ヨーロッパのインテリアを見ると、パッと目を引くのが壁に飾られたアート作品など、小さなものから大きなものまできちんと額に収められ、壁や部屋の一角を素敵に演出しています。
アート作品を購入するのはハードルが高くても、ポスターならもっと気軽に楽しめそう。
お気に入りの1枚を探しに、東京・参宮橋にあるアートポスター専門店『KNAPFORD POSTER MARKET(ナップフォード・ポスター・マーケット)』オーナー・井上恭太さんを訪ねました。アートポスターの選び方や楽しみ方を伺います。
真っ白い壁に彩りを。インテリアとしてのアートポスター
―海外では壁や部屋の一角にアートを取り入れている様子が素敵だなと思います。
井上さん:海外ではポスターやアートに限らず、写真やポストカードなどちょっとしたものを額に入れて飾るという文化、壁面をレイアウトして楽しむという文化が根付いていますよね。
ヨーロッパでもNYでも、街でよく額装屋さんを見かけます。気軽に額縁屋さんに行って、額に入れて壁にかけたり立てかけたり、そういった風景が昔から日常にあったのでしょう。
―アートポスターを飾る魅力はどんなところですか?
井上さん:真っ白だった壁に、ポスターが1枚かけられるだけで、部屋全体の空気や印象も明るくなります。そうすると、普段から気持ちもちょっと上向きになったりして。インテリアだけでなくライフスタイルにも良い効果があるなと思います。
―井上さんはご自宅でも壁に飾っていますか?
井上さん:ソファの上の壁に並べたり、ほかにもいくつか壁に飾ったり。1歳半の子どもがいるのですが、そういったものに結構反応していておもしろいですよ。ソファに上って触ったり、抱っこをして壁の前を通るとタッチしたり。良い刺激にもなっているのかなと思っています。
―パッと目に入ると気持ちが変わりますよね。お店ではどんなポスターを扱っていますか?
井上さん:アートポスターと限定部数で版元から販売されるエディションプリントなど常時300点くらい扱っています。ほとんどがヨーロッパかアメリカのもの。各地の小さなギャラリーや美術館などを回ったり、コレクターの方に会ったりして買い付けてきたものが中心です。写真やグラフィック、イラスト、建築、動物ものなどさまざまなジャンルのポスターを集めています。
―どんな基準で選んでいますか?
井上さん:特別にテーマを設けるというより、自分たちが好きなものを集めています。例えば実際に見て、「この建築のポスターいいな」と思っていると、自然といろいろな場所で建築系のポスターが目に入ってくるようになって、結果的に好きなものが集まるということが多いですね。
お店ではポスターをご紹介する際、作品と一緒にアーティストや作品のバックストーリーもお伝えしていますが、好きがゆえに知ることができた情報も多い。作家とのエピソードなども交えながら骨太な紹介ができるのも私たちの強みかもしれません。
“好き”という感性を大切に。お気に入りの一枚と出合おう
―アーティストや作品についてほぼ知識がないけれど、どう選べば良いでしょうか?
井上さん:価格やサイズなどの条件はあるかもしれないけれど、まずはやっぱり「好きかどうか」が大事ですね。作品やアーティストのことはなにもわからないというお客さまがほとんどなので安心してください。
「これが好き」とはっきりわからなくてもいいんです。写真なのかイラストなのか、なんとなくこういうのが好きなのかもしれないとわかってくると、そこからまた見え方が変わってきます。逆に、肩に力を入れないでご自身の感性や好みに気づいてもらえたらと思います。
―本当にいろいろな種類がありますね。
井上さん:アーティストにとらわれずに自身の感性を大切に選ぶなら、余計な情報はない方がいいかもしれません。猫が好きな方が多いのか、猫のポスターは結構人気があります。
まさに昨日のお客さまも「この猫、なんかいいな」っておっしゃられていて。そのくらいがいいと思うんです。(上の写真:イタリアンデザインを代表するデザイナー<Enzo Mari>の『猫』)
こちらは<David Shrigley>の12星座が描かれたポスター。それぞれの星座のイラストにちなんだメッセージが添えられています。
こちらは、プロダクトデザイナー<Ronan Bouroullec>のドローイングポスター。
アートポスターをより魅力的に。カギになるのは額選び
―額を選ぶのも悩みそうですね。
井上さん:大前提として、額はポスターの魅力を引き立てるもの。個人的にはポスターはもちろんですが額選びも意外と大事。額ひとつで雰囲気が変わるんですよ。
額装するとポスターがいっきにクラスアップします。ナチュラルな木製や白、黒、シルバーなどさまざまな色や素材を揃えています。
―額を選ぶ時のポイントはありますか?
