花街の面影を今なお残しながら、話題のショップやレストランが立ち並び、洗練された雰囲気を持つ神楽坂。“プチパリ”という側面も持つ神楽坂の街に2013年に誕生したのが、プリンと焼き菓子の専門店『ACHO』です。
近隣に暮らす方々はもちろん、全国にもファンの多いこのお店。お菓子作りに込めた想い、つい気になってしまうユニークな商品名の由来などについてお話を聞きました。
「自分たちのお菓子をもっと多くの人に届けたい」と、静岡から東京へ
東京メトロ東西線の神楽坂駅から歩いて5分。住宅街のなかを進んでいくと、青いドアが目印の『ACHO』があります。富永さんご夫婦が二人で営むこの店は、プリンとお菓子の専門店。2001年に妻・合子さんの地元である静岡県島田市にカフェとして誕生し、2013年に東京へ移店しました。
「静岡でカフェをやっていた頃から、特にプリンが人気だったんですよ。作っている私たちも、プリンに関しては『こんな味があったらいいな』と、どんどんイメージが膨らんで…。それを追求したら面白いのではと考えて、これまで以上にプリンに集中することにしました。東京へ移ることでより多くの人たちに自分たちのお菓子を食べてもらいたいという気持ちもあり、夫の地元である神楽坂にお店を構えることにしました」と合子さん。
「プリン作りに専念したい」というおふたりの想いもあり、神楽坂ではプリンの製造とのみ。店頭で発売されている焼き菓子類は、現在は工場として活用されている静岡のカフェ跡地で毎日スタッフが丹精込めて作り、神楽坂のお店まで送っています。
味や香りで配合を変える卵液で作る珠玉のプリン
富永さんが掲げているプリンやお菓子を作る上でのモットーは、新鮮で安全な素材を使うこと。手の届きやすい価格を実現できるよう、ただ上質なものにこだわりすぎるのではなく、信頼できる生産者さんが育てた手頃なものを選ぶよう心がけているそうです。
プリンの鍵となる卵は、赤玉の地養卵と白玉をフレーバーによって使い分け。定番のカスタードプリン「バニラキング」には黄身が濃くて風味の強い地養卵のみを、フレーバーの味を活かしたい時は白玉をブレンドしています。プリンの種類によって、カラメルの焦がし具合まで変えているのだとか。
「ACHOのプリンはお皿に出して完成 !容器から出して器にのせた時にギリギリ自立するくらいの柔らかさがポイントです」と話す通り、皿によそったときの美麗な姿が目を引きます。そして口に入れたときの食感をしっかり残しつつも、トロッととろける絶妙な口当たりを実現しているのです。
「どんな味のプリンがあったらいいかな、と常に考えているんです」
『ACHO』のプリンは独特のネーミングも魅力。コーヒー&キャラメルは「ローストパンダ」、紅茶は「ノーブル」など、商品名だけでは味の想像がつかないものがほとんどです。
「せっかく愛情をかけて生み出したプリンなので、一番似合う名前にしたいと思っているんです。芸能事務所の人がデビューする人に芸名をつける感覚に近いかもしれないですね(笑)」と合子さん。
桜フレーバーの季節限定プリンは、フェミニンな雰囲気の優しいピンク色と、桜の花びらが5枚だということにちなんで、『シャネル』の香水でおなじみの「ナンバーファイブ」に。クリームチーズにラズベリーを組み合わせた「モンロー」は、その濃厚な香りにグラマラスな色気を感じたため、マリリン・モンローから名前をもらったそうです。
中央は4〜5月限定の「ナンバーファイブ」。春を感じさせる桜の風味がカラメルとよく合います。右の「ハミングカルバドス」はブランデーの香りがしっかり残るオトナな一品。甘さと苦味のバランスがよく、ついスプーンが進みます。
時には、名前が先行してプリンの味を考えるという場合もあるといいます。
「私たち夫婦は大のロカビリー好き、特にエルビス・プレスリーのファンなんです。それで、『エルビス』という名前のプリンを作りたいなとアイデアを練っていたら、エルビス・プレスリーはバナナが好物だったことを知って。バナナとピーナッツを使ったプリンを『エルビス』として販売することにしました(笑)」。
ユニークな商品名が目に入ると、ついつい手に取ってみたくなるもの。しっかり説明を読んだ上で自分好みの味を探すのもいいですし、名前の響きをきっかけにいろんな味に挑戦してみるのも楽しみ方のひとつかもしれません。
みんなをハッピーにするプリン。喜んでもらうことが自分たちの幸せに。
店内には、スコーンやクッキー、パウンドケーキなどの焼き菓子も種類豊富に並んでいます。オンラインショップを通じて全国へ発送しているため、関東近郊はもちろん、関西や九州からも注文が入るのだとか。
4〜9月限定で販売中のエッグタルトは「プリンは全国発送できないけれど、遠方に住むお客さんにもどうにかしてこの味を届けたい」という想いから誕生した商品。タルトの上にプリン液を流して焼き、その後冷凍することでおいしさを保つことを叶えました。食べる前に解凍することで、プリンのようにトロッとした食感を楽しめます。
また、同じく神楽坂に店を構える書店『かもめブックス』内のカフェ『WEEKENDERS COFFEE All Right』でも、『ACHO』のプリンを味わうことができます。
「うちは小さなお店でイートインができないため、「あちらへ行けばすぐに食べられますよ」と紹介したり、逆に向こうでプリンを食べた方が、他の味も食べてみたいとお店に来てくれることもありますご近所同士でこうやって相乗効果があるのはうれしいことですね」。
プリンや焼き菓子はパッケージのデザインも可愛らしく、手土産やギフトとしても人気なのだそう。
「お客さんにおいしいと思ってもらえるのはもちろん、『これを誰かに食べさせたい』と思ってもらえるのはすごく幸せなことですね。世代を超えてみんなに愛されていて、決してハレの日のスイーツではないけれど、なぜかみんなをハッピーにする力を持っているのがプリンの魅力。お客さんから『おいしかったよ』とか『プレゼントしたら喜んでもらえたよ』と報告をもらえることが、私たちの活力になっています」。
かわいらしい店構えの先にある、ここでしか出合えないバラエティ豊かなプリン。数ヶ月ごとにラインナップが変わるので、ぜひ何度も訪れて、お気に入りの味を見つけてみてはいかがでしょう?
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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