フランスを訪れると、ハーブ薬局やオーガニックスーパーの一角に、精油や植物由来の化粧品やサプリメントなどがずらりと並んでいるのを目にします。
精油を使った自然療法「アロマテラピー」の本場といわれるフランスでは、日常生活にどんな風に取り入れているのでしょう。
20年以上パリで暮らし、自然療法士として活動する栗栖智美さんにフランスのアロマテラピー事情やその魅力、初心者でも取り入れやすいアロマテラピーレシピを教えていただきました。
栗栖智美
アロマトローグ・自然療法士・アロマテラピー講師。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、2002年よりパリ在住。フランス国立東洋言語文化研究所卒業。フランスにてイベントオーガナイズ、通訳、コーディネーターとして活動後、フランスでアロマテラピーとアロマコロジー、フィトテラピーコスメトロジーなどの自然療法を学ぶ。2014年よりフランスのアロマテラピーや自然療法を教える傍ら、ヘルスコンサルティングやアロマコロジー理論をもとに開発した香りのセッションを通し、クライアントのこころとからだの健康キープに従事。2017年より一般社団法人パリ・フィトアロマ協会代表理事を務める。2021年より、動画で自然療法が学べるElnafオンラインスクールを主宰。https://artbloom.jp/
Instagram:@tomomi_aroma_paris
おばあちゃんの知恵袋がリバイバル。フランスのアロマテラピー事情とは
―フランスではハーブ薬局やオーガニックスーパーで精油が販売されているのをよく目にしますが、フランスでは昔からアロマテラピーが取り入れられてきたのでしょうか?
栗栖:フランスでは、昔から精油をはじめ植物の力で不調にアプローチする自然療法が取り入れられてきました。街には精油やハーブなどを扱うハーブ薬局もたくさんあったそうです。
今ではかなり減ってしまいましたが、パリでは2000年代に入ってオーガニックがブームになり、フランスに根付いた自然療法が見直されている印象です。近年ではオーガニックスーパーや手作りコスメの原料専門店もどんどん店舗を増やしています。
私のまわりのフランス人は、食事やコスメもオーガニックにこだわる人が多いのですが、自然療法を取り入れたきっかけなどを尋ねると、口を揃えて「おばあちゃんが教えてくれた」と話してくれます。
いわゆる“おばあちゃんの知恵袋”がリバイバルしたという感じですね。小さい頃、不調があるとおばあちゃんが精油やハーブを使ってケアしてくれたことが記憶にあるようです。
―日本でも、昔ながらの食事や漢方、薬膳などが見直されているのと似ていますね。
栗栖:そうですね。フランスのオーガニックスーパーや薬局には、精油だけでなく精油を使った筋肉痛改善ジェルや喉スプレー、植物由来のサプリメントなどが置かれています。
だから不調を感じたらすぐに病院に行ったり薬を飲んだりするのではなく、まず身近に手に入るもので対応して、それでもだめならハーブ薬局に行って相談するという人も多いですね。
私がアロマテラピーの仕事をしていると話すと、「精油は普段から使っているよ。風邪をひいた時には◯◯の精油を使うけど、智美ならどんな精油がおすすめ?」なんていう会話になることも。老若男女問わず、日常に馴染んでいるのだなと感じています。
―それだけ精油が身近なものだということですね。
栗栖:日本では、精油はアロマ専門店やインテリアショップでフレグランスとして売られていることが多いので、「健康のため」に活用するという印象が薄いかもしれません。しかし、フランスでは日本やイギリスのようにリラクゼーションを目的とした使い方はあまりされません。
香水の本場でもあるフランスでは「精油」と「香り」は別物。「香り」というと香水などの香料のこと。「精油」を使う時は、香りよりも成分などを重視して選びます。
好きな香りで心身も整う。栗栖さんが感じるアロマテラピーの魅力
―栗栖さんとアロマテラピーの出合いは?
栗栖:留学を機にフランスで暮らし始めましたが、硬水のせいか肌荒れを起こしたんです。皮膚科へ行ってもストレスと言われるだけで。
食事をオーガニックにしたりマクロビを取り入れたりといろいろ試したのですが、1年半以上も唇の皮が剥けて荒れている状態でした。そんな時、オーガニックスーパーで精油と出合ったんです。
たまたま持っていた日本のアロマテラピーの本にリップバームのレシピがあって、作って使ってみたら、驚くほど良くなって。
それからいろいろな自然療法を学びましたが、もともと香りが好きだったので、好きな香りで心も体も整うアロマテラピーに魅了されました。
―日常ではどんな風に取り入れていますか?
栗栖:精油をキャリアオイルで希釈して、不調を感じる箇所にマッサージしながら塗布するのが基本。
生理痛の時はバジルやエストラゴン、フェンネルの精油をメインにブレンドするなど、不調に合わせて精油を選びます。
スクールではもちろん計量しながら作りますが、自分自身で使う時は手のひらに500円玉くらいのオイルを入れて1滴垂らして即席で作ることも多いです。生徒さんからは驚かれますが(笑)。
「不調があるのに作るのが面倒で、結局何もしないままになってしまう」という生徒さんもいたので、自分に使う時はこのくらい気軽でもいいかなと思っています。
もっと簡単なのは、落ち着きたい時や眠れない時、集中したい時など、それぞれに合う精油をコットンに1滴垂らして、深呼吸しながら1分間くらい嗅ぎます。
枕元に置いてもいいし、デスクに置いても。私はコットンを襟元に洗濯バサミで挟んだりもしています。
ほかに、手作りの爪のキューティクルオイルはいつも持ち歩いていますし、ラヴェンダーの精油は原液を小さなロールオンの容器に移してポーチに。
頭痛がある時にはこめかみに塗ったり、虫に刺されたら塗ったりします。あとは喉の不調のためのバームは毎年作っています。
―フランスではどんな精油がよく使われますか?
