パリ在住32年。かつては東京を拠点にスタイリストとして活躍し、現在はパリを拠点にジャーナリストやコーディネーターとして活動するチャコさん。
背景も装いも、パリらしさたっぷりでノンシャラン(気取らない)な写真が話題を呼び、Instagramのフォロワー数は1万人以上。
気取らず、かっこよく、ついつい真似したくなるチャコさんのファッション。そのセンスはどのように育まれたのか、パリと日本をオンラインでつなぎ、お話を伺いました。
チャコ(鈴木ひろこ)さん
東京を拠点にスタイリストとして活動した後、30代で渡仏。現在はパリを拠点にヨーロッパ各地のファッション事情を取材・執筆。2022年にはデザインやディレクションを手掛けるライフスタイルブランド「LERET.H(ルレ・アッシュ)」をローンチ。
Instagram:https://www.instagram.com/suzukichako/
先の見える人生は味気ない。30代にして東京からパリへ
—Instagramに投稿されるコーディネートはいつも素敵ですが、チャコさんがスタイリストを目指された原点、ファッションへの目覚めについて聞かせてください。
母は着ることもお裁縫も大好きで、ときには私と妹におそろいの生地でお出かけ用のお洋服を仕立て屋さんで作ってくれるような人でした。
母とおそろいのお洋服でおめかしすると、特別感がありますよね。その特別感が、ファッションへの目覚めかもしれません。
そして私は、とてもませた子どもだったんです(笑)。
大人のかっこいい世界を覗きたくて、小学生のころから塾の帰りには必ずといっていいほど、表参道に寄り道をしていました。
—小学生で表参道に寄り道!?
もちろん、母と一緒ですし、今考えると本当に短い距離なんですけど、原宿駅から表参道と明治通りの交差点までのあいだを一往復だけ。
当時、その交差点の角に、『レオン』という喫茶店があったんです。感度の高い文化人が集っていて、その様子を窓越しに眺めるだけでも楽しくて(笑)。
そんな風にませた子どもだったから、音楽や映画に興味を持ち始めると、ヨーロッパの音楽やフランス映画に傾倒しました。
ヌーヴェルヴァーグの映画なんて、お洋服が本当に素敵ですよね。そこから自然と、ファッションの世界に引き寄せられた気がします。
—東京を拠点にスタイリストとして活躍されていたチャコさんですが、渡仏を決めたのにはどんな理由が?
30代を迎えた頃、仕事も軌道に乗って、余裕ができた反面、数年先の自分が見えてしまった気がしたんです。でも、先が見える人生って、ちょっと味気ない。
そこで少し歩みを止めて、一度自分をニュートラルな状態にしたい。そのための手段が、暮らす場所を大きく変えることでした。
でも、フランスを選んだことに、特別な理由はありませんでした。ヨーロッパに暮らす友人の話を聞きながら、あくまでも消去法で決めていった感じ。
ただ、友人の「あなたの前世はパリジェンヌ!」という言葉が1つのきっかけで、「私パリジェンヌ!?」と少し図に乗っていたのかも(笑)。
前世がパリジェンヌであるなら、フランス語も行けば上達するはず、なんて、言葉も全くできないままの渡仏でした。それが気づけば、パリに暮らして32年です。
パリジェンヌが作るのは、トレンドではなく“スタイル”
—フランスはヌーヴェルヴァーグの国。暮らし始めて、いかがでしたか?
これはパリに限ったことですが、映画に描かれたノンシャランなイメージは、本当にそのままでしたね。
1960年代のジェーン・バーキンのように、何のこだわりもなさそうに、素肌に毛玉のできたニットをまとう感じ。でも、それがかっこいい。
私もパリジェンヌのようになりたくて、蚤の市でカシミアのニットを買いました。でも、パリに来たばかりのころは言葉もできないし、仕事もないし、貯金を切り崩すような生活。そして、蚤の市でしかお洋服が買えないという状況がだんだん嫌になってきました。
しかも、私が素肌にカシミアのニットを着てみても、パリジェンヌとは何かが違う。そのことにパリで生活を続けるうちにだんだん理由が見えてきました。
—どんな理由ですか?
