昨年、「リサとガスパール」は日本で最初の翻訳本が刊行されてから20周年を迎えました。その間なんと30冊近い日本語版が発行されています。日本の多くの方の心をつかみ、愛されてきた「リサとガスパール」。物語の珍道中に笑い、誰もが癒されたことでしょう。
今回はそんな「リサとガスパール」を生み出したアンさん、ゲオルグさんに、この20年間の思い出と、2月23日から松屋銀座で開催される「日本デビュー20周年記念 リサとガスパールのおもいで展」に込めた想いを伺ってみました。インタビューの最後には、原画展のチケットプレゼントもご用意しているので、ぜひチェックしてみてください!
「リサとガスパール」とともに歩んだ20年
―昨年の2020年は「リサとガスパール」誕生20周年の年でした。日本版20周年を迎えて、いまの気持ちをお聞かせください。
アンさん(以下、敬称略):とても長い20年だったように思います。信じられない気持ちと、原画展が開催できることに感謝でいっぱいですね。かつて「リサとガスパール」1冊目の本を出版した際は、手にとった瞬間に宝物のように大切に感じました。その後も書店に並ぶ本を見つけに行っては、興奮したことを思い出します。
そして、『リサとガスパール』の歴史とともに3人の子どもたちを育ててきました。愛おしい長女がすでに20年を経て大人になったように、私たちも年を重ねています。それでも、最初の頃と変わらない情熱を抱きつつ、夫婦で同じエスプリを持って作品づくりに取り組めていることがとてもうれしいです。新しい本を作ることへのしあわせな気持ちは、最初の1冊目から変わっていません。
ゲオルグさん(以下、敬称略):アンが新しいストーリーを思いつく瞬間がいまでも大好きです。
―20年経っても変わらず、フレッシュな作家としての関係性がとっても素敵ですね…!まずはアンさんがストーリーを提案し、その後にゲオルグさんが絵を描く。この制作方法に20年の年月を経て変化はありました?
アン:制作方法は当初から変わっていませんね。でも、最初の頃は「リサとガスパール」のキャラクターとしてのヴィジュアルが明確ではなかったんです。多くの冊数を生み出すことを経て、現在では、彼らの確固たる容姿がクリアになり、彼らの姿を想像しながらストーリーを編み出すようになりました。
ゲオルグ:アンが頭の中で描くイメージに関して、より詳細を伝えてくれるようになりました。そのおかげで正確性が増してきたんだよ。
アン:イメージに関しては、私は変わらず漠然としているんですよ。それでも、私が求めるような絵にゲオルグが作りあげてくれるんです。
―おふたりのチームワークで出来上がっていくことは、いまも変わらずなのですね。他にも何かこの20年での変化はありましたか?
アン:昔はデュオとして、ふたりで制作を行っていたのですが、ブリジット・ブロンという先見の明のある素晴らしい編集者かつ批評家が担当してくれるようになりました。以来、より良いものづくりができるようになりましたね。
ゲオルグ:ブリジットはストーリーと絵の両方に対して手厳しく、私たちにとってとても刺激的な存在です。いま昔の絵を見直してみると、「リサとガスパール」は妙に痩せていて尻尾が長かったなあと。でもいまは太りすぎですよね(笑)。少し痩せさせないと、と思っているものの、いつも同じルーティンにならないように、多少の変化はつけたいと思っているんです。強化する点としては、風景などが中間色にならないように、光を多くしたいと思っています。
―長い年月を経て変わっていくものと変わらないもの。今後も貫き通したい作品づくりへのこだわり、物語を書く際に大切にしていることはありますか?
