シンプルで上質なライフスタイルを提案するWEBマガジン “パリマグ”
  • STYLE

    松田龍平さんに聞く、映画、モヒカン、家族のこと

    家族をテーマにした名作映画はたくさんありますが、この春、また新たな家族映画が公開されます。その名も『モヒカン故郷に帰る』。

    モヒカン頭がトレードマークの売れないバンドマン・永吉(松田龍平さん)が、妊娠した恋人・由佳(前田敦子さん)と共に7年ぶりに故郷に帰り、久しぶりに実家の家族と過ごす日々を描いた物語です。

    「家族が集まれば最高で最強!」そんなキャッチコピーを掲げた本作は、当たり前のようにそばにいるからこそ見失いがちな「家族」の存在、そして「家族がいる日々」を改めて考えさせてくれるはず。

    今回は、『モヒカン故郷に帰る』の主演を努め、モヒカンヘアにも挑戦した俳優の松田龍平さんに撮影の裏話などを伺い、映画の魅力をお伝えしたいと思います。

     

    • 松田龍平(まつだ りゅうへい)
    • 1983年、東京都出身。映画『御法度』(99/大島渚監督)で鮮烈なデビューを飾る。同作で多くの新人賞を受賞。近年の主な映画出演作に『まほろ駅前多田便利軒』、『まほろ駅前狂騒曲』(11・14/大森立嗣監督)、『舟を編む』(13/石井裕也監督)、『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』(15/松尾スズキ監督)があり、『舟を編む』では、日本アカデミー賞ほか多数の主演男優賞を総なめにする。今後の待機作に、主演映画『ぼくのおじさん』(山下敦弘監督/2016年公開予定)がある。

     

    家族と出会って変化する永吉

    —今回の映画で演じられた田村永吉は、緑色のモヒカンヘアというかなり奇抜な髪型ですが、その外見とは裏腹にとても純粋な性格をしている印象でした。松田さんはどんなイメージで永吉を演じたのでしょうか?

    松田龍平さん(以下、松田):永吉は音楽や髪型、ファッションなどに自分のスタイルやこだわりがすごくあるのに、難しく考えていなくて、根がシンプルな人間ですよね。

    でも、自分の家族と久しぶりに会って、それだけじゃダメなんだと気づくところから少しずつ変化していきますよね。病気の父親と対面したことで、心に炎が灯るというか。

    「俺は俺なりに考えているんだ」というセリフがあるんですけど、これまでのシンプルな生き方だけじゃダメだということに気づいて変わっていく。そういう部分は意識しました。

    —お父さん(柄本明さん)はもちろん、家族との関係も徐々に変化していきますし、恋人、そして妻になる由佳との距離も行きと帰りで全然違いますよね。

    松:行きの船と帰りの船の間に、父親とのいろいろなできごとがあって、それを経て永吉自身も父親になる自覚が芽生えたんでしょうね。

    永吉の家族はみんなそれぞれキャラクターがはっきりしている家族ではありますけど、芝居自体はあまり作りこむ感じでもなく、割とリアルに近い雰囲気で演じることができました。

    沖田監督は明確なイメージをしっかり持っている方でしたね。監督は、どこを修正しようということではなく「とにかくもう1回やりましょう」という感じで何回か同じシーンを演じることがあったんです。役者としては「芝居変えたほうがいいのかな」という気持ちもあったんですけど、そういうことでもなく「とにかくもう1回やりましょう」という演出だったので、それは新鮮でした。はじめて沖田監督作品に出演しましたがやりやすかったですし、何度でもやりたいなと思いましたね。田村家のみんなも島の雰囲気もとてもよく、ずっとそこにいたいなという気持ちになる撮影現場でした。

    —そうなんですね。共演者のみなさんとはどういった雰囲気だったのでしょう?

