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    和田彩花さんインタビュー「自分のペースも美術の魅力も再確認できたパリ生活」

    ハロー!プロジェクトの女性アイドルグループ・アンジュルムの初代リーダーとして活躍し、その傍ら、美術好きが高じて大学院で美術史を勉強。

    音楽活動、美術評論、フェミニズムやジェンダーに関する積極的な発信など、さまざまな場で多彩な能力を発揮している和田彩花さん。

    2022年からは、10代から憧れていた大好きなフランスに留学。日本帰国直前の和田さんに、パリでの暮らしぶりや美術探訪、感銘を受けたフランス人の生き方について聞きました。

    和田彩花さん

    1994年8月1日生まれ、群馬県出身。2009年にHello!Projectよりアイドルグループ「スマイレージ」(のちに「アンジュルム」に改名)としてデビュー。第52回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞するなどアイドルとして活躍。2018年グループ卒業後、自身で作詞を手掛ける楽曲でソロ活動を行う。2021年に『Forbes JAPAN』にて「世界に多大な影響を与える30歳未満の30人」に選出されるなど、活躍を注目される。2022年からフランス留学中。

    Instagram:https://www.instagram.com/ayaka.wada.official/

     

    ストイックすぎたアイドル生活から解放されたフランス留学

    ―まず、フランスに留学しようと思った経緯を教えてください。

    実は10代の頃から、いつかはフランスに行くことを夢見ていたんです。高校1年生の時に美術にはまり、美術史専攻に進み、大学院まで行ったのですが、勉強を続けるうちにフランスへの憧れがどんどん膨らんでいっていました。

    アイドル活動をずっとしていたこともあり、みんなが海外旅行に行っているのを見ていてうらやましかったというのもありましたね。

     

    ―実際に留学準備を始めたのはいつだったのですか?

    大学院を卒業してすぐ準備を始めていたのですが、コロナ禍に入ってしまって、延期を余儀なくされました。

    それで2年くらい経った頃、今なら行けるかなと思ってやってきた感じです。準備をしている2年間、留学への気持ちに波もありました。

    アイドルを辞めた後は1人で活動をしていたので、自分のやりたいことをそのまま実現できる環境になって、仕事がしやすくなっていったので、留学はしなくても良いかなと思うもときもありました。

     

    ―アンジュルムでは、初代リーダーとしてグループをまとめていらっしゃる印象でした。

    実際はそんなことはなくて、集団での生活が本当は得意ではないんです。人に合わせるのが難しいこともあったし、精神的にずっと苦しい状況がありました。

    でも日本にいると、グループに所属することが人生であたりまえみたいな感覚があって、それ以外の選択肢を持っていなかったんです。

    私はわりと真面目だと言われることも多くて、どうしてもいろんなことをがんばりすぎちゃったり、気にしすぎちゃったりするんですよね。学生時代も学校には行っていたけれど、授業を受けているだけで、終わったらすぐに仕事に行くみたいな状況。

    あまり心のスイッチを切る方法を知らなかったというか…美術に触れていたからほかの視点を持つことはできていたのですが、どうしてもストイックになってしまっていましたね。

    そんないろんな思いが重なって、フランス行きが決まったなという気がします。

    ―働きすぎていたことも、留学の動機の1つだったのでしょうか?

    そうですね。今あらためて振り返ると、アイドル活動をしているあいだは、働かないと消えていってしまうのではないかという恐怖が常にあって。休みはもちろんあったけれど、メディアに出ている側は出続けていないと忘れられてしまうみたいな空気を感じてしまっていたんですよね。

    自分ではそうは思っていなくても、周りの影響で考え過ぎてしまうこともあるし、自分に自信を持つことができていなかったんだと思います。

    そこから脱出できないで、苦しさをずっと抱えながら走っているような状況でした。それもあって、余計に外に出ることへの関心が広がっていたんです。

    フランス行きがなかったら、そのうちコロッと消えていたかもしれない。それくらい思い詰めてはいて、逃げ道がなかったなっていう気がします。

     

    パリの生活で「自分のペースでも大丈夫なんだ」と気づけた

    ―美術だけでなく、フランス人の考え方や生き方にも関心を持っていたのでしょうか?

