PARISmagが気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回は、連続ドラマ初出演となる俳優の満島真之介さんです。
2020年10月1日(木)より、ひかりTV、dTVチャンネルにて順次配信、10月10日(土)より、BS12 トゥエルビにて放送がスタートする連続ドラマ『カレーの唄。』。満島さんは、両親に捨てられ世界中を放浪しひとりで生きてきた主人公・天沢陽一郎を演じています。満島さんにとって本作が連続ドラマ初主演。ドラマや役に対する思い、日々の暮らしの楽しみ方など、いろいろとお話をうかがいました。
満島真之介(みつしま しんのすけ)
1989年5月30日生まれ。沖縄県出身。2010年、舞台『おそるべき親たち』で俳優デビュー。2013年に『風俗行ったら人生変わったwww』で映画初主演。2021年には、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督 シーズン2』のほか、待機作を多数控えている。
オーディションで鈴鹿央士さんに会ったとき、描きたい物語が浮かんで見えた
©2020「カレーの唄。」製作委員会
―『カレーの唄。』は満島さん演じる天沢陽一郎と、鈴鹿央士さん演じる内気な大学生・鈴木二汰のバディムービーですね。撮影現場はどんな雰囲気でしたか?
満島さん(以下、敬称略):すごくタイトなスケジュールのなか、みんなで力を合わせてカレーと共に過ごした日々でした(笑)。少数精鋭の小さなチームだったんですけど、オリジナル作品だったというのもあり、みんなで意見を出し合い、そこから生まれてくるアイデアを素直に実践していくスタイルの現場で、とても充実感がありましたね。撮影していた頃は冬だったので、すごく寒かったんですよ。みんなで甘酒飲みながら(笑)、思ったことを伝え合ったり、スタッフみんながエキストラで出演したり、本当にファミリーのような空気感でした。それが力になり、カレーを食べているシーンも、見ている方々が「本当においしそうだなー」と思えるはずです。素晴らしい現場でした。
―陽一郎と二汰の対照的なキャラクターの対比がすごく印象的でした。おふたりは、それぞれの役に対してディスカッションなどされたのですか?
満島:誰とバディを組むか、そこがとても重要なポイントだったんです。まずは監督をはじめ制作の人たちと一緒に、二汰や一汰をキャスティングするところからスタートしました。オーディションにも参加させてもらい、芝居のキャリアよりも、“天沢陽一郎”というヴィジュアルと並んだときに、ストンとハマる人を探すことが重要でした。タイトなスケジュールの撮影だったので、最初のチーム編成がとても大切なんです。ふたりが並んだときに語らずとも物語が見えるような相棒が必要でした。
央士に会った瞬間「あぁこの子だなぁ」って思っていたら、制作の方々も「あの子だね」と満場一致。だからディスカッションするというよりは、撮影時にお互いどれだけ心を開けるかがテーマでしたし、撮影中もずっと心の距離を縮めることだけを考えていました。
―そういった関係は、これまでの映画やドラマの撮影現場ではあまりなかったのでしょうか?
満島:これまでの撮影現場では、周りはみんな先輩たちばかりだったので無意識に心を開くことができていました。同年代や年下の役者が少なくて、この年齢になるまでずっと自分が一番年下の現場が多かったんです。今回のドラマは初めての主役経験でしたし、森口さん(清川薫子役の森口瑤子さん)以外は皆年下だったので、新たなドアを開く時が来たんだな、と思いました。そして、今まで先輩たちが見せてくれた背中を思い出しながら「自分には何ができるか?」と日々模索できたのは、とても良い経験でした。
―この作品は満島さんにとって、ターニングポイントになったのですね。
満島:そう思わされる作品でした。「自分もそんな年齢になったんだな」とか「年下の子たちもこんなに大人になってきたんだな」と…。連続ドラマで主役を演じるのも初めてだったので、脇役として演じていたときにはわからなかった“真ん中にいる人の気持ち”を実感することができました。今まで見えなかった道が開けた気がしますし、この作品は僕にとっての分岐点かもしれないですね。
人間の多面性を描いた陽一郎というつかみどころのない役
―陽一郎という役は、天涯孤独ながら飄々とした性格でそのギャップが不思議でした。役作りでこだわったポイントはありますか?
