19世紀末に活躍した後期印象派を代表する画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。「ひまわり」や「糸杉」などの名作を多数残し、うねるような力強いタッチと、生命力を感じさせる鮮やかな色彩表現が、世界中の人々を魅了し続けています。
上野の森美術館で現在開催中の「ゴッホ展」や、ゴッホの画家人生を描いた映画『永遠の門ゴッホの見た未来』が11月より公開になるなど、来年に没後130年を迎えるゴッホの作品と生き様に、今再び注目が集まっています。
絵に情熱を注いだゴッホの軌跡と独創的な作風
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1853年、オランダ南部のフロート・ズンデルトで牧師の子として生まれたゴッホ。16歳から、画廊での勤務や伝道師の仕事を経験しますが、いずれも長く続かず、弟テオの勧めで画家の道を進む決断をしたのが27歳のことでした。
オランダ、ベルギー、フランスと拠点を移しながら画家活動を続けたゴッホは、35歳のとき、芸術家の共同体を作ることを夢見て南仏のアルルへ。この地で代表作「ひまわり」や「夜のカフェテラス」などの名作が多数生まれました。
アルルに到着して間も無く、アトリエとして使っていた「黄色い家」で画家のポール・ゴーギャンと共同生活を始めたゴッホですが、互いの絵に対する認識の違いなどから次第に歯車が狂い始め、「耳切り事件」が引き金となり、わずか2カ月で破綻。以降もゴッホは癇癪性の発作に苦しみながら入退院を繰り返すことになります。しかし苦しみの中にあっても、ゴッホは絵を描くことを止めず、療養院の庭の風景画やオリーブ畑の絵を精力的に描き続けました。
1890年に精神医のガシェ博士を頼ってやってきたパリ近郊ののどかな村、オーヴェル=シュル=オワーズでは、1日に約1点という驚異的なスピードで制作を続けたゴッホでしたが、7月27日にピストル自殺を図り、その2日後、テオに看取られて37年の生涯を閉じたのです。
ゴッホが画家として生きた期間はわずか10年ほどでしたが、油絵は約850点、素描(デッサン)は約1000点が現在確認されており、驚くほど多作で濃密な画業だったことを伺わせます。
フランスで確立した作風
オランダ生まれのゴッホですが、フランスとの関わりは深く、33歳以降は、パリ、アルル、サン=レミ、オーヴェル=シュル=オワーズとフランス内で点々と居住地を変えています。
パリ在住時、ゴッホはアトリエに通いながらさまざまな画家との交流を深め、その交友関係は晩年まで続いたと言われています。例えばフランス人画家、フェルナン・コルモンのアトリエ通いで知り合ったアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックとは、その後も度々会っており、1887年には、パリのクリシー大通りにあるレストランで、ゴッホやロートレックを含む複数の印象派の画家たちのグループ展も開催されました。
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ゴッホの絵といえば、厚く塗られた絵の具による渦巻くような激しいタッチが特徴的ですが、その作風が確立し始めたのは、1888年にアルルに移住した頃から。それまでの暗い色調が一変し、明るく鮮やかな色彩のゴッホらしい筆致がキャンバスの上に開花しました。
パリを始め、フランス各所での印象派の画家たちとの出会いが、ゴッホに豊かな刺激を与え、傑作、良作と評される晩年の作風へと導いたのです。
ゴッホに大きな影響を与えた2つの出会い。―上野の森美術館「ゴッホ展」
上野の森美術館で現在開催中の「ゴッホ展」では、約40点のゴッホの作品に加え、「ハーグ派」と「印象派」を代表する巨匠たちの作品約30点が、ゴッホの手紙や言葉とともに紹介されます。
第1部で紹介されるのは、1870年から1900年頃にかけてオランダ南西部のハーグを中心に活動した「ハーグ派」の作品。ゴッホの唯一の師であるアントン・マウフェやマテイス・マリスの作品も、ゴッホの作品に並んで展示されています。
1880年に画家として生きる決意を固めたゴッホは、その後、独学で絵の勉強を続けてきましたが、1881年にオランダのハーグで、親戚でもあったマウフェに絵の指導を受け、描くことの基礎を学びました。
柔らかい光とくすんだ色調で日々の暮らしを題材に描いたものが多いのがハーグ派の特徴。この時期のゴッホも「農婦の頭部」や「ジャガイモを食べる人々」などから見られるような、暗い色味で生活の苦しみや辛さを強調したものを多く制作しました。
第2部は「印象派」で構成。19世紀後半にフランスで興った印象派は、屋外で制作し、太陽光とともに移ろう一瞬の情景を捉えようと新しい技法を生み出します。1886年に弟テオを頼って来たパリで印象派と出会ったゴッホの作風は、次第に光と鮮やかな色彩に満ちたものへと変化していきます。
特にゴッホはアドルフ・モンティセリを「色彩のプロフェッショナル」として尊敬していました。本展では、モンティセリの作品「陶器壺の花」とゴッホの作品「花瓶の花」を近くに展示。ゴッホの作風の変化を、他の画家たちの作品と比較しながら観るのも面白いのではないでしょうか。
ハーグ派から印象派まで、ゴッホの絵がどのように変わっていったのか、その変遷を辿ることができる今回の展覧会は、ゴッホの人生と芸術にまつわるストーリーを私たちに示してくれるでしょう。
ゴッホの瞳に映る世界の美しさを想う。―映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』
