荻窪駅北口の賑やかなロータリーを抜けた商店街にある『吟遊詩人(ぎんゆうしじん)』。
控えめにロゴが入っただけのシンプルな佇まいは、パン屋とは思えないほど硬派。ブラウンを基調とした渋い空間に、最初は面食らってしまうかもしれません。
欧州の釜で焼くフランス小麦のバゲット
店内に入ると、正面にパンが詰まったガラスケース。奥にはピカピカに磨き上げられたオーブンが光る清潔な厨房が見えます。角食に惣菜パン、スコーンにマフィン。特に目を引くのは、カウンターの上に並ぶ「バゲット」。
人気の「バゲット」は、香りが命。粉もフランス産の物にこだわっているのだとか。マーガリンなどの加工品やイーストフードなどの添加物などを使用せず、油脂は香りの良い国産の発酵バターのみを使用。
「当たり前のことを守って、基本に忠実なパンを焼いています。」と店主の清澤稔さん。
粉を混ぜる時、日本では国産のタテ型のミキサーを使うのが一般的。『吟遊詩人』では、ヨーロッパで使われているスパイラルミキサーを使ってこね、火の回りが早く短時間で焼き上げることができるドイツ産のオーブンで焼き上げています。
熟練の技が生きる「バゲット」を口にして驚くのは、その軽やかな食感。クラムの気泡もほどよくランダムで、食べ応えも充分です。添加物を使わない品の良い味わいは毎朝食べたくなるほど。午前中に売り切れてしまうことも多い1番人気の商品なのだとか。
バゲット生地を使った人気商品も多数
バゲットと同じ生地を使った「バターミルクフランス」は、歯ごたえのある生地に、もったりした濃厚練乳クリームがたっぷり!少し塩気の効いたバゲット生地が練乳の甘みを引き立てて優しい味わいに。
並べるとすぐに売れてしまうという「クリームチーズと小倉あん」は、店頭で見かけたら即購入を。チーズがとろける「チェダーチーズのフランスパン」も絶品です。
定番のクロワッサンやお総菜パンも人気
口の中でほろっと崩れる柔らかな「スコーン」や上品な甘さが後をひく「マフィン」、発酵バターの香りが食欲をそそる「クロワッサン」も自慢の商品。
硬いパンは苦手という年配のお客さんや小さなお客さんのために、しっとり、やわらかな生地にカスタードを詰めたクリームパンや定番のあんパン、ソーセージを挟んだ庶民的な惣菜パンなどボリュームのあるものもずらり。近所の高校に通う常連さんに人気の商品です。
地元に愛される基本に忠実なパン
店主の清澤 稔(きよさわ みのる)さんは、「世界のパン」をコンセプトにした、福岡のベーカリーショップ『アペティート』で8年間修行。
ヨーロッパの伝統的なパンをはじめ、当時まだ珍しかったベーグルやピタパン、果てはグルジア地方のパンまで、世界中の多彩なパンに触れ、基本の技術を身につけました。
例えばベーグルは、じっくり捏ねた生地を一度茹でるという昔ながらの製法で作っていたのだそう。時間はかかりますが、むぎゅっとした歯ごたえと旨みは手間をかけることで生まれます。生地を茹でる代わりに蒸気を多めに当てるという手軽な方法を取るベーカリーも多いなか、本格的な製法を学べたのは基本に忠実なパンを作るというために重要な経験でした。
熟練の技を身につけた清澤さんはその後、「東京にマフィンの専門店を作るから協力してくれないか」と誘われて上京。10年間勤務した後、小さい頃からの夢だった自分のパン屋さんを始めることにしました。
杉並区は世田谷区に次ぐ、ベーカリーの激戦区。そんな場所で10年も続けてこられた秘訣は、あえて個性を出さないというスタイル。
「誠実に心を込めて焼いたパンを地元のお客さんに食べてもらいたい。そのためには、奇抜な新商品ばかり出すようなことはせず、ベーシックなパンを毎日おいしく焼くことが大切」と清澤さん。
『吟遊詩人』のパンには派手さはないですが、普通のパンとは明らかに違います。1つひとつに手を掛け、決して手を抜かない。
人目をひくだけのパンなら誰にでも作れるかもしれません。でも、基礎がしっかり身についているからこそ出せる、妥協なき「ベーシックなパン」は、熟練の職人にしか作れないこだわりの味なのです。
- ■ お店情報
- 吟遊詩人
- 住所:東京都杉並区天沼3-2-2荻窪勧業ビル1F(地図)
- 電話:03-5335-6362
- 営業時間:8:00~20:00
- 定休日:無休
- ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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