    そうですね。私は19世紀の美術史を学んでいたのですが、19世紀ってフランス革命が終わった後で、美術の世界でも近代化していく時代なんです。

    その時代は、フランス人たちの心も自由に開かれていった時でもあるんですよね。

    革命によって自由に向かって進んだフランスをずっと学んでいたので、そんなフランス人の考え方や生き方にも興味がありました。

    日本にいると、自由になることをあまり考えられなかったりすると思うんです。社会の中でちょっと感じる息苦しさのようなものを変えていこうと考えなくても、普通に生きていけるんですよね。

    変えることを考えている友人もあまりいなかった。

    だからフランスでは、みんななにを考えて生きているんだろうって、そんなことを知りたいとずっと思っていました。

     

    ―実際にパリで暮らしてみて、精神的に解放された部分はありましたか?

    やっぱり、かなり解放されましたね。

    今はインターネットがあるので、日本にいながら海外に関心を持つことはできるけれど、実際に暮らしてみないと、こういった心の解放感はわからないことだと思いました。

    それにフランス人を知って、私自身、とても適当な人間になりました(笑)。そもそもわりと適当な性格だったのですが、そんな本当の自分をほどよく表に出せるようになったのかなと思います。

    人に対しても気遣いをしすぎてしまうところがあったけれど、自分のペースを大事にする感覚が身についたし、それでも大丈夫なんだと思えるようになりました。

     

    ―そんな風に自分が変わってきたなと思ったのは、パリに来てどれくらい経ってからですか?

    はじめはずっと日本モードで過ごしていたのですが、半年とか1年くらい過ぎた頃だったかなと思います。徐々に変わってきてはいたと思うけれど、日本に一時帰国した時に初めて自分の変化に気づきました。

    なにより、とにかく明るくなったって、周りに言われたんです。それに、あまり周りのことを気にせず話をするようになったとも言われました。

    たとえば、母と一緒にカフェを訪れた時、なにも気にしないで話していたら、母から「すごく声が大きい」って言われたんですよ。日本にいたときは、「周りに人がいるから小さい声で話して」って、私から母に言っていたのに(笑)。

    パリに行ったら、まったく周りを気にしない人になりました。気にしなさすぎて、たまに母に怒られるくらい(笑)。

    ―自身でも、自分の変化を自覚したことはありますか?

    そうですね。なにか助けてほしいとか、欲しいものややりたいことがあるとき、まったく知らない他人にもお願いできるようになったことかな。

    この前、友人とピクニックをした時、その方が水を持ってくるのを忘れちゃったんですよ。ごはんは用意したのに、水だけなくて。

    そのとき、目の前でバーベキューをしている人たちがいて、たくさんペットボトルの水を持っていたんですよ。

    「じゃあ、私があの人たちから水を買ってくるよ」って言って、小銭を持って彼らのもとに向かって、水を買い取らせてもらいました。

    成功するかわからないけれど、とりあえずお願いしてみよう、言ってみようって感覚だったんですが、友人も驚いていたし、こういうことは日本にいたときはやらなかったなと思って。本当に変わったなというか、解けたなと感じましたね。

     

    ―まさにフランス人的な行動力ですね。フランス語は日本にいるときから学ばれていたのですか?

    最初は、美術史を通してフランス語を学ばないといけない状況になっちゃったんです。大学で先生に勉強するように言われて。

    初めて先生のフランス語を聞いたとき、なんだか歌を歌っているみたいだなって思ったんです。それでフランス語自体にも衝撃を受けて、ハマっていきました。

    もちろん勉強することは大変だけど、わかることが増えると楽しいと思えるし、もともとフランス自体に興味があったのは大きかったですね。

    たとえば「これからの時代は英語をやらなきゃ」とか、そういう時流を優先にした語学へのアプローチを聞くと、私とは逆だなと思います。私の語学の考え方は、その場所の文化を知りたいから勉強するという感じです。

     

    ―パリで暮らしていて、どんなときに幸せだなと感じますか?

    幸せだなと思う瞬間は、セーヌ川を眺めているときですね。日課ではないんですけど、なんとなく立ち寄ることが多くて。

    フランス語につまずいたときとか、落ち込んだり、悔しい思いをしたこともあったけれど、サンジェルマン・デ・プレのあたりからセーヌ川に出て、視界が開けた瞬間に「ここは美しいパリで、この光景を見ることができているから、私は大丈夫」と思ったりしました。

    何度もセーヌ川沿いを歩いて、自分がパリに滞在しているなんて信じられないって思って、生活していましたね。

     

    キレイなだけではないマネの絵に美術のイメージを覆された

    ―やはりセーヌ川は特別なんですね。ほかにパリでよく訪れた場所はありますか?

