昨年パリに移住したライターの鈴木桃子さんが、街中で見つけたすてきなパリジェンヌをスナップする連載の第5回。
華美ではないけれど、シンプルなスタイルの中にきらりと光るセンス――そんなすてきな人のエッセンスを探るべく、パリの街角で出会ったパリジェンヌたちにプチインタビューを敢行します!
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「言葉にできないようななにか」を効かせるパリジェンヌ流のファッション
レースのブラウスや付け襟、ストライプや花柄のランチョンマットなど、懐かしさも漂う愛らしいフランスのアンティーク生地に新しい命を吹き込むライフスタイルブランド『メゾン・フロール』。
サステイナブルな取り組みで、タイムレスなデザインの1点ものを展開する姿勢には、フランスらしいエスプリが詰まっています。
そんな注目ブランドを手がけるデザイナーのフロールさんをスナップ。フェミニンで愛らしいスタイルが、クラシックなパリの街で輝いていました。
―今日のファッションのポイントは?
ブラックのカシュクールトップスにホワイトのパッチワークマキシスカートを合わせました。トップスもボトムも私のブランド『メゾン・フロール』のものです。
フランスメイドのアンティークリネン生地をアップサイクルし、パリのアトリエで作っています。装うことでより輝いて美しく見えるアンティーク生地には、1つ1つにオリジナリティ溢れる歴史や物語があるんです。
そんな生地から生まれたアイテムたちは、フェミニンな雰囲気ながら、着心地が良くてカジュアルに楽しめるのがお気に入りです
―定番のファッションルールはありますか?
ブラックとホワイトのアイテムを組み合わせるのが大好きです。私にとって、永遠のカラーコンビネーション!
今日のコーディネートもブラックとホワイトですが、ブーツやヴィンテージのクレージュのバッグなど、小物もブラックで統一しました。
―ファッションアイコンは誰ですか?
やっぱりジェーン・バーキンですね。究極のフレンチアイコンです!
女性らしさと大胆さを兼ね揃えながら、シンプルでシックなスタイル。そのバランスがパリジェンヌらしい魅力だと思っています。
―パリジェンヌのファッションはどんなイメージですか?
私たちパリジェンヌは、とにかくシンプルなスタイルが大好きです。そして、シンプルなスタイルに、自分の個性やオリジナリティを表現できるディテールを添えるんです。
フランス人がよく言う『Je ne sais quoi(言葉にできないような特別ななにか)』ですね。
パリジェンヌの定番のコーディネートは、クラシックなホワイトアイテムやタイムレスなブラックアイテムをフォルムのきれいなハイウエストのヴィンテージデニムに合わせる感じかな。
―バッグの中には、いつもどんなものを入れていますか?
いつもバッグに入れているのは、クレジットカード、携帯電話、鍵。それにリップバーム、マスカラ、鏡、そして肌や髪など何でも使えて愛用しているニュクスのオイルといったコスメの必需品も入れています。
また、1歳の娘の持ち物を入れていることも。娘の名前にちなんだ鳩のお守りやヘアクリップなど、友人からもらった大好きなブランドのかわいいいポーチに収納しています。
よりパーソナルでタイムレスであり、サスティナブルなファッションを
―自身のブランド、メゾン・フロールを立ち上げた経緯を教えてください。
小さな頃から、ファッションやテキスタイル、ヴィンテージが大好きでした。
17年前にマルセイユからパリに移ってきて、ファッションの学位を取得したあと、ファッション業界で働きました。その後、いまとは異なるブランドを立ち上げたのですが、ファッション業界の早過ぎるリズムに疲れを感じるようになりました。
そこで、よりパーソナルでタイムレスであり、サステイナブルなものづくりができないかと考えて、メゾン・フロールを立ち上げることにしたんです。フランスメイドのアンティーク生地にはずっと興味があったのですが、そこに一歩踏み込むアップサイクルな形で新しいブランドの物語を始めることにしました。そうして2020年9月に『メゾン・フロール』をスタートさせました。
―どのようにサスティナブルなものづくりを行っているのですか?
