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    榎本哲シェフが作りたいパンがここに。神楽坂『パン デ フィロゾフ』

     

    神楽坂と言えばベーカリーやパン屋がたくさん立ち並ぶ街ですよね。「日本の小さなパリ」とも言われ、その街並みだけではなく飲食店や暮らす人たちも国際色豊かな場所です。

    神楽坂駅から歩くこと4分、『Pain des Philosophes(パン デ フィロゾフ)』に到着しました。オーナーの榎本哲さんにお話を伺いました。

     

    おいしい、作りたいと思うパンを

    子どもの頃からパンが好きだという榎本さん。高校を卒業したとき、何か職人になりたいと思っていたそう。

    「料理人かパティシエでもよかったんでしょうが、パンを食べるのも好きでしたし何か惹かれるものがあったんでしょうね(笑)。それで専門学校に行って、そのときから『やるからには自分のお店を持とう』と思っていました」と話す榎本さん。

    店名「Philosophes(哲学)」は榎本哲さんの名前から

    『ドミニク・サブロン』でのシェフとして、そして『俺のBakery & Café』のプロデュースにも携わってきた榎本さん。すべては、自分のお店を持つことへ向けての経験だったそう。榎本シェフのお店を待望するお客さんも多くいたはず。

    この葉は榎(エノキ)をモチーフに

    「食事パンを中心に、僕がおいしいと思うパン、作りたいと思うパンを作っています。すごくこだわっているのでパンの種類は多くはないかもしれません。作りたいパンによって使う酵母や小麦粉も使い分けているんですよ。はじめに30〜40種類ほどの小麦粉を取り寄せて、そこからかなり厳選して今は数10種類の粉をブレンドして作っています」。

    お店に並ぶ約15種類のパンをほとんど1人で焼いている榎本さん。実は、お店に並ぶパンは全て長時間発酵。オーバーナイト発酵のためすべて前日に仕込んでいます。「全部長時間発酵だからあえて書いていないんです(笑)」と教えてくれました。

     

    3種類の個性豊かなバゲット

    おすすめはもちろん全部。そのなかでも3種類もあるバゲットは、1日に合計100本も出るそうです!「ここ神楽坂では、バゲットとチーズとワインというのが、文化的に根づいているんですよね。以前、神楽坂に10年くらい住んでいたことがあり、この街の文化や落ち着いた雰囲気も好きでした。僕がやりたいと思っているパンが受け入れられる街だと思っています」。

    バゲット

    1本目は、その名も「バゲット」。フランス産の小麦粉と石臼挽きのカナダ産の小麦粉をブレントしたバゲットです。長時間発酵の粉の風味を存分に生かしたバゲットなのだとか。

    弾力があって、歯切れがいいです。皮もしっかり厚めで食べ応えも。少し黄色がかった色が特徴的です。ずっと食べていたくなります。

    バゲット・ジ・コンプレット

    2本目は、「バゲット・ジ・コンプレット」。

    「北海道産のキタノカオリという麦種の全粒粉100%のバゲットです。30〜40種類の粉を試したなかでも、単一で非常においしい粉だったんです。だからブレンドせず、そのまま全粒粉100%で作っています」と榎本さん。また、粉の甘味を十分生かすために、レーズン酵母を使っているそう。

    全粒粉100%の「バゲット・ジ・コンプレット」。食べてみると、しっとりもちもちの食感。噛んでいくと粉の甘味や風味が広がり、皮も柔らかくおいしい!

    アルファ・バゲット

    3本目は「アルファ・バゲット」。

    「3種類のバゲットのなかで1番売れていますね。湯だね法という熟成法で作っているのですが、皮もすごく薄くて、焼きたてはシュー生地のように歯切れが良いんですよ。水分量がすごく多く、とても柔らかいバゲットです。中はもちもちで、お米のようなでんぷんの甘さがあっておいしいんですよ。和食にも合わせられるくらいです!」と榎本さん。

    「湯だね法」と言えば食パンなどを作るときに用いる製法、バゲットだとどんな食感になるのでしょう?

    切ってみるとその断面に現れた気泡もみずみずしいのがわかるでしょうか?食べてみると中はプルプルとした感じで、もっちりしっとりしています。バゲットでこの食感は初めてです!

    3種類、全て特徴が違うバゲットなので、「料理やチーズを変えて合わせてもらいたい」と榎本さん。お店では「今日のメニューは何ですか?お肉ですか?」とか「チーズの種類は何ですか?」と聞いて、おすすめを提案してくれるそうですよ!

     

    フレッシュなジンジャー×りんごの「ポミエ」

    ユニークな形が気になって仕方がなかったパン「ポミエ」。「Pommiers」はフランス語で「りんごの木」という意味です。

    ポミエ

    「このパンは、りんごの酵母を使って作っています。りんごが入っているのですが、ドライのりんごをスライスしたフレッシュなジンジャーと白ワインと一緒に煮ています。フレッシュのジンジャーは乾燥したものとは全く違うんです。『ポミエ』はりんごなので、ブルーチーズがよく合います。これが食卓にぽんっと出てきて、ブルーチーズと白ワインやシャンパンで食事が始まったら、すごくかっこよく食卓が華やぐんじゃないかなと思います」と榎本さん。聞いているだけでもおいしそう!

