東海道五十三次の宿場として栄えた藤沢。その旧東海道には歴史を感じる蔵がまだ残っています。明治時代に建てられた築136年の蔵で、天然酵母で作るパン屋、その名も『関次商店 パンの蔵 風土』。
このお店は、天然酵母のパンを作る有名ベーカリーで修行を積んだ岩田和憲さんが2019年にオープン。以来、地域に根差したパン屋として地元の人たちに支持されています。パン作りのこだわりなどを店主の岩田さんに話を伺いました。
思いがけず巡り合えた歴史ある蔵でパン屋を
小田急江ノ島線藤沢本町駅から徒歩7分。駅から東側に歩くと旧東海道の通りに出ます。その通り沿から少し離れたところにある大きな蔵、そこが今回訪れた『関次商店 パンの蔵 風土』。お店の後ろには木々に囲まれたお寺があり、お寺の風情と相まってまるで江戸時代にタイムスリップしたような気分に。
店舗である蔵は「関次商店 穀物蔵」として国の登録有形文化財に指定されています。
大きく立派な蔵に入ると少しひんやりとした蔵特有の空気を感じながらも、店舗の雰囲気は暖色の照明が照らされ温かな印象。土壁と高い天井、大きな梁に歴史を感じ、その空間に圧倒されます。
岩田さんは、東京・富ヶ谷の『ルヴァン』と、茨城・つくば市の『ベッカライ・ブロートツァイト』という有名ベーカリーでの勤務を経て、独立を決意。店舗の物件を探すにあたっては、埼玉出身であることから当初は地元で探していたものの、あまりピンとくる物件がなかったといいます。
「パン屋だけではなく、プラスでおもしろい体験ができそうな場所を探していたんです。公園の近くとか農家さんの近くとか。そんな時、知人に紹介してもらった物件がこの蔵でした。蔵を見た瞬間圧倒されて、『ここにしよう!』と即決。藤沢という土地は考えていなかったのですが、運よくこの蔵でパン屋をオープンすることができました」(岩田さん)。
蔵の雰囲気を壊さないように床張りや壁塗りは自分たちでDIYしたというほど、岩田さん達のこだわりが詰まっています。
自分が毎日でも食べたい、シンプルなパン作りを目指して
修行していた2店舗のパン屋ではオーガニックの小麦を扱っていたので、岩田さんもその意思を引き継ぎ独立後もシンプルなパン作りを目指しています。
「今までいたお店は小麦と水と塩を使ったシンプルなパンです。パンの原点ともいえるハード系のパンなので、自分のお店もそういう原始的なパンを焼きたいと思って、風土のパンもそういった作りにこだわっています」(岩田さん)。
素材は身体に負担のないものを選んでいるそう。そして、基本的には自分が毎日でも食べたいパン、作りたいパンを作っていると言います。
「自分が食べたいパンをお客様にお裾分けしている感覚なんです。だから、修行していたパン屋でもパンを廃棄することはなかったですし、パンを売り切るのは自分の中でのベースになっていて、そこはパン屋を営む上で1番大事なところだと思っています」(岩田さん)。
お店では次の日でも食べられる工夫として、前日焼きのパンは少し価格を安くしてパンセットを販売したり、全国に向けて「風土(フード)ロス0」と称し、パンが残りそうな時に少し割り引いたおまかせセットを配送でお届けするサービスも(現在は募集締め切り中、詳細はInstagramにてご確認ください)
湘南エリアはパン屋が多い激戦地ですが、ハード系パンを製造しているところは意外に少ないそう。地元の人が多く、なかでも妊婦さんや赤ちゃん連れで食事に気をつけている人が多く寄ってくれるようです。
一方で、地元のお年寄りの方やファミリーも多いことから、ハード一辺倒にならないように素材にこだわって、低温殺菌牛乳を入れたパンやあんバターサンドなど幅広いパンを作っています。
「シンプルな小麦だけなので赤ちゃんのパンデビューに風土のパンが選ばれるのはうれしいですね」(岩田さん)。
食べた後の感覚にこだわった体にやさしいパン作り
シンプルなパン作りにおいて岩田さんは食べた後の感覚も大事にしているといいます。その感覚を作り出すのには、パンの発酵のさせ方で変わってくるそうです。
「イーストの中には培養段階で色々なものを使用するので、うちではよりシンプルに自家製酵母で発酵させています。小麦酵母で発酵したパンには酸味があるんですけど、食べているうちに唾液を引き出すんです。要は発酵食なんですね。発酵食としてのパンを意識して作ると、身体になじむような味わいに仕上がっていくんです」(岩田さん)。
フムスサンドウィッチは、見た目はハンバーガーのようになっていますが、全粒粉の丸パンで食感は柔らかく、パンは優しい味わい。オーガニックのヒヨコ豆を使用した自家製のフムスの味が際立ち、「身体になじむ」という岩田さんの言葉に思わず頷いてしまいます。
「ヴィーガンやベジタリアンの人のためのメニューを作りたいと思って砂糖、卵、乳製品を入れないパンが多いです。土地柄もあってか、ヴィーガンの人や身体に入れるものに気をつけている人たちが多いですからね」(岩田さん)。
基本と地域性を大切にした、人気&おすすめのパン
岩田さんに、人気、そしておすすめのパンを教えていただきました。
「シグネチャーである風土カンパーニュは、少し酸味がありしっかりした生地はそれだけ食べてもおいしいです。焼いて食べたり、スープにつけて食べたりしても良さそう。
クロワッサンは甘くなく、サクサクとした食感でありながらも、生地がギュッと重なって密集度が高いパン。
マスカットレーズンパンは、生地は柔らかく、マスカットはジューシー。ほんのりとした甘さがあって、子どもからお年寄りまで食べられるパンです」(岩田さん)。
岩田さんおすすめのパンはライ麦の全粒粉100%パン。このパンとバターを合わせるとそれだけで満足できるパンだと言います。
「外国の方が日本のパンは柔らかくて甘いからと、うちを紹介されて買いにくる人もいるんですよ」と風土のパンが幅広く支持されているのがわかります。
そしてお店には地元の人がパンを買うこと以外でも立ち寄って欲しいといいます。
「お店には蔵を目的にふらっと立ち寄ってもらうことも歓迎しています。店内に用意されているお茶も街歩きの途中に休憩がてら立ち寄ってもらい、敷居を下げていろんな人にきて欲しいと思っています」と岩田さん。
岩田さんに今後、風土で作っていきたいパンについて聞きました。
「栄養価価が高い発芽した穀物を使うパン、いわゆるスプラウトブレットを作りたいと思っています。穀物の油脂が回ってすごく食べやすくなるんですよ。パンにオリーブオイルをつけるだけでおいしい、そんなシンプルなパンを目指して、今は試作中です」とのこと。スプラウトブレット、楽しみですね!
食べた後の感覚を大事にした風土のパンは一度食べるとまた食べたいと思えるパン。蔵との雰囲気も相まって、また訪れたいパン屋となりました。
- ■お店情報
- 関次商店 パンの蔵 風土
- 住所:神奈川県藤沢市本町4-5-20
- 営業時間:9:00〜15:00(売り切れ次第閉店)
- 定休日:月・火・日
- Instagram:@fuudo_2019
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