    あとは、やっぱりオルセー美術館です。

    初めて訪れたのは、私がアンジュルムに所属していたときだったんですが、ちょうどフランスでライブがあって。そのとき、私だけ少し前乗りさせてもらってオルセー美術館を周ることができたんです。

    15歳のときからずっと画集で見ていた絵が目の前にあるっていう事実に興奮してしまって、絵の前まで下を向いて歩いてマネージャーさんに導いてもらいました(笑)。

    1番好きな画家がマネなんですが、マネの絵の前まで連れて行ってもらって、初めて目を開いた瞬間の感激は忘れません。

    オルセー美術館に行くと、いまでもそのときの気持ちに戻れる気がするんです。

     

    ―マネを好きになったのはどんな経緯だったのですか?

    そもそも、私が美術の世界に足を踏み入れたのは、マネがきっかけだったんです。

    15歳の頃、実家の群馬と東京を仕事のために往復していたんですが、あるとき、集合時間を間違えて東京駅で待ちぼうけになってしまって。それで、丸の内にある三菱一号館美術館に立ち寄ったんです。

    ちょうどオープン記念の年で、マネの展示をしていたんですね。ズラリと駅にマネのポスターが貼ってあって、毎日、母とそのポスターを見ていたんですが、そこで初めてマネの絵を目にして、本当に感動しました。

     

    ーマネの絵のどんなところに惹かれたのですか?

    黒の色がキレイだなって思ったんです。私が想像する絵画って、色鮮やかで華やかな世界だと思っていたのに、マネの絵は真っ黒だった。なんでこんなに黒いんだろうと思いました。

    ほかにも、ほかの人ならあまり題材にしないような闘牛で倒れてしまった男性の絵を描いていたり、絵を批判されたことによって自分で絵を切ってしまったりしたこともあるし、そういうエピソードも展覧会で知って衝撃を受けて。マネっておもしろい、画家という存在っておもしろいと思ったんです。

    キレイなだけじゃないマネの絵におもしろさを感じて、絵画や美術に対するイメージを覆されたんです。

    それで一気に美術にハマって、仕事の合間にずっと美術館に通うようになりました。

     

    画家たちが住んだ土地の空気を感じて、より理解が深まる

    ―オルセー美術館以外に、パリで好きな美術館はありますか?

    16区にあるマルモッタン・モネ美術館も好きですね。モネの展示が充実していて、近代絵画の展示室もあって、コンパクトだけど見応えがすごくある。

    19世紀の印象主義でベルト・モリゾという画家がいるんですけど、彼女の作品がけっこう好きで。マルモッタン・モネ美術館には、モリゾの作品も多く収蔵されています。

    もともと、この美術館のあたりは、その昔は田舎だったそうで、狩りをするときに使う建物だったという歴史もおもしろいなと思いましたね。

     

    ―パリは美術館の建築自体が魅力的ですよね。

    そうですね。フランスの美術館って、建築自体がおもしろいなと思います。

    このロダン美術館も、建築物がすごくいいなと思って。私には、まだ正直に言うと、彫刻の魅力がわからない部分もあるのですが、歩いていると心地良くて。展示室の中も窓がたくさんあって、光が入ってキレイなんです。

    こういう建物を見て、昔のパリを想像しながら、いまの街並みを歩くのが好きです。昔からあまり変わらず、このままっていうのはすごいことですよね。

    19世紀の美術を勉強していたから、歴史についても好きで調べたりもしていましたが、フランスに来て、どんな場所でその絵が描かれたか、歴史だけでなく地理も美術と関係があることに気づかされました。

     

    ―絵が描かれた土地を知ったことで、絵の理解も深まりましたか?

    そうですね。実は、いままで日本にいる時は気づかなかったけれど、日本の美術館ってすごいんですよ。全国各地の県立や私立の美術館に西洋絵画が所蔵されていて、どこでも見ることができるんです。

    でも、日本は絵を見るのに恵まれた環境はあっても、絵の背景を想像しづらいんですね。そういうときに頼りになるのが本や図録だったりして、よく読んでいたんですが、たとえば、モネがノルマンディー地方のエトルタの崖を描いたと書いてあっても、エトルタがどこにあって、どんな場所かというイメージまではできないし、読書だけではわからないことも多いんです。

    だからフランスに来て、さまざまな場所を巡って、画家たちが暮らした町の空気を知ることでいろいろ繋がったのがうれしかったですね。

     

    ―フランスでは、パリ以外にどんな場所に足を運んだのですか?