満島:生涯孤独で生きてきたとか、すごい悲しみを抱えているとか、言葉だけで言っちゃうとすごく暗いイメージになりかねない。だけど「そんな主人公、誰が見たいんだろう?」と思ったし、観てくれた人が「自分の思う孤独って何?」と潜在意識に問いかけるような空気感を出したかったんです。なぜなら、本当に悲しみを背負っている人、本当の苦しみを体験した人って暗くないんです。
僕は沖縄で生まれ育ったということもあって、小さい頃から本当の悲しみを知っている人たちにたくさん会ってきました。驚くことに、皆さん朗らかなんです。そばにいたはずの人が突然いなくなったり、とてつもなく悲しい思いをしてきているのに「なぜこんなに人に優しくできるんだろう?」とずっと考えながら生きてきました。その思いがどこか自分の根底にあるんですよ。だから自分自身も、人生で辛いことがあっても「絶対暗い顔をしない」と意識してきましたし、どんなことがあっても明るく振舞っています。人生のこのタイミングで、陽一郎という役に出会ったときに運命みたいなものを感じました。
きっとキャスティングしてくれた方は、僕の明るい部分だけじゃなく、その部分も感じてくれたのではないでしょうか。
―そんな思いからあの陽一郎というキャラクターが生まれたのですね。
満島:ええ。そういう意味でも、性格だけじゃなく衣装も明るいものにしたかったので「カラフルな柄物に柄物を合わせちゃおうか」とみんなで話し合って決めました(笑)。「この人どこから来たの?あのシャツどこで手に入れたの?」と首をかしげてもらえるような、つかみどころのない役にしたかったんです。最近「考えさせられずわかりやすいのがいい」というようなものが求められやすくなっている気がしますけど、人間はいろんな側面を持って生きているし、自分自身のことも全て知っているわけではないですから、やはり謎めいた部分が必要だと思ったんです。陽一郎を通してみんなが自分のことをもう一度見つめ直すきっかけになればいいですね。
―その陽一郎が毎回やる「いただきます!」が、バリエーション豊富で驚きました(笑)。どのタイミングで、どうやって決めていたのですか?
満島:あれね〜、重要ですよね(笑)。もともと台本にはなくて、普通に「いただきます」とだけ書いてあったんです。でも初めてカレーを食べるシーンを撮影する前日まで、「ただ『いただきます』と言うのも、ちょっと物足りないなぁ。でもやりすぎても興ざめしちゃうし、伝えたいことが伝わってこないぞ。踊ってみる?カレーをバカにしているように見えたら嫌だな」とか、いろいろ考え込んじゃっていました。カレーへのリスペクトをどう表現するか。考え尽くして、諦めかけたとき、「これは儀式だ!カレーは香りだ!」と大事な部分が浮かんできたんです。
©2020「カレーの唄。」製作委員会
満島:学校の帰り道にカレーの香りが風で運ばれてきて「うわー、おなか空いたな」と感じる瞬間だったり、「あの家、今夜カレーだ!」となぜかワクワクした経験って、カレーの好き嫌いとは関係なく皆さんあるじゃないですか。ドラマを観ている人たちがカレーを感じられるようにするにはどうしたらいいか、それは陽一郎がまず香りからカレーに向き合っていくことだと思ったんです(笑)。
―カレーは香り、というのは納得です。だからあの動きになるのですね。
満島:カレーが一般的に食される国は、宗教的なものも含めて“儀式”が日常に溶け込んでいると思うんです。日本にももちろん「いただきます」と手を合わせる時間がありますよね。このドラマは海外でも配信されるので、海外の人たちにも「あっ、これは大切な時間なのね」と思ってもらえる、そこにちょっとユーモアがあってかわいらしくて「マネしてみたいなぁ」と思ってもらえたらいいなと。だからあの瞬間は、陽一郎のその時の感情や、カレーへの敬意が込められています。
―たしかに、自分もカレーを食べる前にあの動作をしたくなります(笑)。
満島:マネしたくなる気持ちと同時に、少し神聖な気持ちになるんですよ。だから撮影中、スタッフたちもみんな「はい!セレモニー撮りまーす」って言い始めました(笑)。そしてセレモニーが形になると、今度は衣装のコートがすごく生きてきたんですよ。「なんでお店入ったのにコート脱がないんだよ!」と思うはずですが、セレモニーに必要不可欠だったんだと気がつくはず(笑)。今回の作品の肝となるカレーに向き合う所作に対しても、意見を出し合えるいい空気の現場だったので、みんなの力が合わさって独自のセレモニーが完成しました。大変な撮影で時間がなくても、スタッフさんたちが奇跡的な瞬間をしっかり捉えてくれた感じがします。
自分に“いいね!”を積み重ねれば、些細なことも大きなしあわせに変わる
―ところで満島さんはカレーはお好きですか?
