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    本上まなみさんの日々の暮らしと小さなしあわせ

    PARISmagが気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回は1月25日に公開される映画『そらのレストラン』に出演される本上まなみさんです。

    『そらのレストラン』は、北海道せたな町の“海が見える牧場”を舞台にチーズ作りや食に向き合う人々を描いた物語。北海道での撮影の思い出、そして本上さんの食の楽しみや小さなしあわせについてもお話を伺ってきました。

    本上まなみ(ほんじょうまなみ)

    1975年5月1日生まれ。東京都出身、大阪育ち。女優として映画・ドラマ・CM に多数出演するほか、情報番組のコメンテーターやナレーター、 声優などその活躍は多岐にわたる。 また文筆家としてエッセイや絵本の翻訳など多くの作品を刊行。日本文藝家協会の「ベスト・エッセイ2008」に選ばれるなど、高い評価を得ている。主な映画出演作に、『まほろ駅前多田便利軒』(11)、『ツナグ』(12)、『バンクーバーの朝日』(14)、『もうひとつの京都』(15)、『SONG OF THE SEA』(主人公日本語吹き替えキャスト)、『大芸大に進路を取れ』(16)、『二度目の夏、 二度と会えない君』(17)がある。

    ファンタジックで夢がある実話『そらのレストラン』

    ―まず、今回の映画『そらのレストラン』にご出演が決まったときと、脚本を読まれたときの感想を教えてください。 

    本上まなみさん(以下、本上):私はもともと北海道が大好きで、年に1回くらいのペースで旅行しているのでとてもうれしかったです。この作品は大泉洋さんが主演の北海道3部作*の3作目で、これまでの作品も観ていて大好きな世界観だったのでお話をいただき光栄でした。

    脚本を読んだときは、「なんてファンタジックで夢のあるお話なのだろう」と思いました。それがほとんど実話だったというのを聞いて「こんなことがこの世の中で本当にあるの!?」と本当に驚きましたね。

    *北海道の雄大な大地で生活する人と、その地の豊かな食材をモチーフに「生き方」を描いてきた北海道映画シリーズの、『しあわせのパン』、『ぶどうのなみだ』に続く第3弾。

    ―映画では食事のシーンが魅力的で、毎朝家族3人で「いただきます」をして、焼き立てのパンに亘理(わたる)が作ったチーズをのせて食べるシーンが特に印象的でした。

    本上:実在するお家をお借りして撮影したのですが、そこのお家では下に薪が入っていて、上段でパンを焼く2段構造になった薪ストーブを使ってパンを焼くんです。実際に住まれている方たちも普段から使っている薪ストーブなのですが、薪でパンを焼くとこんなに香りがいいんだ!と驚きました。「薪ストーブ欲しい!」と心から思いましたね。

    チーズも本当においしくて、ミルクの甘い香りがするんです。どれだけ大切に育てられてきた牛のお乳なのかが良くわかる。牛乳自体も甘くて、干し草の香りがふわっと広がります。体に優しくて、身も心も温まって、癒される。「これは栄養になるな」と、心から思える、そんな味がする牛乳です。撮影は昨年の秋で、北海道が夏を終えて秋から冬に向かって行く季節でした。撮影の合間に冷えた体をホットミルクで温めながら撮影しましたが、とても良い思い出になりました。何よりのご馳走でしたね。

    今回の映画は地元の『やまの会*』さんが全面支援をしてくださっています。撮影にも参加してくださったり、懇親会を開いてくださったり、お話する機会がたくさんありました。こと絵さんのモデルになった方ともお喋りすることができ、みんな本当に家族のように迎え入れてくれました。その方々が毎日丁寧に作ってくださっている食材を一番おいしいカタチで、映像に残せた映画になったと思います。おいしそうなお料理がたくさん出てきますが、実際に本当においしくて(笑)。みんながそんな幸せな気持ちで料理をいただきながら撮影をしていましたね。

    *北海道せたなで循環農業に取り組む自然派農民ユニット。

    そうだったのですね。つい、忙しいとお料理をちゃんと味わうこともできなかったりしてしまいますが、おいしく味わって食べたいなと思いました。

    本上:そうですよね。わが家には6年生の女の子と幼稚園の年長の男の子がいるので、毎日が本当にバタバタで…朝食は立って食べている方が多いかもしれないという感じです(笑)。朝の7〜8時の一番忙しい時間を乗り越えて、やっと「ああ、コーヒーでも飲もう」みたいな毎日を送っていますが、なるべく「おいしい」と思える気持ちや時間の余裕が持てたらいいなって思っています。

    −毎朝家族3人で「いただきます」をすること絵さん家族のように、ご家族で食事をするときに意識していることはありますか? 

