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    ワイン研究家・杉山明日香さんに聞く!フランスワインの楽しみ方-後編-

    ワイン研究家の杉山明日香さんに、前回はワインの楽しみ方についてお伺いしました。今回はその後編。ワインとお料理を自宅で楽しむための1冊『ワインがおいしいフレンチごはん』について、お話していただきました!

     

    飯島奈美さんとのワインを巡る旅がきっかけ

    −今回の『ワインがおいしいフレンチごはん』を作ったきっかけはなんだったのでしょう?

    杉山明日香さん(以下、杉山):飯島奈美さんとはここ4、5年、フランスのワイン産地を中心にヨーロッパを一緒に巡っていたんです。奈美さんも料理への溢れんばかりの好奇心がある人なので、私が「ここの産地行くけど」というと「私もこの地方の料理食べてみたいから一緒に行く」となって。パリで待ち合わせてワインの産地を周って、ふたりで現地のワインと料理を楽しむんです。

    各地の料理を食べながら、「この料理には何が入っている」とか「これはこうやったら作れるね」、「自分で作るんだったらこれを入れる」と分析していました。それを試しに彼女の家や私の家で作ってもらい、私がワインを合わせるということをやっていたんです。それが本になっちゃったという感じです。

    —ふたりの旅行がベースになっているんですね!この中でお気に入りの組み合わせはありますか?

    杉山:いろいろあるんですけど、表紙にもなっているブイヤベースはすごかったですね。本場マルセイユでは、カシーという村の白ワインを合わせるのが定番なんです。本場で食べたブイヤベースも濃いコクですごくおいしかったんですけど、奈美さんが作るとコクに和風っぽい出汁のニュアンスが加わり、滋味深くなるんですよね。見た目は一緒なんですけど、こんなに変わるんだ!ってびっくりしました。そこに王道のカシーブランを合わせると、これがまたすごく合うんです。心の底から感動したレシピですね。

    —作ってみたくなりました!まだ暑いですが、これから少しずつ秋になっていくとき、この本の中のおすすめの料理とワインのマリアージュがあったら教えてください!

    杉山:夏の終わりから秋にかけては重めの赤よりは、まだ、ロゼや白ワインなど冷たいワインの方が飲みたいかもしれないですよね。でも、季節感を楽しむのであれば、この「シュークルート」かな。シュークルートはアルザス地方の郷土料理で、塩漬けにした豚肉にキャベツのシュークルート(=ザワークラウト)を添えたものです。この奈美さんのレシピは、白菜の古漬けで作っているのですが、これが抜群においしいんですよ!少しずつ秋の気配を感じて、温かいものも食べたくなる季節にはぴったりですね。

    合わせるのは冷やしたアルザス地方のリースリングを。夏の暑さで疲れているときに、酸味と果実味のバランスがいいワインと軽めのお肉の旨味、シュークルートの酸味がちょうどいいかなと思って選んでみました。これは絶対作っていただきたい1品ですね!

     

    日本食にも合う!気になるロゼワイン

    —今、ロゼのお話がありましたが、個人的にロゼが今気になっているんです。

    杉山:それはうれしい!やっと最近日本でもロゼワインがちゃんとオンリストされるようになってきたなとは思いますが、もっとロゼを広めたいと思っているんです。

    —ロゼって甘いイメージがあったんですけど、そうでもないのかなと思ってきたんですよ。

    杉山:たしかに一時期、甘いロゼが多かった時期もありました。本来は辛口に造っているものが多いんですけどね。ロゼワインのいいところは、本当に赤ワインと白ワインの中間なんですよ。赤ワインの造り方と同様、皮と種をしばらく漬け込んで、ロゼ色になったところで皮と種を取り出して、そこからアルコール醗酵させていくという造り方が一般的。なので、白ワインほど軽くないし、赤ワインより重くないのが特徴です。

    —そうなんですね!今回の本にもいくつか登場していますよね。

    杉山:マグロのたたきサラダに合わせているのはプロヴァンスのロゼです(写真左)。夏は暑い南仏地方では、うっすらピンク色のロゼをキンキンに冷やして水代わりに飲むんです。現地では5ユーロくらいからあるので、みんなカフェのテラスで飲んだり、ピクニックで日光浴しながら飲んでいる光景をよく目にしますね。本でもサラダに合わせていますが、ニース風サラダとか軽めのお料理に合わせるのにぴったりです。なので、暑い季節に飲みたいロゼですね。夏のフランスでは、みなさんプロヴァンスのロゼを飲んでますよ。

    ちょっと秋めいてきて飲みたいのは、例えばローヌ川の南部のタヴェルという村のロゼです(写真右)。一時期フランスでは一番有名なロゼでした。人気が出すぎたことで人気が下がったという、いわくつきのロゼだったんですが、最近またそのおいしさが見直されてきています。ローヌ地方は北部がシラーで、南部はグルナッシュという黒ブドウを主体に主に赤ワインが造られていますが、この南部のグルナッシュは果実味がすごく豊かなんです。このタヴェルロゼもグルナッシュを主体に造られているもの。皮の色味も濃いのでしっかりと赤色が出て渋みもあるけど、でもやっぱり味わいはロゼです。特にお魚や白系のお肉の揚げ物にはすごく合いますね。私もこのタヴェルロゼを自宅でもよく楽しんでいます。

     

