PARISmagではこれまで、ワインやお野菜を知り尽くした目利きの方々や、食べるプロである平野紗季子さん、パンラボの池田さんなど、さまざまな「食」にまつわるプロたちにお話を聞いてきました。
みなさんのお話を伺っているうちに「おいしい」だけではない「味わう」という楽しみが少しずつ分かってきたような気がしてきています。同時に、やっぱり「食べる」ということはエネルギーになり、生きるということに直結する活動なのだなと思うように。
そんな矢先、世界でもっとも多く「ミシュランガイド」の星を持ち、高い評価を得ているシェフである20世紀最高のフランス料理人ジョエル・ロブション氏の『FOOD&LIFE』という本があるということを知りました。ロブション氏は医師であるナディア氏と共にこの本を書き上げ、それをもとに「健やかに美しく」なる料理を作っているんだとか。
自らも実感。食べて健やかになるということ
ロブション氏が「食べて健やかになる料理」を作ろうと思ったきっかけは、アメリカの医学会で食事療法についての発表を聞いたこと。その後、ナディア氏と出会い、彼女の指導のもと食事療法を自ら実践するように。たとえば、ラディッシュを食べることで肝臓の疲れを取ることができたり、チキンスープを飲むようになってから冬でも風邪を引かないようになったりと、これまで感じていた不調が治ることも多く、それらの経験もメニュー作りに活かしているそうです。
そんなロブション氏が今回、日本で「食べて健やかになる」メニューとして考案したのが、前菜からメイン、デザートまですべて野菜で構成されたコース。野菜の栄養を存分に活かすために、調理法や組み合わせなども徹底して工夫されているんだとか。
今回はロブション氏が作る「食べて健やかに」なる野菜づくしのコースをご紹介します。
まずはじめに〜とろけるキノアをとじ込めてフライにスモーキーなピキオスのソースをのせて〜
最初に出てきたのはフィンガーフード。パチパチ香ばしいキノアと、中に入ったとろけるキノアがまるでコロッケのよう。
ビーツ〜リンゴと合わせ、苦味のあるサラダとグリーンマスタードのソルベと共に〜
肝臓のデトックスに効果のあるというビーツの料理。下の赤い部分がビーツとリンゴのタルタルです。ビーツもリンゴも、どちらもシャキシャキとしていますが、微妙に食感が違います。
また、味の変化もあり「あ、これはリンゴだ。これはビーツだ。」と、口の中が忙しくなり、それがとても楽しい体験。セルフィーユやバジル、シブレットなどの苦味のあるサラダとリンゴの甘みと、マスタードのソルベの酸味が混ざり、食べる瞬間ごとにいろいろな味に出会える感覚に。
トマト〜爽やかな酸味のボンボン。透明なジュレとのハーモニー〜
帽子をかぶったような盛り付けがとってもキュート。トマトの中にはトマトのガスパチョが入っており、口に入れるとプチッとガスパチョが出てきます。表面にはトマトのパウダーがまぶしてあり、盛りつけられているのもすべてトマト。マイクロトマトにトマトの種、トマトのジュレ…。「これでもか!」というくらいに、トマトトマトトマトな1皿です。
酸っぱい、甘い、苦い、青いなど、トマトのすべての味がこの料理で味わえます。と、同時に「トマトって、こんなにいろんな味がするんだ…!」という、感動も。
ちなみにトマトは抗酸化作用があり、お肌にとってもいいそう。
プティポア〜ミントの香りとオニオンのママレードをまとわせ滑らかなアーモンドのヴルーテを注いで〜
ふわふわのムース状のソースをかけていただく料理。とてもシンプルな料理ですが、味はかなり複雑。お皿の模様に見える茶色い部分は、実は玉ねぎを煮詰めたもの。これを混ぜるとワカメやコンブなどの海藻の味がしていたソースの印象がガラリと変わるんです。「わ!複雑な味!」と一瞬戸惑いつつ、グリンピースを食べると安定のグリンピース味にホッとします。そして、またソースを食べると…の繰り返しのループにはまってしまいました。
複雑な味な味なのですがとてもおいしくて、最後まで食べきった後、「おいしい」以外の言葉が見つからない自分のボキャブラリーのなさが悔しくなりました。