    本上:夕食は家族みんなで食卓を囲むようにしていて、この映画の方たちみたいに、ゆっくりみんなで顔を向き合わせて食べることを大事にしています。

    今は京都に住んでいるのですが、京都は割と近くに農家さんがいるんです。日本海も近いので、お肉もお魚も新鮮なものが手に入るんですよね。なので、なるべく地元の食材を使うようにして、調理はシンプルに、素材の味を子どもにもわかってもらえたらいいなと思って作っています。

    普段の朝は、とてもこと絵さんみたいなことはできていないんですが、週末の朝は温野菜を作ってみんなで食べています。蒸籠にその時々の野菜を入れて、蒸して、マヨネーズやごまドレッシング、バルサミコとか、それぞれの好きな味付けで熱々蒸したての野菜をいただく。それが週末の楽しみです。

     

    命をいただくということの意味

    ―今回の映画のテーマはまさに「食べること」「生きること」だと思うんですが、この作品を通して、食に関して学ばれたことやご自身の身になったことはありますか? 

    本上:岡田将生さん演じる神戸(かんべ)君が自分で育てた羊を初めて食べて、胸がいっぱいになり涙をこぼすというシーンがあるんですが、そのシーンはとても印象的でした。

    私はフライフィッシングが好きで北海道へ遊びに行くようになったこともあり、普段から魚は触っていたんですが、大きい動物となると存在感が全然違うんです。牧場で牛たちと撮影をしていると顔や表情、体格も違っていて、どの子もかわいくて。牧場の方がそれぞれの名前や年齢を教えてくださるんですよ。

    大泉洋さんが演じた亘理と私の役こと絵は、実際にお世話になった村上牧場の村上さんご夫妻がモデルになっているのですが、オスの牛が生まれると何年か育てて、そのあとは命をいただくのだそうです。映画の撮影が終わった後に、村上さんからその牛肉を送っていただきました。

    濃いミルクが採れる牛ということで、普段私たちがお店で買うような牛肉とちょっと違う味なんです。ミルクの香りがあるお肉で、油も白い部分が黄色っぽくて、そういう特別な機会を経験させてもらって、より一層命に対して自分がいかに遠く離れた場所で暮らしてきたかということに思いが至っていきました。村上さんの仕事に対する思いがこもっている特別な贈り物。今回の作品を通じて体験したことのなかで最も印象に残っています。

    ―なるほど。亘理はチーズ作りに奮闘しており、チーズ作りも難しさも描かれていますよね。

    本上:チーズ作りに関しても同じですね。そのときに取れたお乳の状況とその後の気候や風土、熟成期間だったり、製法の違いでひとつの食材ができあがっていく。人間がコントロールできる部分とできない部分があるんだって感じました。なんとなく「チーズっておいしいな」と思って食べているだけではわからなかったことを学ぶことができましたし、改めて食事というもの、食べ物の大切さ、作ってくださっている人の存在の大きさを感じましたね。

     

    おいしいものと出会うために積極的にコミュニケーション

    ―普段は京都で生活され、お仕事でもいろいろな場所へも行かれている本上さんですが、その場所での食との出会い方ってありますか?

    本上:基本的に食いしん坊なので、「あれ?」と思ったものには積極的に近づいて行くタイプです。京都に住み始めて最初に顔なじみになったお店がお豆腐屋さんだったのですが、朝起きて窓を開けると薪の香りがしたんです。「こんな町の真ん中で薪の香り?」と思ったらお豆腐屋さんがすぐ側にあったんです。さっそく行って中を覗くと、大きいカマドがあって、それを薪で炊いているんです。「薪で炊いているお豆腐屋さんってもううちぐらいしかないんだよ。カマド、珍しいでしょう。京都では『おくどさん』って呼ぶんだけど」と、お店の方がおっしゃっていて。今は電気やガスで作ることが多いようなんですが、薪で加熱すると大豆の甘みが強く出るそうで、実際食べると豆乳がすごく甘くておいしいんです。

    受け継いだこだわりや作り方について話を聞くとますますおもしろくて…。そういうことをあちこちでしています。1度にあれこれ聞けないので、様子を見ながらちょっとずつ通って仲良くなって質問しています。

    ―お店の人とコミュニケーションをとって、いろいろ聞かれるんですね!

