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    写真家・川内倫子が撮り下ろした7歳の私とカーディガンプレッション

    世界的な写真家・川内倫子さん。透明なベールをまとったような優しい風合いの写真は世代や国境を越え、多くの人を魅了し続けています。そんな川内さんがフランスのファッションブランド『アニエスベー(agnès b.)』とコラボレーションし、写真展を開催することになりました。お題は『アニエスベー』の名作・カーディガンプレッションを川内さんの感性で切り取ること。写真展の見どころ、写真家として今考えていることについてゆっくりお話を伺ってきました。

    川内倫子(かわうちりんこ)

    1972年滋賀県生まれ。2002年『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞受賞。国際的にも高い評価を受け、国内外で数多くの展覧会を行う。主な個展に「AILA + Cui Cui + the eyes, the ears,」カルティエ財団美術館(2005年パリ)、「照度 あめつち 影を見る」東京都写真美術館(2012年)などがある。著作は写真絵本『はじまりのひ』(2018年)、作品集『Halo』(2017年)など多数。

    Instagram:@rinkokawauchi

    川内倫子が撮る『アニエスベー』の名作カーディガン

    −今回の写真展はフランスのファッションブランドである『アニエスベー』とのコラボレーションですね。写真展開催のきっかけを教えてください。

    川内倫子さん(以下、敬称略):『アニエスベー』さんから「40周年を迎えるカーディガンプレッションを撮ってほしい」と依頼をいただいたのがきっかけです。「自由にどんな形で撮ってもいい」というオーダーでしたので、私が普段発表している作品のように撮ることにしました。

    −川内さんの作品のように、というと?

    川内:依頼のお仕事ではない撮影では、人物を被写体にすることは少ないのですが、家族をずっと撮り続けているので、3歳の娘にカーディガンプレッションを着せて撮影しようと思いつきました。ただ、娘を撮るだけだと「40周年」という時間を表現しきれないと感じて、40年前の自分を思い出してみたんです。

    40年前の私は7歳。その頃、子どもながらにとても生きづらさを感じていたんですね。この機会に過去の自分と改めて出会いたくて、友人のお子さんの7歳の女の子(かおるちゃん)の撮影もすることにしました。

    7歳の女の子、かおるちゃんの写真

    −川内さんの40年前の姿を女の子に重ね合わせたんですね。

    川内:はい、自分の過去を追いかけるように撮る感覚でした。

    −ちなみにデザイナーのアニエスベーさんとはもともと交流があったのでしょうか。

    川内:撮影でご一緒するのは初めてです。15年前にフランスの「アルル国際写真フェスティバル」に参加した際に、「カルティエ財団美術館」の館長が紹介してくださり、そのまま彼女の別荘に遊びに行きました。

    −初対面で別荘に行ったなんてすごい展開ですね!

    川内:「今からお城に行くよ」と言われ、アニエスベーさんが運転する車で30分。冗談だと思っていたら本当にお城で驚いたことが良き思い出です(笑)。

     

    撮ることで美しさをリレーしていきたい

    −今回の撮影で工夫した点はありますか?

    川内:娘は普段と変わらず自然な姿を撮りましたが、7歳の女の子は顔を写さないようにスローシャッターやあえて手ブレさせて撮ることで、変化をつけました。

    −なぜ顔を写さないようにしたのでしょう?

    川内:顔って情報がつまっているので、写すと感情移入できない気がしてしまいます。今回は顔が写ると「かおるちゃん」の物語になっちゃう。7歳だった私自身の亡霊を撮っている感覚だったのであまり顔を写さないよう気をつけました。

    写真集も同時発売される

    −そうなんですね。思い入れのある写真はありますか?

    川内:写真集の表紙になった写真とお花を見せている娘の写真が印象に残っています。写真集の表紙の写真を見ると小さかった頃をありありと思い出せるんです。私も同じ髪型だったし、よくうつむいて立っていたなあ、と。あの頃の自分に寄り添えた1枚でした。

    −女の子のカーディガンが赤色だったのは意図があるのでしょうか?

    川内:さっき気がついたんですけど、ランドセルの赤を想起していたのかなと思います。私の時代の女の子のランドセルはほとんど赤だったんですね。小学生の自分の象徴がランドセルだったこともあり、自然と赤を選んだのかもしれません。

    −娘さんの写真はやわらかくてやさしい写真ですね。

    川内:これは「きれいなお花をお母さんに見せたいから持ってきた」という娘の感情がダイレクトに伝わってきた瞬間を撮っています。そういう感情がこの子に芽生えたのがとてもうれしくて。心の成長を感じたし、娘の気持ちを写真に撮ることで他の人にその思いをシェアできますよね。美しさを共有して、リレーできたらとも思いました。

