ワインが好きでフランスと日本を行き来する生活を20年続けているというワイン研究家の杉山明日香さん。わかりやすい解説とレクチャーで主宰するワインスクールも大人気!
そんな杉山さんと料理家の飯島奈美さんの共著『ワインがおいしいフレンチごはん』が現在発売されています。フランスを巡る中で出会った料理を自宅で作れるように飯島さん流にアレンジしたレシピと、杉山さんがチョイスしたお料理に合うワインが紹介された本です。
今回はその杉山明日香さんにお話を伺うことができました!ワインの楽しみ方、お料理とのマリアージュの仕方、そしてフランスでの生活について、たっぷりと伺ってきました。
料理と合わせるワインの楽しみ
—ワインと料理のマリアージュってよく耳にするんですけど、実際あまりよくわからなくて…。
杉山明日香さん(以下、杉山):「ワインとお料理をどう合わせたらいいかわからない」というご質問をよくされます。特に、自宅で飲むときにどうやって合わせていいかわからないという内容が多いんですよね。今回の本では、飯島奈美さんのレシピとそれに合うワインを紹介していますが、「この料理のこの部分とこのワインのここが合う」と具体的に伝えるようにしました。
ある程度コツをつかむことができれば、その先、ご自分でいろんなマリアージュを楽しめるようになっていけると思います。
−本に紹介されている公式を見て、「できるかも!」となりました。
杉山:マリアージュの公式をなるべく簡潔にすることで、合わせやすくなるかなと思ったんです。
フランスでは、ソムリエの資格を持っていようと持っていまいと、サービスマンは皆「この料理にはこのスパイスが入ってるから、この料理に合うんじゃないか」ということをサラッと言えるんですよ。ワイン好きの人たちは、料理と合わせるということを日常的にやっているんです。日本ではまだまだマリアージュというところまで行っていないかと思うので、その方法を簡潔に伝えられればと思い、3つの公式に分けました。
—なるほど。フランスではマリアージュをする習慣がしっかり根付いているんですね。杉山さんが思う、マリアージュの魅力はなんでしょう?
杉山:マリアージュってフランス語で“結婚”という意味。単体でもそれぞれおいしい“ワインとお料理”が一緒に合わさることで、相乗効果が生まれてどっちもよりおいしくなる。これが最大の魅力ですよね。お料理もよりおいしく感じられるし、ワインもグイグイすすむ。そういう合うものと合わせたときのワインのすすみ方といったら!
「逆に合わない同士だとこんなに進まないんだ!」というのを、やってみてもらえるとおもしろいと思います。私は職業柄、セオリー通りの合わせ方とは別に他の可能性を常に追求しているので、あえていろんなものと合わせてみるんです。その中で明らかにNGだという組み合わせも試しにやってみて、「やっぱり合わない!」ということを確認することもあります。魚の生臭さが出ちゃったり、ワインが強すぎて料理の味が全くしなくなってしまったり、逆に料理の方が強すぎてワインの味がしなかったり…。本当にびっくりするくらい合わないこともあるんですよ。
まさに結婚と一緒ですよね。一緒に住んでみてはじめてわかることもあるじゃないですか。でも2人でいるから楽しいこともあるという。ワインと料理もそういう関係だと思います。
初心者でもマリアージュを楽しめるコツ
産地を合わせる、“赤ワインにはお肉”、“白ワインには魚”という組み合わせは耳にしたことがあるのでは?今回は、もう2つ覚えておきたいコツを教えてもらいました。
1.色合いを合わせる
ワインとお料理を同じような色で合わせるのも、大きく外すことのないテクニックのひとつ。例えば、スモークサーモンには、ロゼワインが合うのだとか。
「サーモンはお魚の中では香りも強く、味わいもしっかりしているので、白ワインよりも黒ブドウで造られているロゼの方がより合います。これを赤ワインにしてしまうとロゼより味わいが濃く渋みも強いので、サーモンの旨味がわからなくなっしまうんですよね」。
2.香りとお料理のスパイスで合わせる
料理に入っているスパイスの香りとワインの中に入っている香りを合わせていくのもテクニックと杉山さん。
「例えばシラーという黒ブドウで有名な、フランス南部のローヌ地方北部にあるエルミタージュという村の赤ワインには、完全にシラーの特徴である黒胡椒の香りが入っています。そのエルミタージュのワインには、黒胡椒のきいたお料理は全般的に何でも合います。お料理とまでもいかなくても、黒胡椒入りのポテトチップスや黒胡椒の入ったウインナーなどを合わせると何の違和感もないんです。
香りの強い黒胡椒を合わせるということは、お料理自体の味がしっかりしているということ。味の弱いお料理にかけてしまうと黒胡椒の香りに負けてしまいますからね。要するに黒胡椒の香りがあるしっかりとしたワインには、黒胡椒をかけても負けないしっかりとした味の料理に合うということにつながるというわけです」。
その他、グレープフルーツなどの柑橘の香りがある白ワインには、その香りのする柑橘を使ったサラダを合わせたりするのも間違いないと教えてくれました。
香りに注目してマリアージュをもっと楽しむ
ワイン生産者と話をする杉山さん
—ワインでよく香りについて説明されるのですが、あまり香りがよくわからなくて…。香りを知るにはどうしたらよいのでしょうか?
