コートがいらなくなる季節になると食べたくなるのがアイス。特にイタリア生まれのジェラートは珍しいフレーバーも多く、気になっている方も多いのではないでしょうか。
今回おいしいジェラートを求めてお邪魔したのは、独学でジェラートマイスターになった中井洋輔さんが営む『ジェラテリア シンチェリータ』です。
訪れた日は、あいにくの雨。でも、雨の日だけのお楽しみも…。
地域に根ざしたお店を目指して
『シンチェリータ』は、中央線・阿佐ヶ谷駅北口から徒歩7分、松山通り商店街の一角にあります。南口のパール商店街の賑やかさに比べて、この通りはお豆腐屋さんやこんにゃく屋さんなど昔ながらの商店が並び、落ち着いた雰囲気。
のんびりとお散歩しながら進むとお花屋さんの前に、『シンチェリータ』が見えてきました。
ドアをくぐると目の前にジェラートがいっぱい!常時、15種類以上のフレーバーがそろいます。
もともとはインテリアの仕事をしていたオーナーの中井さん。大学卒業と同時に渡伊し、2年ほどのイタリア生活で気づいたのが、「ジェラテリアがたくさんあって、イタリア人の生活の一部になっている」ということ。その当時、まだ日本にはジェラテリアがあまりなかったため、日本にジェラテリアを作ってみよう!と思い立ったのがきっかけ。
実際、イタリアでは街中に(中井さんいわくコンビニくらいだとか!)ジェラート専門店があるだけでなく、商店やバールにもジェラートコーナーがあるそうです。
イタリアでは子供からお年寄りにも愛されているジェラート。その精神は『シンチェリータ』に受け継がれていて、87歳のおじいさんが1人でジェラート楽しんだり、カギを忘れた小学生がお店で家族を待ったり…。と、地域の方たちに愛されています。
中央線沿線という土地柄、クリエイターの方も多く来店。この写真も、某有名フォトグラファーが来店のたびに撮ってくれたもの。
こちらのアイシングクッキーは、オープン6周年の記念に常連のお客様が焼いてくれたそう。
ジェラート作りは科学?
帰国後にジェラート作りを始めた中井さん。なんと、ほとんど独学で学んだとか。
「製菓学校を卒業したわけでもないですし、どこかで修行したわけでもありません。海外のレシピ本などを参考にして、ジェラート作りを始めました。小さい頃からアイスが好きだったので、イタリアでもジェラートの食べ歩きをして味の研究をしました」と中井さん。そのため中井さんのレシピ作りは、私たちがイメージする職人さんとは少し異なります。
「ジェラートは温度と材料の配合が大切なので、その数値がブレないようにレシピは全てエクセルで管理しています」と、まるで科学者のようにジェラートを開発している中井さん。
そうやって誕生したフレーバーは去年1年間でなんと170種以上!フレーバーの豊富さにも驚きました。
中井さんの実験室とも言うべきキッチン。ここからたくさんのジェラートが生まれます。
ここで、今回いただいたジェラートをご紹介!
- <左のカップ:奥から時計回り>
- 【メルノワ】はちみつと胡桃(2011年ジェラート世界大会3位受賞)。はちみつのコクのある甘さと胡桃の香ばしさがベストマッチ!
- 【いちご】栃木県・伊澤いちご園さんの完熟とちおとめ使用。いちごの酸味がほど良くさっぱりとした味わい。後味すっきりです。
- 【ピスタチオ】自家焙煎したブロンテ産ピスタチオ使用。口に入れた瞬間ピスタチオが香ります。すっきりとした甘さとなめらかな口当たりで、くせになりそうです。
- <右のカップ:奥から時計回り>
- 【ラムチョコチップ】ラム酒の入ったミルクとチョコチップを使用した、取材当日の雨の日フレーバー。ほんのりアルコールが入った大人の味わい。チョコチップの食感がアクセントになっています。
- 【シトラスミルク】愛媛県・長盛園さんの柑橘ミックス。ミルクも柑橘類もさっぱりとした口当たりでお互いが主張せず、やさしく調和しています。
- 【チャイ】有機アッサムティーとオーガニックスパイスを使用。紅茶の香りもスパイスの香りもさわやかです。
雨の日限定のお楽しみ
『シンチェリータ』では、雨の日に「雨の日フレーバー」が登場します。取材当日の雨の日フレーバーは「ラムチョコチップ」でした。中井さんの「憂鬱な雨の日、お出かけするきっかけになれば」という心遣いから生まれた雨の日フレーバーはとても好評で、雨の日フレーバー目当てのお客様もいらっしゃるとか。
「ここだけの話、雨の日フレーバーは原価率の高い食材を使用しています。これから梅雨に入ると、ほぼ毎日違うフレーバーを考えなくちゃいけないので大変なんですよね(笑)」
そう言いながらも、楽しそうに語る中井さん。
お店では毎年「こどもジェラートコンテスト」を開催。取材当日も5月のこどもの日のイベントとして、子供たちからジェラートレシピを募集中でした。自分が考えたジェラートがお店に登場するなんて、ドキドキわくわくしちゃいますね。
人との出会いが新しいフレーバーを生み出す
そもそもジェラートとはどういったアイスなのでしょうか?
「イタリアではアイスを総じてジェラートと言います。特徴についてよく聞かれるのですが、あえて言うなら『卵を使わず、乳脂肪分も少ないアイス』です。フランスではアイスをグラスと言いますが、こちらは卵と乳脂肪分がたっぷりでカスタードのような味わいです。
ちなみに、うちで使用しているミルクもクセの少ないものを選んでいるので、全体的にさっぱりしています。素材を大切にしているので、ミルクはそれを引き立てる裏方として使用していますね」。
特に『シンチェリータ』のジェラートは、繊細で素朴な味わい。それは、素材選びからこだわっているから。
「フレーバーは素材ありきで考案しています。生産者の方やお客様から『こんな素材があるよ』と教えてもらって、直接会いに行って。そのように、人づてにつながっていくことが多いんですよ。日本はいい素材が一般的に流通しない文化なので、直接生産者の方から素材を買うようにしています。去年の人気フレーバー1位だった『完熟うめ』は、生産者の方が『味見してみてください』と直接和歌山から来てくださって、どんどん生産者の方とのつながりが広がってきたように感じます」。
これからのフレーバー開発について中井さんはこう語ります。
「乾燥した果物、フルーツチップを使用した食感を楽しめるフレーバーにチャレンジしたいですね。あと、発酵系のフレーバーも開発したい。発酵食品は旨味があるので、淡白な味になりがちなジェラートと旨味を融合させてみたいです」とのこと。ジェラートに旨味が加わったらどうなるのでしょう?完成品が楽しみですね。
地域の方と生産者の方をつなぐ『シンチェリータ』のジェラート。そこには「生産者の方が作った大切な素材を地域の方へ」という優しさと、「いつ来ても新しいフレーバーを提供したい」という中井さんの熱い思いが詰まっているように感じました。
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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