    私が作品をつくる時は人にシェアしたいという気持ちが大きいんです。娘もその気持ちが芽生えたという事実がとても喜ばしく、象徴的な写真です。

    −写真展では娘さんと女の子の写真がランダムに並べられていますね。

    川内:今、娘を見ていると小さかった頃の自分をふと思い出したりします。そういった自分の“記憶”と“今”が混ざり合う構成にしたくて、2人の写真を混ぜました。

    撮影は今春から初夏にかけて東京近郊で行われた

    −タイトルの「When I was seven.」も印象的です。

    川内:撮影後に打ち合わせした時、自然に浮かんできました。“7歳だった時の自分”が作品のテーマで、そのまま英語にすると「When I was seven.」。『アニエスベー』のみなさんも賛成してくれてあっという間に決まりました。

    −書き下ろしたカーディガンプレッションとのエピソードにも心を打たれます。

    川内:大学生の頃、カーディガンプレッションが流行っていて周りの友達がみんな着ていたんです。でも私はお金がないから手が届かなくて…。娘に着せて撮影したことで、その頃の自分ともつながれた気がします。撮影でカーディガンプレッションを手に取ってみて、カジュアルにもフォーマルにもシーズンレスに着こなせる万能選手だと思いました。やっぱり長く愛されるものには理由があるんですね。

     

    心動く瞬間を今も撮り続けている

    −ちなみに『アニエスベー』の本場・フランスにはよく行かれるのですか?

    川内:去年、映画のスチール撮影や写真集制作など仕事が重なって、何度か訪れましたし、秋には1ヶ月ほど滞在していました。パリって理由もなく年に1回は行きたくなりませんか?カフェに座ってワインを口に入れた瞬間に人心地がつくというか(笑)。光が美しくて食事もワインもおいしくてパリは好きです。

    −国内外で20年以上幅広く活躍している川内さんですが、今、どんな瞬間にシャッターを押したいと思うのでしょう?

    川内:写真を撮りはじめた頃と変わらず「あ!」と思った瞬間です。みなさんがおいしいごはんや美しい景色を撮ってInstagramに投稿するのとあまり変わらなくて、「あ!すごいもの見ちゃった」っていう瞬間にシャッターを押します。「こんなに美しい瞬間を私1人で見るのはもったいないからみんなで見よう」っていう感覚。職業的にということもありますが、割に普通でシンプルなんです。

    −今、一番心が惹かれる被写体は何でしょう?

    川内:それも昔から変わらなくて、自然の景色や小さな子どもや生き物です。

    −どんなカメラで撮ることが多いですか?

    川内:もともとはフィルムでしたが、最近はフィルムとデジタルどちらも使っていますね。メインがローライフレックスとキヤノンのデジタル一眼レフカメラ。今回の写真展の作品ではどちらも使っています。フィルムだから撮れる写真もデジタルだから撮れる写真もある。

    −今後、写真を撮る以外で挑戦してみたいことがあれば教えてもらえますか?

    川内:まさに挑戦中なんですけど、長編のエッセイを書くことです。今「MilK JAPON」のウェブサイトでエッセイを連載していて、来年1冊にまとめる予定です。書籍化が決まったので、最近はより長めのエッセイを書くようになりました(笑)。

    −とても楽しみです。写真を撮ることと文章を書くこと、川内さんにとってどう違いますか?

    川内:似ていると思います。たとえば写真集を作る時、1枚の写真を選んでから次の写真を選ぶのと同じで、文章も1行書いてから自然に次の1行が出る。シークエンスが大事という意味で、作り方は割と一緒なんですよ。

    とは言え、違うところもあります。写真は瞬発力で作る部分が大きいけど、文章は一つの単語について「もっと合う言葉ないかな」ってすごく模索するのでもう少し持久戦。作品にもよりますが、写真が短距離走で、執筆がマラソンみたいな感じでしょうか。どちらも好きですね。

    −最後に写真展の見どころを教えていただけますか?

    川内:『アニエスベー』×川内倫子のコラボレーションとして成立できた写真展だと思っています。というのもコラボレーションって難しい側面があって「カーディガンプレッション40周年」というテーマと自分の作品をどうミックスさせるかという命題をクリアしないといけない。たとえば商品を撮らされている感が出ちゃうと作品としてはうまく表現しきれないんです。

    −その塩梅が難しそうです。

    川内:そうなんです。ただ、一般的なファッション撮影だと「カーディガンの形をきれいに見せたい」などの制約があるんですけど、今回は「本当に好きに撮っていいですよ」と言われたので(笑)。自由度が高かったからこそ自分が解放された感覚で撮れたのが良かったかな。

    −きっと川内さんの作品のファンも楽しめる写真展ですね。

    川内:そうだと良いと思います。写真集やウェブで写真を見るのと、写真展に足を運んで観るのは全くの別体験です。会場に立って作品と対峙することで湧き上がってくる感情があると思うので、ぜひ足を運んでもらいたいです。

     

    • ■写真展情報
    • 川内倫子写真展 “When I was seven.”
    • 会期:2019年9月11日(水)〜10月20日(日)
    • 会場:アニエスベー ギャラリー ブティック
    •    東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2F(地図
    • 営業時間:13:30 – 18:30 (月曜休廊)
    • HP:https://shop.agnesb.co.jp/contents/snapcardiganstory/exhibition/

     

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