杉山:もしご自分でワインを買われる場合、はじめのうちは、ワインの裏のラベルに書いてある香りを参考にするとよいと思います。ワインに入っている香りを知った上で、その香りを探していくことを繰り返していくことは非常に重要です。
ソムリエ試験を受ける人にもよく言うんですが、まずはいろいろなものの香りを嗅ぐこと。道端のお花や木、草などなんでも嗅ぐんです。八百屋さんでいろいろなフルーツの香りを嗅いだり、買ったばかりのバナナと熟れたバナナを嗅ぎ比べたり。香りを記憶していくことで、徐々に嗅ぎ分けができるようになってきます。
これを実践した方からは、食事の香りの感じ方も変わったというお話をよく聞きます。分析しようとしなくても、「このスパイス、この果実の香りが入っている」というのがわかるようになってくるみたいです。鼻がよくなるというよりは意識が変わっていくんですよね。
—そうやって体験しながら学んでいくと、楽しくなっていきそうですね。
杉山:そうなんですよ!この本の中でも香りについて結構書いていますが、まずは香りに注目しながらマリアージュを楽しんでもらうと楽しいと思います。
フランスワインをとことん飲みたい!という思いで渡仏
パリの風景
—杉山さんはフランスと日本を行き来しているそうですが、なぜフランスに行こうと思ったのですか?
杉山:フランスに行くようになって20年くらいですが、特にここ10年くらいは頻繁に行き来していて、月の半分くらいはフランスにいます。フランスを選んだ理由は、フランスワインをとことん飲みたい、産地に行ってみたい、ワインの造り手さんに会って話を聞きたいというのが最初でしたね。
20年間、フランスのワインを飲んでいますが、まだまだ発見がいっぱいあるのがおもしろいです。
こうして長年行き来していると、フランスのいいところも悪いところも見えてきて、だからこそフランスを好きだなと今は本当の意味で思えるようになりました。日本みたいに便利でもないし、不便で不器用で。だから日本のありがたみもよくわかってきます。逆にフランスはそうやって変わらないことで、伝統を守っているんだということもよくわかりました。
最近は月のうちの半分ずついるので、2つの国の同じ季節を過ごすことができています。季節の変化やイベント、旬の食材などを両方で見れるのがおもしろいですね。
ワインとお料理を楽しみにフランスへ行くなら秋がおすすめ
—フランス旅行をするなら、どの季節に行くのがおすすめですか?
フランスのワイン産地
杉山:もしブドウ畑も見たいのであれば、7月です。パリからTGVで1時間ほどでシャンパーニュ地方へ行けるのですが、7月はブドウも実ってて、葉っぱも青々としていて一番きれいな季節ですね。カラッと晴れてて、夜は涼しくて気候も過ごしやすいですね。9月の気候もいいんですが収穫の時期なので忙しいし、収穫したブドウを運搬するための渋滞も発生するんですよ。それを避けるとなると、やっぱり7月ですね。
ブドウ畑というより、食を楽しむのであれば11月ですね。キノコもおいしいし、ジビエなど冬の食材も出てくるのでおすすめです。
—フランス滞在中はワインの産地も巡るそうですが、最近、気になる産地はありますか?
