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売り切れを出さず、ロスも出さない。世界大会優勝の実力派ベーカリー『Comme’N』のこだわり

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売り切れを出さず、ロスも出さない。世界大会優勝の実力派ベーカリー『Comme’N』のこだわり

2020年8月に東急大井町線の九品仏駅にオープンした『Comme’N(コム・ン)』は、パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」で、日本人初の総合優勝を果たした大澤秀一さんが手がけるベーカリーです。平日の昼間でも行列ができる人気店で、1日を通して約100種類が店頭に並びます。味はもちろん見た目も美しい大澤さんのパンに込められた想いとこだわりを伺いました。

 

100種類の充実のラインアップ。「売り切れを出さず、ロスも出さない」ことへのこだわり

九品仏駅にオープンした『Comme’N(コム・ン)』2020年のオープンながらすでに街に溶け込んでいます

コンクリートの壁に黒いドアがモダンな印象を受ける『Comme’N』。一歩中に入れば、香ばしい香りに包まれ、エントランス正面に置かれた棚に並んだ数々のパンが目に飛び込んできます。オレンジ色の温かな照明が、まるで舞台のスポットライトを思わせるほど美しく焼き上げられたパンたち。視覚からも食欲を刺激します。

世界大会で高評価を得たクロワッサンやバゲット、ブリオッシュなども大会出場時の配合を変えずに提供しているそうで、「世界一」を味わいたいと注文するお客さんが絶えません。

世界大会にも出品したクロワッサン世界大会にも出品したクロワッサン。折り重なった層と焼き色が美しい

店内からキッチンやオーブンが見えるオープンなレイアウトも特徴的。真剣にパンを作る様子を見ることができ、お客さんからの「これおいしかったよ」などの感想も大澤さんたちシェフの耳に届きます。

店頭には1日に100種類ほどのパンが並びます店頭には1日に100種類ほどのパンが並びます

平日の昼間でも次々にお客さんがやってきて、時には行列ができることも。しかし、夕方を過ぎても商品棚に隙間はできず、パンを補充するスタッフの手が休まることはありません。

「棚のスペースに限りがあるので、100種類ある商品のうち数種類ずつ並べています。お店を構える以上、『売り切れです』とクローズすることがないように、夕方まで焼いては補充を繰り返します。閉店は18時ですが、その時間までは棚が充実していて、来てくれるお客さんが安心して選べるように心がけています」。

仕事帰りの客足が落ち着く19時過ぎまでクローズの看板は出さずに販売を続けることもあると話す大澤さん。しかし閉店間際まで補充を続けていたら、ロスも多く出るのでは…?この問いに、大澤さんは「オープン以来、一度もパンを捨てたことはありません」ときっぱり答えました。

「瀬戸内レモンと鳴門金時のブリオッシュ」は爽やかな香り「瀬戸内レモンと鳴門金時のブリオッシュ」は爽やかな香り。しっとりふんわりの絶妙な食感も◎

「自分が作ったパンはわが子のようにかわいいいので、捨てるなんて選択肢はありません。余ったパンはクロックムッシュなどの惣菜パンにしたり、もう一度生地に混ぜて新しいパンとして世に出します。一度焼きあがったパンを使って酵母を作る製法があるのですが、その応用です。パンとして生まれたからには、誰かに食べてもらえるまで、形を変えて生まれ変わらせます」

売り切れとロスを出さない。大澤さんの経営方針からは、パン職人としてのお客さんへの配慮とパンへの愛情を感じさせます。

 

「親父の真似事じゃないパンを作りたい」。アポなしで神戸の有名店へ弟子入りを志願

「若いスタッフの成長がうれしい!」と語る大澤シェフ「若いスタッフの成長がうれしい!」と語る大澤シェフ

群馬県高崎市で生まれ育った大澤さんは、実家がパン屋を営んでいたこともあり、幼い頃から「将来は自分もパン屋になるのだろう」と、他の選択肢に目を向けることなく育ったそうです。高校卒業後は、奈良県のパン屋に就職。パン作りの技術を学んだ後、実家の店を手伝うように。25歳のとき、知人からの勧めで自分のお店を持ちますが、独立して初めて「自分の足りない部分に気がついた」と話します。