ホワイトアスパラガス〜2種の調理法(プランチャ・エチュベ)で仕上げ黒にんにくと味噌・卵黄のソースをからめエスプレット唐辛子とシソの葉をアクセントに〜
アスパラの穂先をグリル(プランチャ)したものと胴の部分をエチュベという方法でミルクで蒸し煮にした2種類の調理法で楽しめる1皿です。グリルのアスパラは香ばしくて歯ごたえがしっかりしており、エチュベしたものは歯ごたえもやわらかく味わいも優しい印象。どちらもアスパラの繊維が歯ごたえのアクセントになっていて、「アスパラには繊維があるんだ」ということを改めて実感させられます。また、調理法や食べる部分で食材はまったく別の表情を見せてくれるんだということも教えてくれました。
アーティーチョーク〜なめらかなピュレとローストにターメリックの香るヒヨコ豆のカプチーノソース〜
お皿が運ばれてきた瞬間から濃密なターメリックの香りが!まさに食べていて元気が出る料理です。もちろんこちらもお野菜のみの料理ですが、ボリューム満点。まるでお肉を食べているような錯覚に。
ターメリックのソースに浮いているオレンジ色のソースはピキオスというパプリカのソース。スモークの香りがしていて、少し口に入れただけでその存在感は抜群。こちらはスパイスの魅力を存分に味わえる料理でした。
コシヒカリ米〜サフランと海藻バターの風味でリゾットに。花やさいのクスクスを散らし、ピメントスとひよこ豆のジュレをあしらって〜
お花畑みたいな見た目は見ているだけで、笑顔になってしまいます。アイオリソースの味わいは舌先と舌の奥でまったく違う味わいになり、不思議でなりませんでした。
クスクスのプチプチ感とお米の歯ごたえと食感も楽しく、見た目を裏切らない楽しい1品。
メロン〜パッションフルーツと合わせ、ヨーグルトの結晶をまとったココナッツのソルベ、人参のスュックと共に〜
もちろんデザートもお野菜づくし。「メロン=フルーツ」、「人参=野菜」と思っていた既成概念が見事に打ち砕かれます。「あれ?人参って野菜だっけ?」と思わず思ってしまうほど。
「食べること」で「生きている」を感じる
どの料理も見た目は華やかですが、お野菜の味はとてもシンプルでお野菜自体の味を存分に楽しめるものばかり。ソースもそれを引きたてます。「あ、トマトってこういう味がするんだ」「メロンも人参も甘いけれど、甘みが違うんだ」と、ひとつ味の発見に出会えると舌触り、歯ごたえ、食感など、あらゆる要素に神経が研ぎ澄まされていく感覚はとても新鮮な体験に。同時にその発見や体験を通して、自分の舌の感覚や噛む時の動きなどがリアルになり、それこそ「食べる」ということを通して「生きている」ことを実感できる時間となりました。
「体にいいもの」というと、どうしても味気ないものだったり、何かを我慢しながら食べるイメージでしたが、「体にいい」と「おいしい」や「楽しい」などポジティブな気持ちは両立できるのだと。そして、ポジティブな感動で満たされる時間は生きていることを心底実感する時間でもあるんだと。
「健やかに美しく」なる料理は、体にいいから食べる料理ではなく、「食べることを本気で楽しみたいから、健康でいたい」そう思える料理なのかもしれません。これからもPARISmagでは「食べること」について考えていけたらなと思っています。
- ■ コース概要
- 期間限定“野菜づくし”ディナーコース
- 日程:2015年6月27日(土)〜2015年9月30日(水)
- 時間:ディナー時間帯 18:00〜21:30(L.O)
- 場所:『ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション』(1階)
- 料金:お一人様 18,000円
- 料理:前菜からデザートまで、野菜で構成したコース
- ※ 価格は全て税込、サービス料別となり、お飲み物は含まれません。
- ※ ご予約:お問い合せ:03-5424-1338(受付時間:10:00〜22:00)
- ※ 男性のお客様には、ジャケットの着用をおすすめしております。
- ※ 予告なく内容が変更となる場合がございます。予めご了承ください。
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