    —ロゼでもこんなに色や個性に違いがあるのは驚きでした。

    杉山:ロゼワインにもいろいろなタイプのものがあって、濃いものや薄いものいろいろあります。これはブドウ品種の違いとロゼの味わいの違いなんです。1年中楽しめるロゼという点でいうと、ブルゴーニュの一番北部にあるマルサネ村で造られているロゼですね。ここで造られているロゼはピノ・ノワール種100%で、色が軽やかできれいなルビー色なのが特徴です。プロヴァンスとタヴェルの間の味わいなので、1年中楽しめるロゼワインです。

    今回の本では、軽めのお料理ということでトマトファルシと合わせています。このトマトファルシもかなりおしいですよ!トマトのジューシーさと酸味、ピノ・ノワールの果実味と酸味がすごく合いますね。

    今、お話した3つのロゼの中では、一番酸味がしっかりしているのがこのマルサネ村のロゼです。果実味のあるワインが好きな方はタヴェル、ごくごく飲みたい方はプロヴァンスがおすすめですね。ロゼもいろいろと楽しめるんですよ。

    —ロゼワイン飲みたくなってきました。

    杉山:日本の食事にもすごく合うんですよ。お魚中心のご家庭だと白ワインの方が合いますが、最近の食卓はお肉料理も多いと思うんです。そういうときにもロゼがあれば、たいてい合うので。

    エスニック料理にも合います。エスニックは鶏肉か豚肉を使うことが多く、お野菜もたっぷり使うじゃないですか。でも、味わいはスパイシーなので、白だとスパイシーさに負けちゃうんです。ロゼは黒ブドウの皮の渋みが入っているのでちょうどいいんですよ。パリのエスニック料理屋さんにはだいたいロゼが数種類置いてあります。私も先日パリのベトナム料理屋さんでロゼを楽しみました。

     

    まずは好きな品種を探してみる

    —いつもなんとなくワインを選んでしまうので、好きなワインを見つけたいのですが…。

    杉山:自分が好きな品種をひとつ見つけてみてはいかがでしょうか?赤が好きか白が好きというのは、みなさんあると思うんです。その中でメインの品種ってある程度限られているので、先に好きな品種を見つけることで、いろいろな国の同じ品種へリンクしていくことができますよね。同じ品種の中で味の違いがわかってくると、「こういうお料理に合うかな?」というのが見えてくるようになると思います。ひとつ好きな品種があることでワインももっと楽しめるようになりますよ。

    逆にエスニック料理が大好きなら、エスニックに合うロゼをいろいろと試してみるというのもありですよね。そうしているうちに「こういうロゼが好き」というのが出てくるかも。

    ブドウ品種を軸に置くか、料理を軸に置くか、軸を決めることで楽しくなるはずです。白ワインが好きなら、白ワインでいろいろと飲み比べてみたりマリアージュを試してみたりして、その中で好きな品種が見えてきたら産地だったり国だったり変えてみて…と、どんどん深くこだわっていけますよね。ワインは好きな品種が決まるとそこを主軸にいろいろと楽しめるので、まずは好きな品種探しをおすすめします。

    —なるほど!でも、おいしいワインを見つけたとしても、そのあと同じワインを見つけることって難しくて。そういうときどうしたらいいですか?

    杉山:まったく同じ生産者のものを見つけるのは大変だと思います。フランスには古くから原産地呼称制度というのがあるので、その土地の名前を名乗るためにそれぞれブドウの品種や栽培方法、ワインの醸造方法などがすべて決められているんです。なので、産地名が同じであれば、味が大きく変わることがないんです。産地のくくりで味の幅はだいたい決まっているので。

    ところがアメリカやチリなどワインの新世界と言われるところでは、原産地呼称制度が確立されていないので、同じ土地でも生産者によって味が違うということも少なくないんです。フランスやイタリアなどヨーロッパ各地、いわばワインの旧世界と言えるところでは、同じ産地で選べばそんなに違いはないですね。

    —そうなんですね。お話を伺って、ワインとお料理をもっと楽しめそうな気がしました。

    杉山:まずは“この品種のワインが好き、この地方のワインが好き”からはじめて、そこから“この村が好き”となり、その中のいろいろな生産者のワインを飲んでみる。そうして少しずつ深めていくことができますよね。さらにお料理とのマリアージュも楽しめれば、どちらもよりおいしく味わえるので、もっと楽しくなっていきますよ。

     

    杉山さんのお話を伺って、「ワインが飲みたい!」「ワインって楽しい!」って思った方も多いのでは?好きなワインを見つけたり、お料理とのマリアージュを楽しんだり、ワインについて議論したり。ワインと仲良くできれば、毎日がもっと楽しくおいしくなりそう。杉山さんのお話を参考にぜひ、とっておきのワイン探し、とっておきのマリアージュ探しにトライしてみてくださいね。

    杉山明日香(すぎやまあすか)

    東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエール・唎酒師。

    ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」を主宰するほか、ワイン、日本酒の輸出入業を行う。また、東京・西麻布でワインバー&レストラン「Goblin」を、続いてパリでレストラン「ENYAA Saké & Champagne」をプロデュースするなど、ワインや日本酒関連の仕事を精力的に行っている。

    有名進学予備校で数学講師として長く教鞭をとっていることから、伝え、教える手腕は高い評価を得ている。著書に『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)など。

    • ■書籍情報
    • ワインがおいしいフレンチごはん
    • 著書:飯島奈美/杉山明日香
    • 発売元:リトル・モア

     

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