満島:実はその質問あんまりされないんですよ。カレーが好きそうな顔だから、好きである前提なんでしょうね(笑)。実際好きですよ。撮影ではお店は10店舗、オリジナルレシピとカレーパン、全部で14種類くらい食べました!
―そもそも食べることが好きなのですね。
満島:もちろん。食事ほどのしあわせはないです。最近は寝ること、食べることに心からしあわせを感じます。あと食事のときにおしゃべりすることも大切です。何を食べるかよりも、誰と食べるかが重要。だって1人でコース料理食べたってつまんないでしょ?でもみんなで作った焼きそばをつつきながら語るのって楽しいじゃないですか。そこで生まれる話って、生きる原動力だと思います。なので、早く以前のようにみんなでワイワイ楽しくごはんが食べられるようになるといいですね。
あと喜びながら食べるごはんは、身体が栄養をすごく吸収するはず!ダイエットのための食事制限なんかはあまりやらない方がいい、というのが僕の持論。身体が求めているのに、我慢すると心もギスギスして、人に優しくできなくなる。このドラマは胃袋も刺激するし、心も刺激するから、ぜひ見てほしいです。そのとき食べたいものは絶対食べたほうがいいですよ!!俺、めちゃくちゃ食ってますから(笑)。
―おいしいもの食べている時間はしあわせですものね。それ以外に暮らしのなかで感じる小さなしあわせはありますか?
満島:実は最近、生きているだけでとてもしあわせを感じるんです。また、そういう風に思えるようになってきたことも大きな喜びなんですよ。皆さん本当は毎日「しあわせ」って思いたいはず。だけどうまくいかないことが頭をよぎったり、嫌だなって思ったことのほうが頭に残ってしまいます。脳って不思議ですよね。
だから、小さなしあわせを感じようとする気持ちをいつも大切していますよ。例えば、朝起きた瞬間に「よし!今日も生きてる!」と自分に声をかけ、身体全体で感じる。「何それ不思議。変な人」と思われるかもしれないですけど、寝ているときや、起きた瞬間は一生1人なんです。だからこそ「今日もいい朝が来た!素晴らしい1日になるよ!」と、恥ずかしがらず思いっきり自分自身にエールを送るんです。
―自分自身にエールって素敵ですね。
満島:人への「いいね!」は気にするのに、自分自身への「いいね!」はほとんどの方がしていない気がするんです。もっともっと自分への「いいね!」をしていくことが、小さなしあわせを感じる第一歩だと思います。そしたらいろんなことに「いいね!」できます。「今日も歩ける、ありがとー!」とか、「指動く、ナーイス!」とか(笑)。
さっきの話とつながりますけど、悲しみをどん底まで経験した人たちは、日常の当たり前なことにもすごくしあわせを感じているんですよ。「今日も生きてる」「今日も目が見えるよ、ありがとう」と…。そこからスタートするとキツイなと思う日でも、今日は天気がいいから大丈夫とか、ごはんがおいしいからしあわせって前向きになれるんですよね。
―そういう風に思うようになったのには、何かきっかけがあったのですか?
