2014年『フランス人は10着しか服を持たない』という本が出版され日本で大ヒットとなりました。ベーシックなものをさらりと着こなすパリジェンヌへの憧れは相変わらず抱きつつも、2021年現在のパリジェンヌはどんなふうにファッションを楽しんでいるのでしょうか。
今回は、6月に日本への進出がスタートしたフランスのファッションブランド『Bourgine(ブルジーヌ)』のデザイナーであるキャロリーヌさんに、服づくりへのこだわりやファッションがもたらしてくれる幸せについてお伺いしました。
「パリジェンヌだって、いつも美しいわけじゃないし、家では少しだらしない格好をしているの(笑)」と答えてくれたキャロリーヌさん。普段どんな想いでファッションと向き合っているのでしょうか?
キャロリーヌ・ブルジーヌ
17歳のある日、服は全ての芸術分野の交差点であると理解し、自身の小さな組織でそれを実現したいと思い、服をデザインすることを志す。ファッションスクールに通った後、A.P.C.の生産部門に所属。2015年A.P.C.で働きながら、完全受注生産のファッションブランド『ブルジーヌ』を立ち上げ、2017年にはサンジェルマン・デ・プレに店舗をオープン。今年の夏より、日本語版のInstagramやオンラインストアを立ち上げる。
決して着飾りすぎず、手を抜きすぎず、ミディアムであること
―数年前に日本では『フランス人は10着しか服を持たない』という書籍がベストセラーとなりました。実際に、持っている服の数は少ないのでしょうか?
キャロリーヌ:そんなことはないですよ(笑)。私たちが東京に憧れるように、日本の方々もパリに夢を抱いていてくださっているのかもしれませんね。
パリジェンヌは同じような服、例えばニュートラルトーンのアイテム、大きなサイズの白いシャツ、ネイビーのセーター、ジーンズなどを大量に持っています。私が知っているフランス人の典型は、博識で倹約家。小売店ではなく、個人売買や『vinted』というアプリでヴィンテージを購入し、長く愛用する。クローゼットは間違いなくいっぱいですよ。
いつか私のクローゼットをお見せして、「フランス人は300着しか服を持たない」という本を出したいくらいです!(笑)。
―日本では現在、なかなかお出かけができず、ファッションを楽しむ機会が減っているように感じます。キャロリーヌさんは、今どんなふうに洋服を楽しんでいますか?
キャロリーヌ:幸運にもパリではほとんどの施設が再開していて、おしゃれをする機会があります。私の経験では昼間と夜で服を変えることはせず、夜のお出かけ前にはよりファンシーな靴を履き、薄化粧をするだけかもしれません。パリの人々は、昼でも夜でも、常に“(ミディアムファンシー)”な装い。カジュアルでもなく、ドレスアップでもない装い。パリジェンヌは、いつもこの2つのカテゴリーのちょうど中間に位置するようにコーディネートしているような気がします。
ただ、家での服装は少しだらしないので、あまりいい絵とは言えませんね(笑)。
―ちょっとしたお出かけで何か心掛けていることはありますか?
キャロリーヌ:努力して見えないように、決して着飾りすぎないこと。偶然にも素敵な装いでアパートから出てきたかのように振る舞う。パリジェンヌにとっては重要な心掛けです。
―パリジェンヌのおしゃれの秘訣を教えてください。
キャロリーヌ:パリジェンヌはアパルトマンの小さな1室に住んでいることが多いので、いかにその小さなスペースを自分らしくデザインするか、その能力に長けている気がします。ファッションも同じで、自分が持っている服やチャームポイントをどう生かしてアレンジするか。
パリから届く、私だけの1着。ファッションブランド『ブルジーヌ』
サンジェルマン界隈の小道にたたずむ『ブルジーヌ』
―日本に初進出となったファッションブランド『ブルジーヌ』についても聞かせてください。ブランドを立ち上げたきっかけは?
