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    旅の思い出も反映された果物を使ったレシピ集。細川亜衣さんの『果実』

    洗練された料理で多くのファンを持つ料理家の細川亜衣さん。今年、新たに刊行されたレシピ集『果実』には、果物やナッツを使った63種ものレシピが美しい写真とともにも紹介されています。

    そこで今回は、レシピ集『果実』についてはもちろん、いつも見る人食べる人を魅了してやまない数々のレシピがどうやって生まれるのか、細川さんにお話をうかがうことができましたのでご紹介したいと思います。

     

    食べた人が喜んでくれる料理を

    甘酸っぱくて、みずみずしい果汁にあふれた果実は、そのまま食べるのが一番おいしいと思う人が多いのではないでしょうか?実際、細川さんご自身も本の中でそのように記されていました。そこでまずは、果実をテーマにしたレシピ集を作られた理由を尋ねました。

    「果物はある意味、完璧な食べ物です。だから、そのまま食べるだけで本当においしい。でも、これまで何度か果物を使った料理をふるまってみたところ、みなさんとても喜んでくれたんです。果物と身近にある食材とを組み合わせることで、『あ、こんな食べ方もあるんだ!』と感動してくれたり。料理人として、これほどの喜びはありません。『そのままが一番おいしい果実だからこその発見』をテーマに、レシピ集を作ってみようと思いました」と細川さん。

    あさりとアーモンドのスープ(左)/ももとチーズのクランペット(右)

    食材の意外な組み合わせや思いもよらない料理法など、細川さんのレシピにはいつも驚かされます。『果実』のレシピにも、驚きと発見がたくさんありました。例えば、アーモンドと貝、パイナップルと魚といった組み合わせはとても斬新な印象も感じられます。

    「何か変わったものを作りたいと思ったことはなく、ただ果実をおいしく食べる方法を伝えられたら…と思って考えたレシピです。レシピは料理家の考えを一方的に伝える手段ですが、食べ方の提案はもちろん、誰かのためになったり、誰かの喜びにつながれば、という想いでいつもレシピを考案しています」と教えてくださいました。

     

    レシピのヒントは旅

    雲南省の市場で撮影されたお写真

    『果実』の中のレシピには和食以外にも、イタリア料理や中華料理、中東やアジアの料理など世界中の料理のエッセンスが随所に見受けられます。どんな風にしてレシピは生まれるのでしょうか?

    「食べたときの香りや味から、昔食べた何かを思い出したり、記憶の中からよみがえったりしてレシピは生まれます。そういう意味でも、ヒントは旅にあることが多いですね」。

    細川さんは若い頃にイタリアで料理の勉強をされ、今では仕事でもプライベートでも国内外を旅しながら料理を作ることが多いそうですが、旅先で見たもの、食べたもの全てが糧になっているのだそう。

    『野菜』からそら豆わんたん。台湾で食べたのをきっかけにわんたんが好きなったのだそう。

    「熊本に暮らして変わったことは、最近よく訪れる韓国や台湾がとても近く感じられるようなったことです。東京に行くのと同じような感覚というか。アジアに親近感を抱くようになりました」と話すように、最近はアジアをよく訪れ、そこでインスピレーションをもらっているのだとか。

    また、ここ数年はフランスのイル・ド・レ(フランス西部の大西洋上にある島)に娘さんとよく足を運び、バカンスを過ごしているとも教えてくれました。

    「イル・ド・レには料理人の友人が暮らしていて、滞在中は彼女の家で1日中料理をしています。私にとってこれ以上のバカンスはありません。イル・ド・レはリゾート地ですが、野菜、果物、チーズなどの加工品も含めて、食材のおいしさには目を見張るものがあります。どこにでも当たり前のようにある、例えばトマトひとつとっても、こうも味が違うのかと驚くほどです。また、訪れた土地の風土や街並み、建築などにも刺激を受けることが多いですね」。

     

    熊本での暮らし、日々の食事

    トマトと赤いベリーのスープ(左)/いんげんとピスタチオの茴香風味(右)

    2019年に東京を離れ、熊本に暮らしを移された細川さん。熊本の食材は東京のものより目にも身体にも鮮烈に飛び込んでくる、と言います。

    「以前は料理をイタリア料理から発想することが多かったのですが、熊本の素材はバリエーション豊かで、味香りともに素晴らしいので、より自由な発想で料理ができるようになりました。当たり前のことですが、採れたてのものだけを食べるので、その新鮮さから料理にも変化がありましたね」。

    豚肉のレモン塩釜焼き

    さらに素材の良さを楽しみたいから、料理法は塩でシンプルに味を決めることが多くなったとも。最近は、料理になくてはならない塩の持つパワーにあらためて惹かれている、と話してくれました。

    日々の暮らしの中では、いつも食べたいものを、ただシンプルな欲求に基づいて料理をしているとのこと。意外なことに食材の買い物はいつも決まったところでしていて、買おうと思っていたものがなければきっぱり諦めることも。

    「熊本では、その時期の旬のものしか売っていません。料理はレシピありきではなく、素材ありきですから、柔軟な気持ちでいたいなと思っています。買い物へ行かずとも、家にある粉や米、あとは庭に生えているものだけでも、いい料理は生まれますよ」と日々の料理についてもお話くださいました。

    細川さんのレシピや料理は、私たちにおいしさや感動を与えてくれるとともに、その1皿が生まれた背景を想像する楽しみも与えてくれるような気がします。

    実りの秋。旬をむかえたおいしそうな梨や柿、栗が売り場にならぶようになりました。細川さんの『果実』のレシピを参考に、果物料理を作ってみてはいかがでしょうか?

     

    細川亜衣(ほそかわ あい)

    料理家。住まいのある熊本taishojiにて料理教室や衣食住にまつわるイベントを主催。

    日本や海外の各地でも料理教室や料理会を行っている。著書に『食記帖』『スープ』『野菜』『パスタの本』など。

    HP:https://aihosokawa.amebaownd.com/

    Instagram:@hosokawaai

     

    • ■書籍について
    • 書名:果実 果実とナッツの料理63皿
    • 著書:細川亜衣
    • 出版元:リトルモア

     

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