「素敵なお店がオープンしてる!」友達グループに送信をタップする前にひと呼吸。今までみたいにみんなを誘って食事にでかけるのは、やっぱり気がひける。私たちの生活は、働き方も休日の過ごし方もすっかり変わってしまった。それでも外へ出ると、風は春の予感をはらませて「何か新しいことがしたいな」という気持ちを後押ししてくれます。
ひとりでできる新しいこと…気になっていたレストランへひとりで行ってみるというのはどうだろう。普段だったら友達を誘っていくレストランの食事をひとりで。
今回は、食にまつわるコピーライティングやSNSでの世界感づくりを手掛けるライターの名和実咲さんが、今、注目の日本橋・兜町エリアに昨年夏に誕生した『Neki(ネキ)』から、ひとりレストランの楽しみ方をお届けします。
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兜町の『Neki』ではじめてのひとりレストラン
ひとりで開く扉は、いつもより重いのかもしれない。ドキドキしながらお店に入ると、迎えてくれるのはオープンなカウンターと気さくなスタッフさん。小さなランプが灯る空間には、レコードの音楽が心地よい。
通常営業ではアラカルトメニューのみですが、今は短縮営業にあわせてランチ、ディナーともにコースが登場しています。「おひとりでの来店や短時間での利用も増えたので、量やバランスがわかりやすいコースをご用意しました」とのこと。
さっそくランチコースをオーダーし、最初のお料理を待ちながらノンアルコールカクテル「アップルシナモン シュラブ」をいただきます。
シュラブはフルーツビネガーをボタニカルや果実でフレーバー付けしたドリンクで、起源は古くオスマントルコまで遡ります。昨今のノンアルコール人気もあり世界で注目を集めているのだとか。
「最近はノンアルコールを好まれるお客様が増えています。シュラブの他にもノンアルコールカクテルやドリンクをご用意しています。お料理にも合いますので、迷ったら聞いてくださいね。もちろんお昼からワインも、大歓迎ですよ」。
【1皿目|聖護院カブ/柚子皮】
1皿目のスープは、仕上げに柚子皮を漬けたオイルをまわしかけてサーブしていただきます。ほっくりとしたカブの甘みに、爽やかに香りたつ柚子、肩の力がふっと抜けてきます。ほとんど水を加えず野菜そのものの水分で作られているため、カブの柔らかな旨味がぎゅっと凝縮されています。
【2品目|蝦夷鹿とグリーンペッパーのパテドカンパーニュ】
スープでほっと落ち着いたところに2皿目が登場。からし菜の影から存在感を放っているそれを、さっそくいただきます。パテの厚みが期待以上だと思わずにやりと口角があがってしまう。
蝦夷鹿のもも肉と鶏白レバー、フォアグラで作ったパテドカンパーニュ。かたわらは見慣れた黄色いマスタードではなく、イチジクにビネガーを効かせた自家製のペースト、フランスではコンディマンと呼ぶそう。イチジクのこっくりとした甘みとビネガーの酸味、さらにプチプチとした食感が楽しい1皿です。
普段はシェアして食べることの多いパテドカンパーニュを独り占めする喜びを噛みしめます。2皿目にして、さすがにワインが欲しくなる!せっかくなのでワインリストからおすすめを選んでいただきます。“2杯目からワイン”なんていう気ままなオーダーもひとりなら、気兼ねなくできる。
できる限り有機農法で作られた自然派ワインを中心に、西さんがセレクトしている『Neki』のワインリスト。取材時にはフランス・アルザス地方のワインがいくつかあったので、聞くと「アルザスのレストランで修行していた時に覚えた味を、無意識に選びとってしまうのかもしれませんね。僕自身レストランではいろいろ飲みたいタイプなので、飲み疲れしないナチュールを置くようにしています」とのこと。
ひとりだといつもよりもいろいろなことに興味がわいてくる。こうやってお店のエピソードを聞き出せるのもひとりだからこそかもしれない。
【3皿目|丹波黒どりのバルサミコ焼き/春菊ニョッキと空豆】
パテとのお別れまで残りわずか、というタイミングでカウンターの向こうから甘酸っぱい香りが漂ってきます。メインの丹波黒どりのバルサミコ焼きがいよいよ登場です。
火をいれたバルサミコってなんでこんなに魅惑的なのでしょう。ツヤツヤと輝く姿から目が離せません。あたたかくて甘くて酸っぱい。旨味をとじこめたお肉はもちろん、春菊のニョッキと空豆の鮮やかな連携にまた驚かされるでしょう。
【4皿目|黄桃プリン/カモミール/ココナッツ】
黄桃のプリンに、カモミールムース、ココナッツのメレンゲを組合せたデザート。なめらかなプリンにアジアンな香りの波が押し寄せ、スプーンでひとすくいするごとに夢心地です。
店内で焼き上げるというお茶菓子は、きつね色の生地からバターの芳醇な香りがふんわり立ち昇ります。外はサックリ、中はもっちりとしたひと口サイズの焼き菓子をほおばりながら、ひとりレストランの余韻に浸ってみては。
ひとりレストランのすゝめ
レストランではどう過ごそう?予約で気をつけることは?はじめてのひとりレストランは気になることがいっぱい。ひとりレストランを楽しむためのアドバイスをお届けします。
●お店の人との会話を楽しむ
普段は友人やパートナーと会話を楽しみながら食事をすることが多いため、ひとりで過ごすとなると手持ち無沙汰になってしまいそうで心配でしたが、