    本上:あとは、家の近くにトラックで野菜を売りにくるお兄さんがいるんですけど、たまたま通りかかったときに野菜を買って、「どこから来られたんですか?」って話しかけました。その方は、上賀茂から来ている農家さんで、いつも頃合いを見計らって買いに行っていたんですが、あるとき「もしよかったらうちの家にも寄ってもらえたりしますか?」ってお願いして、それからは来てもらえるようになって!お隣や向かいの奥さんにも情報を共有してみんなでおいしいお野菜を楽しんでいます。

     

    五感を大切に

    ―今回の映画では、亘理やその仲間たちのそれぞれが大切にしている信念や想いが、描かれていたかと思います。本上さんが暮らしの中で大切にしていることがあったら教えてください。

    本上:一番思うのは自分の五感を大事にしたいということです。例えば、魚を獲ったり、野菜を作ったり、モノを作ることで、自分で自分を養えるという部分をどこかには残しておきたいと思うんです。そういう感覚は縄文時代とか、ずっと昔から続いてきた生活の中の知恵みたいなところで培われてきたものだと思うんですが、それを疎かにしないようにということは意識しています。

    遊びに近いものですけれども、山を歩いたり、海に潜ったり、そういうことからは離れないようにはしていますね。上手に魚が釣れるようになりたい、とか、野菜も大きい大根を作りたいとか、そういう人間の持っている生きる術みたいなものを大事しているような気がします。

    ―映画で描かれていた世界にはもともとご興味があったんですね。

    本上:そうですね。私の中ではとても身近で、興味があるテーマのお話でしたね。

     

    おいしいものを食べる上でも人と人のコミュニケーションが大切

    ―私たちのPARISmagというサイトはフランスと日本にある暮らしを紹介するサイトです。フランス人も食事を楽しんだり、素材や旬のものを楽しむ習慣があって、それを幸せと感じているかなと思います。本上さんの食に関する楽しみや、日々の幸せを教えてください。

    本上:私は旅行が大好きで、旅先では必ず市場へ行ったりしてその土地のものを食べるのが好きす。最後にフランスへ行ったのは結構前ですが、そのときもレンタカーを借りていろいろな街を泊まり歩いていました。ちょうど秋だったのでキノコが旬で、「セップ茸」や「ジロール茸」など日本ではあまり見かけないキノコを市場でよく見かけていました。そのときは、宿にキッチンがなかったので作れなくって…。「なんとかあれを食べたい!」と思って、食べられるレストランを探したりしました。その土地のものを食べることは私にとってとても重要です。そして、作っている人たちに話を聞くことも大事にしていますね。

    食べ物について喋っている人って、なんだかイキイキとしていると思うんです。生産者さんや市場の人もそうです。「これが今、旬だよ。一口食べてみて」と勢いがある感じ、活気がある感じは見ているこちらも元気になります。おいしいものを食べる上でも、人と人とのコミュニケーション、やりとりが私にとってはすごく大切です。

    ―生産者や食を楽しむ人たちの想いを知ることで、食べ物に対する向き合い方が変わりますよね。

    本上:そうですね。そういう意味でもフランスを旅行するのは楽しいですね。食を楽しむ人たちだし、ものを心から愛しているなって感じます。季節のものやみんなで囲む食卓など、日常のものを「愛しているんだなぁ」ということを、旅をしているだけで伝わってくるので。また遊びに行きたいです。

    ―今度フランスへ行くとき、行ってみたいところはありますか?

    本上:「ワイン収穫祭」に行ってみたいです。お酒はそんなにたくさんは飲めないのですが、私もワインが好きなので。ブルゴーニュへ行ったときに「お祭りのときには、ここでみんなでワインをいっぱい飲んで、楽しくやっているんだろうなぁ」って想像を膨らませていました。そのお祭りに行く夢をいつか叶えたいと思っています。

     

    本上さん、素敵なお話どうもありがとうございました!

    • ■映画情報
    • 映画『そらのレストラン
    • あらすじ:
    • 今日も食卓に、明るい声が響く。ここは道南・せたな町。
      海が見える牧場で酪農を営む亘理は、
      妻のこと絵、一人娘の潮莉とのしあわせな家族3人暮らし。
    • 自然に寄り添った食を追求する仲間たちに囲まれ、
      厳しくも美しい大地で楽しい日々を送っている。
      亘理の夢は、自分の牧場の牛乳で、この地でしか食べられないチーズを作ること。
      でも師匠のチーズ職人・大谷にはまだ追いつけず、落ち込んだり奮起したりの繰り返しだ。
    • ある時、札幌から訪れた有名シェフ・朝田に自分たちの食材を激賞され、亘理は一つのアイデアを思いつく。
      それは、せたなの おいしいもの を広く届けるため、一日限定のレストランを開くことだった。
      だが、納得ゆくチーズが完成せず思い悩んでいたある日、突然大谷が倒れ……。
    • 出演:大泉洋/本上まなみ/岡田将生/マキタスポーツ/高橋努/石崎ひゅーい/眞島秀和/小日向文世/風吹ジュン
    • 監督・脚本:深川栄洋
    • 2019年1月25日(金)全国ロードショー!

     

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