    松:みなさん空気感が素敵で、ゆったりとした時間が流れている感じでした。撮影現場に入ったら、特別なことをしているわけじゃないのにすごくしっくりきて。不思議な感覚でしたね。みんな空気感が似ているというか、家族のような居心地のよさがありました。あと、弟の千葉くんもまた違ったキャラで、弟感があって。すごくいい家族構成だったなと思います。

     

    こだわりは欲しいと思ってできるものじゃない

    —前作の『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』や朝の連続テレビ小説『あまちゃん』など、最近の出演作を拝見すると、東京から地方へ赴く役柄が多いような印象がありますね。

    松:確かにそうですね。前作の『ジヌ』や『あまちゃん』は故郷ではない地方に行く役柄でした。僕は東京の生まれなので、そのままで演じていていいというのは楽ですよね。地方に対する距離感もそのままでいいので。

    今回は、東京から故郷の広島に帰るという設定だったのでそれと違いますが。そんな中で割と方言に助けられた部分はありました。方言が徐々に出てくることで東京の色が抜けていくというか。そういう意味では、最初モヒカンもこだわってやっているんだけど、島にいるうちにだんだんどうでもよくなっちゃっていますよね。立たせずにペタッとしていたり、はじめは緑色が入っていたけど、だんだん金髪になっていったり、服も家にあるものでよくなっちゃったりして。そういうところでも、徐々に東京から広島に戻っていく感じを描けたかなとは思います。

    —そのモヒカンについて、お父さんにモヒカンを切るように言われて「いやだ」というシーンがありますよね。永吉にとってのモヒカンのように、松田さんにとって譲れないものやこだわりってありますか?

    松:それがないんですよね(笑)。それはそれで問題かなと思うんですけど、欲しいと思ってできるものでもないじゃないですか。知らず知らずにこだわっていくというものだと思うので。本当は無意識にあるのかもしれないけど、自分のことだと客観的に見られないのかもしれないですね。

     

    リアルな空気を感じながらの瀬戸内海の島での撮影

    —話は変わりますが、今回は広島に滞在して1ヶ月間撮影されたとのことですが、何かエピソードはありますか?

    松:宿泊は広島でしたけど、撮影のたびに島に渡って撮影していました。実際にその島に住まわれている方にもエキストラとして出てもらっています。沖田監督がそういう実際に住んでいる人のリアリティを撮るのが好きな方だったこともあり、リアルな空気感を感じながらの撮影だったので楽しかったですね。その島の空気感に僕自身も溶け込みたいという思いも湧いてきました。

    中学生の吹奏楽部を演じてくれた子の中にも島の子たちが参加してくれていて、永吉が無理やり指揮するシーンで結構怖がられて(笑)。モヒカンってやっぱりインパクトがあるみたいで、俺としては「そんなに悪い人じゃないよ」と優しい気持ちでいながらも、部屋を出て行った瞬間「こえー!」って声が聞こえてきて(笑)。

    でも、本番は俺のむちゃくちゃな指揮を見ながらみんな必死でやってくれました。監督としては必死感より、もうちょっと戸惑っている感じが欲しかったみたいなんですけど、硬直した顔になっちゃって。これが本当のリアルだなと(笑)。あのシーンは練習なしのぶっつけ本番だったので、どんなシーンになるかわからなかったんですけど、そのライブ感が逆に良いシーンになったなと思います。

    気持ちがあれば会いたい人には会える

    —お父さんと永吉のやり取りの中で、「今のうちにやっておきたいこと、食べたいもの、会いたい人はないか?」と聞くシーンがありますが、松田さんにはそういったものはありますか?

    松:今回の沖田さんも「いつか会いたい、お仕事をしてみたい」と思っていたら、一緒にできたんですが、気持ちがあれば、会えるのかもしれないと思っていますね。柄本さん演じる父親も会いたい人には会えましたしね(笑)。

    —あのシーン(父親の会いたい人に会わせてあげるというサプライズを永吉がしてあげるシーン)は思わず笑い声がこぼれるシーンでした(笑)。

    松:父親にとってはすごく憧れで会いたい人だったからこそ、息子である永吉はちょっと距離をとっているのかなと思って演じていました。冗談っぽくやったら意外と本気で信じてしまって、少し焦ってしまったのかなと(笑)。