「『Neki』はおひとり様でもラフな気持ちで来ていただいてOKです!おひとり様の方だと私たちも料理やお店のことをお話しやすいですし、スタッフにも気軽に声をかけてもらえるとうれしいです」との言葉に緊張がほぐれます。
●カウンター席で料理を待つ時間もエンターテイメントに
ひとりレストランの際は、カウンター席がおすすめ。今回、私も、オープンなキッチンを取り囲むようにある丸みのあるカウンターで食事をいただきました。
カウンターとキッチンの高さがフラットになっているので、調理中の様子がよく見えます。シェフの手際のよさをじっくり観察したり、漂ってくる食欲を刺激する香りにうっとりしたり、お料理やドリンクについて質問したり。お料理を待っている時間も楽しく過ごすことができました。
●器など食事を彩るアイテムに目を向ける
『Neki』のカウンター席には、器がずらりと並んでいます。西さんが選んだものや、お店のために作家さんに作ってもらった器なのだそう。器やカトラリー、グラスなど食事を彩るもの、インテリアや照明、グリーンやお花など、じっくりとお店の細部に宿るこだわりに目を向けることができるのもひとりレストランの楽しみ。
●予約時のポイント
お店を選ぶ際、カウンター席があるお店やホテルに付随しているレストランはひとりレストランにおすすめです。予約の際は、「ひとりでの訪問」であることを伝え、カウンター席などをお願いするとよいでしょう。また、アレルギーや食べられない食材も事前の予約時に伝えるとベター。別の食材を手配するなど対応しやすくなります。
●ここではないどこかへ思い巡らせる
生活のほとんどがオンラインになって、いつでも私たちは誰かとどこかに繋がっている。スマホはカメラだけにして、もくもくと1皿に潜れば、ただひとりの私はいつもより感覚が冴えているみたい。味、食感、音楽、空間、器の手触り…1皿の向こうに広がる景色や人に思いを巡らせると、ひとりならより深く遠くへ潜っていけることに気づく。ひとりレストランの世界は始まったばかり、楽しみ方はどこまでも広がっています。
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- ■お店情報
- Neki
- 住所:東京都中央区日本橋兜町8-1 1F(地図)
- TEL:03-6231-1988
- 営業時間:11:30-15:00(L.O14:00)、17:00-20:00(L.O19:00)
- 定休日:水曜日
- Instagram:@neki_tokyo
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- ※緊急事態宣言解除後、営業時間・定休日・メニュー内容は、変更になる可能性がございます。最新情報は、お店のInstagram(@neki_tokyo)をご確認ください。
■ひとりレストランにおすすめのお店
- ・Bistro Rojiura(渋谷)
- 渋谷駅から緩やかな坂道を登ること数分。
繁華街の喧騒が落いてきた場所にひっそりと佇む『Bistro Rojiura(ビストロ ロジウラ)』。本格的なフレンチとビオワインを気取らず楽しめる お店です。 - –
- 住所:東京都渋谷区宇田川町11-2 宇田川柳光ビル1階(地図)
- 電話:03-6416-3083
- 営業時間:[朝]8:00-15:00(14:00L.O)/[夜]15:00-20:00(19:00L.O)
- 定休日:月曜日・第2、第4日曜日
- HP:https://bistrorojiura.jimdo.com/
- ・Organ(西荻窪)
- 西荻窪の人気ビストロ『organ』。カウンター席で自然派ワインと季節を感じる料理を味わいたいお店です。
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- 住所:東京都杉並区西荻南2-19-12(地図)
- 電話:03-5941-5388
- 営業時間:17:00~24:00(L.O.23:00)
- 定休日:月曜日・第4火曜日
- Instagram:@organ_tokyo
- ・BISTRO kiki harajuku(原宿)
- 原宿の賑やかな大通りから1本入った裏路地にある『kiki harajuku』。フルーツを使った創作フレンチとワインをカジュアルなスタイルで楽しめます。
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- 住所:東京都渋谷区神宮前6-9-9 アヴニール表参道1F(地図)
- 電話:070-3882-3150
- 営業時間:
- [lunch]平日 12:00-15:30(close)/土日祝 11:15 or 13:45
- [dinner]平日・土日共に 18:00-21:30(close)
- 定休日:水曜日、第1・3火曜日
- HP: http://kikioishii.com/
- Instagram:@kikiharajuku
※営業時間・定休日・メニュー内容は、変更になる可能性がございます。最新情報は、各お店のHP、Instagramをご確認ください。
ライター 名和実咲
「おいしいは尊い」がモットー。スイーツ情報誌の創刊・企画を経て、お菓子のスタートアップ・BAKE Inc.のオウンドメディアの編集・執筆、SNSを担当。2020年からフリーランスとして活動をスタート。食にまつわる言葉と企画を通して、お店や企業の世界観をつくり、伝える。なにより静謐なカフェを愛している。