オーガニックな飲食店も多く立ち並ぶ、恵比寿駅から少し歩いた静かなエリアにある『空と麦と』。店の前に立つと、焼きたての香りがふんわり漂い、パンへの期待が高まります。扉を開けて中に入ると、端正なフォルムのパンがずらりと並んでいる木のカウンターが。
まるで山小屋のようなのんびりとした佇まい。お店の前のウッドデッキでは、青空市などのイベントも開催されるのだそう。
IT企業からパン職人へ転身したオーナーシェフ
オーナーシェフ池田さよみさんは、かつてIT企業でマネージャーをされていました。深夜に自宅に帰り、2〜3時間眠ってまた出勤。食べるものはコンビニなどでサッと済ませる過酷な日々。疲れが溜まり、とうとう体調を崩してしまったのだとか。
食生活から見直そうと思い立ち、健康に関する情報収集を始めました。その時出会ったのが、「自然農法」。肥料を使わず昔ながらの方法で育てられた野菜の力強さに惹かれ、勉強するうちに自分でも育ててみたいと思い、農業の世界へ大きく転身したのだそうです。
八ヶ岳の青空の下で畑を耕し、収穫した野菜をマーケットで売る充実した毎日。当時からパンは趣味で焼いていたそうです。そんなある日、自分の畑で採れた小麦を使ってパンを焼いてみたところ、想像以上に豊かな香りが広がって仰天。試しにマーケットで売ってみると「おいしい」と人気が出たので、東京でパン屋さんをオープンすることにしたのだとか。
パン屋さんを始めるにあたり、大切にしたのは「おいしくて、安全なパン」。その思いに共感した三宿の名店『シニフィアン・シニフィエ』の志賀勝栄シェフがプロデュースしたお店ということでも、『空と麦と』はパン好きの間で話題になりました。
国産小麦の魅力を発信
「低温でゆっくり時間をかけて発酵させると、小麦のうまみが引き立ちます」と池田さん。原料の小麦も国産にこだわり、香り高く焼き上げているんだとか。その風味を大切にした、バゲットとクロワッサンの2つが看板商品なのもうなずけますね。
クロワッサンは歯に心地よい「サクッ」とした食感。ただ中の生地はどっしりとしています。その秘密は、3日間じっくり寝かせた生地。「ルヴァン」という小麦の酵母を使うと、層に厚みが出て食べ応えもあるパンに仕上がるのだそう。
バゲットもイーストを微量にして粉のうまみが活きるように作られているから、チーズをのせて温めたり、オリーブオイルをかけるなどのシンプルな食べ方がおすすめです。
1つでも満足感があるので、食事のお供にぴったり。オーナーも朝、昼、晩の主食はパンなのだそうです。
畑を作り、小麦を作り、パンを焼く
店にはパンだけでなく無農薬のお米や野菜なども販売していますが、これも「安心して食べられる物を」というオーナーの優しい思いから。国産のオリーブオイルや蜂蜜など、パンに合う全国各地の「おいしい」アイテムも揃っています。オーナーは今でも八ヶ岳の畑にこまめに足を運び、小麦の状態をチェックしているのだそう。小麦から生産しているパン屋さんはめったにありません。原料にかける真摯な姿勢が伺えます。
信頼できる産地の小麦で作られた栄養的にも優れたパンは、おいしくて安全。近所の方や多くのファンの毎日に欠かせない「主食」になっているようです。