アン:ストーリーとしておもしろくすること。でも筋道を外さないこと!リサとガスパール」がどんなにいたずらをしても、行き過ぎないモラルを持っていることですね。とはいえ、読者が予期せぬテーマであることも肝心。その塩梅は心がけていますね。
ゲオルグ:そう、予期せぬサプライズなストーリー性、同じような物語の反復を避けたい。現状に満足してしまわないように、さらなる向上を心がけています。
―これまでの作品の中で、特に思い出されるものはなんでしょうか?長く「リサとガスパール」の成長を見守ってきた読者にとって気になるところです。
ゲオルグ:『リサ ジャングルへいく』ですね。奇妙でファンタジーで、とにかく愉快。リサが繰り広げるストーリーは、どれも楽しいものばかりです。ほかにも『リサとガスパールのクリスマス』は『リサ ジャングルへいく』と同様に不思議なエスプリ感に溢れているんです。
アン:私も一緒。『リサ ジャングルへいく』ね。リサとヒョウの交わりがすごくかわいいの。もう1冊は同じく『リサとガスパールのクリスマス』。シャワーのカーテンとの絡みがすごく好きなんです。
ゲオルグ:そう、あの絵は特別におかしいんだよね。あの頃の絵に少しだけ戻ろうという気持ちもあるんですよ。当時、6冊をほぼ同時に進行していて、そして、まだ長女が赤ちゃんだったんです。『リサとガスパールのクリスマス』の最初のページに長女のベッドを登場させたり、僕が描いている間は長女がそばにいたり。そして、最終ページを仕上げたのは早朝。油絵がなかなか乾かなかったことも思い出しますね。
大好きな日本での思い出
―絵本『リサとガスパール にほんへいく』『リサとガスパール とうきょうへいく』の出版など、日本と多く関わってきました。アンさんとゲオルグさんの日本の思い出や印象深いエピソードを教えてください。
アン:最初の日本旅行は忙しかったですね(笑)。日数も時間も足りなく、子どもも一緒だし、さらに仕事もあって…。見たいものはたくさんあるけど、時間がありませんでした。だから思い出としては、「いつか時間をかけてすべてのものを見たい!」という夢を抱いたことです(笑)。
ゲオルグ:僕は富士急ハイランドの「リサとガスパール タウン」のオープニングですね。そこには本に描かれた細かな部分も見事に表現されていたんです。
アン:タウンに着くなり、「なんと驚異でクレイジーな!」と思いました。私たちが前の小さなアパルトマンで絵本を作っていたなか、世界の先端にあるような、別の国でゲオルグの描く世界がそのままに再現されていたんです。ホテルにはリサの部屋、ガスパールの部屋が作られ、部屋の壁紙や浴室なども本当に絵本と同じ生活風景がそこに存在していました。驚きを隠せませんでしたね。
ゲオルグ:クリエーターさんとの素晴らしい出会い、現地で出会ったスタッフの方たちの優しさに包まれ、感無量でした!
―日本でもう一度訪れたい場所や、新たに行きたい場所、次回ぜひやってみたいことなどあれば教えてください。
ゲオルグ:東急ハンズだよ。もう僕はハンズに行きたくてたまらない(笑)。
アン:日本が大好きになったので、とにかく再訪したい気持ちでいっぱいです。再度見たい場所もたくさんあるし、新しい発見もしたいです。とにかく好奇心が旺盛で訪問先を決められないんですよ。だから、皆さんの案内に従います!
―日本のどんな部分がお好きですか?
アン:日本の人たちの好奇心、情熱、そして洗練されていること…。ひとつに絞れないわ。フランスと異なる風景を発見するのが何よりも楽しいです。本当は昨年の夏に4度目の旅行を予定していたのですが、コロナ禍にあり実現できずとても残念です。
―「リサとガスパール」とともに、今後描きたい物語はありますか?
アン:場所やエピソードからテーマを考えるというより、突然、ぱっと頭の中によぎるインスピレーションから構想を練っているんです。だから、何が頭の中に突然浮かぶかはわからないんです。それが私のスタイルなので。
でも、「オペラ・ド・パリ」を舞台にしたいとずっと昔から考えていました。私のおじいさんがオペラ座のオーケストラのバイオリニストだったから、小さな頃から身近なんです。美しいところですし、自分の子どもたちを連れていくなど、私たちにとってはとても大切な場所です。
ゲオルグ:いまでは長男がおじいさんの血を引き継ぎ、バイオリンを弾いたり歌を歌ったり。僕はすぐこのストーリーが気に入ったので、すでに精力的にオペラ座の絵を描いています。現在、コロナ禍でオペラ座の見学はできないのですが、サイトのヴィジュアル見学を駆使していますね。
原画展が東京で開催! 「日本デビュー20周年記念 リサとガスパールのおもいで」
―2月23日から開催される「日本デビュー20周年記念 リサとガスパールのおもいで展」では、日本で未公開の絵も公開されるとのこと。見所を教えてください!
