最近、多くの日本人がパリで活躍しており、その活動が注目されています。今回、PARISmag編集部がお会いしてきたKanakoさんもそのひとり。
PARISmagでも紹介してきたパリ生まれのギフトサービス「My Little Box」やパリ在住の女性たちに向けてニュースレターを配信する「My Little Paris」のイラストを担当しているイラストレーターです。キュートなイラストはパリジェンヌたちをはじめ、世界中の女性たちに大人気。
今回は、Kanakoさんにパリでの暮らしやパリでのお仕事について、お話を聞いてきました。
やりたいことが見えた、最初のイラストレーターとしての仕事
—Kanakoさんがイラストを始めたきっかけを教えてください。
Kanakoさん(以下、敬称略):幼少期から、絵を描く他にあまり得意なことがなくて…。それで、美術大学では油絵科を専攻しました。
大学2年生くらいのときに、日本人のイタリア語の先生から「参考書を出すから、挿絵を描いてくれないか?」と声をかけられたんです。それがイラストレーターとして最初のお仕事になりました。
油絵科というのは自由に好きなことを表現するという科目なんですが、私にはそれが息苦しくて…。はじめてのイラストのお仕事で、注文に合わせて描くというのがすごく楽しくて、「私はこれがやりたいんだ!」と実感しました。
チャンスを生かして、初めてのパリへ
—Kanakoさんが初めてパリを訪れたきっかけはなんだったのでしょうか?
Kanako:日本でイラストレーターをしているうちに、どこにいてもできる仕事だなって思うようになったんですよね。そのチャンスを生かして、どこかに行ってみたいと思っていたんですけど、どこに行きたいとかは特に思いつかなくって…。それなら、行ったことがない街で、知っている人がいなくて、言葉も通じないところでゼロから始めたいと思ったんです。そうしていろいろと考えた結果パリかな〜と。ごはんおいしいって聞いていたので(笑)。
12年前に初めてフランスを訪れ、そのまま暮らしました。合わなければ帰ればいいと思っていたので、もともとは1年くらいのつもりでした。
—すごい勇気というか、行動力ですよね。
Kanako:本当!今では信じられないです。でもそのときは「どこかへ行かなくちゃ」って強く思っていたんです。
いろんな人から「フランス人はいじわるだし、冷たくて閉鎖的」と言われていたので、行く前は結構怖かったですね。しかも、フランスの空港に着いたときに、私のスーツケースが壊れて出てきてしまって…。でも、1人で困っていたら、知らないフランス人が手伝ってくれたんです。それがフランスの人との最初の接触だったので、「フランス大丈夫かも!」って思いました(笑)。
怖いという印象から、「実は優しいのかも?」というポジティブな印象に変わることが多かったです。
偶然からはじまった、My Little Parisとの出会い
—フランスではすぐイラストレーターとして活動しはじめたのでしょうか?
Kanako:どこでもできるとは思っていたけれど、フランスの仕事ができるとは思っていなかったので、基本的に日本からの依頼を受けて、日本に送るというやりとりでした。
でも日本からの仕事も少しずつ減っていって、ちょうど円安の時期だったので、日本の仕事でもらったお金をユーロに替えて家賃を払うと、「もう何もない!」みたいな暮らしになってしまって…。ちょっとこのままでは生きていけないな、そろそろ日本に帰らなくちゃいけないのかなって思っていた時期に、立ち上げ前の『My Little Paris』と出会い、パリでも活動することができるようになりました。
『My Little Paris』も、最初はどうなるかもわからないプロジェクトでしたし、最初の1年はお金も出ないという話だったので、みんなに「やめとけ」って言われたんですけど(笑)。でも、どうせ日本に帰るなら、フランス人の女の子と一緒に何かをやってみたいという思いもあったし、それがWEB上に残るっていうならいいかな〜!と思って一緒に始めたんです。今思うと、それが人生で1番いい選択になりましたね。
—『My Little Paris』の方々はどうやってKanakoさんの存在を見つけられたのでしょうか?
