ウインナーとサンドして完成!マスタードをたっぷり塗ってもおいしいですよ。
ゆで卵を滑らかに潰して、粉チーズとマヨネーズ、お酢を加えて作る「たまごサンド」もオススメ。シンプルな味わいなので、いろんな具材をサンドして味わってみてくださいね。
高温&短時間で焼くのがコツ!大野さんが教える「ふわふわこっぺぱん」レシピ
【材料】(5個分)
・強力粉:200g
・砂糖:20g
・塩:3g
・インスタントドライイースト:2.5g
・スキムミルク:20g ※脱脂粉乳でもOK
・水(27℃) :136g
・無塩バター:20g
※発酵は電子レンジの発酵機能を使用(ない方は室内の温かな場所に置いておく事で発酵を促せます)。
【作り方】
1.生地を作ります
・インスタントドライイーストを水に加え、1分間置いておきます。
・バター以外の材料をボウルに入れ、まんべんなく混ぜます。
・インスタントドライイーストを浮かばせた水をボウルに加え、粉っぽさがなくなるまで混ぜます。
・粉っぽさがなくなったら平らな場所に出し、台にこすりつけるようにして約5分間捏ねます。生地がまとまりはじめたら、常温に戻したやわらかい無塩バターを生地にのせ、なじむまで約5分間捏ねます。
・バターが生地に馴染んだら捏ねの工程は完了。ゆっくり生地を伸ばしたとき、薄い膜(グルテン膜)ができていればOK!
2.一次発酵①(60分間/目安温度:30℃)
・生地をボウルに戻し、30度の温度で60分発酵させます。
※生地が乾燥しないように濡れ布巾をかぶせましょう。
・指で少し押してみて、穴が塞がらない程度膨らんだら発酵完了のサインです。
3.ガス抜きをします
・生地を軽く叩いてガスを抜き3つ折りをします。その後、向きを90度変えて上から軽く巻くようにして丸めていきます。
4.一次発酵②(30分間/目安温度:30℃)
・生地をボウルに戻し、再度発酵させます。
※生地が乾燥しないように濡れ布巾をかぶせましょう。
5.分割と丸め
・生地に打ち粉をしてから台の上に出し、1個80gの5等分にカットします。
・カットした生地を、端を中心に寄せるようにして軽く丸めます。
6.ベンチタイム(20分)
・軽く丸めた生地に濡れ布巾をかぶせ、室内で休ませます。
7.成型
・生地に打ち粉をしてから手の平で軽く叩きガスを抜き、めん棒で横12㎝×縦10㎝の長方形に伸ばします。
・下からくるくると巻き棒状にし、とじ目をしっかりとつまんでから転がして長さ15㎝まで伸ばします。
8.二次発酵(50~60分間/目安温度:35℃)
・成型した生地をオーブンシートを敷いた天板に間隔をあけて並べ、発酵させます。
9.仕上げと焼き
・発酵前の1.5~2倍程度に膨らんだら、表面に溶き卵(分量外)を刷毛で塗ります。
※塗らなくてもOK。
・220℃に予熱をしておいたオーブンに天板を入れ、8分間焼きます。
※オーブンの機能によって、時間や温度は調整する。
・こんがりと焼き色がついたら完成!
※粗熱が取れるまで、網などの上で休ませましょう。
<翌日までふっくら感を保てるポイント>
・生地は捏ねぎると水分が飛んでしまうため、「捏ねて休ませる」を繰り返すとグルテン膜ができやすくなります。
・焼く温度は210~230℃の高温度で焼きましょう。過度な水分の蒸発を防ぎ、翌日までしっとりしたパンに仕上がります。
大野さん:パン作りは、オーブンさえあれば誰にでも作ることができます。ぜひ挑戦してみてくださいね!
―今秋にはオンラインスクールも始まりますね。
大野さん:グループでのオンラインレッスンで10〜11月頃の開講を予定しています。パン作りの理論と実演をセットにした内容で、質問の時間も設けようと思います。また、わからないことがあれば、授業後に直接メッセージのやりとりをするなど、個人のやりとりにも力を入れていこうと検討中。これまで心細く感じていたことを解消し、パン作りをもっと楽しんでもらえたら嬉しいです。
オンラインレッスンの情報は大野さんのinstagramをチェック!
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大野さんのお話は、ハードルが高いと感じていたパン作りを、「挑戦してみようかな」と身近に感じさせてくれるものでした。
捏ねて、休ませて、また捏ねる…。手間暇かけて作るパンだからこそ、完成したときの喜びはひとしお。
焼き立てのパンとともに、幸せいっぱいの時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
- ■書籍情報
- 『フランス仕込みのパン』(KADOKAWA)
- 大野有里奈 著