彼女たちのかっこよさを作り上げているのは、まとうモノではなくマインド。強く凜としたマインドがあるからこそ、着古したニットも抜群にかっこよく見えます。
そのことに気づいたときに思ったんです。パリはファッションの都。
でも、パリに暮らす彼女たちが作っているのは、トレンドではなくスタイル。スタイルを作り、貫くパリジェンヌの凜とした強さが、この街をファッションの都ならしめているんじゃないかと思います。
じっくりと育てることから生まれる、着飾らない美しさ
—そうした揺るぎないスタイルを、チャコさんのコーディネートに感じている人は多いはず。チャコさんのファッション哲学、教えてください。
哲学なんて、そんな大仰なものはないんですよ(笑)。
ただ「どうせ買うなら良いものを買って、長く着る」ということは意識しています。これは装うことが好きな母も同じ考え方でしたね。
そしてパリジェンヌやパリに暮らすマダムの多くが、共通して持っているエスプリのように思います。
けっして多くは持たず、お気に入りのお洋服や小物をじっくり育てていく。彼女たちはトレンドを追いかけるのではなく、お気に入りの経年変化を楽しみます。
日本の女性は頭の先からつま先にまで気を配って、本当に美しくしていて、帰国すると本当にびっくりしてしまいます。
でも、パリの女性はそうした美的感覚とは正反対かもしれません。ベーシックで、着飾らない美しさを自然身につけているように感じます。。
パリの女性がベーシックなスタイルを好む理由は、経年変化を楽しんでいるから。経年変化を楽しもうとすると、おのずと長く着られるアイテムを選びますよね。
私も東京にいた頃は、トレンドのお洋服をたくさん買っていました。それが今は、ベーシックなアイテムばかり。特に一昨年は、本格的にクローゼットを見直したんです。
何を手放し、何を手元に残すのか。その基準は、「これからも長く着ていたいかどうか」です。
—ベーシックを基調に、見習いたいのがチャコさんの小物使い。特にスカーフの使い方がとても素敵です。そして、スカーフ使いの匠さは、パリジェンヌの共通項な気も。
パリの人たち、確かにスカーフ使いが上手ですよね。これはきっと、パリに暮らす人の生活から育まれたものです。パリの緯度は北海道とほぼ同じなので、冬はとても寒いんです。
すると、巻物がないとやっていられない(笑)。おしゃれではなく、防寒目的だからこその無造作な雰囲気が、こなれた印象につながっている気がします。
それに日本から移住した私からすると、スカーフは髪の痛みをカバーするのにもってこいなんです。
パリの水道水は硬水なので、髪の毛がパサパサ。でも、頭にスカーフを巻いたり、リボンでアクセントを付けたりすれば、髪の痛みも目立たなくなりますから(笑)。
年齢に抗うことなく、それでも自分の“好き”を諦めない
—生活から生まれる“こなれ感”、これも1つのファッション哲学のように感じます。
そうですね、ノンシャラン(気取らない)な小物使いもパリジェンヌから学んだことです。
そしてなによりも素敵だと感じるのが、パリのマダムは年齢に抗(あらが)おうとしないこと。
自分が好きなモノを知り、身に着けていながらも、ご自身の年齢にふさわしい装いをします。
これは私自身、とても大事にしていること。
無理に年齢に抗おうとすると、ちょっと下品な雰囲気に見えてしまうことってありませんか?
そうした下品さとは無縁のパリマダムに共通していることが、「年相応の知性」。なぜなら、年齢を重ねることは、経験を重ねることだから。
彼女たちは、年齢を重ねることに前向きです。
これは男性も一緒で、パリの男性は若さ以上に、経験を重ねた知性を好みます。
夫いわく「そのほうが興味深い話を聞けるから、会話が楽しいから」なんだそうです。女性も男性も、年齢を人の深みのように捉えているんです。
—年齢に抗わず、年を重ねることに前向き。見習いたい哲学です。
でも、なにを着たっていいんです。年齢を重ねたからって、自分の好みを諦める必要はありません。私自身、60代に入ってからミニスカートを解禁しましたから(笑)。
自分の好みを諦めず、年齢にふさわしい形で装う。それがパリの女性のスタイルです。
だから、パリは年齢を重ねた人ほど、より楽しめる街。「私は若くないから」と後ろ向きになっている人は、ぜひ、パリに遊びにいらしてください。きっと、心が解放されるはずです。
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ご自身のスタイルに対し、「大した哲学はないんですよ」と話してくれたチャコさんですが、聞けば、朝起きた時に感じる「色」で、コーディネートを考えることが多いとか。
その日のお天気や予定に合わせて、頭に浮かぶ「色」。それを軸にコーディネートを考える。そうしたチャコさんのスタイルもまた、寒さに応じるためにスカーフをまとい、その無造作さがこなれた、ノンシャランなスタイルを作り出す、パリ女性の姿に重なります。
パリジェンヌやパリマダムの強く凜としたスタイルを参考に、ファッションを楽しみましょう!