サステナビリティは、いまやファッション業界において100%必要なもの。昔ながらの方法で進み続けることはできないと考えています。
メゾン・フロールでは新しい素材を作るのではなく、アンティークのリネン生地をアップサイクルしています。まず、リサイクルセンターで収集されたものから探し出したり、捨てようとしている人から引き取ったり、人々から忘れ去られたような生地を収集します。
そうして集めた古いテーブルクロスやシーツは刺繍を活かしながら、汚れやシミを取り除いて綺麗に手入れし、パリの自社アトリエで開発した技術やノウハウによって新しい命を吹き込んでいきます。
アトリエでは、伝統的な技術を持つ女性職人が10人ほど働いているのですが、テキスタイルの未来を考え直すためにローカルに根ざしたものづくりも必要だと考えています。
―アンティーク生地をアップサイクルするアイデアはどのように思いついたのですか?
私自身のルーツに繋がるようなものを生み出したいと、ずっと考えてきました。私の母の家系は、マルセイユでトゥルソーに刺繍を施す職人だったんです。
トゥルソーとは、ランジェリーやベッドリネン、テーブルクロスなど、昔の花嫁たちが嫁入り道具として持参したリネンのこと。
このリネン生地にイニシャルなどの刺繍を施す伝統があり、曽祖母も祖母も、熟練の職人技で美しい刺繍を生み出していました。
そんな家族が残したすばらしい手仕事を眺めているうちに、アンティークのリネン生地をアップサイクルできないかと考えたんです。
家族の伝統技術に敬意を持って育ってきたので、私なりにそれを受け継いでいきたいと思いました。
―服をデザインする時、どんなことにこだわっていますか?
服のスタイル、環境負荷を軽減するためのエコな工程設計、そしてサヴォアフェール(熟練の職人技)を融合させることを大切にしています。余剰生産や廃棄物を避けるためには、効率的に生地を使用しなければなりません。
また、アンティーク生地ならではの洗練された美しさをどのように際立たせていくかもデザインにおいて重要です。
そしてなにより、すべてのアイテムが長いあいだ大切に愛用され、フランスの伝統的なトゥルーソー(花嫁が持参するリネン)のように、次の世代に受け継がれていくものであってほしい。
そのためにも、フェミニンで着心地が良く、何年経っても愛用できるタイムレスなデザインにこだわっています。
リセットする時間も、仕事と子育てには必要
―1歳の娘さんを育てながら仕事に邁進する生活で、心がけていることはありますか?
仕事とプライベートのバランスを保つことってやっぱり難しい!
自分のブランドや会社を成長させていくのは多大な時間を要するんです。娘が生まれてからは、より効率的に仕事をして、プライベートとのバランスを取らなければならなくなりました。
娘のために、できるだけ多くの時間を確保したい。だから、仕事を終えた後は、絶対に仕事をしないということを心に決めています。
スマートフォンも開かず、たくさん散歩してリラックスする時間は仕事の効率を上げるためにも大切です。時には、本来の自分を取り戻せる、リセットできる時間をつくるため、故郷のマルセイユに帰省してのんびりするようにしています。
―日々の暮らしの中で、幸せを感じられる時間を教えてください。
朝起きて、娘の世話をしながら一緒に過ごせるひとときかな。
時間がある日には、カフェに行って、コーヒーとクロワッサンをオーダー。通り過ぎる人たちやかわいい犬を眺めながら、娘とともに“パリのテラス”タイムを楽しむんです。
これぞ、パリ暮らしの基本!もちろん、コーヒーを飲むのは私だけですよ(笑)。
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フェミニンで愛らしい見た目に、手仕事への愛を感じる情熱とエネルギッシュな姿勢。そのギャップに驚かされたフロールさん。
小さな子どもを育てながら、自身のブランドも成長させていくのはタフであることが必要とされると思いますが、そのエフォートレスな向き合い方はまさにパリジェンヌだと感じました。朝のカフェタイムを楽しむところから見習いたいですね。
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