Kanako:それも本当に偶然でした。パリでは年に2回ほどアーティストのアトリエを公開するというイベントがあるんですよ。アトリエが載っている地図を片手に、いろんなアトリエを見て回れるというすごく楽しいイベントです。
作品を見ることはもちろん、普段入れないような住まいやアトリエを見られるという貴重なイベントなんです。たまたま友達がそのイベントでアトリエを公開していて、「ちょっとスペースがあるから、飾る?」と言ってくれたので、私も余っていたイラストを飾ってもらったんですよ。
そこに『My Little Paris』のアマンディーヌ・ペショダ氏が、たまたま友達と来ていたんです。もうたくさんのアトリエを見たあとだったので、彼女は帰りたいって言っていたそうなんですけど、そのお友達が「ここだけあと1軒見てから帰ろうよ」って立ち寄ったアトリエに私がいて、出会ったのが最初です。
そのときに少し話をして、彼女が私のポストカードを何枚か買ってくれたんです。それから1年後に連絡が来ました。
そろそろ『My Little Paris』を本格的に始めなくちゃ・・・とアマンディーヌが思っていた矢先、イラストレーターが見つかっていなくて困っていたらしく、そのとき「あ!このポストカードのイラストレーターでいいじゃん!」とカードの裏を見たら私の連絡先が書いてあったという(笑)。本当に信じられないですよね。
—すごい偶然!その当時からパリジェンヌのイラストを描いていたのですか?
Kanako:もしかしたら、今よりもパリジェンヌを意識した絵を描いていたかもしれないですね。そのパリジェンヌのイメージを作っていくために、私だけじゃなくてみんなで一緒に試行錯誤しながら作っていきました。キャラが濃い人がパリには多い気がしていて、道を歩いているだけでも、イメージの材料になるものがいっぱいあるので。
—今はどのようにお仕事されているんですか?
Kanako:週に1回、このオフィスでみんなと相談して、描くときは1人で閉じこもって描いています。私は、1回外に出ちゃうと集中力がふわ〜っとどこかに行っちゃうので…。できれば1日中家にこもって集中して描く日が週に3回あればうれしいんですが、なかなかそうもいかず(笑)。
—現在は、『My Little Paris』はもちろん、そのほかでもパリやフランスでお仕事されているのでしょうか?
Kanako:そうですね。それもやっぱり『My Little Paris』のお仕事のおかげで、すごくたくさんのお仕事のご依頼をいただくようになりました。今だと、ラ・サマリテーヌというセーヌ川沿いの工事現場や書籍のイラストとか。国外の仕事だとカナダやドイツ、オーストラリアなどフランス以外からのお仕事のご依頼も増えています。インターネットのおかげでどこの仕事もできるようになりましたね。
フランスで暮らして、魅力を感じるもの
—実際にフランスで暮らしてみて、魅力的に感じることや場所など教えて下さい。
Kanako:やっぱりエッフェル塔はきれいですよね〜。私はもう何回見ても飽きなくて。フランス人ってすごいなって見るたびに思います(笑)。地区によって雰囲気が結構違っていて、いろんなものがごちゃまぜになっているところもおもしろいですね。
日本のようにきちんとしていないので、困ることもすごく多いんですけど、いつ困ってもいいように、ちょっと余分なエネルギーをストックしておくようにしています。まあ困ることも多いけれど、そういうときに必ず助けてくれる人がいるし、困っていてもそれをポジティブに笑って過ごしたりする人がいたり、いいところも悪いところもあるけれど、いろいろひっくるめて私は好きです。
—食事も日本とは全く変わると思うのですが、お気に入りのお店があれば教えて下さい。
Kanako:なるべく新規開拓をしているので、なかなか同じところに行くというのは少ないんですが、最近はサンマルタン運河の近くにある『Blue Valentine(ブルーバレンタイン)』という小さなビストロがお気に入りです。日本人シェフのフレンチのお店で、お店もきれいだし、お料理もすごくおいしいんですよ!パリで人気のお店だと、何ヶ月も前に予約しなくちゃいけないとか、今日ちょっと行きたいと思っても予約が取れないところが多いんですけど、そこのお店は予約がいつもちゃんと取れるんです。すごくおいしいのに!いろんな意味で気に入っているお店ですね。
あとは、パリでは和食がブームで、すごく細分化されたお店が増えてきています。お好み焼き屋さんや串カツ屋さんなど、本当においしいお店が増えたので、和食好きとしてはすごくうれしいです。日本酒バーとかもできていたりして、東京ほどではないかもしれないですがめまぐるしく変わっていますね。
−パリには、かわいい雑貨屋さんやショップも多いですよね。私は先日『Merci(メルシー)』に行ってきました。パリジェンヌたちにとってどんなお店なのでしょう?
