毎日のお料理に欠かせない調味料、塩。日本では沖縄や瀬戸内海の塩が有名ですが、日本全国世界各国に塩の産地はあり、その種類は千差万別。お料理に合わせて使い分けできたら、もっと食事の楽しみが広がるのだろうな…と思い、今回は戸越銀座にある塩専門店『solco(ソルコ)』に伺い、塩の種類や味の違い、そして塩の楽しみ方について教えてもらいました。
ひとつの塩との出会いからはじまった塩専門店
『solco』は、東京一長いと言われている有名な戸越銀座の商店街にあります。
店内に入ると、まず目に入るのがズラリと並んだ試験管。
試験管の中に入っているのは、すべて塩。『solco』では日本各地、世界各国の塩が常時40種類ほどラインナップされています。『solco』のオーナーである田中さんにお話を伺いました。
いつか飲食業界でビジネスをやりたいと思っていた田中さんは、理系の大学を卒業後、製薬会社に務めながらフードコーディネーターの学校に通い、食の勉強をしていたそう。その後、飲食の仕事やスローフードに関する仕事、ミュージアムでの勤務などを経て、いよいよ起業しようと決心したのが2013年。その時点では、まだ塩の専門店にすることは決めていなかったのだとか。
しかし、その年の7月に訪れた石巻で、おいしい塩に出会ったことが転機となりました。
それがこの「伊達の旨塩」。
「この塩と出会って、白いしょっぱい粉だと思っていた塩への価値観が覆されました。何かうま味調味料を入れているの?というくらいうま味があり、『これが塩!?』とびっくりしたことを覚えています。このうま味は何?この味の違いは何?と研究心に火が付き、家にあった塩をすべて並べて比較してみたんです。もともと調味料が好きだったこともあり、家には20種類もの塩がありました。改めて比べてみると、色、形、香り、味、すべてが違うことにびっくりしましたね。
成分と味の関係をいろいろと比較していく中で、科学的な視点だけでは分からないことがたくさんあり、すっかり塩に夢中になってしまったんです」。
そこからソルトコーディネーターという塩の資格の勉強をはじめたのだそう。その後、「食の分野で起業したい」という夢と塩への興味が合致し、2014年に塩の専門店『solco』をオープンさせました。
※ちなみにこの田中さんに衝撃を与えた塩は、わけあって販売はされていないとのことです。
ミュージアム&ラボのように塩を楽しむ『solco』
ミュージアムで働いていたこともあり、ディスプレイの仕方はまるで展覧会のよう。説明書きには塩の産地や特徴だけでなく、それぞれにまつわるエピソードが綴られています。
例えば、独特のキラキラした白さを放つ気仙沼のお塩は、大震災で亡くなった方が作っていたお塩をリバイバルして作ったものなのだそう。そういった塩を作っている方のエピソードを知ることができるのも『solco』ならでは。
塩の結晶もディスプレイされています。自然の力でこんなに繊細なピラミッド型の結晶になるだなんて驚きですよね。
塩とひと口に言っても、産地だけじゃなく、海の塩、温泉や川、湖の塩、岩塩、さらに塩に調味をした調味塩など、多くの種類があります。
カマルグ セル・ファンという、フランスの塩も(奥から2番目)ありました。フランスはゲランドの塩が有名ですが、灰色っぽいゲランドのものに比べカマルグの塩は白いのが特徴です。
「地中海の塩はうま味が濃いんです。しょっぱさが濃いという意味ではなくて、うま味が濃いんです。ちなみに日本でも日本海と瀬戸内海では味が全然違うんですよ。海が違うと、ミネラル成分や生息する生物が違うから、味がぜんぜん違ってくるんです」とのことでした。
自分で味わって見つける「お気に入りの塩」
田中さんに「おすすめお塩はありますか?」と質問してみたところ…。
「よく聞かれるのですが、まず自分で感じて欲しいですね。自分の意思で手に取って味わったものは、すごく記憶に残るんです。それに味覚は人それぞれ違うし、その日の体調によって欲しくなるミネラルや味も違います。自分の体が欲している味を「おいしい」と感じるから、一概に『これです』とおすすめすることが難しいんです。
名前でも産地でも見た目でも説明でも、むしろなんとなくでもいいから気になるものを手にとって味見して欲しいですね。それで『これ違うな』とか試行錯誤しながら、『私が求めていたのはこの味だ』という発見をしてもらえるとうれしいです。もちろん分からなくなったらアドバイスはしますので、いろいろと食べ比べてみてください」と、田中さん。
『solco』では、お塩を味見する用におにぎり(白米・玄米)とコロッケが販売されています。それを片手にさっそく『私が求める味』を探すべく試食スタート!
