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    「生きている中で出会ったすべてがアイデア」森本千絵さんの今とこれから

    CMなどの企業広告をはじめ、CDのアートワーク、本の装丁、舞台美術など幅広い分野で活躍するアートディレクターの森本千絵さん。手がけた作品は数えきれないほどありますが、たとえばプールで家族が家系図のように並ぶMr.Childrenのアルバム『HOME』のジャケットや、2011年の震災直後に見かけた「Pray for Japan」のロゴ。実はあれも彼女の作品。

    Mr.Children『HOME』

    「Pray for Japan」のロゴ

    森本さん作品は、はじめて見るにもかかわらず、懐かしさやあたたかさが感じられるような気がしますよね。

    私生活では昨年結婚し、現在妊娠6カ月。母という一面が加わることで変わるものと変わらないもの、これから新たに目指すもの、そして森本さんの日々の生活について伺いました。

     

    人を動かすアイデアを、かたちにする仕事

    ―まず、森本さんのお仕事はアートディレクターということですが、具体的にどんなことをされるのでしょうか?

    森本さん(以下、森):ある物事を人々にどう伝えるべきか、どうしたら気にしてもらえるのかを考えるのが仕事です。そのために目に見えるものはすべて整理し、人々がより自分ごとのように心を動かす工夫を施して、アウトプットする。要は、“もっとこうしたらいい、こうしたら人が動く”という作業を全部やります。

    松任谷由美『POP CLASSICO』/森本さんが描いたデザイン画をもとに2~3mの立体を実際に作成し、撮影。CDジャケットの他、プロモーションビデオも制作を担当。

    森:最近のアートディレクションはグラフィックデザインに特化してさす場合が多いけれど、私の場合はグラフィックをつくるために空間をつくったり映像を撮ったり全部。その分、仕事量もすごく多いです。というか、そもそもの問題を見つけるところ、何がそこに必要なのかを発見することからやります。
    1日のタイムスケジュールは仕事の内容によってバラバラで、むしろ絶対に同じ日がないのもこの仕事の特徴ですね。

     

    仕事も生活もすべてつながっている

    ―仕事と生活のバランスはどのようにとっているのでしょうか?

    森:よく仕事と生活のバランスについて質問をされるんですが、私は仕事と生活を分けて考えたことは1回もないです。仕事とはまったく離れられないし、私の中にオン・オフという感覚はない。この仕事は生きている限り続けるし、もう境が分からないですね。どこまでが生活でどこからが仕事なのか。
    生きている中で出会ったすべてがアイデアであり、あらゆることにつながる「ご縁」だと思っています。

    ―では昨年結婚されて、いま妊娠していることも、やがては何かにつながっていくと?

    森:もちろん。全部つながっていますね。
    今、三越伊勢丹さんと母の日に合わせた仕事をしているんですが(4月の取材時点)、この仕事をやっていたら妊娠したんです。

    伊勢丹新宿店で4月29日から5月5日まで開催される「goen°plant planet~Hahaの木から Bokuの木へ。語り継がれる物語~」

    森:企画がスタートしてからずっとお母さんについて考えて、母と子どものお話を書いていました。その当時、私はまだ母というものを体験してないから、代わりに月1回子どものワークショップを開いたんですね。それでもやっぱり難しいなって思っていたんですが、途中で妊娠して、そこからはやりやすかった(笑)。こういうことがよく起こるんです。

    それは「こういうものがあったらいいな」と、いつも私自身が必要としているからかもしれない。なので、生活からアイデアを得ることはもちろん、仕事で考えていたことが生活に影響を及ぼすこともあるので、不思議ですよね。

    ―森本さんは今の仕事、今の作業に全力で向き合っているという印象を受けます。逆に、今よりも先のことについてはどんな風に考えていますか?

    森:目の前のことにその都度没頭するために、少し先にあることについてはすごい前から準備万端にしていますね。
    旅に行くときも2日前にはすべての荷物がパッキングされているし、サーフィンの道具も常に車のトランクに入れて用意してある。出産だって、予定日は8月なのにもう入院の準備までできているし。だいたいいつも準備が早くて、あとはその時になってからとことんやるって感じです。産後も休まず仕事したいから、どの時期はどれくらい動けるかをまわりの経験者からリサーチして、この時期だったらこの仕事ができるとか、じゃあ逆算するとここであの仕事しておかないとまずい、とか(笑)。いつでも動けるような準備は怠りません。

     

    仕事も、結婚も、出産も。全部を持ったスーパーな存在に

    ―今後こういうものをつくりたい、という希望はありますか?

    森:ひとつの物語を中心に、世代を超えたたくさんの人につながってゆくものをつくりたいです。イメージしているのは花火とかクリスマスとか。どれも規模の大きなものばかりで、何からやったらいいのか分からないんだけど(笑)。
    でも、映像でも舞台でも、商品でも絵でも、文章でも何でも、アウトプットするための術はひと通り経験させてもらったから、あとは「場」ですね。庭さえあればタネはいつでも撒けます。
    企業もアーティストもみんなが乗っかれる、アートディレクションされたスペシャルな何か。そういうものが日本にもあったらいいなと思います。どういうものになるのか分からないけれど、実現できたらいいですね。

    ―どんな作品が生まれるのか、すごく楽しみです。

    森:広告の世界は男性がすごく多くて、女性のアートディレクターはすごく少ないんです。ましてや母親になった人はほとんどいない。だからって、出産によって仕事がしづらくなったとは思いたくない。夫婦円満なまま、仕事も家庭も丸ごと抱えた、スーパーな存在になりたいですね(笑)。何かを伸ばすために何かを犠牲にするとかって、そういうのは嫌なんです。

    ―出産を控えて、お仕事は多少ペースダウンされるのかと思いましたが

    森:そんなのはやだ(笑)。もし休んだとしても、育児をしているその状況をそのまま仕事として生かしたいですね。出産や育児によってやれることが狭まるんじゃなくて、どんどん広げていけると思っています。2倍、3倍。むしろ2乗って感じで。でもそのためにはやっぱり結果を示さなきゃいけないから、これからほんとうにがんばらなきゃいけないですね!

     

    日々を大切に生きるヒントが詰まった1冊

    森本さんの作品を見て懐かしさやあたたかさを感じるのは、森本さんの生きる日々の中で出会ったご縁や奇跡を私たちに伝えてくれるからなのでしょう。

    4月に出版した初のビジネス書『アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話』。その内容は「アートディレクターになるために何をすべきか」といった具体的な方法論ではなく、目指すものを見失わないための心の持ちようなど、日々をより大切に生きるヒントが満載。そして、日々出会うものに感動したり、不思議がったりすることで、「ご縁」のカケラを掴むことができるのかもしれないと教えてくれます。日々の生活の捉え方に素敵な変化をくれる1冊です。

     

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