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    高山なおみさんインタビュー 絵本『それから それから』と今ある“日常”を見つめて

    素材の味を活かしたシンプルな料理で人気の料理家・高山なおみさん。料理家としてだけでなく文筆家としても活躍され、飾らない日々の暮らしを丁寧に綴ったエッセイもまた多くの女性の共感を呼んでいます。

    4年前に住み慣れた東京を離れ、1人神戸へ住まいを移した今、精力的に取り組んでいるのが絵本作り。今年、新たに出版された『それから それから』は、画家で絵本作家でもある中野真典さんと高山さんのお2人で作った絵本です。絵本作りのきっかけとともに『それから それから』が生まれたストーリー、さらには神戸での暮らしまで、高山さんにじっくりとお話をうかがってきました。

    お話を伺った吉祥寺の『イベントスペース&カフェ キチム』は高山さんがかつてシェフとして働いていた『諸国空想料理店kuukuu』のあった場所。8月に『それから それから』の原画展が開催されました

     

    夢から生まれた『それから それから』

    『それから それから』は高山さんと中野さんで作った5冊目の絵本。最初の絵本『どもるどだっく』以降、絵本作りが楽しく、夢中になっていったという高山さん。『それから それから』はどんなふうに生まれたのでしょうか?

    「2018年のちょうど七夕の頃、強い雨が降り続いていた日でした。中野さんに、私が数日前に見た夢の話をしたら、2日間でその夢の絵を描いてくださって。そうして生まれたのが『それから それから』です」。

    絵本をめくると、六甲山の麓にある高山さんの部屋からの景色、海や空、躍動感あふれる生き物たちの姿、そして高山さんの姿でしょうか、小さく描かれた女性の姿があります。

    「私は夢の中でラジオを聞いているんですが、女性のちょっとかすれた歌声が聞こえてきたのです。その歌詞をよく聞いてみると、女性の体の中で、命が芽生える瞬間を歌っているんだなと分かったんです。男女が体を重ね、愛し合っているときに、女の人は海になったり、鳥や魚になったり。地面をもぐって、それから山になったり、雨になったりと、自然界にも体を重ねていくという歌でした。天地創造や人類が誕生するときの神話のようにも感じました」。

    『それから それから』の帯文には、高山さんの言葉でこう綴られています。

    • 長い坂の上にある私の部屋は空に浮かんでいるようなので雨が降ると雨に近くなります。
    • ある晩夢をみました。洗濯物がはためく昼下がりラジオから流れるちょっとかすれた歌声を私は聞いていました。
    • それから それから
    • というフレーズが重なるにつれ、海に空に地に水に身を染み込ませていく女の人の歌でした。それは昔の流行歌のようでもあり見知らぬ国の伝承歌のようでもありました。
    • 『それから それから』帯文より引用

     

    まるで絵本の中に、そこに自分がいるような感覚になる中野さんの絵。長い旅をしているようでいて、一瞬の出来事にも思えます。私たちが考える“一瞬”は、見方や感じ方によって伸び縮みするのかもしれません。そして朝を迎える高山さんの言葉とともに、また今日も1日が始まる、そして日常は続いていくのだと感じました。

     

    神戸へ移住して気づいたこと

    高山さんの後ろに飾られているのは、中野さんがライブペインティングで描かれた絵

    「1人で神戸に移住すると決めたときは寂しいかなと思ったんです。でも、いざ1人暮らしを始めてみるとそうでもなくて。1人っていいなぁと思いますね。好きなことを好きなときに集中してやれるし。いつまでやっていても、誰にもとがめられない。神戸で暮らすなかで、『私はものを書きたいんだ、もっともっと本が作りたいんだ』という自分の想いにあらためて気づいたんです」。

    実は、当時高山さんは料理家をやめてもいいつもりで移住を決めたそう。

    「神戸へ移る直前、東京での仕事はやりきったと思っていました。ネタ切れだったのかも(笑)。

    ネタ切れって、とても否定的な言葉に聞こえるけれど、私は具体的な感じがしていいなと思うんです。身体の中が空っぽになってしまう。でもそれが絵本作りにつながったんじゃないかな。空っぽにならないと、新しいことって身体に入ってこないじゃないですか。私はまだまだ知らないことがあるなぁとか、まだ味わったことがないなぁとか……空っぽになったことで見えてきました」。

    「そして、神戸へ来てすぐにはわからなかったのですが、私は何かを形にするとか、見えないものを形にして現すこと、私にとってそれは本なのだけど、それが私の生きてゆく仕事なのだと。そのために神戸に来たんだと思うようになりました。

    『それから それから』は、中野さんの絵の力をかりながら、「言葉にできないこと」を目に見える形にできた。頭でこねくりまわすのではなく、自分の身体から出てくる無垢なものに、いちばん近づけた本なんじゃないかなと思うんです。『それから それから』は、いろいろなことにたとえられる物語。この絵本を手にしたその人それぞれが、ご自分のお話を作ってくださったらうれしいです」。

     

    目の前にあるものと真剣に向き合う

    絵本のことや神戸への移住のお話をたっぷりと伺いましたが、やっぱり最後に聞きたいのは毎日のご飯のこと。そして今なお、世界中が新型コロナウイルスの影響で暮らしにくくなっている日常について、高山さんの考えを少し伺うことができました。

    「料理は毎日しています。坂の上に住んでいるので買い物はちょっと大変ですが、海を見ながらゆらゆらと坂を下って週に一度はスーパーへ。それも楽しみ。

    おいしくできる調理法は、食材をよく見ていたらわかります。触ったり、匂いをかいだり。料理本の通りに作らなくちゃとか、レシピの分量のままじゃなくても、自分の感覚で向かえば良いと思います。おいしくできるコツは、自分の身体の感覚を信頼する。それに尽きるのでは」。

    そして最後に、コロナ禍で大変な毎日が続いていますが、どうやって生きていけばよいのでしょうか?という質問に高山さんはこう応えてくれました。

    「毎日一生懸命がんばってきた人が、今本当に大変な状況になっていると感じます。これまで信じてきた世界が、わけの分からない力で机を急に斜めにされて、すべて壊されてしまったというか。でも、へこたれていても、今日は今日しかない。だから、今目の前にあるもの、身近なものをよく見て、味わって、仕事して。しっかり感じて生きていくことかしら。私はそうしています」。

    高山さんの絵本も料理も高山さんの生き方そのもの。だからこそ高山さんの作り出すものに多くの人は惹かれるのかもしれません。

    『それから それから』のページを一度開けば、中野さんのダイナミックな絵と高山さんのとぎ澄まされた言葉が放つ世界観にきっと圧倒されるはず。

    絵本を手に取り、空想の世界に飛び込んで想像を膨らませてみる。そうすると、慌ただしく毎日を過ごすなかで、見えていなかったことへの気づきがあるのではないでしょうか。

     

    • ■書籍紹介
    • 書名:それから それから
    • 著者名:高山なおみ、中野真典
    • 出版社:リトルモア

     

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