満島:自分自身で「そういう風にしていこう」と決めたからですね。小さい頃から意識していましたが、やっぱり負けちゃうときもある。でも自分のことは自分でしか変えられないから、「勇気出してやってみよう」と思ったんです。100人のうち99人が「何それ、不思議」と言ってきても、1人でも「それ!それを待ってたよ!」と言ってくれる人がいたら、その人と次の関係性を築いていければいい。そういう風に、小さな勇気を毎日出していくことが大事ですね。
―意識していないと自分の弱さに負けそうですが、どうすればポジティブになれるのでしょうか?
満島:人間は急にガラっと変わることはできません。ネガティブになってしまうそれぞれの癖があると思うので、その癖に気づくことが重要。「こうやっていつも落ち込むんだ」とか「この感じ、緊張してる」とか、そう感じたそのときに、まずはそういう今の自分を認めてあげるんです。日々積み重ねて自分の癖を知っていくと、身も心も大切にしていけるようになりますよね。
―なるほど!そんな満島さんなら、日常生活もすごく楽しみながら過ごしてそうですね。
満島:特別なことは何にもしていないですけど、朝起きて植物に水あげて、そのときも植物に話しかけていますし。「元気に育ってよー。俺も今日調子いいよ!」って(笑)。1人で暮らしていても、日常を楽しめる瞬間ってたくさんあるんですよ。体が硬くなってると心も硬くなるので、肩や首をちょっと回してストレッチをしてみる。体がほぐれると自然と顔が上に向くし、上を向いたときに「うわー、空って広いなー!」と思うだけで気持ちがいい。あとは「瞑想だ!」と気合いを入れなくてもいいので、深く丁寧に呼吸してみる。心の状態が見えてきますからね。そういう小さなことからしあわせを感じられるようになると、同じように小さなしあわせを見つけるのが上手な人と巡り会えて、より幸せになる。良いことづくしな気がしますよ。
満島さん、素敵なお話どうもありがとうございました!
撮影:忠地七緒
ヘアメイク:齋藤将志
スタイリング:DAN
衣装協力:オーバーシャツ、パンツ/ MISSONI(三喜商事)
シャツ/ 08sircus(08book)
シューズ/ BALLY(BALLY GINZA)
■作品情報
- ©2020「カレーの唄。」製作委員会
- 両親に捨てられ、世界中を放浪しながら、一人で生きてきた男・天沢陽一郎(満島真之介)は、あるトラブルをきっかけに、芸術家志望の内気な大学生・鈴木二汰(鈴鹿央士)と出会う。お金がない陽一郎は、助けたことを口実に二汰にカレーをおごらせると、ポツリと家族について語りだす。清川不動産の清川薫子(森口瑤子)は、アパートの管理人だったことが縁で、陽一郎の亡き父の遺骨を預かっている。陽一郎が毎日カレーを食べ歩くのには、何か深い理由があるようで…。
- 出演:満島真之介 鈴鹿央士 出口夏希/森口瑤子
原案:KADOKAWA
脚本:山﨑佐保子
監督:瀬田なつき、島添亮、金子功
音楽:JABBERLOOP
企画・プロデュース:KADOKAWA、NTTぷらら 制作プロダクション:東映東京撮影所
制作協力:PADMA
製作著作:「カレーの唄。」製作委員会 ©2020「カレーの唄。」製作委員会
公式サイト: www.hikaritv.net/sp/currysongs/ 公式Twitter: @currysongs
【配信・放送情報】- <日本国内>
- 【配信】
- ・ひかりTV 10/1(木)スタート 毎週木曜23:00~23:30
- ※ひかりTVではHD(ハイビジョン)映像に加え、4K映像でもお楽しみ頂けます。
- ・dTVチャンネル 10/3(土)スタート 毎週土曜23:30~24:00
- ※「dTVチャンネル」は、NTTドコモの登録商標です。
- 【放送】
- ・BS12 トゥエルビ 10/10(土)スタート 毎週土曜21:30~22:00
- <海外>
- ・エリア: 中国大陸
- ・時期: 配信中
- ・配信サービス: ビリビリ https://www.bilibili.com/
- ・エリア: インドネシア、ミャンマー、シンガポール、台湾、スリランカ、モンゴル、ベトナム、タイ
- ・時期: 2020年11月~
- ・放送・配信チャンネル: WAKUWAKU JAPAN http://www.wakuwakujapan.com/
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