いざ、どれにしようかと塩を前にすると、田中さんがおっしゃっていた通り、粒の大きさや結晶の形がまったく違うことにびっくりしました。また、白色と言ってもツヤがあるものないもの、しっとりしているもの、薄っすら色味があるものなど、全部個性があることに気づきます。
さらに食べてみるとさらなる驚きが。粒の大きさで食感も違い、味もダイレクトにしょっぱさが来るものもあれば、田中さんのおっしゃる通りうま味を感じるものや甘みを感じるものも。「しょっぱい」と言ってもこんなに味のニュアンスが違うのだと驚きました。
「食材の甘みを引き出す塩もあれば、そのものが甘みを持っているものもあるんです。歯ごたえも全然違いますよね。粒の大きさによって結晶の溶け具合が違うので、徐々に味が変化していく楽しみもあります。合わせる食材によっても味の感じ方が変わるので、塩の楽しみ方は無限というくらいあるんです」。
友だちと一緒に訪れ、「これ合うよ〜」とか「私はこれが好きだな」「私はこっち!」など話ながら選ぶのも楽しいです。また「自分はこういう味が好きなんだ」と改めて気づくことができました。
ギフト包装もあるのですが、ギフト用の場合はぜひ贈る方の好みを伝えて、相談してみて。食の好みや好きな食べ物から、おすすめを教えてくれますよ。
塩と食材のマリアージュを楽しむお弁当も
塩と食材のマリアージュを楽しみたい方には、日替わりでおかずが変わる「ソルコべんとう」やプチデリもおすすめ。今回は特別にフランスやヨーロッパの塩を使ったメニューを揃えてもらいました。
右上から
- ・塩蒸し鶏(ブルターニュ産海藻入りあら塩)
- ・焼き葱と紅芯大根のマリネ(ドイツ クリスタル・ロック・ソルト)
- ・茹で卵(ゲランド+白トリュフソルト)
- ・パプリカと蕪の三色テリーヌ(206/カマルグ・セル・ファン)
- ・スウェーデン蕪と舞茸のハーブグラタン(マルドン・プロヴァンス)
それぞれ異なる塩で味付けがされているので、「この食材と組み合わせると、こういう味になるのか!」という違いを知ることができます。どれも「塩味」ですが、こんなにも個性豊かで違うんだと塩の味わいの奥深さを実感。
家でも真似したくなり、食材との組み合わせの秘訣やコツを伺ってみました。
「食材との相性でひとつ指標としてあるのは、『和食は日本の塩』というのはあります。ただ、日本の塩は海の塩がほとんど。和食の味付けでもお肉は、海外の岩塩と相性がよかったりもします。山のものは山の塩(岩塩)、海のものは海の塩という組み合わせもおすすめです。さらに、新潟のお酒には新潟の塩をチョイスしようというように産地をあわせるという楽しみ方もできます。
塩と食材のマリアージュはいろいろな考え方があるので、どれが正解ということではありませんから、ご自宅でもいくつか揃えてもらって選ぶ時間も楽しんでもらえればと思います。サラダにはこれ、お肉にはこれとお料理によって塩の種類を変えることもできますし、家族それぞれが好きな塩をチョイスすることもできますからね」。
ちなみに田中さんは、料理するとき味を付けずに料理することが多いのだそう。それは次の日は違う塩で食べたいから。さらにお豆腐などは一度にいろいろな塩で食べたいという理由から、8等分にして8種類の塩で楽しむこともあるそうです。
普段の生活でとても身近な調味料お塩ですが、『solco』に訪れるとその奥深さを知ることができます。食材や料理との組み合わせはもちろん、その日その日の自分の味に合わせたり、塩を作っている方へ思いを馳せてみたり。塩を楽しむと食事がもっと深く楽しい時間になりそうですね。ぜひ『solco』に訪れ、とっておきの塩を見つけてみてください。
※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。
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