    ゴッホが最後に亡くなった場所オーヴェール・シュール・オワーズを訪れました。晩年のゴッホが精神的に大変な状況だったというのは有名な話だけれど、どんな場所で生活していたかって知らないんですよね。

    絵を通して、麦畑が広がっているところで生活していたのかなと想像していたのですが、実際に行って、やっぱり一年中麦畑広がるような自然豊かな小さな町だということを知りました。

    あと、昔のイタリア美術も好きなので、南フランスからイタリアのあたりも訪れるたびにすばらしいなと思っています。南は文化が豊かで、絵の色使いも鮮やかですよね。

    私は海よりも山が好きなのですが、セザンヌが生まれた場所エクサン・プロバンスもいいなと思いました。セザンヌはパリから離れて、サント・ヴィクトワール山を眺めながら、ずっと絵を描いていた。山の景色を見た時はすごくうれしかったし、日本人が富士山を見て心にくるものがあるように、セザンヌも同じ感覚で絵を描いていたのかなと思いました。

     

    美術の魅力も、ほどよいゆるさも、伝えていきたい

    ―この留学で気づいたことをもとに、日本に帰ったらやりたいことはありますか?

    日本に帰ったら、やっぱり美術を紹介する仕事はしたいですね。絵が描かれた土地の魅力や空気を、日本にいる人にもより伝わるように動いていきたいです。

    また日本に帰ったら、全国各地の美術館をもっと周りたい。フランスは同じものしか置かれていなかったりするけど、日本の美術館ってグッズもかわいくて。日本は思っている以上に美術に恵まれている国だとわかったから、もっと国内の美術館の魅力を発見したいです。

    もちろん美術に専念しようというわけではなく、音楽活動も楽しいので、うまく表現の幅を広げていきたいなと思っています。自分がフランスで感じたことや空気、学びなど、広がった視野を通して、美術をはじめ、さまざまなことを話していけるようになりたいですね。

     

    ―ほかに、パリで暮らしたからこそ気づいた日本の良いところはありますか?

    やっぱりトイレかな(笑)。ありきたりな答えだけど、トイレがキレイで、どこにでもあって、無料で使えるっていうのは本当にすばらしいことなんですよね。

    でも日本って、便利とかキレイとか、そういうところに美点を見出しがちかもしれないなとも思います。すばらしいことだけれど、そういうところにこだわりすぎるあまり、頑なになってしまうことも多い。

    フランスには、ほど良いゆるさがあるんですよね。パリも都市だけど、私たちが東京で感じる都市の空気とはまったく違っていて、広告が街の中にないし、大音量の音楽が聴こえてこないし、フランス人がその辺りの芝生の上でゴロンって転がっている。

    都市ってせかせかしがちな場所なのに、パリはそんなゆるさがあるから、みんなががんばりすぎなくていい空気も流れているのかなって思います。それによって問題が起こることもあるけれど、成り立っているんですよね。日本人は逆にがんばりすぎちゃうから、成り立たなくなるのかもしれません。

     

    ―そんなパリの良い空気、ぜひ日本に持ち帰ってください。

    そうですね。美術の仕事に音楽活動、女性の権利や自由の発信もしているし、日本に帰ってから、いろんなことが待ち受けています。

    でも、そこはうまく積み上げながらゆるくやっていけるのではないかという自信がつきました。表に出続けないといけないプレッシャーも、今はもうまったくありません。

    表に出ていなくても、必死で働かなくても、パリ暮らしの中で、自分は幸せだっていう自信がついたんだと思います。

     

    ***

     

    大好きな美術はもちろん、フランス人の暮らしや生き方を知ったことで、世界を広げることができたという和田さん。

    自分は幸せだという自信を持っていれば、どんな場所でも自分らしく生きていける。そんなパリ暮らしが教えてくれた幸せの在り方をもとに、軽やかに、豊かに、日本で新しい扉を開いていくのではないでしょうか。

     

     

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