井上さん:作品に対して色が強すぎないものを選ぶことがポイントのひとつです。例えば猫のイラストのポスターなら、広い余白の延長で白がおすすめです。または、黒。その場合はフレームの幅は細くして極力額縁に目がいかない工夫をします。
壁に床に。印象を左右するポスターの飾り方
―白い壁にポスターが1枚あるだけで、雰囲気が変わります。同じ家具、同じ空間でも、印象が変わっておもしろいですね。
井上さん:飾りたい空間の雰囲気や、合わせる家具の色や素材でも印象が変わりますよね。黒いフレームの椅子に、木製フレームを合わせると柔らかい印象になりますし、椅子に合わせてモノクロのポスター×黒いフレームならシックで大人っぽく。原色系のリトグラフポスターを合わせるといっきにポジティブな印象になります。
左から、1986年にパリで開催された<David Hockney>のエキジビジョンポスター。真ん中は、1988年にドイツで開催された<Eduardo Chillida>の展示用オリジナルポスター。石の彫刻をモチーフに作成されたものです。一番右は<Ellsworth Kelly>の展示会用オリジナルリトグラフポスター。
―それぞれに良さがありますね。海外のインテリア雑誌などを見ると何気なく取り入れている感じがおしゃれだなと思います。
井上さん:海外インテリアのそういったさりげないところがいいですよね。必ず壁にかけないといけないことはないんです。
額も安価なものではないのでラフにとは言いづらいですが、家具の側にさりげなく床置きしてもいいですし、スツールなどぽんと置いてもいいと思います。
こちらは、アメリカの画家で彫刻家の<Cy Twombly>が、1980年にパリで開催したエキシビジョンのポスター。ファーストエディションプリントのものです。
―大きなサイズだと壁にかけるのもスペースがない場合があるので、床に置くという飾り方もいいですね。
井上さん:飾れるスペースの壁がないというお客さまも多く、最初は小さいサイズから挑戦する方も多いですよ。小さいサイズなら、チェストの上に置いたり、玄関に飾ったりと狭いスペースでも楽しめるのが利点です。
こちらは、19世紀末〜20世紀前半に活躍したフランスの画家<Raoul Dufy>の作品。
自分の好きに気づくきっかけに。自由に楽しむアートポスター
―もっと気軽にアートポスターを楽しんでみたくなりました。
井上さん:1枚飾ると、結構ハマるという方も多いんです。インテリアとしてのポスターだからこそ、人の目を気にしないで自分の感性を大切に楽しんでもらいたいですね。自分が好きなもの、気に入ったものを身近に置いておくことは、日々の暮らしをちょっと豊かにしてくれることでもあると思います。
―自分はこういうの好きなんだって知るきっかけにもなりますね。
井上さん:そうなんです。だからまわりの目を気にすることなくて、まずは本当に好きなものを選んで、楽しんでもらうのがいちばん。
飾り方だって制限を作ってしまうともったいない。「額に入れないで直接貼ったらどうですか?」って質問をいただくこともありますが、もちろんそれもいいと思います。
画鋲で留めてもいいし、それこそポスターだったらラフにマスキングテープで留めてしまってもいいと思うんですよね。
ただやっぱりその分ダメージは残りますし、光の影響は受けてしまうので劣化はしますが、逆に僕はそれもありだと思うんです。ヴィンテージのもので高価格帯のものになってくるとなかなか難しいですけど…。十分楽しんでから、額装してもいい。それもひとつの思い出になるなと。
―自分だけの1枚になりますね。
井上さん:今まで自分が過ごしてきた“時間”を額装するみたいな。日本人の几帳面さはいい部分もありますが、そこをちょっと壊したい気持ちもあります。自分らしくアートポスターと付き合ってもらえたらいいですね。
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本当にさまざまにあるアートポスター。
家具を買い換えるのはハードルが高いけれど、飾るだけで雰囲気も気分も変わるアートポスターなら、マンネリ化したインテリアが新鮮な景色になりそう!
模様替え気分で、気軽に楽しんでみるもいいかもしれません。
- ■お店情報
- KNAPFORD POSTER MARKET
- 住所:東京都渋谷区代々木4丁目12−6
- 電話番号:03-3370-2675
- 営業時間:13:00〜18:00(土・日・祝12:00〜)
- 定休日:火・水・木
- Instagram:@knapfordpostermarket
- ※最新の営業情報などはお店のSNSなどでご確認ください。