    実際に食べてみると、想像するよりもとても大きなりんごの果肉がごろごろと入っています!フレッシュなジンジャーは香りもしっかりして、ピリっとしたスパイシー感もたまりません。チーズやお酒とのマリアージュをぜひ楽しんでみてください。

     

    群馬県の小麦を使った食パン「ASAMA」

    ASAMA

    「ASAMA」は榎本さんが軽井沢で仕事をしていたときに作った食パンです。どんな食パンなのでしょう?

    「通常の食パンをイメージされると、かなり食感も違いますね。もっと、ねっとりしっとりとした食感です。群馬の小麦なんですが、普通はパン作りに使わないような特徴的な粉なんですよ」。

    榎本さんは、うどんで使う粉も使ったりするそう!普通ならパンで使わない粉を技術で上げているのです。

    生地はとてもやわらかく、普通の食パン型では焼けないため、フランスの木枠を使って焼いています。この木枠のまま焼き上げるのだとか。

    おすすめの食べ方をお聞きすると「トーストしてももちろんおいしいのですが、まずはそのままで」とのこと。甘味も十分にある食パンなので、そのまま何もつけなくてもおいしいのです。「焼かずにサンドイッチにしてみても、特徴ある食感と合わせて楽しんでもらえるのでは?」とのことでした。

     

    ワインのパン「ルージュ」と「ブラン」

    直径20cmほどはある「ル・ヴィニュロン・ブラン」と「ル・ヴィニュロン・ルージュ」はワインのパンです。「ブラン」が白で、「ルージュ」が赤。両方ともオーガニックのワインを使っています。

    「ルージュ」は、レーズンとドライイチジク、くるみとピーカンナッツが入っていて、「ブラン」は、りんごとグリーンレーズン、くるみが。ドライフルーツを白ワインで一緒に煮て、その煮汁でパンを仕込んでいるそう。

    「『ルージュ』はレーズン酵母で濃厚な感じなので、フォアグラ系とか、強めのソースやジビエ料理にも非常に合います。グリーンレーズン酵母でより爽やかな感じの『ブラン』なら、魚や鶏肉、豚肉にもよく合うんですよ」と榎本さん。

    ホールで購入することはもちろん、1/4の大きさから購入できます

    ホールだと常温でそのまま4日間くらいおいしくいただけます。大きなパンはホームパーティーにもおすすめ。「ブラン」と「ルージュ」の2種類を料理に合わせて食べ比べてみるのもいいですね。

    ナッツやドライフルーツのイチジクもたくさん入っていて、そのままでももちろんおいしいですが、お料理と一緒に食べてみたくなるしっかりとした豊かな味わい。

    『ルージュ』はシラー種(スパイス系の赤ワイン)をセレクトしているので、仕込むときもホットワインのようなものを作り、その香り付けとしてオレンジやブラックペッパー、シナモンも入れているそう!

     

    1番人気はクロワッサン

    ハード系の食事パンが並ぶなか、こだわりいっぱいの「クロワッサン」と「パン・オ・ショコラ」のヴィエノワズリーもありました。お店1番人気の「クロワッサン」は週末に200個、「パン・オ・ショコラ」も150個ほども売れるそうです!

    くっきりとした美しい層に、思わず見とれてしまう「クロワッサン」。

    「このクロワッサンは、ドミニク・サブロンのときに作っていたものに近いですね。当時から本当においしいと思っていたので、そこに僕のオリジナリティも加えて作っています。バターはフランス産のAOP発酵バターを使っています。多分、僕のお店がこのバターの消費量日本一だと思いますよ(笑)」。

    「パン・オ・ショコラ」のチョコレートにもすごくこだわっているそう。

    「フランスのオーガニックのチョコレートを使っています。少し酸味があって大人向けですね。クロワッサンの生地とも相性がいいんです」と教えてくれました。

    こちらは「バトン・シュクレ」。

    クロワッサン生地をまとめて練って、発酵をさせずにじっくり焼くため、パイみたいなサクサクの食感になるのだそう!焼きたてに、シナモンとやさしい甘さのきび糖をまぶしています。榎本さんオリジナルのお菓子のようなパン、ぜひ食べてみてください。

     

    おいしいことから始まるパン作り

    店内には『マキシム・ド・パリ』総支配人を務めた田中保範さんからのメッセージも飾られていました

    パンの種類は多くないと話す榎本さんでしたが、「作りたい」「おいしい」と思うパンだけを焼いているので、ひとつひとつのパンに榎本さんのこだわりがたくさん詰まっているのを感じました。

    「材料の業者さんにも『とりあえず値段はいいから、おいしいものを』とお願いして持ってきてもらっています。まず『おいしいもの』を選択していくので、多少値段が高くなるのですが…。おいしいパンを作るためなので、妥協はしません」と、パンに対する哲学を教えてくれました。

    3種類のバゲット、ワインのパンに、食パン、りんごのパン…どれも特徴が違っていて、すべてが『パン デ フィロゾフ』を代表するパン。日々の食事に合わせて「今晩はお肉料理だから」とか「今日はあのチーズとワインと一緒に」とか、パンを選ぶ楽しみがますます広がります。毎日の食卓をぐっと華やかに、そして豊かにしてくれるパン屋さんです。

     

    ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。

     

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