「お客さんに『おいしいよ』と言われても、なぜおいしいのか、どこを評価されているのかがわからない…。そんな不安定な状態でした。父親と一緒に働いていた時は、意見をぶつけあってばかりだったのに、自分の店を持ってみたら、『父親の真似事しかできていない』ことが目の当たりに。もう一度きちんとパンの勉強をしたいと思うようになりました」

「パン作り以外」の部分も大切にしている大澤シェフ「パン作り以外」の部分も大切にしている大澤シェフ

パン職人として、改めて修行をしようと思い立った大澤さんは、店を畳んだその足で夜行バスに飛び乗り、神戸のベーカリー『Ca marche』の西川功晃シェフを訪ねました。

「高校を卒業してパン職人を目指すなか、初めて買った本が西川さんの『パンの教科書』でした。その本を読んで以来、憧れの存在です。アポなしで行ったにも関わらず、西川さんは時間を作って話を聞いてくれて。同時期にスタッフに空きが出たこともあって、運よく働かせてもらえることになったんです」。

2年間、西川シェフの下で働いて見えてきたのは、パン作りの高度な技術だけでなく、新商品の多彩な企画力と、近隣店や業者間の広い交流関係。おいしいパンを作るためには、「作る」以外の学びも重要だということを知ったそうです。

師匠からいただいた大切なロゴ師匠からいただいた大切なロゴ

『Comme’N』の“N”は「西川シェフの名前の頭文字」だと明かしてくれた大澤さん。さらに店名のロゴは、西川シェフ直筆のサインを使っているそうです。「店名を書いてほしいと頼んだら『面倒くさいな』と言いながら、200パターンも書いて送ってきてくれたんですよ(笑)」と笑って話してくれたそのエピソードからは、深い師弟愛を感じずにはいられません。

「西川シェフのようになりたい」という尊敬と憧れを店名に掲げ、大澤さんはパン作りに向き合います。

 

“作り手の必死さ”も味に影響する…後進を育てるシェフとしてのこだわり

専用のキッチンで作られるサンドウィッチ専用のキッチンで作られるサンドウィッチ

「コンクールは壁にぶち当たってからがスタート。その課題をどう乗り越えて精度を高められるかが評価につながります」。

日本代表として、世界大会出場の切符を手にした大澤さんは、大会までの約2年間、睡眠時間以外はパンのことだけを考えて過ごしたそうです。見事優勝を手にして得たのは「世界一」の称号と、豊かな人脈でした。

「世界大会に向けてのアイデアを練っている時に、トップクラスのシェフにアドバイスをもらうことが多く、その人脈は今も続いています。パン作りについて悩んだ時に相談できる存在がいるということは本当に心強いです」。

大澤さんのパン作りへのこだわりは、「おいしくて、見た目も美しいものを、“必死に”作ること」。コンクール出場当時から変わらない信念です。

「お客さんが来てくれるのは『必死にやっている』からこそ。技術ももちろん大切ですが、“作り手の心”の部分もおいしさを演出すると思うんです。少しでも手を抜いたり、疲れを外に出した瞬間にその必死さは半減して、お客さんの興味や味覚にも影響すると思っています」。

使っている素材に強いこだわりは持たず、小さな子どもから年配の方まで、安心して食べられるものを提供するという前提のもと、お客さんの「おいしい!」という笑顔を目指して腕を振るいます。

人気の食パンが焼き上がりました!人気の食パンが焼き上がりました!

現在、後進の育成にも力を注ぐ大澤さん。現在の『Comme’N』には、独立を目指すシェフが数人在籍し、大澤さんの厳しい教育を受けながら技術を磨いています。

「今の楽しみは、スタッフが成長して独立した時に、そのお店に行くこと」。その温かな眼差しからは、親心すら感じられます。西川シェフを含め、世界大会出場を支えたたくさんのシェフたちが、大澤さんを“いま”に導いたように、後輩たちにとっても、大澤さんがパン職人としての道しるべになるに違いありません。

 

 

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