数々の映画やドラマに出演する一方、書評やエッセイなどの執筆活動もしているミムラさん。30代になり、女優としての活躍がますます気になるミムラさんが出演する映画『カノン』が公開となります。
『カノン』は、悲しいトラウマを抱えた三姉妹が、母親や祖母の過去と向き合い、自分自身の過去とも対峙するという悲しくも優しい映画です。三姉妹の長女・紫(ゆかり)役として出演されたミムラさんに映画のこと、普段の生活のことなどお話を伺ってきました。
<映画『カノン』あらすじ>
死んだはずの母が生きていた。あの頃とはすっかり変わり果てた姿で…。
三姉妹は祖母が遺した手紙を手がかりに、真実を探し求める旅に出る。19年前、なぜ母はわたしたちの前から姿を消したのか?なぜ約束を守ってくれなかったのか?母へのわだかまりを抱えたまま大人になり、それぞれ別の街で恋や家庭、仕事に奮闘する三姉妹。彼女たちがともに母の過去を辿り、自分たちの傷に向き合い、未来への一歩を踏み出そうとする時、懐かしいメロディーが流れ出す。
映画で演じた娘と母親との関係について
—今回の映画では、三姉妹の他、母親、祖母という親子三世代が登場する映画ですが、映画を拝見して、「祖母も母もみんなひとりの人間なのだ」ということに気付かされました。
ミムラさんはどのようなことを意識して演じられたのでしょうか?
ミムラさん(以下、敬称略):三姉妹を並べて見たときに私だけが母親なんだなと思いましたね。そこから「娘とはなんだろう、母親とはなんだろう」と考えてみたんですけど、親子3代、4代が同時代に生きるのは長命な生物だけで、野生動物には稀。そこで複雑になるんですよね。
30代になると母親になる友達も増えてきますけど、自分が母親になった途端に、自分と母親との関係が気になってくるというのはあるのかなと思います。なので、私の演じた紫は茜(三女)とか藍(次女)とはちょっと違った母親像が見えているのかもしれないというのは考えました。一種、自分が母親であるということを投影してでしか母親を見れなくなっているんですよね。自分も母親のようになるんじゃないか、母親のようになってはいけないといった焦りもあって、自分と母親という1対1の関係だけではなくなってしまって。
演じながらも、この立場に置かれて悩む方も多いのではないかなと思いましたね。共感していただきやすい分、デリケートに扱わなきゃいけないなと思って演じました。
—自分と母親の関係と母親と祖母の関係も考えてしまって、より複雑になりますよね。
ミムラ:自分が母親になると、<娘であり母親でもある>という立場になりますが、自分の母もそうなのだということに気づくんでしょうね。自分にとって母親だと思っていた人も、いつかは娘だったんだということを思うと、その先に延々に続く階段があって、自分はその次の段をどうやって作っていけばいいのか悩ましくもあって…。
そこに気づいてしまったからこその不安があるはずで、それは他の姉妹たちはまだないところなのかもしれないですね。その中で、母親としての意識と娘としての意識を両方見せられるように意識して演じました。
過去に乗り越えられた経験があるから乗り越えられる
—三姉妹それぞれが母親とのトラウマを抱えていましたが、3人で過去に向き合うことができたのかなと思いました。ミムラさんはそういう苦しいときに「これがあるからがんばれる、乗り越えられる」というモチベーションになるものってありますか?
ミムラ:少し実用的な話になってしまうんですけど、過去の大変だったことを乗り越えたという記憶ですかね。誰かと助け合って困難を乗り越えた経験もありますが、ひとりで乗り越えなくてはいけない困難もあると思うんです。今回の映画の三姉妹もそれぞれひとりで向き合わなければいけない瞬間を迎えています。
そうなったとき、過去に逃げなかったという記憶があると、「あのときは大丈夫だったじゃないか」と自分に言い聞かせられる。そして確かに自分でやったんだと思えるものがあれば、誰かが悩んでいるときに実体験があってこそのアドバイスをすることもできますよね。
—なるほど。それでいうと今回の三姉妹は過去に乗り越えずにいた部分を、大人になって向き合わなければいけなかった感じでもありますよね。
ミムラ:そうですね。過去の宿題といいますか。多くの人に残してしまった宿題はあると思いますし、私にもたくさんあります。でもなにかひとつでも、「これは今乗り越えなければいけない」と自分に課して乗り越えた過去があると、自分で自分を信頼できるようになる。それがあるとその先の強い武器になりますよね。
例えば、20代のときに150%の困難だったとしても、30代になったらそれが80%くらいになっているかもしれないじゃないですか。 いつでも100%以上の困難を乗り越えてきていたら、年をとったときに簡単と思えることも多いんじゃないかなと考えています。
手間のかかる植物の世話が大切なリフレッシュタイム
—最近は映画の他、ドラマなど出演作が相次いでいますが、忙しい生活の中でも大切にしていることや、大切にしている時間はありますか?