     

    フィクションだからこそのあたたかさ

    —お父さんが病気になってしまうというテーマは決してハッピーなだけのお話ではないはずなのに、笑いもあり観終わったあとほっこりと幸せな気持ちになれるお話ですよね。普通に描いたら悲しくなってしまうようなラストもまさかの展開で(笑)。

    松:ラストは衝撃的ですよね(笑)。病院で結婚式を挙げたり、ラストの展開についてはなかなか現実ではありえないですよね。でも、そのどこか現実と離れたところに、あたたかさがあるんじゃないかなと。それはやっぱりフィクションだからこそできるあたたかさというか。その延長線で父親の病気や死というものがあるから、そこに生々しさがなくなって、ああいったエンディングを迎えられたのかもしれません。

    もちろんそれまでの永吉と父親、家族とのいろいろなやり取りがあったからこそですけど。夢の延長というか。

     

    プライベートではできないことを役でやってみたい

    —今年はこの後も公開作品が続々とあるようですが、今後やってみたい役柄などありますか?

    松:今回のモヒカンみたいにプライベートじゃなかなかできないことができるとおもしろいですよね。

    ちょっと抜けているというか、かっこつけているけどなんかダサい男の役が多いので、純粋にかっこつけているだけの役をやってみたいですね。

     

    誰にでもあって、いつかはやってくるお話

    7年ぶりに故郷に帰り、家族と久々のひとときを過ごす永吉と田村家、由佳の姿は、家族は離れていても何度でも家族になれるのだということ、家族との関係は徐々に変化しながらより「家族」になっていくのだということを教えてくれる気がします。

    監督の言葉に「生きていればそれでよくて、できることなら難しい話はしたくない。そんな家族の一大事を映画にしたいと思いました。誰にでもあって、いつかはやってくるお話だと思います。」という言葉がありました。

    誰にでもある物語だけど、フィクションだからこそのあたたかさがあり、リアルとフィクションが交錯しているからこそ、他人事とは思えない、そんな映画です。笑って泣けて、観たあと、きっと家族に会いたくなるはず。

     

    • ■作品情報
    • タイトル:モヒカン故郷に帰る
    • あらすじ:
    • バカヤロー! だけど、ありがとう。家族が集まれば、最高で最強!
    •  モヒカン頭がトレードマークの売れないバンドマン永吉。妊娠した恋人・由佳を連れて、故郷・戸鼻島(とびじま)へ結婚報告をするため7年ぶりに帰る。永吉たちを待ち構えていたのは、矢沢永吉をこよなく愛す頑固おやじ・治と筋金入りのカープ狂の母・春子、そしてたまたま帰省していた弟・浩二の3人。家族がそろえば、いつもど派手な親子喧嘩が始まる。
    • そんな時に親父のガンが発覚。治の願いを叶えるため、永吉はピザを取り寄せたり、父の代わりに吹奏楽を指揮したりと奮闘し、不器用にぶつかりあいながら、喧嘩したり笑い合って離れた時を埋めていく。そして治が強く望む永吉と由佳の、島を挙げての手作り結婚式が始まろうとしていた――。家族が集まれば、最高で最強! 現代版究極のホームドラマが、この春日本を熱く盛り上げる!
    • 出演:松田龍平 柄本 明 / 前田敦子 もたいまさこ 千葉雄大
    • 監督・脚本:沖田修一(『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』)
    • 主題歌:細野晴臣「MOHICAN」(Speedstar Records) 音楽:池永正二
    • 配給:東京テアトル
    • 3/26(土)広島先行公開、4/9(土)テアトル新宿ほか全国公開
    • ©2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

     

    ■一緒に読みたい記事

    海も山も時間もある。神奈川の葉山で1年暮らしてみました。

    多すぎるモノを整理することで時間を得た、私の断捨離生活

    「生きている中で出会ったすべてがアイデア」森本千絵さんの今とこれから

    PARIS mag OFFICIAL Instagram
    キャラWalker