栗栖:こちらでは感染症に使う人が多いですね。フランスらしい精油といえば、タイム。日本ではあまり使わないかもしれませんが、ハーブとして料理に使われていますよね。
タイムはフランスでたくさん採れるし、ハーブティーとしてもよく飲まれます。身近にある植物で、私も好きな精油のひとつです。
あとは、ウィンターグリーンも人気です。筋肉痛や腰の痛み、関節の痛みの緩和に効果的。薬局に置いてある筋肉痛緩和ジェルに入っているから馴染みがあるようで、自分でも作ってみようと使っている人が多いようです。
栗栖さんおすすめ、初心者でも使いやすい精油3本
初心者でも使いやすく、手に入りやすい、高価ではないけれどいろいろな場面で活躍してくれる精油を教えていただきました。
1、ラバンジン
「真正ラヴェンダーとアスピックラヴェンダーのいいとこどりのラバンジンは、とても万能。筋肉痛などにも効果的でバカンスには必ず持っていきます。
旅先でたくさん歩いて脚が疲れたときにはマッサージするとすっと軽くなります。また風邪っぽい時や虫刺されややけどにも使えるし、生理痛の緩和にも。リラックス効果もあって使い勝手がいい1本です」
2、ラヴィンツァラ
「ウイルスや細菌など各種感染症の予防におすすめです。パワフルに効きながらも、お子さんやお年寄りにも使えます。
不安でしょうがない時やすごく疲れている時、眠れない時にも香りが助けてくれます。ちょっと上級ですが、私は唇にヘルペスができた時に薄く希釈して塗っています」
3、サイプレス
「これもフランスらしい精油。日本人は冷えからくるむくみの悩みが多いと思いますが、マッサージしながら塗布すると巡りがアップ。また咳が止まらない時にもおすすめです。
エストロゲン様作用があるといわれているので更年期の症状にも使われますが、乳がんや子宮頸がん、子宮内膜症などエストロゲン過多によって起きやすい症状がある方は、頻繁に使いすぎないようにやや注意が必要です」
ブレンドしてより不調にアプローチ。精油をもっと日常に
もっと精油を使いこなしてみたい方に。3つの精油をブレンドして、悩みに合わせたレシピをご紹介します。
不調1「頭を使いすぎて、眠れない!」
おすすめの精油>スイートオレンジ、プチグレン、ベンゾイン
「甘いオレンジの香りは幸せで温かな気持ちに。考えすぎている頭をクールダウンして心を落ち着け、夢心地へ誘うブレンドです。
まず、スイートオレンジ20滴、プチグレン10滴、ベンゾイン5滴を小さいガラスの遮光瓶に入れて混ぜ、あらかじめブレンドを作っておきます。寝る前にコットンに1滴。深呼吸しながら嗅いでもいいし、枕元に置くだけでもリラックスできます」
不調2「脚が冷えてむくみが気になる」
おすすめの精油>サイプレス、パルマローザ、シダーウッドアトラス
「ブレンドした精油をオイルで希釈してマッサージオイルを作ります。ガラスの遮光瓶(30ml)を用意したら精油を各20滴ずつ入れてよく混ぜ合わせ、瓶いっぱいにオイルを注いだら完成。
オイルは、ホホバオイルやセサミオイル、スイートアーモンドオイルなどが手に入りやすくておすすめです。お風呂に浸かって体をよく温めてから、むくみを感じる足首〜膝くらいまでにマッサージしながら塗布します。
1週間くらい続けてみて、調子がよかったらさらに1週間続けてみてください」
不調3「喉がイガイガ、風邪を予防したい」
おすすめの精油>ラヴィンサラ、ローリエ、ティートゥリー
「ちょっとでも喉に違和感を感じたらすぐにケアしたい。常備しておいてもいいけれど、気になったらその都度作ると気軽です。
手のひらのくぼみにオイルを500円玉大出して、そこに3種類の精油を1滴ずつ垂らします。混ぜながら手のひらに伸ばし、喉、胸、背中に塗布します」
<気をつけたいこと>
「フランスでは局部使用の場合、精油の濃度をやや高めの7〜10%で希釈する場合が多く、感染症のためには10%で作ることも。肌が弱い方は、目立たない箇所でパッチテストをしたり、刺激を感じるようなら濃度を薄くしたりしてみてください」
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病院に行くほどではないけれど、体がだるかったり、気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりと小さな不調を、植物の力で整えられたら…。
「精油はさまざまな化学成分が含まれていて、それぞれに効能がありますが、いちばん大事なのは香りを嗅いで“自分がどう感じるか”ということ。成分は二の次だと思っています。例えば、オレンジはリラックス効果があるといわれていますが、逆にやる気が出る!と感じる人もいるんです。そんな単純ではないところが、精油のおもしろさであり魅力だなと思います」
少し敷居が高そうに感じる精油ですが、栗栖さんのお話を聞くと、気軽に普段の暮らしの中で取り入れてみたいと思えますね。