ミムラ:最近、家のグリーンを増やしたんです。シダ植物が好きで、トキワシノブ、リュウビンタイ、ゴールデンモンキーなどいろいろ育てています。前は1、2種類だったので気ままなものだったんですけど、5種類くらいにした途端に手がかかって(笑)。この子は朝、葉水をしなきゃいけないとか、この子は根っこが乾いてからじゃないとダメとか。それぞれ好みが違うので大変なんです。でもそれがすごく楽しくて。
今日の調子はどうだい?と毎日チェックするのも楽しいです。まだ子育てをする予定はないんですけど、少し母性が出てきたのかな。20代のバタバタしていた頃より、面倒を見るというのが好きになってきましたね。
—手間がかかるのが愛おしいという感じなんですね。
ミムラ:そうですね。雑誌とかで素敵なお宅訪問ページを見てると、たくさんの植物を育てていたりするじゃないですか。ああいうのを見て「大変そう…」って思っていたんですけど、「これがいいのか!」って思うようになってきましたね。
ミムラさんの小さなしあわせ
—パリマグでは、日々を楽しむヒントや小さなしあわせの見つけ方を提示できたらいいなという思いがあります。ミムラさんにとっての「小さなしあわせ」や「毎日を楽しむコツ」のようなものがあったら教えてください。
ミムラ:盆栽を育てている友人に教えてもらったんですけど、埼玉に『盆栽美術館』というのがあるんですよ。盆栽“園”ではなく“ミュージアム”としたのは、展示してあるものを美術として鑑賞して欲しいという思いかららしくて。何千万円もする盆栽が展示されていたりするんです。それに対して友人が育てている盆栽はごく日常のものなんですよね。一括りに盆栽と呼んでいるうちにはわからないけど、実際に接してみると盆栽だってアートになったり、日常のパートナーになったりするんだな〜と思いました。
それこそ、美術やアートに関してはフランスなどのヨーロッパに比べると日本では大げさなものというイメージですけど、鑑賞するアートがある一方、生活に馴染むアートももっとあってもいいのかもしれないと思うようになりました。
そう思ったのは盆栽や観葉植物がきっかけではありましたが、お気に入りの絵でもなんでも。部屋にちょこっと飾ることで部屋が華やいで、生活が楽しくなるのはいいなって思います。
今は余計なものを持たないといった考え方もあるけれど、やっぱり美術や文化を日常に持ってくるだけでじんわり広がっていくものってあると思うので、そういう部分は大切にしていけたらいいなと思います。せっかく緑も楽しくなってきたので、ここからアートの世界や生活の彩りを足すようなものにも興味を広げていけたらいいなと思っています。
ナチュラルな笑顔がとっても素敵なミムラさん。困難の乗り越え方や日々の楽しみ方など日々を丁寧に暮らしている様子が伺えるお話が魅力的でした。ミムラさん出演の映画『カノン』は現在絶賛公開中です。
パッヘルベルの「カノン」のメロディーと共に、家族の葛藤や絆が描かれる感動の映画。ぜひ、ご覧ください。
ミムラ
1984年生まれ。女優・エッセイスト。2003年のデビュー以来、ドラマ・映画・舞台・CM等多方面で幅広く活躍している。近年の主な出演作に映画『天国からのエール』『わが母の記』『後妻業の女』、ドラマ『昨夜のカレー、明日のパン』『5人のジュンコ』『トットてれび』など。来春には映画『彼らが本気で編むときは、』も公開予定、今後も出演作が続く。文筆家としても知られ、『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』(ともに白泉社)を刊行。近著に初エッセイ『文集』(SDP)がある。
- ■映画情報
©2016「カノン」製作委員会 - タイトル:カノン
- 出演:比嘉愛未 ミムラ 佐々木希 / 桐山連 長谷川朝晴 古村比呂 島田陽子 / 多岐川裕美 / 鈴木保奈美
- 監督 :雑賀俊朗 脚本:登坂恵里香 音楽:嶋崎宏
- 主題歌:渡 梓「セピア」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
- 製作:「カノン」製作委員会(サーフ・エンターテイメント、コンセプトフイルム、アトラス・ディー、ハビッツ、TAOエンターテイメント、KADOKAWA、山﨑住産、PE&HR、北日本新聞社、富山テレビ、ビデオフォーカス、フェローズ、アンジュ、石川テレビ、アイピーシー、テレビ埼玉、千葉テレビ放送)
- 2016年/日本/カラー/123分/16:9/デジタル ©2016「カノン」製作委員会
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