© Walk Home Productions LLC 2018
11月8日(金)に公開される映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』では、アルルに旅立つ直前から晩年までの期間、ゴッホが画家として理想を追い求めるひたむきな姿が描かれます。
© Walk Home Productions LLC 2018
生前、ゴッホの絵への情熱は周囲から理解されず、作品の芸術的価値も認められていませんでした。隙間風が吹き込む部屋で、乾いたパンをかじって空腹を満たしながら素描するゴッホの生活は貧困そのものでしたが、その瞳には光と色に溢れた美しい世界が映っていたということを、劇中に登場する色彩で満ちたキャンバスから感じ取ることができます。
ゴッホの代表作である「医師ガシェの肖像」や「郵便夫ジョセフルーラン」「ジヌー夫人(または、アルルの女)」「白い果樹園」などの制作シーンも登場する他、時折、「ゴッホの視点」で風景や日常が映されており、画面の上下で被写界深度を変えた独創的な撮影スタイルからは、「ゴッホの瞳に世界はどのように映っていたのか」という疑問にヒントを与えてくれます。
© Walk Home Productions LLC 2018
「Why do you paint.(なぜ絵を描くのか)」。劇中に何度か登場するこのセリフは、周囲から投げかけられるゴッホへの問い。独創的すぎる画風と狂気とも取れる絵への情熱にゴッホを取り巻く人の困惑が伺えます。
その問いに対して、ゴッホは「自分は画家だから」「なにも考えないようにするため」とさまざまな回答を述べますが、中でも心に響くのは、聖職者の男に言った「才能を授かったから。未来の人々のために、神さまが私を画家にした」という言葉です。
© Walk Home Productions LLC 2018
晩年のゴッホの「速描き」に対して友人のゴーギャンは、「もっとゆっくり描けばいい」と指摘しますが、ゴッホがたくさんの作品を世に残したのも、神がゴッホに与えた才能の1つ、そして現代を生きる私たちへのギフトだったのかもしれません。
さらに監督のジュリアン・シュナーベルは、「自殺」という見解が有力とされるゴッホの死について新しい視点でその最期を描きました。謎の多いゴッホの死は、悲劇でありつつもミステリアスさを漂わせ、より一層その生き様に興味を抱かせるのです。苦悩の末にたどり着いた唯一無二の画風。絵を描くことに命を注いだゴッホの情熱に、深く感銘を受ける作品です。
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貧しい暮らしを強いられようとも、周りから理解されずとも、自分の目指すべき絵を描くために己を貫いたゴッホ。時を経て世界中の人から愛される1人の画家の人生と、作品の数々を、美術館と映画館で触れてみてはいかがでしょうか。
- ■イベント情報
- ゴッホ展
- 開催期間:〜2020年1月13日(月・祝)
- 会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園 1-2)
- 開館時間:9:30〜17:00(金曜、土曜は20:00まで開館)
- *最終入場はそれぞれ閉館30分前まで
- 休館日:12月31日(火)、1月1日(水)
- 入場料:一般1,800円、大学・専門学校・高校生1,600円、中学・小学生1,000円
- https://go-go-gogh.jp/
- ■作品情報
- 映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』
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- 監督・脚本:ジュリアン・シュナーベル 『潜水服は蝶の夢を見る』
- 脚本:ジャン=クロード・カリエール『存在の耐えられない軽さ』
- 出演:ウィレム・デフォー 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、ルパート・フレンド『スターリンの葬送狂騒曲』、
- マッツ・ミケルセン 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、オスカー・アイザック 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
- マチュー・アマルリック『潜水服は蝶の夢を見る』、エマニュエル・セニエ 『潜水服は蝶の夢を見る』
- 配給:ギャガ、松竹 © Walk Home Productions LLC 2018
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- 原題:At Eternity’s Gate/2018/イギリス・フランス・アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/111分/字幕翻訳:松岡葉子
- HP:https://gaga.ne.jp/gogh/
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- 11月8日(金)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー
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