ここは、私たちのお気に入りの場所。そして、そのままのヴェニスを描きかったんです。左の杭であったり、右の大きなフェリーであったり、自分が見たままに描きました。レストランに行けば、テーブル上にグリッシーニがあったりね。
アン:想像上のこの小さな主人公とパリやN.Y.やヴェニスといった本物の都市の両方をマッチさせるというギャップがこの物語の特徴でもあります。本当に存在する場所が表現された素晴らしい絵の中で、ユーモアのあるおかしくも優しいガスパールが登場する。いまにつながる作品づくりの出発点でした。
アン:子どもたちと一緒に散歩をして、ポニーに乗せたり…。私の子ども時代から馴染みの深い公園であり、子どもたちにとっても同様です。現在引っ越してより近くになったのでとてもうれしいです。パリの典型的な美しい公園ですから、ここに「リサとガスパール」を連れてきたかったんです。
ゲオルグ:オペラ座から眺めたアンとアンのお父さんとの思い出のシーン「the Galleries Lafayette」。
アン:オペラ座のバイオリニストだったおじいさんが子どもの頃から年末に連れて行ってくれた場所です。オペラ座に隣接するデパートの「ギャラリー・ラファイエット」。クリスマス時期に大人気のショーウィンドウが、子ども心に本当に楽しくて、ラファイエットに首ったけでした。それをストーリーにしたんです。
ゲオルグ:僕の大好きな画家のギュスターヴ・カイユボットが住んでいたアパルトマンもこの中に描かれているんだ。
ゲオルグ:この「リサとガスパール」の背景に描かれた家は、いまでも存在するんですよ。お城のような邸宅とか、赤い家とか。それは、画家のクロード・モネが描いた当時と変わらない風景なんです。
ゲオルグ:フランスとイタリアとの国境に近い街、マントンで偶然見つけて美しい階段を描いた「stairs in Menton」。車で家族旅行をしているときに見つけました。この階段は上に佇む教会へ導いてくれます。
―最後に、「日本デビュー20周年記念 リサとガスパールのおもいで展」に向けてメッセージをお願いします。
アン:今回の展示会は私にとってとても重要なものです。「リサとガスパール」が誕生して20年になります。皆さんがこの展示会を気に入ってくださいますように。私たちがこの20年間、作品を作ることを喜びとしていたように、皆さんにとってこの原画展が喜びとなったらうれしいです。
ゲオルグ:「リサとガスパール」と皆さんがこの展示会で会えることをとてもうれしく感じています。楽しんでいってくださいね。
※応募を締め切りました!たくさんのご応募ありがとうございます。
- ■原画展情報
- 日本デビュー20周年記念 リサとガスパールのおもいで展
期間:2021年2月23日(祝・火)~3月3日(水)
会場:松屋銀座8階イベントスクエア
住所:東京都中央区銀座3-6-1
開場時間:松屋銀座HPをご確認ください。
※営業日・開場時間は変更になる場合あり。
※混雑時は入場待ちや、整理券を配布する場合あり。
料金:一般 1,000(700)円、高校生 700(500)円、中学生 500(400)円、小学生 300(300)円
※()内は前売料金。前売券はローソンチケットにて2021年2月22日(月)まで販売予定。
※入場券の詳細は松屋銀座HPにて告知。
※グッズ販売コーナー(原画販売コーナー含む)への入場は展覧会チケットが必要。
※商品はデザインと価格が変更になる場合あり。
- ■期間限定「リサとガスパールカフェ」
期間:2021年2月23日(祝・火)~3月3日(水)
時間:松屋銀座HPをご確認ください。
会場:松屋銀座8階MGカフェ
- 【問い合わせ先】
松屋銀座
HP:https://www.matsuya.com/ginza
TEL:03-3567-1211(大代表) - © 2020 Anne Gutman & Georg Hallensleben / Hachette Livre
執筆:TOMOKO YOKOSHIMA (Presse Parisienne)
撮影:IDA SUMIYO、MIKA INOUE (Presse Parisienne)