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    蕎麦のカヌレも!ボルドーの伝統菓子カヌレの専門店・深大寺『ル・カナール』

    花のような、王冠のようなかわいらしい形。キャラメル色の外側をひと口かじれば、口いっぱいに広がる香ばしい砂糖とバターの豊かな風味。外はカリカリ、中はしっとりとした食感のコントラストを楽しめる「カヌレ」はフランス南西部の街・ボルドー生まれの焼き菓子です。今回は東京の調布市深大寺にある、小さなカヌレ専門店『Le Canard(ル・カナール)』を訪れました。

    店先のチェアに小さな看板がありました

    吉祥寺駅からバスで約20分。野ヶ谷バス停を降りると、バターと砂糖の甘い香りが鼻をくすぐります。バスのすぐ目の前が、今回のお目当て『ル・カナール』です。

    小さな扉の奥には、こんがり焼き色のついた、コロンとかわいいカヌレたちが白い陶器皿の上に並んでいます。『ル・カナール』は、店主の中谷優子さんがひとりで経営する小さなカヌレ専門店。以前は杉並区の久我山にお店を構えていましたが、2015年4月にここ深大寺に移転。現在は金曜日と土曜日の週2日限定でお店を開き、それ以外の曜日は完全予約制で手作りカヌレを販売しています。

    カヌレの魅力やこだわりについて、中谷さんにお話を伺いました。

     

    ボルドーの伝統菓子カヌレの専門店

    以前は会社勤めをしていた中谷さんが、カヌレ専門店をオープンさせるきっかけになったのは、フランスのボルドーへの語学留学でした。

    「フランス文化とワインが大好きで、大学時代もフランス文学を学んでいました。大学卒業後、会社で働いていましたが、ある日ふと思い立って、語学留学することにしたんです」と中谷さん。

    「ワインの都」とも言われるボルドーの街での2年半は、中谷さんに日本では得られなかった刺激と、日々の生活を楽しむ気持ちのゆとりを教えてくれたと言います。

    「ボルドーのカフェでコーヒーを注文すると、コーヒーカップの脇にちょこんと小さなカヌレが添えられて提供されます。ワインのお供につまむこともよくあり、気づけば私のお気に入りの焼き菓子となっていました」。

    フランスでの滞在生活が終わりを迎える頃、ボルドーの魅力を日本に持ち帰りたいと思うようになった中谷さん。老舗の金物屋さんでカヌレの型を購入したことが転機となりました。

    「日本に帰ることが決まって、急いでカヌレの型を買いに行ったんです。街の真ん中にある老舗の金物屋さんで大小20個ずつくらい、思いきって買いました(笑)。

    なにかでボルドーとつながっていたいと思ったんです。ボルドーというとまずワインのイメージ。でも、ワインのプロフェッショナルの人はたくさんいらっしゃいますし、ワイン以外で自分でも作れるもの…と考えた時に思い浮かんだのがカヌレでした」。

    帰国直前、ボルドーで購入したカヌレ型

    約20年前、日本で一時的にカヌレブームがあったものの、カヌレの専門店などはありませんでした。

    「カヌレは、知名度があるようなないような、知っている人はいるけど、知らない人は全く知らないお菓子だと思うんです。だからこそ、可能性を秘めているんじゃないかなと思いました」と中谷さんは言います。

    カヌレの専門書

    ボルドーのパン屋さんでは当たり前のように見かけるカヌレ。市内の本屋さんではカヌレのレシピ本も平積みされているほど。

    「金物屋さんでカヌレ型を買ったときに、おまけでレシピが付いてきたんです。すっごく小さな紙に書いてあるレシピでした(笑)。そのレシピや本屋さんで買ったレシピを日本に持ち帰り、いろいろなレシピを試しました。そのなかでもいちばん好みだったのが初めて手にしたおまけのレシピだったんです。分量が『スプーン1杯』とか『コップ1杯』という、フランスらしい表現のものでした」。

    帰国後、さまざまなレシピを試しながらボルドーで味わった中谷さん好みのカヌレの味に近づけていったそうです。

     

    カリカリがおいしい、小さなカヌレのひみつ

    中谷さんが作るカヌレは、コロンとしたかわいい小ぶりなサイズ。この大きさにも理由がありました。

    「カヌレって外側の焦げた部分と、中のしっとりもちもちした部分で、味がまったく違うんですよね。私は、カヌレの外側が香ばしくて大好きなんです。口に入れて食べたときの食感やバランスも考えて、カリカリした部分の割合が多くなるように、小さな大きさしました。

    味も増やしていったので、結果的に小さいサイズのほうが、ちょっとずついろいろな味を比べられて楽しいかなと。私も2,3個くらい続けて食べられちゃいます(笑)」。

    オープン当初、バニラ味のみの販売だったカヌレも、今ではショコラ、アールグレイ、抹茶、珈琲など10種類にフレーバーが増えました。中でも蕎麦粉を使用した「ブレ・ノワール」は深大寺に来てから考案したこの町ならではの1品。

    「深大寺の名物は蕎麦なので、蕎麦を使ったメニューを作りたいと思ったんです。フランスで蕎麦と言えば、ガレット。その故郷ブルターニュをイメージしてバターをたっぷり使ったレシピのカヌレです。見た目はゴツゴツと無骨になってしまうのですが、素朴で優しいお味です。深大寺という土地にきっかけをもらい、縁をつなぎ、地元の方に愛されていくよう願っているところです」と中谷さん。

    1つ120円〜という手頃さもあってか、今では近隣からのお客さんをはじめ日本全国から通販を希望する連絡が後を断ちません。

     

    お酒と楽しむカヌレ

    ボルドーでは、カヌレをおやつとして楽しむだけでなく、アペリティフやデザートとしてワインとともに味わうことも多いのだそう。中谷さんにカヌレと合うお酒について教えてもらいました。

    「甘いものには、実は甘いお酒が合うので、ワインと合わせるなら、『シャトー・ル・チボ』のような甘口の貴腐ワインとの相性がいいですよ。あっさり風味の抹茶やブレ・ノワール(蕎麦)ならシャンパンを合わせるのもおすすめです。

    バニラやショコラはラム酒を使っているので、ブランデーと合わせてもいいですし、赤ワインとも合うと思います」と中谷さんが教えてくれました。

    ボルドーではそんな風に、カヌレが日常的にそばにある暮らしを送っているそう。

     

    大切な人へ、贈りものにもぴったり

    お店の名前でもある「canard(カナール)」は、フランス語で「鴨」を意味する言葉。実は、恋人やお子さんなど“愛しいもの”に親しみを込めて呼ぶ愛称でもあります。

    「専用の型を使って1時間以上、じっくりと時間をかけて焼き上げるカヌレ。焼きたてはまるで生まれたての羊のように不安定で、型から外すのも慎重に。余熱が取れて、冷えていく過程で砂糖がパリッと乾き、しゃっきり自立するんです」。

    そう話す中谷さんがカヌレを見つめる視線は、わが子を見つめるかのような愛情に満ちていました。中谷さんにとってのカナール“愛しいもの”がカヌレなんですね。

    カヌレのキャンドルやオリジナルのマスキングテープも並んでいました

    型崩れしにくいため、友人宅への手土産やプレゼントにもぴったりのカヌレ。フランス生まれの焼き菓子で、大切な人と特別なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

     

    • ■お店情報
    • ル・カナール
    • 住所:東京都調布市深大寺東町4-17-15
    • TEL:080-6673-5721
    • 営業日:金・土曜日
    • 営業時間:10:30〜18:00
    • ※日〜木曜は完全予約販売

    ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。

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