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    香り高いバターのクロワッサンに込められた想い。池尻大橋『トロパン トウキョウ』

    渋谷から東急田園都市線で1駅の池尻大橋駅。交通量の多い国道246号線から1本入った所にある小さなパン屋さんが、今回紹介する『TOLO PAN TOKYO(トロパン トウキョウ)』です。

    店名の由来は、「川の流れの中で水が深く流れの緩やかなところ」という意味の漢字「瀞(とろ)」。その名にふさわしく、お店の中は都心のせわしなさとは打って変わって、穏やかな空気が流れていました。今日はパン職人の田中さんにお話を伺いました。

     

    コンセプトは「おいしいパン」!それだけ!

    表参道の有名パン屋『デュヌラルテ』で経験を積んできたという田中さん。もともとカフェを開いていた10年来の友人である上野さんと一緒に、お店をオープンさせたのが7年前でした。パンのコンセプトは1にも2にも「おいしい」。おいしければ形にはこだわらないと田中さんは言います。

    「経験を積んで技術がついてくると『この素材を使いたい、この技術を使いたい』という欲が先行してくるが、そこは自分で制御して、このパンをおいしくするためには国産小麦、こっちはフランス小麦といったように、常に『おいしいものを作る』という目的に立ち返るようにしています」。

    以前、働いていた『デュヌラルテ』のプロデューサーがフレンチシェフだったこともあり、食全般に興味を持っているという田中さんは、カレーもあんこも全部手作りにこだわります。そして、まかないも田中さん自らが腕を振るうのだとか!

    「普段から料理をしておいしいものへの感度を高めるようにしています。食を提供する仕事をしているので、変なものを食べていちゃだめなんじゃないかって思うんです。おいしいと思えるものを食べることが『おいしいパン』を提供することにつながるのかなと」と、田中さん。

     

    素材や設備に頼らないで作りあげるクロワッサン

    そんな田中さんイチオシのパンはクロワッサン。通常、クロワッサンを作るにはバターが溶けないように室温を15℃以下にするなど整備や環境が必要です。そのため、小さなパン屋さんでこだわりのクロワッサンを作ることは大変なこと。それを田中さんは配合や作り方を工夫し、おいしいクロワッサンを作り上げています。

    「うちではバターの融点を越さないように手動で管理しながら5時間発酵させ、成形時も発酵しないよう低い温度で少しずつ作り上げています。そういったことは通常機械でコントロールすることが多いのですが、うちではみんな人間がやっています。クロワッサンの理屈をきちんと知り、配合や作り方を工夫し、体に技術を染み込ませれば、設備や機械など環境が整っていない場所でも作るのだということを知ってもらいたいですね」。

    また、バターはごく普通に市販されている森永のバターだったり、使用している素材も特別なものではないのだそう。設備や材料に頼らない製法ということで、同じような小さなパン屋さんが見学に来ることもあるとのことでした。

     

    『TOLO PAN TOKYO』のクロワッサンは、まず、その大ぶりなサイズに驚かされます。通常のクロワッサンの1.5倍ほどもあり、さらにはずっしりとした重みも。

    食べてみるとザクザクとした表面から食べごたえ十分!内側はバターがしっかり行きわたった層がたっぷり。田中さんのお話通りバター感を存分に味わうことができ、1つで大満足に。

    「大きめサイズにしているのは、朝カフェラテとクロワッサンだけでお腹いっぱいになるようにしているから。パンを作るときは、みんなはこのパンをどうやって食べるかな?どんなシーンで食べるのだろう?と想像しながら、大きさや具材を決めています」と教えてくれました。「おいしい」を存分に味わえるよう、食べるシーンまで想像して作っているとはさすがの一言!

     

    名物食パン「ヒガシヤマ」がシフォン型なのはなぜ?

    『TOLO PAN TOKYO』の看板メニューは、お店の住所にちなんだ「ヒガシヤマ」と付けられたこちらのパン。バターの変わりにオリーブオイル、さらに豆腐と豆乳を使用した「ヒガシヤマ」は、シフォン型で焼かれた珍しい食パンです。

    「『ヒガシヤマ』は北海道産小麦を使っているので、モチ感がすごく出るんです。その食感を活かすためにはある程度の吸水率が必要。だけど、吸水率が高いと持ち上がりにくい。持ち上がるためにはあのシフォン型の幅じゃなくてはいけなんですよ。あと、この形は切ってそのまま食べるにはちょうどいいので、お子さんにもぴったりかなって思っています」。

    もっちりとした弾力と歯ごたえがクセになる「ヒガシヤマ」のおすすめの食べ方は、サンドイッチ。喉を通る瞬間にオリーブオイルがパッと香る喉ごしのよさが魅力なので、焼かずにサンドするのがおすすめとのこと。酢のものとの相性が抜群なので、サバやアジをディルやローズマリーと一緒に南蛮漬けにして、野菜と一緒に食べると絶品なのだとか。

    『TOLO PAN TOKYO』の2つ隣のカフェ『TOLO SAND HAUS』では、「ヒガシヤマ」のおいしさを存分に味わえるサンドイッチメニューが楽しめるので、こちらも要チェックです。

     

    おいしくて個性豊かなパンは他にも続々

    食パンは角食やパンドミなどの定番から真っ黒なもの(!?)まで個性豊かなラインナップ!真っ黒な食パンの正体は、ライ麦とブラックココアで作った真っ黒な「トロ クロ」。お肉やサーモンといただくとおいしいのだそう。

    糖尿病の人のために作ったアマニを使った低糖パンも。

    「普通、低糖のものだったり、健康を意識したメニューってあまりおいしくなかったり、別枠になると思うんです。でもそうじゃなくて、誰が食べてもおいしいパンになっているので、僕も気に入っているもののひとつです」このパンを作るために糖尿病の勉強をして作ったのだとか。田中さんの「おいしい」への追求と興味を持ったことに対する研究熱心な面はそんな分野にも!と驚きです。

    その他、イジリーナ(バゲット)のツナフレンチトーストやアッサムティー香るあんとクリームチーズの「世田谷あんぱん」など、どれもここにしかないメニューがずらり。

    どのパンも例外なく、「おいしい」を追求して作られているので、初めてお目にかかる組み合わせでもなんだか安心して食べられる気がしますね。

    後進国でもおいしいパンを

    限られた設備や材料から、アイデアと工夫でオリジナリティ溢れるおいしいパンを作り続ける田中さん。いつか後進国に行って、そこでおいしいものを作りたいという夢があると教えてくれました。

    「あまり人助けのためという感じではないんです。自分が知った知識や技術を伝えられればいいなって。と、言いつつ本当は、俺はどんな環境でもおいしいパンを作れるんだ!って自慢したいんです(笑)」。

    「おいしいものを食べたい」という思いは世界共通。どんなところでも、どんな設備でも、どんな食材でも、きっと田中さんはアイデアと工夫でおいしいパンを作り続けるのだろうなと夢が広がります。工夫とアイデアに満ちた『TOLO PAN TOKYO』のパン。ぜひ、お試しください。

     

    ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。

     

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