杉山:スイスとの国境沿いにあるジュラ地方ですね。ジュラはもともと冷涼な気候の地方でブドウが育ちにくい場所だったんですが、温暖化の影響もあり現在はブドウが育てやすい気候になってきています。もともと地元の生産者しかいないエリアだったんですが、最近ブルゴーニュやローヌの生産者が新しく畑を作り、ジュラの土着品種を育てるようになって、おもしろくなってきているエリアです。
以前はパリのビストロでジュラのワインってあまりオンリストされていなかったんですけど、最近はワインリストに載るようになってきました。
—フランスではどういうところでワインを楽しまれるんですか?
杉山:そうですね。パリにはいろいろなタイプの料理のお店がありますが、産地に行ったときはその地方の郷土料理しかないお店も多いんです。逆にそれを目当てに、ビストロに入って、その土地の郷土料理とワインを楽しんでいます。
パリではいろんなタイプのワインが置いてあるお店もあるので、ワインメインで選ぶか、料理メインで選ぶかという感じでレストランを決めていますね。
ワイン生産者に日本酒を紹介する杉山さん
—なるほど。フランスに行ったとき、フランス人がビストロで食事の時間をとにかく楽しんでいる様子がとても印象的だったんです。
杉山:そうですね。食事もワインもおしゃべりもすべてを楽しんでいますよね。彼らは本当に議論好きなので、男性だろうと女性だろうととにかくずっと話しているんです。
でも、ワインが来ると、議論をやめてワインについての話に変わるんです。日本人って会話が盛り上がっているときに会話をストップすることがあまりないので、おいしいなと思っても心の中にとどめておいたりするじゃないですか。フランス人はそういうのが一切ない。会話が盛り上がっているときでも料理の話に変わったり、ワインの話になったり、そのあと元の話に戻ったり、そのままワインについて議論したり、とにかく何かしら議論していますね(笑)。
杉山さんのパリのお店「ENYAA Saké & Champagne」
—だから会話が途切れることなくずっと話している印象があったんですね。
杉山:ワインについても、「これ◯◯の香りが入っているよね?」「味わいは◯◯だね」とか、みなさん自分で分析するんですよ。私は、今パリで日本食のレストランを経営しているんですけど、フランス人って「僕はこの料理にはこの食材が入っていると思うけど、実際はなにが入っているの?」ってシェフに確認するんですよね。和食をはじめて食べる方でも!
私は日本酒をフランスの方に紹介するお仕事もしているのですが、そのときも「この香りはワインにはない香りだね」とか「何の香りが入っているの?」といった質問を、食の仕事をしていない普通の方でもよくされます。そういうところを見るとフランス人は本当に好奇心旺盛だなと思いますね。
—そういう好奇心旺盛で議論好きな国民性があるから、ワインに対しての知識も深まっていくのかもしれないですね。
杉山:そうだと思います。フランスがあれだけ食とワインに対して特化しているのは、フランス人の国民性がすごく関係していると思いますね。
ワインの楽しみについてたっぷりと伺うことができました。
次回は杉山明日香さんと飯島奈美さんの共著『ワインがおいしいフレンチごはん』について、そして今注目のあのワインについてお話を聞いてきました。お楽しみに!
杉山明日香(すぎやまあすか)
東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエール・唎酒師。
ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」を主宰するほか、ワイン、日本酒の輸出入業を行う。また、東京・西麻布でワインバー&レストラン「Goblin」を、続いてパリでレストラン「ENYAA Saké & Champagne」をプロデュースするなど、ワインや日本酒関連の仕事を精力的に行っている。
有名進学予備校で数学講師として長く教鞭をとっていることから、伝え、教える手腕は高い評価を得ている。著書に『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)など。
- ■書籍情報
- ワインがおいしいフレンチごはん
- 著書:飯島奈美/杉山明日香
- 発売元:リトル・モア
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