2020年9月、日本橋にオープンしたアメリカンなフードコート『COMMISSARY(カミサリー)』。“アメリカの工場”をコンセプトにデザインされた店内は、白を基調にしたインテリアで統一され、コーヒー、ピザ、タコスなど、5つの飲食店が軒を連ねます。周辺のオフィスから訪れるお客さんだけでなく、遠方から足を運ぶ人も多く、時には行列ができる話題のスポットです。
揚げたてはフワッフワ、温め直せばもっちり食感に!お腹も心も満たしてくれるチガヤのドーナツ
『COMMISSARY』にあるのが今回訪れた『Chigaya Bakery 日本橋(チガヤ・ベーカリー)』。こちらの人気商品は、型抜きを使わず手作業で成形される素朴なドーナツ。昔懐かしい味にファンも多く、幅広い年齢層に支持されています。オーナーのちがやさんに、お店を立ち上げたきっかけやこだわり、ドーナツに込めた想いについて伺いました。
1日に300個売れるドーナツは、揚げたてを都度補充している
「記憶に残るおいしい味を再現したい」と、話してくれたちがやさんが手がける『Chigaya Bakery』の3店舗目がここ日本橋店。お昼時にはたくさんのお客さんが集まり、揚げたてのドーナツがどんどん売れていきます。
型抜きを使わず成形しているというドーナツは、手作り感あふれる素朴な形が魅力的。ひと口頬張れば、ふわふわの食感と懐かしい味に、寒さで縮こまっていた体の力がほっと抜けていくのを感じます。
ドーナツの手前にはメロンパンや、あんバターなどの日本らしいパンが並びます
「子どもの頃に、よくおばあちゃんが作ってくれたドーナツをイメージしています。ほんのりメープル風味でふかふかだったおばあちゃんのドーナツ。うちで提供するドーナツにもメープルシロップを隠し味に入れ、卵も一般的なドーナツより多めに配合。“昔ながら”の味と食感を大切にしています。お客さんからも『懐かしい味だね』と言われることが多いですね」。
ドーナツに使用する小麦粉はアメリカ産のものをブレンドすることで、ふんわりとしたボリューム感が出せるそうです。揚げたてはふわふわで口溶けがよく、時間が経つごとにしっかりした食感に変化。温め直すともっちりとした食感を楽しめます。
「お客さんのなかには、トースターでカリカリに焼いて食べるのが好きという方もいます。それぞれ好みの食べ方で楽しんでもらえたらうれしいです」とちがやさん。
手書きのコメントが添えられた商品タグからもアットホームさが感じられます
ドーナツの種類は、シュガーレイズド(プレーン)、シナモン、レモン、クリーム、ラズベリークリーム、Today’sクリーム(日替わり)の6種類をベースに、週末にはオールドファッション、クルーラーが追加され、8種類が棚に並びます。
一番人気はたっぷりのカスタードクリームが詰まった「クリームドーナツ」。てっぺんに赤いさくらんぼがちょこんと乗ったビジュアルがキュートで乙女心をくすぐります。クリームは甘さ控えめでふわっと軽く、ぺろりと完食しちゃいました。
「その場所に行くことで気分が上がる店にしたい」。NYでの経験を生かして湘南・辻堂からスタートしたベーカリー
2014年に湘南の辻堂に1店舗目のベーカリーをオープンさせ、2019年12月に蔵前店、そして今年8月に、ここ日本橋店をスタート。以前はファッションスタイリストとしてNYで活躍していたちがやさんですが、なぜベーカリーを始めようと思ったのでしょうか。
「ファッションスタイリストとして仕事をしていた当時から、『いつかパンが食べられるカフェを経営したい』と考えていました。NYと日本を行き来する生活を続けていたある日、友人と訪れた辻堂で、偶然『テナント募集』の告知を見たんです。なんだか気になり始めて…『よし、パン屋をやろう』と思い立ちました。昔から思いついたら動きたくなっちゃう性格なんです(笑)」。
ちがやさんは、日常の中の“非日常”を表現したいと、ファッションの仕事をしていたときも、舞台衣装を主に担当していました。辻堂にお店を出すときも、「日常を束の間忘れられるような、ちょっとだけ特別な時間を味わってほしい」と、内装やインテリアにもこだわったそうです。
NY時代は、ブルックリンのグリーンポイントにある『Peter Pan Donuts and Pastry Shop』という人気ドーナツショップによく通っていたそうで、そこで過ごした時間もいまに生かされていると話してくれました。
カウンターの後ろにドーナツを並べるNY風スタイルで販売
「たびたび『作り手の想いが伝わる』ような食べ物と出合うことがあります。特に言葉を交わさなくても、その物に込めたメッセージが伝わってくる…、お腹を満足させるだけでなく、心も満たしてくれる。お店に入って、出ていく頃には『なんだかいい気分になったな』という変化を与えてくれる…そういうものづくりをしたいと考えるようになりました」。
モードな世界から一転、パンの世界へ。帰国後は根津のパン屋でパン作りの基礎を学び、あちこちのパン屋を訪れては自分のお店の商品について想いを巡らせたそうです。ドーナツを主力商品にしたことについては、「ドーナツをメインにするつもりはなかったけれど、ドーナツを手に取るお客さんが多く、徐々に『ドーナツのお店』として定着していった」とのこと。
今のドーナツにたどり着いた驚きの“ドリーム”!
オープン当初を振り返ったちがやさん、ある日見た不思議な夢の話をしてくれました。
「辻堂店をオープンしたての頃、製造から販売、接客まですべて1人でやっていて、寝ずに作業をする日もありました。ドーナツの成形をしていたとき、ふっと意識が飛んじゃって。その夢のなかで、私アメリカでドーナツ屋さんをやっていたんです。ドーナツを作って売って…ふっと我に返って手元を見てみたら、これまでとはまったく違う成形方法でドーナツを作っていたんです(笑)」。
以来、その方法でドーナツを作り続けているというちがやさん。「今でも不思議。前世だったのかも」と笑いました。
「日本橋店はキッチン設備が充実しているので、セントラルキッチンとして機能させ、カフェスペースをゆったり設けたお店も考えてみたい」と今後について話してくれました。そして最後に、「いつかはホテルの経営もしたいんです。その1階部分にカフェベーカリーを作りたいですね」と語ります。
「自分の直感の赴くまま、自由に生きている」と明るく話してくれたちがやさん。NYでの生活、ファッションスタイリストとしての経験の延長線上に『Chigaya Bakery』があり、これまでのちがやさんの歩みが集約されています。さまざまな体験と想いが詰まったお店とドーナツは、人を惹きつける不思議な魅力で満ちていました。
- ■お店情報
- Chigaya Bakery 日本橋(チガヤ・ベーカリー)
- 住所:東京都中央区日本橋本町3-11-5 commisary内
- 営業時間:9:00〜19:00
- 定休日:COMMISARYに準ずる
- Instagram:@chigaya_commissary
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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