Kanako:私もときどき行くんですが、「今なにが流行っているのかな?」を知りに行く場所という気がしています。デパートは前からありましたけど、大きめのコンセプトストアというのが『Merci』以前はほとんどなかったと思うんですよね。すごく新鮮でした。お店に行くと「今日も新しさに触れてきた」という感じがするので、買い物だけじゃなくて、最新の情報を探しに行くという楽しみもありますね。
インテリアや雑貨はもちろん、洋服コーナーもかなり充実しているので、1軒1軒お店を訪ねて行くよりもパッといろんなものが見られるのでいいですよね。
—パリの子たちも最先端の情報を求めて行っているようなお話でしたが、今なにか流行っていることなどあるのでしょうか?
Kanako:2〜3年くらい前は、デジタルやインターネットがかなり発達して、みんなデジタル推しでしたが、それが一段落して、逆に実際に手に触れられたり、実際に行ける場所だったり、そういうリアルなものに少しずつシフトしてきているように感じます。『My Little Paris』も、モンマルトルの家を一軒まるまるデコレーションして、いろんなイベントをやったり、そのデコレーションの提案をしたり、ポップアップストアのように行って体験できるという場所を作っています。そういう体験できることが流行っている気がします。
—たしかに、日本でもインスタントカメラが再燃していたり、体験型のイベントも増えてきているように感じます。食べ物でもブームや変わったことなどありますか?
Kanako:私が体感しているのはやっぱり和食ブームです。あと、フランス料理って、前菜・メイン・デザートを1人1皿というのがお決まりだったんですけど、みんなでシェアできるスタイルのお店がすごく増えたと思います。やっぱりいろんな国の料理が入ってきて、そういうのもいいなってフランス人も思ったんじゃないかな(笑)。フランス料理でも、タパスのように少量で出てくるので、いろんなものが食べられるお店もあったりして、すごく気軽に外で食事できるようになったと思います。
休日は出かけてパリの街を楽しむ
—お休みの日には、どんな風に過ごしているのでしょう?
Kanako:お休みの日は、寝坊することが多いのでスタートが遅いんですけど(笑)。マルシェで1週間分の買い物をして、ついでにマルシェでごはんを食べたり、あとは展覧会に行ったり、友達に会ったりという感じですね。ときどき、ヴァンセンヌの森(Bois de Vincennes)などの公園でジョギングやサイクリングをしてリフレッシュしています。
—マルシェでご飯を食べたりできる場所があるんですか?
Kanako:ありますよ、マレにある「Marché des Enfants-Rouges(マルシェ・デ・アンファン・ルージュ)」がおすすめです!食べ物のスタンドがいっぱいあって、側にテーブルもあるので注文したものをそこで食べられるんです。天気がいい日とか、すごく気持ちいいと思います。
普段は家で仕事しているので、天気がいいと外に出かけたり、ちょっと小旅行したりしたくなります。パリはそんなに広くないので、気軽にいろんなところへ行けるんです。それもパリの気に入っているところのひとつです。
—最後に、今後お仕事でもプライベートでもKanakoさんが挑戦してみたいことがあれば教えて下さい。
Kanako:今までもわりと偶然によって人生が成り立ってきたというところもあるので、あまりいろんなことを決めずに、向こうからやってきたものをオープンに、おもしろいなと思って取り組んでいけたらいいなと思います。
Kanakoさん、素敵なお話どうもありがとうございました!
Kanakoさんがイラストを手がける『My Little Box』の1月のテーマは「Women」。さまざまな分野で活躍する女性を紹介するブックレットや、女性を応援するアイテムが入っています!
▶︎お申し込みはこちら
■一緒に読みたい記事
パリの街に、日本人イラストレーターKanakoの巨大な作品が登場!