キャロリーヌ:幼い頃から私にとってのファッションは、表現の手段でもあり、人とつながるのを手助けしてくれるアイテムでした。毎朝の服選びを通して、少しずつ自分をアップデートすることができ、新たな1日のスタートを後押ししてくれます。
そんな服が与えてくれるパワーを『ブルジーヌ』を通じて届けたいと思いました。『ブルジーヌ』は私の周りにパワフルな世界を作ってくれていて、自分自身のための美的で感情的なシェルターでもあります。その世界に同僚やお客様を迎えて、小さいながらも心地いいコミュニティを築いています。
どこかノスタルジックで遊び心のある『ブルジーヌ』のコレクション
―完全受注生産という仕組みをとっているそうですが、具体的にどのように服をカスタマイズしてもらえるのでしょうか?
キャロリーヌ:パリにあるショップの店頭には、2〜3サイズの服を用意していて、お客様に試着していただき、修正が必要であれば、そのお客様の体型に合うように裁断していきます。日本のオンラインショップでも、細かくサイズを記入していただいた上で、ピッタリなものをお届けするカスタムサービスも行っていますよ。
1人ひとりのサイズに裁断するのは、とても時間がかかる作業なのですが、誰に、どんなふうに着てもらえるのかがわかっていることが私たちのやりがいにつながるんです。
長く愛着を持ってもらうための誠実な服づくり
アトリエで作業中のキャロリーヌさん
―自分のために手をかけてくれた服がパリから届く。日本にいてもパリの人たちとのつながりを感じられるような素敵な取り組みですね。
キャロリーヌ:実用性ではなく、本質的に自分にとって必要だと思える作品しか作りません。そして、お客様にピッタリな洋服をお届けし、長く着てもらいたい。そのために、自分のアイデアが流行に近すぎるものではないか、常に問うようにしています。すぐに消費されてしまうことがわかっているからです。「飽きの来ないものを作る」という誠実さが、お客様に渡った後も服に宿り続け、服の陳腐化を妨げてくれると信じています。
キャロリーヌさんもお気に入りのルック「コットン リネンジャケット」
―なぜ完全受注生産という体制を選択されたのでしょうか?
キャロリーヌ:小さな規模のチームで仕事をするなかでの最適な方法が完全受注生産でした。あとは、環境に優しいものづくりを意識して、というのもあります。もちろん何も作らないほうが環境負荷はないので、私たちの服作りの全てが環境に優しいとは言えません。しかし、誰も欲しがらない商品を作って、何年も倉庫で寝かせて、燃やすというようなことはしない。
完全受注生産であれば、返品もほとんどありません。この6年間、何千もの服を作ってきましたが、うれしいことに在庫として残っているのは50着ほど。それらは少し値引きをしてアトリエで販売をしています。
他にも、私たちが使う生地は、主に大手のファッションハウスの古い在庫品。ベビーバッグやシュシュなどの小物にも活用していて、最後の切れ端まで使い切っています。
―パリの生地を使い、パリの工房で作られているお洋服が自分の手元に届くと思うと、とてもワクワクします。日本の人たちにどんなふうに『ブルジーヌ』を楽しんでもらいたいですか?
シーズン毎に作り替えるという『ブルジーヌ』のアイコンのサロペット
キャロリーヌ:実は今、私たち自身が大好きで、その良さを熟知しているもの、かつ日本の方にも愛してもらえそうなアイテムのみを集めた「ベスト・オブ・コレクション」の準備を進めています。
日本の皆さんは、ニッチでオーセンティックなフランスのファッションに興味を持ってくださっている。ありきたりなアプローチからは距離をおきつつ、パリ本来のエッセンスを楽しんでもらいたいです。
―最後に、キャロリーヌさんにとって洋服とはどんな存在ですか?
キャロリーヌ:洋服は、私が何者なのかを真摯に表現するために“着たり”、時にはその日になりたい誰かを演じるために“着飾ったり”、たくさんの選択肢を与えてくれます。
自分のことを明らかにしたり、隠したり、強調したり、トーンダウンしたり…さまざまな力を持ちますが、ほとんどの場合、あなたという存在をこの世界に示す勇気を与えてくれるものです。その服を着ることで自分自身の内面に近づけるなら、一般的なスタイルから少し離れても構わない。「自分がどうなりたいか」を大切にしてファッションを楽しんでもらえたらと思っています。
- ■店舗情報
- Bourgine(ブルジーヌ)
- オンラインショップ:
- https://www.bourgine.net/japan-eshop
Instagram:@bourgine.japan
ショップ:8 Rue de l’Echaudé 6e
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