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    パン作りは種まきから!自家製粉の小麦粉で作る・方南町『シーズマンベーカー』のパン

    最近増えている小麦粉にこだわっているパン屋さん。しかし今回ご紹介する『Seeds manBakeR(シーズマンベーカー)』ほど小麦粉にこだわっているお店はないのではないでしょうか?なぜなら、小麦の種をまくところからパン作りをしているから!なぜそこまでしてパンを作るのか?その理由を店主の笹島博之さんに伺ってきました。

     

    バイク雑誌の企画から誕生したパン職人

    “シーズマン”こと笹島さん

    東京メトロの終点である方南町駅から徒歩10分ほど、方南町駅と京王線笹塚駅の真ん中くらいに位置する『シーズマンベーカー』。周りは一戸建てが立ち並ぶ昔ながらの住宅街です。近くには小学校もあり、ちょうど下校時間だったのか元気な声に包まれていました。決して好立地とは言えないこの場所にお店を構えたのには、自家製粉と深い関係がありました。

    「うちはお店の中で小麦を製粉しているので、その機械と製粉前の小麦を保管するスペースが必要なんですよ。となると、ある程度広さが必要だったので、この場所にお店をオープンすることにしました。あと軒先の小さなお庭が素敵だったのも理由のひとつです(笑)」という笹島さん。

    木のドアと手書きの麦がかわいい外観。左手のお庭ではハーブを栽培中

    大学卒業後3年ほどパン屋さんで修行していた笹島さんですが、バイク好きが高じてオートバイ雑誌の編集へ転職。その雑誌で、パンのトラック販売を企画したところ話題になり、笹塚に実店舗『ブーランジェリー ササ(現ベーカリーササ)』をオープンします。他業種に転職してもパンと縁のある笹島さん。『ブーランジェリーササ』で実績を積んだのち、2011年この土地に『シーズマンベーカー』をオープンしました。

    笹島さんが手がけた雑誌と、パン屋さんへの軌跡を紹介した書籍

     

    プロセスが見えるものを。生産者と二人三脚で作る無農薬小麦

    『シーズマンベーカー』のパンのほとんどは、笹島さんが茨城県常陸太田市の農家さんと共に栽培した小麦が使われています。

    「かつて神奈川県伊勢原市にあった『ブーランジェリー ブノワトン』の店主・高橋幸夫さんの考え方にすごく感銘を受けたんです。高橋さんは“湘南小麦プロジェクト”を立ち上げた方。パン職人ながら国産小麦の栽培を行い、お店の石臼で製粉するという昔ながらの製法でパンを作ったパイオニアなんです」。

    高橋さんは2009年に急逝されますが、その意思を継いだ本杉正和さんが、同じ場所で『ムール ア・ラ ムール』というお店をリスタートさせています。本杉さんと親交を深めると同時に、ヴィーガンでインド出身のヨガ講師と出会った笹島さん。そのヨガ講師の奥さんのご実家が茨城県の無農薬農家だということで、その方と無農薬小麦栽培を始めることになりました。

    「それまで小麦粉は発注すればいつでも手に入るものだと思っていて、恥ずかしながら、どんな風に育つのかもちゃんと知りませんでした。でも実際に栽培してみると気候にも左右されますし、想像以上に一筋縄ではいかなかったんです」と笹島さん。

    お店の一角には麦を栽培する笹島さんの写真がありました

    小麦は栽培して収穫したら終わりではありません。貯蔵もしなくてはいけないし、パンを作るたびに製粉も必要になります。その保存場所を確保するだけでなく、保存や運搬のコストもかかり、オープン当初はかなり大変だったのだとか。

    「同じ茨城にある実家の敷地内に倉庫を作るなど、低コストで管理できる方法を試行錯誤しました。貯蔵しているのは茨城で、パンを焼くのは都内。だから自分で大型トラックを運転して小麦を運んでいるんです!」。

    この機械で小麦を製粉します

    製粉前の小麦

    全粒粉に製粉された小麦

    笹島さんはなぜ、ここまでして自家製粉にこだわるのでしょうか?

    「この辺りはファミリー層も多く、うちのパンを食べてくれるお子さんも多いんですよね。自分自身もそうですけど、やっぱり安心して食べられる食材を使いたい。だから、作り手やプロセスがわかる商品を提供したいんです」。

    パン作りの様子が間近で見られるオープンキッチン

    自身で小麦を栽培するようになったことで、技術面とはまた違った角度で商品を捉えることができ、天然のものに対する考え方が変化してきたという笹島さん。今は、農業の現場の高齢化を課題として、新しい取り組みを模索中だそうです。

     

    小麦の風味をダイレクトに感じるパン

    『シーズマンベーカー』のパンは、食パンなど一部のパンを除いてほとんどのパンに笹島さんが栽培した小麦が使われています。笹島さんが栽培した小麦は全粒粉として製粉しているので、どのパンもムギュっとした食べ応えのある食感!

    小麦の力強さを感じるクロワッサン

    全粒粉を使ったパンのなかでも、人気なのがクロワッサン。ツヤは控えめで素朴なヴィジュアルのクロワッサンは、バターより小麦の香りが強い独特な味わい。噛むほどに、豊かな香りが鼻を抜けます。形は月形とリボン型の2種類あり、リボン型は『ブノワトン』高橋さんへのオマージュなのだそう。

    全粒粉100%のパンはずっしりとした重量感があります

    そして、特筆すべきなのが100%全粒粉で作ったパン。黒パンのような見た目で、かなりどっしりとした食感。このパンを求めてわざわざ遠方から買いにくるお客さんもいるのだそう。取材中にも予約して購入していくお客さんがいたのでお話を聞いてみると、「安心できる素材で作られているから、このパンを買うためにこちらに来ています。薄く切ってトーストしたら、オリーブ油をつけていただくとおいしいですよ」とのこと。ちなみにメープルシロップとの相性も抜群なのだとか!ちょっとハードルが高いような気がする全粒粉パンですが、意外と使い勝手がよいパンなのです。

    ほかにも、クリームパンやメロンパンなどおなじみのパンが60〜70種並びます

    子どもも喜ぶひんやりスイーツがあるのもうれしい♪

    大学で哲学を学んだ先に行き着いたのが「生きるためにはモノ作りが大事」という考え方だったという笹島さん。そこからパン職人になり、小麦作りを通じて今は地方の農業や活性化の問題に取り組みたいという思いがあるのだそう。「パンがライフスタイルの1つになって欲しい、大きな話をすると色んな人が共生する“村”みたいものを作りたいんです」と言う笹島さんが作るパンには、笹島さんの哲学が詰まっていました。

     

    ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。

     

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