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フランス漫画のユニークな世界観を伝える。板橋『MAISON PETIT RENARD』

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フランス漫画のユニークな世界観を伝える。板橋『MAISON PETIT RENARD』

板橋駅から国道17号に向かって7分ほど歩くと、住宅街の中に小さな書店がありました。フランス語で「小狐の家」を意味する『MAISON PETIT RENARD(メゾン・プティ・ルナール)』では、フランスの漫画であるバンド・デシネやアートブックなどを販売しています。

窓の外から覗いてみると、棚にはハードカバーの本がずらり。日本の書店とは少し違った雰囲気に好奇心を刺激されます。

笑顔で出迎えてくれた店主のデビエフ・ティボーさんと紫代(しより)さんご夫婦に、お店の成り立ちとバンド・デシネの魅力について伺いました。

フランス人翻訳家が書店をオープン。海外アーティストの魅力を発信

オレンジ色の屋根が目印の『MAISON PETIT RENARD』は、昨年8月にオープンしました。お客さんが4人も入れば、いっぱいになりそうな店内の壁を埋め尽くすたくさんの書籍。フランスで出版されたバンド・デシネやアートブックが、およそ600点以上並んでいます。


バンド・デシネ作家によるアートブックも豊富

「ここで取り扱っているのは、僕たちが好きなアーティストの作品ばかり。海外のアートを知るきっかけになってもらえたらうれしいです」。

そう話してくれた店主のティボーさんは、日本在住歴20年。高校生のときに読んだ日本の漫画に感銘を受け、現在は翻訳家として日本の漫画をフランス語に翻訳しています。


店主のデビエフ・ティボーさん。書店を経営しつつ、翻訳の仕事を手がけています。

当初は、翻訳作業の事務所として活用しようと考えていたそうですが、手元にあるたくさんの書籍を前に「せっかくだから、気軽に作品を手にとってもらう場所にしよう」と決意。書店としてオープンしたところ、メディアやSNSでたちまち話題を呼び、近隣だけでなく、遠方からも足を運ぶお客さんで賑わうようになりました。


お店に立つ紫代さん。「こんな本を探している」というリクエストに穏やかに対応してくれます。

「お客さんの対応で翻訳の仕事が滞ってしまったので、妻にヘルプを出したんです」と苦笑するティボーさん。

平日は紫代さんがお店に立つようになり、現在は、夫婦二人三脚で経営しています。

「子ども向けの絵本やレシピ本は私のセレクトです」と笑顔を見せた紫代さん。
お店に訪れる人について、「フランス人はもちろん、日本の方も多くいらっしゃいます。クリエイティブな仕事をしている方や、美術系の大学に通っている学生さんも多いです」と話してくれました。


日本ではあまりなじみがない作家の作品が。美しいタッチのイラストからインスピレーションが湧いてきます。

開店当初は“フランス語が読めなくても楽しめるように”と、アートブックを中心に置いていたそうですが、お客さんのリクエストもあり、次第に取り扱うバンド・デシネの数が増えていったそうです。

次の世代に受け継いでもらいたい。ハードカバーの装丁とどの世代も楽しめるストーリー展開がバンド・デシネの魅力


バンド・デシネの1ページ。日本の漫画とはコマ割りもセリフの量も異なります。

そもそもバンド・デシネとはどのような本なのでしょうか。ティボーさんは作品のページをめくりながら「ハードカバーという装丁や判型、ストーリー、漫画作りのプロセスまで日本の漫画とは大きく異なります」と答えてくれました。

「バンド・デシネは“次の世代に引き継いでいく存在”。長く保管できるようハードカバーの装丁が基本で、1冊で完結するため1ページのセリフの量も多く、文字も小さめです。日本の漫画を連続ドラマに例えるなら、バンド・デシネは1本の映画のようなストーリー展開が特徴的です」とティボーさん。


ティボーさんが子どもの頃に読んでいたバンド・デシネも、自宅に大切に保管されているそう。

フランスでは、日本の週刊誌、月刊誌のように連載ができる雑誌が少ないため、バンド・デシネ作家の作品は“1冊の本”として発行されるのが一般的です。連載を視野に入れていないため、ストーリーも基本的には1話完結。続編がある場合でも、前作を読んでいなくても楽しめるような構成になっているそうです。


奥行きある絵のタッチを見ているだけで楽しめます。

フランスでは、芸術の分野に分類されるバンド・デシネ。取り扱うテーマも幅広く、歴史や社会問題などさまざまです。ページを開いてみると、1つのコマの中に展開される奥深いアート性に目を惹きつけられます。全ページフルカラーで描かれているものも多く、手間暇を感じさせられます。

また、最近では日本の漫画に大きく影響を受けているバンド・デシネ作家も増えているようです。

「『キャプテンハーロック』や『聖闘士星矢』など、日本の漫画をリメイクする作家も増えてきました。1970年台にアニメ化された永井豪先生の『グレンダイザー』は、フランスで放送されると社会現象になるほど人気を呼び、昨年には、リメイク版のバンド・デシネが書籍売上の年間トップ10に入るほど注目されました」とティボーさん。


作家ジェローム・アロキエによる『キャプテンハーロック』のリメイク版

日本の漫画に影響を受けた作家の作品は、擬音を用いたり、大胆なコマ割りにしたりと、日本の漫画のエッセンスがプラスされているそう。


『星の王子さま』のリメイク版。作家によって作風もガラリと変わります。

来春には店舗を拡張。ギャラリースペースを設置しイベントも企画予定

『MAISON PETIT RENARD』では、2023年の春を目安にお店を拡張予定。現在の店舗と隣の物件をつなぎ、ギャラリーとしての活用や、海外アーティストのトークショーなどのイベントを企画しているそうです。

「本で見るイラストも美しいですが、原画ならではの魅力があります。この場所が、海外のアートを知るきっかけになってくれたらうれしいです」と目を輝かせて話してくれました。


定期的に新作を入れ替えているため、通うたびに新しい発見に出会えそう!

近年、日本の漫画家がフランスで描くことも増えているため、ティボーさんはフランスで出版するためのコーディネーターとしての仕事も多いそう。

ティボーさんが日本の漫画を読み、感銘を受けたのが高校生のとき。1冊の本との出合いが、ティボーさんをこの場所に導いてくれたように、ここでの作品やアートとの出合いが、誰かにとっての感動や刺激となってくれるかもしれません。自分好みの1冊を探しに『MAISON PETIT RENARD』の扉を開いてみてはいかがでしょうか?

 

 

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